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Past Letter  作者: 東師越
第2章 Always "Sadness" in their hearts
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第34話 異変

 「人が死んでいくって……どういうことっすか?今の雷が関係あるんすか?」


 「気になるなら見に行けばいい」


 「そんな……止められないんすか?」


 「何故アナタがそんなこと気にするの?」


 「……死んでいくのを……みすみす見逃すんすか?……」


 「……ええ」


 ビオラはレオキスと目をそらし、間を置いて返事をした。

 人の死を何とも思わない冷酷非情ではないと言わずとも表す言動だったが、レオキスにはそうは見えなかった。


 「でも……ビオラサンの力ならそれくらい」


 するとビオラは恐ろしく鋭い眼光をレオキスに向けた。

 突き刺さるような畏怖と、ビオラの震えるほど強く握る両拳が、レオキスにビオラの強い思いをようやく伝えた。


 ベイルの行く末を見たいビオラは、その道に必要不可欠なアリシアを先ほど接近し、また来るかもしれないウルから守れる者が自分以外にいないと、主観的ながら思った。


 それでも自分の意思と人の命とでは、秤にかけずともどちらが重いかは明白で、助けられるのなら命をかけても助けたいと思っている。


 だからといってアリシアを見殺しには出来ない……非情に思える決断を経て、島の人々を見殺しにしている最中だ。


 行き場のない怒りをどうすることも出来ず、無力な自分を責める他になかった。


 「っ……すんませんっす……」


 「大きな力を持ったらすぐ分かる、2つは選べない事を……アナタの呪縛が解けたら、それを知るはず」


 「───」


 何故ビオラは自身に掛けられた呪縛が分かったのか、しかしそれはビオラの呪力によって視られたと瞬時に理解したレオキスは、少しビオラを警戒した。




   ※ ※ ※ ※ ※




 同じ頃、アリシアはスプーンを持って茶碗蒸しをリドリーの口に運んでいった。


 「どう?食べられる?」


 「……美味っ」


 「でしょ!?」


 「アリシアがあーんしてくれるからより美味い」


 「よかった……あ、そうだ……キューちゃん達、大丈夫かな……」


 「行くなよアリシア」


 「……どうして?」


 「……今はヤバい……」


 「───」


 「無駄だよ、あのガキがそんなスキ見せると思うの?」


 アリシアはどうにか船を抜け出せないか、などという愚考を表情に浮かべ、あっさりリドリーに見抜かれた。


 「───」


 自分が無力で、無力がどれだけ怖くても、人の意識はそう簡単には変わらない。

 アリシアの考え方をリドリーは、根底からの偽善の塊に思えた。


 「アリシア……どうしてあんたはそんなに優しいの?……優しくあれるの?」


 「……えっとね……」


 アリシアは茶碗蒸しを机に置き、リドリーの目を見て自分の言葉を述べた。


 「……人が唯一祝福を受け、理性を持つのは、同じ人の死を哀れむため、その心が〝救いたい〟の原動力で、神は人を信じたから……私の教科書には、そう書いてあった」


 リドリーはアリシアの偽善の根幹を見た気がした。

 ため息を1つ吐き、アリシアと目を逸らして、自分の考えで意見した。


 「……言っとくけど、神は誰の味方でもないから、祝福ってのは、利害が一致してしまった自己満足の副産物だ」


 「……リドリーちゃん……」




   ※ ※ ※ ※ ※




 「……ゾーネ……どうした?」


 「排除スル、全テハ楽園ノタメニ」


 「───ゾーネ……ゾ」


 するとゾーネはリアの背後に一瞬で回り、リアの首根っこを右手で掴み、アンビティオ号の方向へといとも容易く投げ放った。


 「……嘘……だろ……ゾーネ……」


 「腹ぶち抜かれてんだろ……」


 するとゾーネの傷は、クラジューとドグラが確認した時には既に完治している。

 振り返ったゾーネは、視線に入ったドグラに襲いかかった。


 「っ!!……ちぃ!」


 ゾーネは正面から右拳でドグラの顔面に殴りにかかるも、ドグラは右側の剣で防ぐ。


 「……パワーはまあまあだな、おらぁっ!!」


 ドグラはゾーネの右拳を弾き、右脚でゾーネの左脇腹を蹴り飛ばして街の真ん中にゾーネは落下した。


 「おい!何しやがんだてめぇ!」


 クラジューはゾーネを蹴り飛ばしたドグラに対して怒りを露わにし、胸ぐらを両手でつかんだ。


 「危険の排除だ、あのサイコパス2人を相手に出来るほど俺は出来てねぇ」


 「だからって!」


 「お前は何にキレてんだ、ゾーネちゃん蹴られんのが嫌ならお前が何とかしろ、好きな女に振り向かせるくれぇやってみろよ、男だろ」


 ドグラは若干キレ気味の口調で話し、クラジューの腹部を蹴って引き剥がした。

 クラジューは尻もちをつき、少し咳き込んでから、ドグラを睨み付けながらこう言った。


 「……言われなくてもやる、やるに決まってんだろ」


 クラジューは浮遊しゾーネの元へと急いで飛んでいった。


 「ゾーネ!!俺だ!!クラジューだ!!分かるだろ!!」


 「排除スル、全テハ楽園ノタメニ」


 (どうなってやがる……ゾーネの意識じゃねぇのか?……力尽くでやるしかねぇのか……)


 クラジューは立ち上がったゾーネの左側頭部を槌で殴りにかかるも、途中でクラジューの体は止まった。


 「……出来るわけ……ねぇだろ……」


 「排除スル、全テハ楽園ノタメニ」


 するとゾーネは右拳を無慈悲にクラジューのみぞおちに入れ、大きく振り上げた。


 「うあっ……」


 クラジューが上空に吹き飛ぶと、ゾーネは巨人化し、クラジューを右手で掴んだ。


 「排除スル、全テハ楽園ノタメニ」


 そしてゾーネは一切の躊躇なくクラジューを握りつぶした。


 「ぐああ!!……あ……」


 クラジューのあらゆる骨は砕け、五臓六腑は潰れ、全身の穴から血が噴き出た。


 ゾーネはクラジューを地面に放り叩き落とし、さらにクラジューに向かって右拳を振り下ろした。


 「排除スル、全テハ楽園ノタメニ」




   ※ ※ ※ ※ ※




 「……そんな……」


 ラルフェウが目を覚ますと、巨人化したゾーネが街の真ん中に現れ、そして目の前でクラジューがゾーネによって潰された。


 「……ゾーネさん……何故……」


 「排除スル、全テハ楽園ノタメニ」


 「っ!!……」


 ゾーネが変貌してからずっと繰り返すその言葉を聞いた瞬間、ラルフェウは驚愕し、全身から冷や汗が出た。


 (その言葉……確かゴーユ神話で……まさか……いや……そんなはずは……)


 するとゾーネはラルフェウに目を付け、ラルフェウの元に一瞬で現れ、右拳を振り下ろした。

 ラルフェウは咄嗟にかわし、気を失ったクラジューの元に走って、介抱した。


 (……あの言葉は、ゴーユ神話で〝賢者ベントス〟が言っていた言葉だ……何故ゾーネさんが……とにかく、クラジューさんをベイル様に……いや、ベイル様がどこにいるか分からない以上、一旦船に……)


 ラルフェウはクラジューをおぶりながらゾーネの攻撃を紙一重でかわしていた。


 (船はダメだ……ビオラさんとは違う強い気配がある……どうする……)




   ※ ※ ※ ※ ※




 ゾーネが放り投げたリアは、アンビティオ号の甲板に落下してきた。


 「なっ何すか!?」


 「原因が来た」


 ビオラとレオキスはドアを開けた。するとリアは2人の方に視線を向けた。


 「びひひひへへへへへえええあああ……あああ!!!!」


 リアはビオラに向かって首根っこを掴みにかかるも、ビオラは立方体の浮遊する水を繰り出し、向かってくるリアをその水で閉じ込めた。


 「〝水檻(ブループリズン)〟……早く凍らせて」


 「えっ、あ、はいっす!!」


 レオキスは氷槍アイシクルを繰り出し、その鋒で〝水檻(ブループリズン)〟に触れ、氷結させた。


 「一応これでコールドスリープに入れるのだけれど」


 しかしリアは、障子を破るくらいいとも容易く氷結した立方体を破壊し、脱出した。


 「そんな、〝聖器(ポーマ)〟で凍らせたのに…」


 「アナタが弱いから共鳴も弱いの」


 「……そうっすか……」


 「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス」


 「……心が痛い……おとなしくて人見知りな彼女が殺戮依存症なんて…ちゃんと落としてあげないと」




   ※ ※ ※ ※ ※




 同じ頃、アリシアはリドリーと共に部屋にいた。


 「……今の……何だろ」


 「行くなアリシア!」


 「でも……」


 「向こうはかなりヤバい、あのガキが何とかするだろ……偽善者振りかざすんだろどうせ」


 「……リドリーちゃん……」


 「……お願い……」


 「……分かった……」


 アリシアはしぶしぶ椅子に座り直した。

 リドリーは念のために地斧デゼルトを、アリシアに見えないように布団の中で繰り出した。




   ※ ※ ※ ※ ※




 リアは止めどなくビオラに攻撃を仕掛けにかかった。隣のレオキスには全く興味が無さそうだ。


 「〝水枷(ブルーシャックレス)〟」


 ビオラはリアの手足に水で出来た枷をかけ、リアの動きを封じた。


 「びゃあああらああああああああ!!!!」


 「……これも長時間持つ程効力は無いけど……」


 「もっと強いのは無いんすか?」


 「……小細工は苦手、ワタシは力しか無いから、加減の仕方も分からないし……そうなると確実に殺してしまう……これ以上は……」


 「……そうっすか……オレも出来るならあんまし殺したくないっす……」


 「あうっうっあああわあああ!!!!……あぁぁああ~?」


 するとリアはゾーネのいる方へ向いた。そしてリアは力尽くで拘束を解き、ゾーネの方向へと走り去った。


 「……あ……」


 するとビオラは膝をつき、ペタンとその場で座り込んだ。


 緊張状態を常に保ち、力の加減を操作していたその手は、ビオラも驚くほど震えていた、呼吸も乱れている。


 「ビオラサン?……大丈夫っすか!?」


 「……はぁ……はぁ……怖かった……よかった……殺さなくて……」




   ※ ※ ※ ※ ※




 同じ頃、ベイルはコロシアムのとある部屋の扉を、鍵を意に介さずこじ開けた。

 そこには大量のヴェルジイモが箱に入っていた。


 「うっほ~~~!!さっそく持って帰るか~~!!」


 ベイルはその箱を持って外に出て行った。


 「ヴェっルジっイモ~、ヴェっルジっイモ~……ん?おーいラルフェウ何してんだそこで」


 「あ、ベイル様!!……」


 クラジューを治すべくベイルを捜していたラルフェウは、会場の廊下でベイルと合流し、クラジューを降ろした。


 「クラジューさんの治癒、お願いします!」


 「え、えぇ……」


 「ベイル様、彼が死ねば〝死神魂(デケム・メア)〟も消えますよ」


 ラルフェウはやや高圧的にベイルに懇願した。

 土下座ではなく、直角のお辞儀だった。


 「それは困るな……はぁ……何でこんな奴の治癒を……〝治癒空間(ヒール・サークル)〟」


 ベイルは何だかんだ言うも、ドーム状の半透明で、黄緑色を帯びた空間を指を鳴らして発生させ、クラジューと、ついでに空間内にいたラルフェウを数秒で完治させた。


 「……僕まで……ありがとうございます!!!」


 「お前はなんか入っちゃってたからおまけだけどな」


 「……ゾーネ……ゾーネ!!!」


 傷が癒えると、クラジューはすぐに目を覚まし、ゾーネの名前を呼びながら立ち上がった。


 「おい、勝ったし治したんだからヴェルジイモ全部俺のだぞ」


 「ああ……ゾーネ……」


 空気の読めないベイルの問いに、クラジューは耳を貸さず気の抜けた返事で返した。


 「あっそう良いんだへ~……で、今どーゆー状況?」


 「僕にも何がなんだか……」




   ※ ※ ※ ※ ※




 するとリアがゾーネの元に辿り着き、ラルフェウとの闘いの最中に壊れた剣の代わりに、道中拾った剣でゾーネの左腕を迷い無く斬り落とした。


 「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス…れへへへへ……」


 しかし、傷口から滝のように血が溢れ出すも、ゾーネは顔色を変えること無く、リアを凝視した。


 「排除スル、全テハ楽園ノタメニ」

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