第364話 合流へ
再会は、突然だった。
「なんや、早かったな」
「キリウスさん、無事でよかったです」
ここはガピート大陸、ギルド連合本部である天樹アルテミスにほど近い泉。
ちょうど10分前に敵を倒し、一服がてら水浴びをしていた所にラルフェウが何も無い場所から突如現れたのだ。
それに対して冷静に対応出来るキリウスもすごいが、全裸のキリウスを前に純粋に無事を喜べるラルフェウもどこかしらズレている。
「残念やったな、もうちょいはよ来てたら全裸のミヤとラッキースケベ出来てたのにな」
「殺されそうなので助かったです……」
「そうか、ワイは誰に見られても手ぇ出さへんけどなぁ、器小っさいなぁ」
「いや、そういう問題じゃないのでは」
「現に見られとるけど、怒りも恥じらいも無いのはやっぱりおかしいんやろか……」
「まあ異性じゃないですし」
「いや異性やろ」
「え?」
「ほら」
キリウスは自身を女だと思っているのかと驚きかけたとき、全裸の男が指差した方へ振り向く。
そこには茹でダコのように顔を真っ赤にして両手で覆いつつも、微かな好奇心が指と指の隙間からチラリと覗かせていた。
視線の先には、大半の男が嫉妬しそうなほどに立派なアレ。
尻もちをつく彼女は自身が履く白の下着が見えていることにも気付かず、出そうで出ない掠れた声を上げる。
「ぁ……か……ぁぁ……」
「アリシアさん、それはちょっとウブ過ぎませんか?」
「い、いや、その、だから、あの……」
「人間の25歳って立派な大人やなかったか?」
「まあ800年生きてきたビオラさんも近い反応でしたので、情報が無ければ致し方ないかと」
「ほ~ん、そんな気になるんやったらもっと見てええで」
からかうようにニヤけるキリウスはアリシアに近付くと、羞恥心が極度に達して叫ぶアリシアに股間を思い切り蹴り上げられた。
自業自得とはいえ、一部始終を見たラルフェウは気絶したキリウスに同情しながら、痛みを想像してしまい股間を手で守る。
などというバカな事をしている内に、クラジューとミヤとワンハンドレットが泉に現れた。
「何故全裸で寝てるんだコイツは」
「そっとしてあげてください」
「……またお前か」
交渉決裂により信頼を切ったラルフェウを前に、ミヤは早過ぎる再会で嘆息する。
既にワンハンドレットが話をつけたらしく、事情を理解したミヤは代表者代表として一行とワンハンドレットとの同盟に踏み切った。
何とか内輪で解決したかったが、それではどうにもならない現状に首を縦に振らざるを得なかったのだ。
「とっととそいつを起こせ、次は散らばった戦力の回収だ」
「あとは、ハロドックさんとペリーさん、それからレオキスさんですね」
「……もし出来たら、ルミエルさんも」
アリシアの切実な願いにも、ワンハンドレットは顔色1つ変えずに返答してみせる。
「善処しよう、にしても本当に粒揃いだな、〝狂犬〟に〝千面相〟、それから賢者ベントスとは、恐れ入る」
「改めて考えると、凄まじいメンツですね」
「では手分けして行こう、アリシア・クルエルとラルフェウ・ロマノフはハイエンク大陸へ、クラジュー・エフィーグとキリウス・ジャグネットはリーレンス大陸へ、私とミヤ・フブヤでブリシュ大陸に向かう、割り振りは適当だ」
全員の居場所を正確に知るワンハンドレットは、そのポイントへたった今決めた2人1組を瞬間移動させる。
全力を尽くしてフェアル達を攻略すべく、3つの勢力の同盟が動き出した。
※ ※ ※ ※ ※
ブリシュ大陸。
ここも例外なくジェノサイドによる侵略行為を被り、超巨大モンスターの攻撃による爪痕も残ったまま、人々は混乱の窮地に追い詰められている。
そんな異常事態とは無縁の草原にて、この世の全てを悟ったような無情の瞳で青空を見上げる全裸の男がいた。
「ふぅー……清々しい気分だ」
性欲に狂う化け物と成り果てていた姿はどこへやら、色欲の一切から解き放たれた男は脱ぎ捨てていた服を拾って着る。
ハロドック・グラエル。
ジェノサイドの刺客を性的に落とし、さっきまで盛ってここ数ヶ月溜まっていたモノを吐き出し、その反動で冷静さを取り戻したのだ。
異様に静かなこの地にそよ風が吹くと、右側から笠をかぶり腰に刀を差す男が現れる。
「そこの者、かの〝狂犬〟と見受ける」
「何だお前」
「ここにララーナという名の女が来ていたはずだが、行方を知らぬか?」
「そっちの方で気を失ってるはずだ」
「ほう、何故に」
「溜まってたんだよ、ちなみに5回目の気絶だ」
ハロドックの絶倫ぶりという聞きたくも無い情報にも表情ひとつ崩さず、男は刀の柄を握って抜刀の構えをする。
「彼女を渡せば、無用な争いは起こらない」
「どうぞご勝手に、ただ今後使い物にはならねぇかもな」
ここでようやく男は少し驚きを感じ、笠に隠れていた目が垣間見える。
それこそ〝狂犬〟という異名が付くほどに戦闘狂かと思っていただけに、思わぬ角度から意表を突かれたのだ。
「後始末も大変だな、シン・トウジョウ」
「次は敵として斬り伏せる、ハロドック・グラエル」
結局シンは戦闘を始めずに、幸せそうな顔で眠るララーナを抱き抱えてその場を去って行った。
ハロドックとの戦闘は叶うならば避けたかったシンとしては僥倖であり、表には出さずに胸をなで下ろした。
「ハロドック・グラエルだな」
「今度は誰だよ」
シンとの邂逅から10分ほどして、まだまだ無欲モードのハロドックの元に2人の女が突然現れる。
「キングス・デオキシリボース・ワンハンドレット、貴様の味方だ」
「〝霊王〟の……なるほど、よろしくな」
「すんなり認めるのか……」
「お前はミヤ・フブヤだな、まあ胡散臭ぇのは確かだが、キングスの名を名乗った意味は分かるからよ」
「手短で助かる、では行こう」
特に何か起こることも無く、ハロドックと合流したワンハンドレットは他のポイントへ3人で向かっていく。
総力戦の末に、勝利を得るのは果たして──




