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Past Letter  作者: 東師越
第14章 星空に舞う桜の花びら
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第480話 三日月と将軍

 ハロドックとマルベスが暗躍していた頃。


 三日月がよく映える晴れ渡る夜空の下、陽ノ國首都にそびえ立つ城──陽桜城(ひおうじょう)


 その中の広い座敷を客間として使い、将軍サクラ・シンドウはアリス達3人をもてなす。


「ごめんね、今空いてる部屋がここしか無くて」


「お構いなく」


 上座の座布団に腰を下ろしたサクラは、出された湯呑みのお茶を酒のようにぐびっと飲み干して、プハーッと幸せそうに息を漏らす。


「やっぱりこのお茶美味しい~!」


 下座に用意された座布団に座った3人は、サクラの行動にどう反応していいのか分からないでいた。


 客の前でも平然とくつろぐ姿は、図太いのか世間知らずなのか。


 いくら情報が流れてこない陽ノ國と言えども、当代の将軍の名前くらいはアリスも知っている。


 しかしサクラの存在は、今日初めて知った。


 未だどういう者なのか掴めないでいるが、敵意は本当にないようなので警戒し過ぎるのも野暮だろう。


 あまり注意しすぎると、部屋の外で待機している黒装束達にまた狙われるかもしれないので、ほどほどにしておくことにする。


「それで、話って何?」


「……知ってるとは思うけど、今この世でとてつもなく大きな事件が立て続けに起こっている」


「うん、新聞で読んだよ」


 この世で最も影響力のある〝リルティア・タイムズ〟は、唯一陽ノ國と他世界との出入りが許された組織である。


 ここが発行している新聞で、外界の情勢を把握しているのだ。


「私達は陽ノ國と協力関係を築いて、近い未来に必ず来る大きな戦いで共に戦いたいと思ってるの」


神証(パストレター)〟争奪戦のことは、ほぼ伏せて話す。


 まだ協力を得られたとは決まっていないなら、ほいほいと情報を出す訳にもいかない。


「その戦いの敵は誰なの?」


「色々いるけど、最終目的は神」


「神?」


「既に自然郷で私達は破壊神ガノシラウルと戦い、打ち勝った……残る2柱の神とは必ず雌雄を決さなければならない」


「その戦いに、私達は巻き込まれるの?」


「この世で生きる命である限り」


 争奪戦は7つの世界全土で繰り広げられるほどの大規模なので、世界1つ分の大戦力は必須である。


 もちろん〝聖器(ポーマ)〟や〝王証(シンズルート)〟も大事だが、一行に今1番足りていないのが物量なのだ。


 神は悩まずとも解決出来るだろうし、ジェノサイドもコーゴーも戦力は日に日に増強されていく。


 一行が陽ノ國を味方につけた場合、一気に有利になるのは明白だった。


 サクラの一存では決められなくとも、この好機を逃すなど絶対にあり得ない。


 アリスは慎重に言葉を選びながら、命運をかけて立ち向かう。


「40万年、私達は私達だけで生きてきた」


 やはりダメか、と少し俯く。


「それじゃあもう、時代遅れってことなのかな」


「えっと……」


「私は手を貸してあげたいけど、戦になるならこの世界に住む皆の声を聞かなきゃいけないし……なにより大戦になるなら解決しなきゃいけないことが1つある」


 出された温かいお茶を飲み、渇いた口を潤してアリスと再度目を合わせる。


「まずはスバルを説得しなきゃだね」


 その微笑みに、胸をなで下ろす。


 第1関門は突破したと分かると、バニルとルミエルも見つめ合って笑みを浮かべる。


「ありがとうございます!」


「今日はもう遅いから、続きは明日以降にしよっか……皆、使者の方々にお部屋の案内を」


 サクラがそう言うと、ヒイラギ率いる黒装束達が突然現れる。


 一瞬警戒した3人だったが、今回は全く敵意は無いようですぐに落ち着いた。


「丁重にもてなしてね、龍人さんがいるからって悪態つかないこと」


「御意、ではこちらへ」


 ヒイラギは恭しく片膝をついて頭を下げ、黒装束達は襖を開けてアリス達の案内を始めた。


 歩きながら食事は必要か問われ、朝から何も食べてなかったので遠慮なく希望する。


 迷路のような廊下を歩いて客間に案内された3人は、「ごゆっくり」とヒイラギが襖を閉めるなり緊張を解いてくつろぎ始める。


「よかったですね~話を通してもらって」


「あの神社に飛ばされたのが僥倖だったことになるけど、何であんな辺鄙なところに将軍がいたんだろ」


「特別な場所なんでしょうか……」


 アリス達がいた神社は、陽桜から歩いて1時間はかかる竹林の中にある。


 陽ノ國の王に当たる将軍の地位につくサクラにとって、その場所に行くことにどんな意味があるのか。


 それを知ることも、知ろうとすることも今は不要である。


 アリス達にとっては、それ以上に危惧すべき問題があるのだから。


「アリシアさん、早く捜さないとですよね」


「ええ……」


 今のアリシアは、1人で生きることが極めて困難な精神状態にある。


 この3人のように飛ばされた先でも1人じゃないならともかく、そうでないとしたら考えるだけでも恐ろしい。


 未知の世界で、深く傷付いた少女が孤独でいる。


 アリスとて今すぐにでも捜しに行きたいが、今は下手に動いたり目立つ訳にはいかない。


「アリシア……」


 ただただ、無事を祈るしか出来ない。


 そんな歯がゆい思いをしたまま、夜は更けていく。




   ※ ※ ※ ※ ※




 同じ頃。


 1人で悠々自適に過ごしていたベイルは、とある小川の前に来ていた。


 陽桜の街を一望出来る山に飛ばされた後、30秒で絶景に飽きたベイルは足早に山を降りて街に入った。


 普通に入るためには許可が必要なのだが、警備の穴を突いて楽々と突破してみせる。


 腹が減っていたが金はなかったので、ひたすら食い逃げを繰り返す。


 逃げる最中に食っては逃げ、食っては逃げを繰り返し、やがて腹がパンパンになったところで走れなくなり引っ捕らえられた。


 だが奉行所に連行される直前、とある天狗の面をした男がベイルの食いっぷりに感服して全額支払うと言い出す。


 金さえ払ってもらえれば文句はない店の者達はベイルを離し、男から金を受け取って店に戻っていった。


 天狗の面の男は颯爽と立ち去り、礼を言いたかったベイルは捜し始める。


 しかし手がかりも痕跡も皆無なので、何ひとつ情報が掴めないまま現在に至るという訳だ。


「……あ、いた」


 見かけたのは、河原で寝そべり星空を眺めていた男。


 そのそばには天狗の面が置いてあり、同じ男だと気付いたベイルは歩み寄る。


「昼間はありがとな」


「お前か、食いっぷりは最高だったが次からは財布持って来いよ」


「1レールも持ってねぇからなぁ」


「働きゃいいだろ、それにレールなんて外貨は陽ノ國じゃ使えねぇよ」


「そうか、なら次も食い逃げだな」


「開き直るなよ」


ベイルはしれっと隣に座り、男も上体を起こして同じ目線とする。


 継ぎ接ぎだらけのボロ切れを着ているのに、ベイルの腹が膨れるほどの飯代を払える懐がある不思議な男。


 そんな男にベイルは、ただならぬ雰囲気を感じ取っていた。


外界(がいかい)の旦那、ここへ何の用だ?」


「将軍って奴に会いに来た、神をぶっ倒すために」


「……そうか、じゃあ旦那が〝死神〟ベイル・ペプガールでいいんだな?」


「おう」


 男はほんの僅かだけ笑みを浮かべると、立ち上がってベイルの方に体を向けた。


「俺が陽ノ國将軍──スバル・スメラギだ」


「…………え」


 突拍子がなさ過ぎるあまり、ベイルもよく反応できなかった。

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