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Past Letter  作者: 東師越
第1章 〝死神〟と呼ばれる男
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第5話 そんなあなただから

 3人がレフレアに着く数分前、ルナは長官室で鳴る〝言伝貝ディーシャレ〟を手に取った。


「はい」


『あ~もしも~しルナちゃん? ね~え~私今何色のパンツ履いてると思う~?』


 黒と熟れた林檎のような深紅が混ざったような色の髪に桃色の瞳、そして本人も覚えていない数の男たちを誘惑してきた、ベイルと同じほどに矮躯ながら理想型のスリーサイズを誇る。


 ちゃんと服を着ている姿を見た者は数少ない女──アインは、艶めかしい声色でルナに問いかける。


「用件が無いなら切りますよ」


『音ヒントいる? 準備は出来てるよ~』


「はぁ……黒」


『ざんね~ん、正解は……ちょ! まだ言ってな、ああ!!』


 するとホーウェンがアインから〝言伝貝ディーシャレ〟を奪い返し、強引に代わった。


『すまないなルナ』


 ほとんど黒な深い青髪に同じ色の瞳、そして隠すこと無く強者の雰囲気を漂わせる男───ホーウェンはルナと会話する。


「いえ、わざわざコーゴー本部から何でしょうか?」


『他の誰かに聞かれてないか?』


「アインさんは守秘回線じゃないと下着の色は問いませんよ」


 それで納得してしまう自分にホーウェンもルナも悔しいと思いながら、双方表情に出さずに通話を続ける。


『……1000年前にベイル・ペプガールが自身の封印を自ら解き、その後何一つ痕跡を残さず行方をくらましたが──




 ──〝ジェノサイド〟へ派遣していた戦士からの情報だ……ベイル・ペプガールは人間界にいる』




 「っ……そうですか」


 ルナは冷静を保っているが、内心は驚きのあまり危うく大きな声を出しかけていた。


『コーゴーはクルエルとの関係上あまり干渉出来ないが、お前は特等の1人だから信頼している』


「お任せ下さい、ホーウェンさん」


 それ以上は何も言わず、ホーウェンは〝言伝貝ディーシャレ〟を切った。


「……切ったの?」


「切ったが」


「はあぁ!? まだ私パンツの色教えてないんだけど!!」


「必要ない」


「ふ~ん……じゃあホーウェンが私とエッチしてくれるんだ」


「しない」


「はぁ、特等の頭でっかち共は性欲無いのか~? 下の奴らはおっぱい揉ませりゃすぐなのに」


「じゃあ仕事しろ」


「何の?」


「リ:ミゼルからベイル・ペプガールに関する書類を持ってこい」


「雑用じゃねぇか!!」




   ※ ※ ※ ※ ※




 現在に至る。


 謎の振動の後にレフレアの地下は完全に崩落し、ベイル達4人は生き埋め状態となっていた。


「……あれ」


「大丈夫ですか?」


 アリシアは目を開けると、アリシアを押し倒す形で崩落してきた岩や土砂、瓦礫を受け止めているラルフェウの姿があった。


「……キューちゃんこそ、大丈夫なの?」


「まあ、たかが瓦礫ですし……しかしこの態勢を変えられないですね」


「……その……顔……近い……」


「だから何ですか?」


 そんな中ベイルは岩や土砂、瓦礫をものともせず、モグラのように土砂を両手で掻き分けて、アリシアとラルフェウの元に無傷で現れた。


「ベイル様、無事でしたか」


「正直ビビったぞー、呪力間に合わなかったらプチッと逝ってたわ、お前は?」


「この体勢のまま3ヶ月はいられると思います」


「なるほどムカつくぞそういう余裕、俺も本来その余裕ある立場なのに」


「申し訳ありません……彼はどうなりましたか? 死んではなさそうですが…」


「ちょっち見てくら~」


 ベイルは再びモグラのように土砂を両手で掻き分け、気配を頼りに男の方に向かっていった。


 ただひたすらベイルは少年のような好奇心で掻き分け、男の元に辿り着いた。


「……おーすげぇな」


 ベイルが男の方を見ると槍が青白く光り輝き、薄くも頑丈な氷壁を繰り出す。


 男の周辺には土砂の砂一粒の侵入も許さず、男は全くの無傷だった。


 男は槍の力に驚きを隠せず、地べたに両手をつけたまま宙に浮かび、刃から輝きを発する槍を口を開けて眺めていた。


「……何が起きてんだ……これ……」


「俺もさっぱり分からん、という訳で出るぞー」


 ベイルはその槍を見ても表情を変えることは無く、淡々と余裕を持ってジャンプし上の土砂に触れた。


 その瞬間、ベイルはアリシアを追ってきた兵士にやってみせたように突然強烈な力が現れて衝撃波が上に伸びていき、崩落した土砂や瓦礫のほぼ全てを上空に吹き飛ばした。


「……すげぇ……」


 ベイルは土砂や瓦礫だけではなく、槍が発していた氷壁をも吹き飛ばしていた。


「よっ……と、明るっ」


 ベイルは跳び上がり、地上に降り立った。街の半分近くと、街の外もかなり広範囲が陥没していた。






「……それは〝聖器ポーマ〟の自己防衛本能ですね……やはりこれは──〝氷槍アイシクル〟……」


 ラルフェウはアリシアと共に男の元に歩み寄り、槍の様子を伺ってそう断言した。


「え……キューちゃんでも分からなかったの?」


「確証が無かったので……ミズの一族でも道を極めた方は氷を繰り出せますし、僕は自然族じゃないですし、不確定要素があるのに勝手に確定するのはどうかと思いますし」


「そ、そっか……」


「おいさっさと来いよー」


 ベイルは地上から3人に向かって、それほど張り上げずに声を出した。


「な……なんだあいつ……」


「僕たちも行きましょうか、アリシアさん、僕を抱きしめてください」


「ふぇっ!? ……え……」


「え? アリシア跳べないんですよね?」


「あ……うん」


「行きます」


 アリシアはラルフェウに抱きつき、ラルフェウはアリシアと共に跳ね上がった。


 アリシアとラルフェウは一瞬でベイルの背後に降り立つと、目の前には武装したエイダが立っていた。


「あれ、死んでなかったんだ」


「……この前我々を訪ねた兵士の仲間でしょうか、服装も同じですし」


「……で、どっちがベイル・ペプガール?」


 この1000年間で発覚する事の無かった事がバレれば、さすがのベイルとラルフェウも良い表情はしなかった。


「……バレたか」


「バレましたね」


「クソがあの変態魔人、人間界ならすぐバレねぇつったじゃねぇか……」


「騒ぎ起こしちゃいましたからね……」


「いやぶつぶつ言ってないでさ、全部聞こえてるから」


 ベイルとラルフェウが真面目に茶番を披露するが、エイダは真面目に鬱陶しがり、戦闘の意志を伝えるために剣を抜いた。


「俺でーす、ベイル・ペプガール俺でーす」


「言っちゃうんだ……」


「いいんだよ、どうせ消すから」


 拳を手に当て戦闘の意志を示したベイルの笑った表情に、アリシアは3日前のあの瞬間とは全く違う雰囲気だと直感する。


 表情は同じはずなのに、感情が決定的に違うような感覚を覚える。


「……そっか、以外とチビなんだ」


「挑発下手くそだねーお前にようはねぇの」


「けど、王女はこっちに」




「──待て」




 ベイルとエイダの戦闘が始まる寸前に、男は槍を持って陥没した地面から這い上がってきた。


 男がエイダに向けるその眼差しは明らかな怒りを露わにし、呼応したように男の周辺の空気が冷たくなり始めた。


 自然族が共鳴の能力を周辺に常に影響させ続けることは冷静さを欠き、周りが見えていないということだ。


 それは周囲よりも、自分自身を追い詰めているに等しい愚行である。


「そいつとは、オレがやる」


「……何だ~お前も生きてたのか~、死んでくれてもよかったのに~」


「ざけんな……何でこの街の人達を殺しにきた……」


「税金払ってないのに他種族の放浪人養うとか~、脱税した蓄えあるってことじゃん?」


「無いっつってんだろ!!」


 明らかな屁理屈だが、それを正当化して虐殺をしたこの女に、男はさらなる怒りを燃やす。


「うん無かった~、だから普通に私の殺人罪だったね~」


「っ……クソ野郎!!!!」


 男は槍を握りしめて、真っ正面からエイダを刺しにかかった。


 だがエイダは軽々と避け、剣の持ち手の先端をうなじに突き当てる。


「っぐ……」


「図体でどうこう出来るのは喧嘩だけだよ~」


「クソがあああ!!!」


 男は激情のままに槍を振り回しエイダに迫るも、軌道を容易く読めているエイダは全て剣で弾き返した。


「図体の割には速いね~……けど、もっと狡猾さを学ぶべきだ」


 余裕を見せ続けるエイダは槍を男の手から弾き飛ばし、腹部を突き刺した。



「ぅあ……」


 男は血を吐き、刺し口を両手で押さえながら膝から崩れ落ちる。


「はい死ねー」


 エイダは腹部を抱え込んで倒れ込む男の心臓を、背中から刺しにかかり──




「っ……嘘……」


 ──しかし刺す直前で、ベイルが剣の刃を軽く握りしめて止めた。


「……何で、刃握って血も出ないの?……」


「お前は狡猾さ以前に、普通に弱ぇ」


 そしてベイルは、そのまま剣を握り折った。


「っ!?」


「こいつに死なれたら困るし」


 ベイルは一瞬でエイダの背後に回ってそう言った。




「……は……」




 ベイルはエイダのうなじを人差し指でちょんとほんの少しだけ触れた。


 するとエイダは声すら上げることなく、うつぶせに倒れたまま、ピクリとも動かなかった。




「……え……何したの……今……」


「ベイル様の能力です、彼の共鳴による冷気のように、生まれつき備わった能力によるものです」


「……そんな能力の種族なんていたっけ……」


「ベイル様は──



 ──ゴーユの民ですので」






 ゴーユの民──呪力が人々に発現した同時期に発現した種族。


 両親や家系に関係なく、超常現象クラスの突然変異が起こり、生まれてきた子が遺伝子情報から何から全くの別物となる現象が生じた。


 その突然変異が起きた者全員が、同じ遺伝子情報を持ち、同じ能力を保持していた。



 この新人類を、人々は〝ゴーユの民〟と呼んだ。



 だが呪力よりも凶悪な能力にも関わらず、それが歴史上で表に出ないのは、数が少なすぎるマイノリティであった事。


 人々を敵視するような感情を抱かず、7つの世界それぞれに小さな集落を1、2持ち、ゴーユの民を育てられない親に代わり(自分に似てないなどで捨てる親がほとんどだった)、集落をあげて保護したりなど。


 マジョリティに触れる機会が少なかったから、という理由もある。


 しかし本当の理由は、その能力を恐れ、記録から抹消されたのかもしれない。




 ──〝生命体操作〟




 それがゴーユの民の能力──極めるとベイルがやってみせたように、触れただけで容易に人の命を奪える。


 能力発動にはいくつか条件があるが、人を殺めるまでに能力を使いこなすには考えられない地獄の訓練の日々を何十年送っても足りない。






「実際ベイル様の闘値は5000、あの女性は6000と、かなりの差がありました、ガチンコ勝負ならベイル様は勝ち目はほぼありません……それでも最強たらしめる理由の1つは、あの能力です」


「誰も勝てないんじゃないの……それ……」


「はい、ベイル様が〝死神魂デケム・メア〟を全て揃え、ご自身の体内に戻せばそうでしょう、能力も呪力も、今のベイル様にはキャパオーバーが過ぎるんです……それを補うために、あの時間の睡眠でしょうかね……」


「……そっか」




 そしてベイルは指を鳴らし、黄緑色に光る半透明なドーム型の結界で男を覆った。


「〝治癒空間(ヒール・サークル)〟」


 その結界の効果により、時間にして3~4秒程度で、男の傷は全て完治した。


「……え……」


「よっ」


「……すごいね……今の……」


「……ベイル様はその過去から、全世界に権威を振るう新聞社リルティア・タイムズより、一部の強者にのみ付けられる異名──〝死神〟という称号を持ち、世間から恐れられています」


「……うん」


「解せません……見たことも話したことも無い人の事を、他人の評価で評価し、価値観を植え付ける……そんな愚行を恥とも思わない人がほとんどです」


「──」


「ベイル様はむやみな殺戮はしません、ベイル様は何にも囚われません、そんなベイル様だから……僕は憧れ、尊敬しているんです」


「……そっか」


「アリシアさんには、そのような方はいませんか?」


「……どうだろう……」




 それからしばらく考えるが、アリシアは結局答えることが出来なかった。

ちなみにアインさんのパンツの色はピンクでした。

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[良い点] 壮大な設定と作り込まれた物語を楽しめる作品ですね! 会話のテンポなんかも丁寧です! 振り仮名からもセンスを感じることができました(*^^*)!    [一言] 企画参加、ありがとうござ…
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