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Past Letter  作者: 東師越
第1章 〝死神〟と呼ばれる男
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第4話 凍てついた地

 3人が降り立った街は、建物や土地が荒れ果て人気は全く無く、時々吹く風の音のみの静寂が広がっていた。


「……どうして……」


 アリシアはその殺風景と静寂に不気味さを感じ、その一言が思わず口からこぼれた。


「んだよ飯ねぇのかよ」


 ベイルとラルフェウは街の様子を見ても動揺ひとつせず、ベイルに至っては自分の食欲にしか興味が無さそうだ。


 ラルフェウは街の入り口であろう場所で、荒んだ落ちている看板を見つけて拾った。


「……レフレア、という街だそうですね……こうなってかなり経っています……気配一つ無いということは、天災ではなさ──っ!!」


 するとラルフェウは何らかの気配を感じ取り、村の入り口から最も近い場所にある、屋根が破壊された家のドアを開けた。


「……やはり」


 ラルフェウの目の前には大きな氷塊があり、その中には何かに怯え、逃げ惑う様子が表情と体の動きからくみ取れる人々の姿があった。


 その他の家の中や街の至る所に氷付けにされた人々の姿があり、街の中は外より気温が低いようにも感じられた。


「……何がやはりなの?」


「この街の下からコオリの一族の気配を感じました、何故人間界の、入り口から離れたこんな場所にいるのか不思議ですが……」


「コオリの一族?」


「自然族のひとつで、冷気を司る種族です……気配からしてさほど強くは無さそうですが、他種族というだけでも人間には脅威ですし、関わっても得は無さそうですから……ベイル様ここは」




 自然族とは5つに分かれた一族の総称で、遺伝子情報はほぼ同じながら、その体質や能力はそれぞれ異なる。


 ラルフェウの言ったコオリの一族は5つの種族の内の1つで、空気中の冷気と共鳴し、操ることが出来る。

 また熟練度を上げることで、氷塊や氷の造形などが可能となる。




「美味ぇなここの飯……あーラルフェウ、そいつ見に行こうぜ面白そう!」


 ベイルはラルフェウの入った家の、テーブルに放置されたほぼほぼ腐っている料理をペロリと平らげた。


「はい!」


「え、行くの?」


「ベイル様にノーとは言えません、アリシアさんはもし何かあっても僕が守ります」


「あ……ありがとう……」


「はいはっけーん! ここだぞ地下ー!」


 ベイルはアリシアとラルフェウが会話している僅か数秒の間、テーブルから玄関に歩いている間に地下への入り口を察知し、街の東側にある井戸を覗いて見ていた。


「はしゃいでる……」


「行きましょう」


 アリシアはラルフェウに流されるがまま、共に井戸に向かった。






 ベイルは飛び降り、2人は備え付けられてある綱を使い下って、暗くて底の見えない井戸の底に入っていった。


「……降りたはいいけど、出られるかな……すごい深いけど……」


「あ、アリシアさんはジャンプで届かないんですか」


「え、届くんだ……」


「おいさっさと行くぞー」


 ベイルは井戸の底にあった洞穴のような場所をくぐり抜けていき、アリシアとラルフェウは後ろからベイルに着いていった。


 すると打って変わり天井が高く、広い通路の入り口に出た。


「……暗くてよく見えない……」


「そうですね……この距離で指が見えないですし」


 ラルフェウは鼻と同じほどの距離で、右目の前に自分の右人差し指を向けた。


 だがそれほどの至近距離でも見えないほどの暗闇であり、そのせいかアリシアは僅かに震えている。


「とりあえず気配の方行くぞー」


「はい、行きましょう」


 ラルフェウが右手でアリシアの左手を握ると、徐々に震えが止まり、手から伝わる温もりに落ち着きを見せた。


「う、うん」


 3人はベイルとラルフェウが感じ取る気配の方へと、ゆっくり歩いていく。




 数分後、中心が氷のように青白く光り輝く高さ10メートルほどの氷塊が佇んでいる。


「なんだこれ、槍?」


 氷塊の中には、氷塊が輝く要因となっているであろう、刃の部分から光を発している2メートル半ほどある槍が眠っている。


「……これは──〝聖器ポーマ〟でしょうか…」


「〝聖器ポーマ〟?」


「7種族それぞれの世界に2つずつ、計14存在する、神の力を持つと云われる聖なる武器です──


 ──しかしそれを手にできるのは〝聖器ポーマ〟に選ばれた者か、それに値する力を持つ者……それ以外が触れると呪いのようなモノで嬲り殺されます」


「え……じゃあ」


「この先にいるのは、それほどの強者ということですね」


 肉眼では分かりづらいが、冷気を常に発する槍が少しずつ少しずつ氷塊を大きくしていた。


「かっこいいな~」


 いつの間にかベイルは氷塊を掘り起こして〝聖器ポーマ〟の槍を右手に持っていた。


「え、いいの?」


「ベイル様は現在、龍人族の〝聖器ポーマ〟──〝獄刀インフェルノ〟を背負っていますから」


 説明されても、ベイルが背負っている刀はアリシアには特別な感じには見えなかった。


「そうなんだ……」


「ちょうど松明になるだろ」


 意味有り気に輝く槍を松明として扱う辺り、ベイルも〝聖器(ポーマ)〟を神聖な風には思っていないらしい。


 ベイルの先導で道のりを進んでいくと、3人の前に大きならせん階段が現れた。


 ベイルはその〝聖器(ポーマ)〟を手にした際に何らかの違和感を覚えたのか、目をこらして槍をしばらく見つめていたが、すぐに興味からズレて階段を下っていく。


「ほうほうこの下だな、ダンジョンみてぇで熱くなってきたぞ~、寒いけど」


「……たしかに……すごく寒くなってきた……」


「地下の肌寒さと、槍と気配の元から漂う冷気でかなり寒くなってきてますね……」


 ベイルは張り切りながら、ラルフェウはおそるおそる足を動かすアリシアをサポートしながら、らせん階段を下っていった。


「……結構……長いね……」


「あまり大きな街ではなかったのですが……何故こんな大規模な地下道が……」


「近くになんかあんじゃね? 支部とか」


「それにしてもですよ……炭鉱跡なのか……それとも人間界ぐるみで何かあるのか……それは無いか」


「ねぇのかよ」


「何が……ひゃっ!?」


 アリシアは凍って滑りやすくなっている階段で滑り、手すりも無いため底の方へと落ちていきそうになった。


 しかしラルフェウは見逃さず、飛び降りて左腕でがっちりとアリシアを抱きしめ、右手で階段を掴んで止まった。


「……あ、ありがとう……」


「構いませんが、気を緩めるのはやめましょう……ここは未知の領域ですから」


「……ごめん……」


 ラルフェウは掴んでいる段に軽々と足を着けてアリシアを下ろし、再び右手で左手を握った。


「やはり離れないでおきましょうか」


「おうおうおうおうおうおうおうおうおうおおおおおお!!!!!」


 すると何故かベイルは槍を握り締めたまま、ダンジョンのトラップの大岩みたく階段を転げ落ちていった。


「ベイル様ああああああああああ!!!」


「何でそうなったの……」


 ラルフェウはアリシアの手を握ったまま、ベイルを追って走っていった。ベイルはそのまま階段を下りきり、大きな音を立てて壁に衝突していた。


「あぁ~……痛……くはねぇけど」


「ベイル様!! 大丈夫ですか!?」


「じぇんじぇん問題無しよ」


「何故あんなことに……」


「滑った」


「そうですか……」


「いやそれよりだな、アリシア忘れんなよ」


「え…………あ」


 アリシアはラルフェウと手が繋がれたたま、ラルフェウの速度に合わせて走ったため、吐きそうなほど過呼吸になっていた。


「す、すみませんアリシアさん……」


「う……っ……」


「あ、吐いた」




   ※ ※ ※ ※ ※




 約10分後。


 アリシアが落ち着いた後に、この場所にある分厚い鉄の扉をわざわざベイルは蹴り飛ばす。


 そこには自然な岩陰に縦の鉄格子が取り付けられただけの、大きな独房が現れた。


「……この槍、お前のだな?」


 その独房にはターコイズブルーの髪に瑠璃色の瞳、さらに身長が3メートルはある巨躯でかつ筋骨隆々とした男が、独房の鉄格子に寄りかかって座り込んでいた。


「……何だお前」


「おいおい質問聞いてなかったのか? この槍お前のかって言ってんの」


「何しに来た」


 互いに譲らず話が進まない中、ベイルは突然力を込めてバキッ! と槍を真っ二つに折った。


「えっ!?」


「ベイル様……」


「質問を質問で返してんじゃねぇよ、俺の質問に答えろよふざけんじゃねぇぞ」


 ベイルがそう言った瞬間、槍は槍先が強く光り出し自力で再生した。


「……直った……」


「……オレのだ」


「よーしじゃあ返す」


 ベイルは男に槍を返そうと男の右手に槍を差し出すも、男が掴む寸前でベイルは槍を引っ込めた。


「ただーし、俺と一緒に着いてこい」


「……は?」


「ベイル様、どういうことですか?」


「こいつ持ってるから、"死神魂デケム・メア"」


 瞬間、ゴゴゴゴ!!! と轟音を立てながら、地下全体が揺れ始めた。


「え……何……地震?」


「いえ、ここが崩壊します」




   ※ ※ ※ ※ ※




 この数分前、レフレアに1人の女性兵士が現れた。


 女性兵士は巻き貝のような形の〝携帯型言伝貝リリア・ディーシャレ〟を手に持った。


「もしも~し長官さん?」


『着いたかエイダ』


「この前コオリの人閉じ込めて、今度は何~?」


『民衆は?』


「全員夜逃げ、戦って荒んだ街なんかさっさとほっぽっちゃえ~ってアドバイスしたらホントにそうしちゃった~、あー大丈夫大丈夫、コロホの街と交渉して移民扱いで受けてくれたから、この前様子見に行ったら笑顔で労働してましたよ~」


(まあ嘘なんだけど)


 ニヤリと悪意のある笑みを浮かべても、言伝貝(ディーシャレ)の先にいるルナには見る手段が無い


『……こっちへの報告は無かったが、それについては』


「え、してなかった? ごめ~ん部下にやっといてっつったけど、無能だね~公務員はサボって給金貪れるし」


『お前の話はどうでもいい、そっちは後だ、至急王女とある男を探せ』


「男?」






『──ベイル・ペプガールという男だ』

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[一言] 王の執着の理由 皇后に知られたくないらしいから共犯みたいなのでは無いとして、知られたら嫉妬で狙われるのかな? 癖有る仲間で順風満帆とは行かないと Twitterから 互いに頑張りましょう
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