第3話 〝死神〟ベイル・ペプガール
1ー2 コオリの巨漢
出発してから3日が経った。
船は高原を抜け、ゆったりと広大な草原を走りながらアリシアとラルフェウは2人で、船内のリビングダイニングのテーブルで昼食を食べていた。
「着替えあってよかったですねアリシアさん」
「うん……けど、布が少ないというか……下着も揃ってたし……」
「我々と同行していた方が性欲の権化のような方なので……」
アリシアはボロ切れを捨てて丈が膝上ほどのスカートに、少し胸元の開いたトップスを着ていた。
もちろん食べているのはラルフェウが作った〝物体Xその2〟だが、3日も経てば美味しいとは理解しているため普通に食べ始める。
何故ラルフェウが料理を作れば味は良いのに見た目がグロテスクになるのか、それは本人にも分からない。
「……ベイルって、まだ寝てるの?」
「はい」
「3日もずっと?」
「いつもこんな感じですよ」
「そうなんだ……」
ベイルは出発した日の夜に就寝して以降、起きそうな様子を一切見せず眠り続けている。そんな人種はどこに行ってもベイルだけだろう。
「……何か言いたげですね」
「うん……〝ホシノキズナ〟って、何なのかなって」
ベイルが口にして以降ずっと気になっていた言葉。
自分自身が何者なのかを全く知らないアリシアは、その手がかりとなろうその言葉の意味を早速ラルフェウに問うた。
「そうですね……ざっくり言うと〝王証〟のひとつです」
「……ざっくり過ぎて何一つ理解出来なかった」
「〝王証〟とは七種族に各一つ、王の器があると〝王証〟に認められた者の肉体に宿る……としか言えません」
「どうして?」
「詳細は何も解明されていません、何のために在るのか、誰が創り出したのか……」
「そうなんだ……」
〝王証〟──それはこれから歩むベイルやアリシアの未来に最も重要な存在。
アリシアが肉体に宿している〝ホシノキズナ〟を含め、この世には〝王証〟と呼ばれる代物が7つ存在する。
現在は1種族に1人ずつ保持しているとされているが、これはその種族の者にしか宿らないという条件は無く、例えば自然族の者が持つ〝王証〟を人間族の誰かが受け継いでも問題は無い。
しかし今までそのような事例は1度しか無く、現在に至って1種族に1つと均等に宿主が分けられている理由は、力の隔たりによる均衡の崩壊を防ぐため。
ひとつひとつが強大な力を持つ〝王証〟は、その族の王である証として受け継がれてきた。
しかし誰が何のために創り出したのかは、それは全くの不明である。
「ただ解っている事は〝ホシノキズナ〟は人間の、しかもクルエルの血族にのみ宿る──
──そして宿ったものの望んだモノが、どれだけ遠く散らばろうとも、自身の元に集結する運命を創り出す
──この2つの情報は確定しています」
「……ホントに……何なんだろう……」
先ほど〝王証〟は種族に縛られておらず複数の〝王証〟を同一種族に宿しても何ら問題は無いと説明した。
しかしアリシアの持つ〝ホシノキズナ〟だけは例外で、クルエルの血族にしか宿らないというものだ。
そして〝ホシノキズナ〟には、宿主が欲するものを自身の元に集結させる運命を創り出すという。
「しかもクルエルに宿るといっても全てのクルエルに宿る訳ではなく、〝ホシノキズナ〟の所持者が死ねば次の所持者が現れるのに数百年や数千年かかるので、アリシアさんは第9継承者らしいです」
他の6つの〝王証〟は、宿主が〝王証〟を受け継ぐに相応しい者を選び受け継がせ護られてきたが、ここでまたしても〝ホシノキズナ〟は例外だった。
〝ホシノキズナ〟だけは宿主が次の誰かに受け継ぐという事は出来ず、宿したまま一生を終えるのだ。
その後同じクルエルの血族の女から、宿主となるに相応しい存在を何百年でも何千年でも待ち続ける。
つまり〝ホシノキズナ〟だけは、受け継ぐ者の選択権は宿主ではなく〝ホシノキズナ〟そのモノという事となる。
時が経ち、今回アリシアの代で9人目の宿主となったのだ。
──そして、7つの〝王証〟が集結し1つになった時に現れるとされる幻の存在──〝神証〟
ベイルの野望にはこの〝神証〟が大きく深く関わっていく──
アリシアはラルフェウの話す内容の半分も理解出来ていないが、頭の中で必死に整理しながら会話に食らいついていた。
「どうしてそんなこと分かるの? 第9継承者とか……」
「5000年間クルエルを追い続けている方がいるので」
「……え……5000年間って……そんな長生き出来るの?」
「はい、強い方だと数千年生きてる方はさほど珍しくありません、現に僕は2000年以上生きてる計算になりますね、ベイル様も5000年は生きてます」
「すごっ!! ……すごいね……」
「おかげで1日が恐ろしく早いです」
この世には何百年、何千年という長い時間を生きる者は限りなく少数派だが、珍しくはない。
その理由は、後に判明する。
「あ、ごめんね、私ばっかり……」
「いえ、アリシアさんのお世話係に任命されたので、いくらでも聞いてください」
「……じゃあ……ベイルは、何のために私を助けてくれたのかな」
アリシアは食事をとる手を止め、少し俯いた。
「ベイル様の野望には、きっとどこかで〝ホシノキズナ〟が必要なのでしょう」
「ベイルの野望って、何?」
「幾つかありますが、今のところは〝死神魂〟の回収です」
「……何……それ……」
またも新しい情報がラルフェウの口から出てきたので、アリシアは混乱し、返す言葉に困っている様子だった。
「これは〝王証〟とは何の関係とありません、ベイル様の力ですから」
「力?」
「はい……5000年前、理由は明確ではありませんが、事実ベイル様は人間界を滅ぼしました」
「……滅ぼした?」
「その時ベイル様を封印しようと戦った初代ホシノキズナ所持者は、自らの命と引き換えにベイル様から力の全てを取り出した後、全世界最強の封印をかけました──
──しかし1000年前に封印は解かれ、ベイル様は失った自らの力を取り戻そうと旅をしているということです」
「……でも、何のために……」
「それは不明です、そして〝死神魂〟はベイル様という戻る場を失い、全世界から選ばれた〝10人〟にそれぞれ宿っているのです」
「……そうなんだ」
〝死神魂〟──まず始めに、これは〝王証〟とは一切関係の無いものだという事をここに記す。
5000年前、暴走したベイルを永劫封印すべく初代ホシノキズナ継承者は、ベイルの持つエネルギーを10等分に分けた後に永劫封印を果たした。
その10等分に分けられたエネルギーは、ある条件を満たした者にのみ宿主本人に自覚が無いまま宿る。
そして宿主はこの〝死神魂〟の力を利用することは不可能である。
この10等分にされたエネルギー全てがベイルの肉体に還元された時、ベイルは本来の力を発揮する事が出来るのだ。
しかしベイルはその宿主を気配で察知は出来ず、自身の目に入らなければ宿主かどうかは誰も知らないまま。
ベイルは野望達成のために、その段階として〝死神魂〟を探し求めているのだ。
ちなみにベイルは宿主を発見しても、エネルギーを自身の肉体に還元する方法を知らず。
「光栄ですよ、かのベイル・ペプガールですよ、ゴーユ神話の主人公であり、天変地異を超える力を持って〝死神〟という異名を持つ、最強の生命体の1人なんですよ! ──
──今は弱体化してしまっていますが……」
「う、うん……ていうか、ゴーユ神話?」
「はい、ゴーユ神話とは……」
「いや……読んだことある……え……同じ名前だとは思ってたけど……ホントに、あのベイル・ペプガールなの?」
「はい」
「……そう、だったんだ……」
「呼んだか?」
するとベイルが、目をこすりながら半目の寝起き顔で2人の元に現れた。
「おはようございます」
「おう……ふわぁ~あ……」
ベイルは大きなあくびをし、アリシアの隣の椅子に「よっこらせ」と声を出しながら座り、ラルフェウのガラスコップに入っている真水を飲み干した。
「つーかまだ街着かねぇの? ずっと草原走ってよぉ~」
「もうすぐ着くと思います、何しろ王都のルブラーンの裏側ですから集落もほとんど無いですし、夜は船止めてますし」
「んだよそれ~……おっ! 見えてきたぞー! 飯飯~!」
ベイルが窓から前方の景色を覗くと、そこには小さな街が地平線の向こうまで草原の地にポツンと佇んでいた。
ラルフェウは船を停めて、3人は街に入っていった。
※ ※ ※ ※ ※
同じ頃、王都ルブラーン王宮内。
アリシアを追っていた2人の兵士は、兵団の長官室に呼び出されていた。
長官の名はルナ、苗字は非公表、煌びやかな金髪と碧眼とアリシアによく似た点が所々あり、威圧感を覚える身長も2メートルを超えている肉体を持ち、20歳前後の若い男のナリをしているが兵団で最も古株だ。
「……3日も連絡が取れないだと?」
「は……はい……」
ルナは机に置いてある二枚貝の形をし、巻き貝のようなマイクが繋がっている〝言伝貝〟を手にした。
〝言伝貝〟とは、この世に存在する唯一リアルタイムで情報のやり取りが可能な道具であり、その生産はコーゴー本部が全権を握っている。コーゴーの重要な収入源だ。
「……繋がりもしないか……誰かにやられたな」
「では……」
「お前達の処遇は後だ、王に報告する」
ルナは長官室を出て王室に向かい、ノックをして入っていった。
「失礼します」
「どうした?」
王は30前後のナリをしているが、ルナよりも年齢は上で、国という概念が存在しない人間界でトップの座に君臨している。
灰色に近いベージュ系の髪に漆黒の瞳は深淵を見透かしているかと思わせる、隆々とした肉体はルナとは遜色ない威圧感を醸し出す。
「レフレアの街の納税が3ヶ月滞っています、数人か兵を派遣しましょうか?」
「いやいやそんな、兵士なんて送ったら脅しになるじゃん、送るなら一人で」
ルナは(結局送るのかよ)と思いながらも、王の命令に意見することは無く、引き続き話を進めた。
「分かりました……そして王女の件ですが、追わせた兵からの連絡が途絶えました」
「途絶えた?」
「可能性は極めて低いですが……恐らくは協力者がいるのかと、脱都したのは計画的だったと言えます」
「……ならもうルブラーン周辺にはいないな……人間界全体に捜索、保護命令を出そう、絶対に殺すなよ」
「懸賞金無しでは兵団支部は動きませんよ、ただでさえボーナスも出ないですし」
「……300億レールにしよう」
「了解」
「早く見つけてくれよ、くれぐれもコーゴーには知らせてくれるな」
「……はい」
ルナは敬礼をしながら王室を出て、ゆっくりと扉を閉めた。
(……あの王女に何があるというのだ……)
ルナは王の思惑が読めずに疑問ばかりが残っている中、誰もいない廊下を1人急ぎ足で歩き、支部への連絡のために長官室に戻っていった。
アリシア・クルエル
性別 女 種族 人間 年齢 15歳 呪力 無し
身長155センチ 体重40キロ前後 誕生日 7月6日
本作のヒロイン。胸はB寄りのA。人間界の王家の血を引いている。
全てが謎に包まれた〝王証〟の1つ、《ホシノキズナ》を肉体に宿し、理由は不明だが、王都ルブラーンから脱出した。
〝王証〟───この世に7つ存在する謎多き存在。
強大なエネルギーの結晶とされているが、誰が何のために創り出したのかなど詳細は一切不明。
〝ホシノキズナ〟───〝王証〟の1つで、人間のクルエルの血族の女から数百、数千年に1人選ばれし者に宿るという〝王証〟の中でも特異な存在。
〝死神魂〟───かつて人間界を滅ぼしたベイル・ペプガールの力を肉体から10等分に分けて取り出し、ある条件を満たす者10人にそれぞれ宿るモノ。
宿った当人はその力は使えない。




