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Past Letter  作者: 東師越
第13章 破壊の刻
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第439話 神を喰らう者

 2人同時の覚醒。


 光の柱が天を衝き、ガノシラウルと同等のオーラが2つも顕現したとなっては無視も出来ない。


「何だ、あれは……?」


 ベイルの〝神醒(デウス)〟も度肝を抜かれる想定外の事態だが、それ以上にガノシラウルが驚愕したのはアリシアだ。


 同じ神の力のはずなのに、これまで感じた事の無い異質な雰囲気を纏っている。


「どちらでも良い、この時を待っていた」


 ベイルの黒髪と紅眼に変化は無いが、頭上に輝く輪っかが圧倒的な存在感を醸し出す。


 そしてアリシアは髪が美しい金色から雪のような白銀の変わり、瞳も澄んだ青色が左側だけ紫紺の色に染まっていた。


 愛剣の〝聖器(ポーマ)〟──聖剣スターゲイザーにもアリシアと同じオーラが纏われ、さらなる脅威となるのは確信されよう。


「破壊神ガノシラウル……テメェは俺がぶち殺す!!」


「私が、絶対に倒す!!」


 そして、最後の死闘が始まった。


 だが。


「ッッ!!?」


 その1歩目を、誰が予想出来たか。


 仮に出来たとして、回避や迎撃が出来るような攻撃だとはガノシラウルですら思えなかった。


 認めたくない、認めるわけにはいかない、認める事は神としての矜持が決して許さない、人と神との間に存在する確かな差がある事実を否定されたりしてはならない。


 なのに、この瞬間、この一撃だけは。


 破壊神ガノシラウルを以てしても、認めるしか無かった。


「……っ……ぁ……」


 ガノシラウル首を斬った、アリシアの動きが全く見えなかったことを。


「フフフフフフ、フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」


 しかしガノシラウルは、笑う。


 勝てないと悟った訳では無い、むしろ2人に残された時間を鑑みれば未だ自身の方が遥かに有利な状況だと分かる。


 見えなかった、何も分からなかった、矜持や誇りが砕かれたにもかかわらず、ガノシラウルは笑う。


 簡単な事だ。


 ガノシラウルは、戦いに喜びを見出す〝戦士〟の心があった、ただそれだけだ。


「誇れ、我は貴様らを互角と認めた」


「認める前に死ね」


 首から肉体を再生しかかっていたガノシラウルの頭を、ベイルはかかとを振り下ろして地面に叩き付ける。


 この一撃によって、破壊神による事象破壊で不壊となったはずの大陸に亀裂が1本生じた。


「そうか、ハロドック・グラエルとルミエルの狙いはこれか」


 声音はベイルが踏み付ける頭ではなく、胴体側から再生した顔に付いている口から放たれる。


 杖を持つ手を離し、宙に浮く杖がガノシラウルの頭上に浮かぶ輪っかの中に吸収された。


「小細工は不要、この身を賭して貴様らに宣戦布告しよう」


 背中から生える触手は20本からどんどんどんどん増え続け、100を超える数がベイルとアリシアに狙いを定める。


「排除する、全ては楽園のために」


 瞬間、ガノシラウルは無数の触手を2人に向けて一斉に襲わせる。


 アリシアは即座に斬撃波を飛ばして迎え撃つが、全てを斬り伏せるスターゲイザーであっても斬れなくなっていた。


「〝破印(ゼヒド)〟の亜種か」


 分析するベイルの読みの通り、ガノシラウルは己の触手にさらなる効果を付与していた。


 触れたモノ全てに終焉をもたらす本来の〝破印(ゼヒド)〟だけでなく、ありとあらゆる理に対応して破壊の力が作用するようになっていた。


 故にさっきはスターゲイザーの〝全てを斬り伏せる力〟という理ごと破壊され、さらに斬撃波の威力を破壊して無効化している。


 刻印された〝破印(ゼヒド)〟も数え切れないほど数多と考え、2人は尚も立ち向かう。


 ガノシラウルは宣言通り、小細工抜きで持てる全てを懸けて襲い掛かってきている。


 対して戦闘時の思考はよく似ているベイルとアリシアは、口に出さずとも同じ考えで最凶の触手を何とかしようとしていた。


 方法は当然。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッ!!!!」


「やああああああああああああああああッッッッ!!!!」


 その上から、力で捻じ伏せる。


「それでいい!!」


 津波の如く押し寄せる触手を殴り飛ばし、蹴り飛ばし、捻じ千切り、跳び上がって衝撃波を飛ばす。


 理を破壊する神の力を力尽くで突破し、ベイルは燃え盛る炎のようなオーラをさらに肥大させてガノシラウルに迫る。


 アリシアは真っ直ぐ向かってきた1本の触手を跳んで躱し、その触手に乗って走りながら襲いかかる触手を斬り伏せる。


 無敵にも思える〝破印(ゼヒド)〟を一振りで捻じ伏せながら、鬼のように突き進む。


「チッ、キリがねぇ」


 既に無くなってもおかしくないほどの数を潰して斬ってきたのだが、襲いかかる触手は減るどころか増えてすらいるように思えた。


 それもそのはず、ガノシラウルの触手は無力化された直後から再生して迫り続けている。


 このままでは起死回生の最大最後の好機を棒に振ってしまう、それだけは何としてでも避けなければならない。


 何のためにここまで来た。


 何のために人生のほぼ全てを費やした。


 何のために代償を払った。


 今、目の前にいる神を、この世から消し去るためだろう。


「大丈夫」


 一瞬、ベイルにはその声がアリシアのものだとは分からなかった。


 あまりにも冷たく、そして幾億も突き刺す針のような怒りがたった一言で伝わってきたのだ。


 誰よりも優しくて、誰よりも人を思いやり、色んな人達から愛されるアリシアだからこそ、本気で怒らせてはならなかったのだろう。


 ガノシラウルの踏んだ業の深さは、底が見えないほどの深淵だという事だ。


「もう慣れた」


 何に、とは問わなかった。


 なんとなく分かっていたが、ここで聞くのは野暮だろうとベイルは判断したのだ。


 アリシアの状態は明らかに〝神醒(デウス)〟ではないのは理解出来ているが、じゃあ何なのかと問われると明確な答えは出せない。


 未知過ぎて、最高神すら同様するのだから。


「うん」


 鞘に収めていた聖剣スターゲイザーを数センチだけ抜き、1秒とかけずにまた収める。


 傍目からは変なクセか何かのように見える動作だが、今のアリシアにはこれだけで十分である。


 ──刹那、全ての触手が斬り伏せられていた。


「……な……っ……」


 ガノシラウルは、またしても見えなかった。


 太刀筋なんて果たしてあったのかと疑うほどに、何も分からなかった。


「っ……再生しない……!?」


 加えて斬られた触手は再生せず、さらには無数に刻印された〝破印(ゼヒド)〟の全てが打ち消されている。


 衝撃が過ぎるほどの現実を前にガノシラウルは開いた口が閉じず、見開いた目でアリシアを凝視した。


 凍て付く冷酷さは、人とも神とも違う。


(あれは何だ……何が起こっている、我は今……何を見ているというのだ……!?)




 神の領域を霊峰の頂とするなら、アリシアが今いるのは真逆ともいえる海溝の底。


 力を求めてひたすらに登るのではなく、深く深く暗闇の中へと孤独に落ちていき辿り着いた場所。


 アリシアは、神の器では無い。


 故にこれまで〝ホシノキズナ〟が覚醒しても、自分自身が覚醒する事は叶わなかった。


 彼女の前に登る山は無く、ただ沈むだけの海があるだけ。


 ゆっくりと迷わず落ちていき、溺れることなく到達した場所は未開の領域。


 そこは神に匹敵どころではなく、神にとって唯一と言える天敵になり得る力を手に入れられるもうひとつの至高の領域。


 名も無き世界に初めて辿り着いたアリシアは、仮にここをこう呼ぶ。






 ──〝鬼醒(マルス)






 これは、1人の少女が願いを叶える物語。

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