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Past Letter  作者: 東師越
第2章 Always "Sadness" in their hearts
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第42話 深海旅行

2ー5 ウサギの孤島

 ラルフェウは甲板で、意識を取り戻さないベイルのそばに座りベイルが目を覚ますのを待っている。


 「……ベイル様……」


 「何でそんな寝込んでんねん」


 キリウスは相変わらず全裸で船内を物色して見つけた釣り道具で釣りをしていた。しかしエサを付けていないので一匹も釣れてはいなかった。


 「5000年前の出力のまま、今の弱い体で技を出していますから……」


 「……そこまでせんとアカン奴やってんな……あの女は……」


 「───〝序列外なら街の10や20……序列内なら国の3、4つ……上等なら大陸1つ……特等なら世界1つ統べる力を持つべし〟


 ……統べるとは政治的にではなく、力での征服という意味です……それほどの強さが聖戦士というものです……強いに決まっています」


 「あっそう……起きるんかそいつ?起きる気配無いけど」


 「起きません絶対」


 「は?ほな何を待ってんねん」


 「エネルギーの安定です……今ベイル様の体を流れるエネルギーが乱れています……逆流したり、枝分かれしたり……これがもう少し安定の方に向かっていけば、何とか目を覚ます方法はあります」


 「なんやそれ」


 「……詳細は不明ですが、ある方が作ったカプセル剤を体内に入れれば、ベイル様の状態は安定します」


 「ええもんあるなぁ」


 「過去に何度もこうなっていますから……ベイル様は普段、何を考えているのかよく分かりませんが……


 ……目の前の物事に全力を尽くし、誰に何と言われても自由奔放に自分の生き方を貫き、危険が及べば状況をすぐに理解し、自分の身を犠牲にしても死んでほしくない人々のために戦います」


 「おお……かっこええなぁ」


 「そうなんです!かっこいいんですベイル様は!!……だからベイル様は……本当はこの世の絶対悪なんかじゃない……神と闘った事も、きっと何か理由があって」


 「やけど人間滅ぼしたんやろ?」


 「っ……ですが」


 「そいつがどんだけええ奴か知らんけど、やった事が嫌われる事やったらヤバい奴って思われてもしゃーないな」


 「……ですが」


 「ワイは見とったからお前の言う事分かるで、半端な奴が出来ることやない……そんなんも理由でここに来た……まあ、一応信頼は出来そうやしな……一応」


 「……嬉しいです……そして、キリウスさん」


 「なんや?」


 「それ、エサ付けないと釣れないですよ?」


 「なんやエサって?」




   ※ ※ ※ ※ ※




 ラルフェウは船を進め、ついにセタカルド諸島の最端地にある島を掻い潜った。


 この島は無人島だが、兵団の警備があるため掻い潜る必要があるものの、ここの警備は極端に薄く常勤は2人……4、5人がこの島に配属されているものの監視もろくにせずチェスばかりしている。


 その最大の理由は、そもそもこの最端地には兵団の船以外は現れないからである。


 何故現れないか……この先に陸地が無いからではなく、この先に行けば必ず船は沈没するとされているからである───。


 人間界は球体であることが、現在の王直属の調査隊により判明されている。もちろん他の世界も球体ではある事が理論上確定だそうだが、人間界と自然郷以外は調査をしていないため不明とされている。


 


 上下に大きく広がる人間界唯一の大陸であるイメア大陸と、大陸の中心からやや南部に位置する王都ルブラーンの正門から南西に位置するセタカルド諸島と、北東に位置するユナー諸島、それ以外に陸地が存在しないことも判明されている。


 大陸の縦断は馬で約2か月、横断は最長地で約15日ほどだ。


 しかしイメア大陸の裏側、特にセタカルド諸島の向こう側だけ穏やかな海でありながら、ひとたび船が入れば天候は荒れ、嵐が吹き荒れ、海は暴れ、船は沈没する……実際に入った調査船全てが帰ってこなかった。


 アンビティオ号はそんな海域に入った……だが、空も海も荒れる事は無く、穏やかな晴天と青い海が広がるだけだった。


 昼過ぎ……海域に入ってしばらく経ったとき、ラルフェウはベイルの力の流れが安定に向かっていき始めているのを確認した。


 「ベイル様!!……よかった…」


 「そんな可能性低かったんか?」


 キリウスはラルフェウの言う様に、エサを取り付けて釣りをしていたが、一匹も釣れていない現状は変わらなかった。


 「いえ、ベイル様ならば必ずこうなると、毎回信じていますから……カプセル剤持ってきます!!」


 ラルフェウは自室に戻り、机の引き出しに常備しているカプセル剤を取り出しベイルの元に急いで駆けよった。


 「けど寝てんのに飲み込めるんか?」


 「え?飲み込めませんけど?」


 「ほなどうやって入れんねん」


 「肛門からですけど?」


 「……あ、そう……」


 キリウスはあからさまに引いてる表情でラルフェウを見たが、ラルフェウはキリウスが何を気持ち悪がっているのか理解出来ず困惑の表情を浮かべる。


 「失礼します」


 ラルフェウは躊躇すること無く、慣れた手つきでテキパキとカプセル剤を肛門から座薬のように注入した。


 それから約30分後、ベイルの力は安定と言える流れになり、体に異変はなくようやく目を覚ました。


 「……あ……まさ、か……」


 「おはようございますベイル様!!」


 「……はぁ……マジか……」


 ベイルは状況を把握し、憂鬱そうな顔をしてため息をついた。

 ベイルもまた、ラルフェウに肛門から入れられることを引いてるためだ。


 「全然釣れへんやんけ」


 「ベイル様、ようやく目的地に入りました」


 「あっそう……え、ここなの?」


 「黙ってて申し訳ありませんでした……しかし」


 「ああ良い良い分かってっから、まだ信用されてねぇってこったろ……で、こっからどうしたらいいの?」


 「……僕もさっぱり……」




   ※ ※ ※ ※ ※




 「……これは……」


 ビオラは何かに勘づき食べる手を止めた。


 アリシアは既に酔いが回り無言になり、リドリーはアリシアに触れられないためアリシアを酔わせる海にキレている。


 「どうしたんすか?」


 今のところビオラの反応に興味を示しているのはレオキスのみだ。


 「……この辺りの海……何なのこの流れ……」


 ビオラの言う流れとは海流ではなく、力の流れ。


 そもそも人間界の海に力の流れとは存在しない、海に影響を及ぼす程の誰かが住んでる訳では無いからだ。


 (力の源は深海、かなり深い所にある……しかもこの力……ワタシの結界のモノ……まさか、この深海に同じくエーギルの結界を持つ誰かがいる……)


 「……そういえば、昼入ったくらいから変な気配があるっすね」


 「ええ……まさか、最初からここが目的地だったのかしら……」


 「え、でも、ラルフェウサンが提案してアニキが決めた感じだったんすけど……」


 「ただアリシアを王都から引き離すだけなら、どう考えても人間界を出た方が良いに決まっている……この力の源に目的の何らかがある、いるから来たに違いないわ」


 「演技って事っすか?何のために?」


 「……ベイルの方がこの場所を知らなかったら……その変なやり取りは辻褄が合う」


 「……そうっすね、でも……疑問は増えるばかりっすね……」


 「じゃあその疑問解決しに行こうぜ」


 ベイルがそう言いながらダイニングに入り、そのままあまりにも鮮やかで滑らかな手つきでビオラの食べる予定の海鮮グラタンを食べ始めた。


 「あっつ!!」


 「……どうやって行」


 「ビオラさんどうかお願いします」


 ラルフェウはビオラが言い終わる前に頭を下げて懇願した。


 「この船は深海でも崩れませんし、潜れば場所はすぐ分かります……なので……厚かましいですが」


 「いいわ」


 「……よろしいんですか?」


 「ワタシはベイル・ペプガールの見る世界を見たい、ワタシの力で行く手を阻む障害を乗り越えられるなら、喜んで」


 「───」


 ラルフェウの中では、ビオラは不思議ちゃんというイメージがあり、もしかしたら断られる可能性の方が高いと思っていたのであっさり了承を得られた事に驚き、顔を上げてポカンとしていた。


 「で、何をすればいいの?」


 「は、はい、では……」




   ※ ※ ※ ※ ※




 帆をしまい、ラルフェウは船を停止させアンビティオ号は一行全員が船内に入り全ての扉を閉め切った、これで船内に水は一滴も浸水してくることは無い。


 「準備完了です」


 「オラわくわくすっぞ」


 「僕もですベイル様」


 そしてビオラは全身に力をみなぎらせ海と共鳴し、ビオラの体から光り輝く輪っかのようなエネルギーが発し、ビオラの腰辺りを浮かんでいた。


 「〝操水光輪(アクア・リング)〟」


 その輪っかはあらゆるモノを透過し船を囲むほど大きくなり、輪っかの光は海底に向かって一直線に伸びて行った。


 すると輪っかの内側にある海水が、輪っかの外側の海水とは違いビオラに操られているため、エレベーターのように下がっていった。


 「すげえええ!!!!」


 「どうなってるんすか!!!?」


 ベイルとレオキスは窓から海中の景色を見て、ものすごく興奮していた。


 「なんかこう……あれだ!!化石とか見つかりそう!!!」


 「いや違うと思いますよベイル様、さっきからわくわくしすぎて頭がごっちゃになってきてます」


 「わあ……」


 アリシアもビオラが配慮し船が浮かぶ水面をほぼ揺れをなくし陸の上と何ら変わらない足場となっているため酔いは収まり、窓に広がる美しい海の景色を見て右手を窓に触れ、笑みが思わずこぼれた。


 「あ!見てリドリーちゃん!小さい魚がいっぱい集まって!すご~い……」


 無邪気に子供らしくはしゃぐその姿を、リドリーは愛でると同時に、久しぶりに見たアリシアの心からの笑顔に惚れ直し、少し顔を赤らめた。


 「リドリーちゃん?何で顔赤いの?」


 「い、いや、別に……ホントにすごいな……」




   ※ ※ ※ ※ ※




 同じくクラジューとゾーネも部屋でその光景を目にしていた。


 「すご~~~い!!!なにこれ~~~!!!」


 「……ああ……」


 今このアンビティオ号に乗る者全てが、海に生きる生き物達が織り成す、神秘、軌跡、輝きを見て等しく美しいと心から思った。


 各々今まで見てきた世界は違えど……血の海、屍の山、虚ろな夜空、燃えさかる業火、瞳に浮かぶ涙、襲い来る死の恐怖、限りない暗がり、見てきた世界が、たとえどんな言葉を使っても美徳にたとえられなくても……。


 生命を創り出すこのどこまでも広い青い受精卵の中で、光と闇が交錯する液体の世界で、一行は目の前を美しいと思った。




   ※ ※ ※ ※ ※




 しばらく経つと船の前方に、暗い深海で光り輝く大きさはセタカルド諸島一の大きさを誇るルービ島と同じくらい大きな巨大な球体が浮かんでいた。


 「あれね」


 何故か生き物達はその球体に近付く事は無く遠ざかっていた。


 マリンスノーが霞むくらい輝くその球体の下半分は、大地となっており土が存在していた。


 その土の上に木々や、人が住んでいると思われる建造物が並び、人里が確かにそこには在る。


 球体の正体はエーギルの結界で、この結界が青白い光を放っていた。

 恐らく中にいれば、深海の闇は見えないと思われる。


 「すげえ……すげえ……」


 「ベイル様、語彙力が……」


 「こっからどうやって行くんすか?」


 「大丈夫」


 ビオラは下がっていく海水の動きを止め、〝操水光輪(アクア・リング)〟をもう一つ繰り出し、同じサイズの輪に広げ、今いる船の正面の海水から、巨大な球体に向けて光を一直線に伸ばした。


 さらにビオラは操作し、船の底が接している海面をベルトコンベアーのようにゆっくりと巨大な球体へと向かうように船を移動させた。


 「すげえええ!!!!」


 「ビオラさん……ここまでサービスしてくれるとは思いませんでした……」


 それはさながら海底トンネルのようだった。ラルフェウに褒められて、ビオラは真顔のまま内心無茶苦茶喜んでいた。


 「いや、でもグロい魚しかいねぇな……つまんねぇ」


 「でも珍味が多いっすよ?」


 「マジか!……まあすげえええ感はだいぶ削がれたな」


 「───」


 ビオラは真顔のまま、ベイルにそこそこの怒りを覚えた。




   ※ ※ ※ ※ ※




 そして5分ほどしてから、船は巨大な球体にぶつかりそうなほど近付いた。

 その瞬間球体の方の結界が突然輪っかと同じサイズの穴が開き、船はそのまま球体の中に入っていった。


 「……歓迎……してくれてるみたいね」


 「おう、ならいいんじゃね?」


 (タイミングが良すぎる……どこかから見られてたのかしら……)


 船が中に入ると球体の結界は閉じ、船は球体内の港に辿り着き停泊した。


 「……ついたわ」


 一行はやや警戒しつつ船の外に出る。




 「ようこそサン・ラピヌ・シ・ソノへ……ベイル・ペプガールご一行様」


 港からそう言って待ち構えていたのは二足で立ち、服を着て、笑顔を見せていた───ウサギだった。

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