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Past Letter  作者: 東師越
第2章 Always "Sadness" in their hearts
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第32話 ベイルVSクラジュー2

 ベイルとクラジューは、並々ならぬ緊張感を抱きながら、ほぼ空席の観客席が包み込む会場の立ち位置へと向かっていった。


 残った観客は、あのフレディとスデイルを一瞬で倒した2人の闘いを見てみたいという、ミーハーではない、本物の大会を見に来た人々だ。


 「ものすごい減ったな……はぁ……それより、この組み合わせ……大騒動確定演出じゃないですか……」


 ラルフェウは再びため息をつき、無事にコロシアムが終わる希望を放棄して生暖かい目で見始めた。


 (クラジューの成長速度が思ったより速いな……まあそれでも、クソ遅いんだが……今だと呪力使ってもまあまあいい試合になるか?)


 (こんなに早く再戦とはな……武器無しだが、存分に闘う)


 「それでは試合開始!」


 開始の合図と同時に、クラジューは真正面からベイルに突っ込み、右拳を振りかぶりベイルの顔面向けて殴りかかる。


 「っと……」


 ベイルは余裕の笑みを見せながら、左腕でクラジューの右拳をガードした。


 「はああ!!」


 クラジューは四肢を駆使して連続で攻撃を繰り広げるも、ベイルはかわし、防ぎ、スキを突いてクラジューのみぞおちに右足のつま先を食い込ますように蹴った。


 「がっ……」


 「おらよっ!と」


 怯んだクラジューの顔面をベイルは左足で回し跳び蹴りで蹴り飛ばし、クラジューは壁に激しく激突した。


 「あ~痛って~、けどまあこんなもんか」


 ベイルはクラジューの攻撃を受けた腕や脚を少し気にしていた。


 クラジューはすぐに立ち上がり、体中に取り付けていたおもりの内両足に取り付けていたおもりを取り外し、少しジャンプをしてストレッチをし出す。


 「次行くぞ」


 「来い」


 クラジューはもう一段階スピードを上げ、ベイルの懐に即座に入り込み右拳を今度はベイルのみぞおちに殴り上げた。


 「ぶあっ……」


 吹っ飛ばされたベイルは、背後の誰もいない客席に激しく激突した。

 辺りには亀裂が生じ、轟音と共にその威力を物語った。


 「……え……え……」


 既に実況と観客は状況に追いつけていない、ここまでの動きは全て見えていないのだから。

 飛び出しそうな目で、おおよそ言葉とはほど遠い声を無意識に出すだけだった。


 「ちぃ……まだまだだ」


 ベイルは立ち上がると同時にクラジューに真正面から突っ込み、ベイルの左拳とクラジューの右拳がぶつかり合い、会場全体に凄まじい衝撃が走った。


 「おおおおお!!!」


 「おおおおお!!!」


 互角に渡り合う2人はその後も絶え間なく攻撃を打ち合い、一歩たりとも譲ること無く、気が付けば均衡状態が10分を超していた。


 キリが無いとみたお互いは一旦間を取り、動きを見合い始める。


 クラジューが息を切らし始める中、ベイルは一切呼吸は乱していなかった。


 (どちらかといえばクラジューさんが押しているけど、すぐにベイル様が形勢をひっくり返すでしょう……このまま穏便に事が進めば幸いだと思ってた時が僕にもあったなー)


 ラルフェウは観客席で唯一冷静に試合を見ていたが、他は誰も思考が止まりかけている。

 この時点で既にコロシアムのルールなんかは意味をなしていない。


 「おいクラジュー、雷使わねぇのか?」


 「はぁ……はぁ……いいのかよ、すぐ終わっちまうだろ……」


 両者は共に笑みを浮かべている、この闘いを楽しんでいる証拠だ。


 「なら、後悔すんじゃねぇぞ」


 クラジューはベイルの望み通り、槌を使わずに雷との共鳴を始めた。


 体に火花のような電気が散りだし、気が付くとベイルの背後に回っている。


 「っ……速っ……」


 「はああっ!!」


 クラジューは後頭部目掛けて右拳を振り上げたが、ベイルはかろうじて体を振り向かせ、顔の前で両腕をクロスし、何とか防ぐも、後ろ数メートルを足で擦って下がった。


 「〝静寂の雷霆(サイレント・サンダー)〟」


 ベイルが踏みとどまった位置に、クラジューは即座に無音の稲妻を落とした。

 稲妻はベイルに直撃し、動きを鈍らせた。


 「っぐ……う……」


 「お前も、呪力ちゃんと使え」


 クラジューはその場に立ったまま、右腕をベイルの方に伸ばし、右手の平を見せ、体中にみなぎる雷のエネルギーを右手の平に一点集中させた。


 「〝雷光放閃(イカズチ)〟」


 雷のエネルギーはベイルに向かって、まるで落雷が平行になったかのような威力の光線を放った。


 ベイルに直撃したクラジューの攻撃は、爆発を起こし、ベイルの後ろの会場や観客席を大破させた。


 「クラジューさん……何故そうなる……分かってたけど……」


 「ちっ……かわされた……」


 ベイルの背後が甚大な被害に見舞われているという事は、ベイルに直撃しなかった事を意味している。




   ※ ※ ※ ※ ※




 「っ!!……いまのおと……なに……」


 爆発音を聞いた控え室のゾーネは、クラジューの事が心配になり、控え室を出て、入場口手前で試合の様子を見始めた。




   ※ ※ ※ ※ ※




 砂埃が大量に舞い、視界が遮られているクラジューの前から、クラジューの方に向かって歩くベイルの影が見えた。


 「今の結構よかったな~、かっこいいから俺にも教えてちょ」


 「実際に出来そうだから恐ろしいんだよ」


 既にベイルの回りには、数十のクラジューが繰り出す〝雷球(サンダー・コア)〟によって取り囲まれ、簡単には動けなくなっていた。


 「呪力はちゃんと使ってんだろ、お前にギリギリ負けない程度に」


 「はっ、やっぱり舐めてんな」


 「ギリギリ負けない程度だ、負けの方がずっと可能性がある……そん中で俺は、勝利をもぎ取る……ギリギリの勝負を楽しんでる……だからもっと殺す気で来い……殺すぞ」


 「そりゃこっちのセリフだな!!……〝連鎖雷波(チェイン・サンダー)〟!!」


 クラジューは〝雷球(サンダー・コア)〟の1つをベイルに近付け電撃波を放とうとするも、ベイルは〝雷球(サンダー・コア)〟が追いつけない速度で包囲網から脱出した。


 「同じ技は二度とくらわねぇ」


 「言ってろ」


 (クラジューさんのオーラは、不利になれぱなるほど強く大きく濃くなっている……全くブレないベイル様と違って不安定だけど、逆境に強いのは大きな武器だ……


 けどそれだけではベイル様は誰かに強いなんて言わない……僕には見えない素質が、本当にあるんでしょうか……実際、クラジューさんだけではなく、ベイル様まで楽しそうに笑っているなんて、今までじゃあり得ない……)


 実際ベイルは呪力を駆使して身体を強化し、クラジューと互角に渡り合う状態となっているが、クラジューはここまで一切呪力を使っていない。


 それどころか、一行と行動を共にしてから一度もその呪力を明るみに出したことは無い。

 そのことにはベイルも気付いていた。


 「……おいクラジュー、重り全部外せよ」


 「はぁ……はぁ……は?」


 「なんなら呪力使ってもいいぞー」


 「どういうことだ」


 ベイルはその場で、屈伸や伸脚などのストレッチを始めた。


 「ストレスなんだよ、アリシアは死なせないお前らも死なせない俺は退屈、何で俺がお前ら守んねぇといけねぇんだか……」


 「……勝手にストレス溜めて勝手にその道具にされて、俺が弱いってか?」


 「そもそもこういう状況になったのも俺が弱いからだ」


 「何なんだよ」


 「だからせめて、退屈しのぎの相手になれ」


 ベイルはストレッチを終え、今までとは比較にならない程の強大なオーラを放った。


 正しくは大きさや強さはそれほどではないが、オーラの本質を見極められる者にしか見えない底なし沼のような


 クラジューは瞳孔を開き、今一度ベイルがどれほど遠い存在なのかを再認識して、俯いた。


 「……俺は呪力は使わない」


 「何のプライドだよ、呪力使わずに勝つことが美徳なんて古臭ぇな~」


 「俺が呪力を使えば、今までの俺の努力を否定する事になる……俺には、その否定を受け入れる覚悟も、否定をはねのける強さも無い……だから、意地でも使わねぇ」


 「知るかバカ、使え」


 「……聞いてなかったのか」


 「今はこんな低レベルなお遊びバトルだからそんな腑抜けな事が言えるけどな……ガチの死闘でんなプライドは邪魔だ、その半人前の意地がお前を殺すぞ」


 「……何だと」


 「経験者から言わせてもらう……自分のためにしか戦ったことのねぇ奴は、絶対に強くなれねぇ」


 「……」


 「偽善だろうが達成感得るためだろうが、何でもいい……自分以外の誰かのために戦ってみろ……お前が目指す場所は、その先にしかねぇ」




 「クラジューくん!!!」




 クラジューの両耳に響いたゾーネの一声は、俯き地面とにらめっこをする自身が前を向き、真剣な眼差しを注ぐベイルと向き合わせた。


 「ゾーネ……」


 クラジューは振り向き、歯を見せニカッと笑いピースサインを向けるゾーネを見た。

 その瞬間、肩の力が抜け、緊張が解れ、リラックスした状態となった。


 「がんばれー!!!」


 「いや、なんかドラマチックになってるけどそうじゃないから」


 「……ゾーネがそうさせてくれるんなら……俺は果てしなく強くなれそうだな」


 ベイルがクラジューに送った言葉、全てクラジューのためだった、クラジューが強くなるための言葉だった。


 「……呪力使ったらすぐ終わるぞ」


 「いいね~それくらいがいい」


 「───」


 するとクラジューは目を青く光らせベイルを見た。


 (……なるほど)


 ベイルは自分の意識とは関係なく、操られるように瞼を閉ざした。


 (何も見えない、何も聞こえない、体が動かない、気配感覚ゼロ、全くの暗闇……いいね~)


 「〝事後想定(ロスト・エスケープロード)〟」


 クラジューは右手の平をベイルに向け、火花程度の雷をベイルの額に当てる。


 (……へ~、怖っ)


 ベイルの脳内にはクラジューによって無惨に殺される自分自身のイメージが数万よぎった。

 クラジューは重りを全て外し、全身に霊力を含んだ雷を纏い、ベイルの元に歩み寄る。


 「……あー……実況するのも面倒くさい……これ絶対私のキャリアの黒歴史だわー」


 (マイク越しに何言ってんだあの人……)


 ラルフェウはフェイの方を向いてそう頭の中で思った。

 観客達もまた、目の前の出来事は全て夢だと自分に思い込ませて観ていた。




 「……死ね」


 クラジューは動かないベイルに向かって人差し指を振りかぶり、心臓を貫き、全身に数億ボルトの電気を流し込んだ。


 「〝雷爆霆波(サンダーボルト・バースト)〟」


 すると会場全体に雷の波が押し寄せ、会場にいた観客達はもれなく気絶し、周辺を警備していた兵達も全員気絶した。


 上空にも雷の波が押し寄せ、会場の外からでも見えるほどだった。地面もかなり揺れ、その後遅れて会場全体に轟音と衝撃波が押し寄せた。


 「こ……これは……」


 ラルフェウは両腕で顔を隠し、衝撃が収まり、煙が晴れ、ベイルとクラジューを見ると、クラジューはその場で両手膝を地面について過呼吸気味になり、ベイルは跡形もなく肉片が飛び散っていた。


 「……クラジューさん、今のが全力なら───相当弱いですよ……」


 するとベイルの肉片の一つが僅かに動き、直後その肉片はあっという間にベイルの元の姿に戻っていた。


 「……はぁ、はぁ、はぁ……」


 「おいおい真っ裸になっちまったじゃねぇか……まあいいか、さっき見た巨人族専門の服のとこにおんなじような服あったから盗ってこよ~っと、よっ」


 そう言ってベイルはクラジューを蹴り飛ばし、クラジューは観客席に吹っ飛ばされめり込み、悔しげに歯を食いしばりつつ気絶した。


 「ま、バカみてぇなプライド一瞬でも捨てられたんなら、一歩前進だな」


 (にしても、呪力が自分の膂力と天と地ほど差があるって……もしかしたら俺を越えてくるな……)




   ※ ※ ※ ※ ※




 「クラジューくん!!!」


 「生きてるだろあいつ」


 ドグラはゾーネを追って入場口手前に足を運び、ゾーネに声をかけた。


 「そ~かな~……クラジューくん……」


 「気絶してるだけだから、な?」


 「……でもぉ……」


 (うわ~目うるうるさせてんのマジ天使~チューして~……もう一回トイレ行くか)


 ドグラは膨らむ股間の辺りをゾーネに見せつけながらおもむろにトイレに向かって走り去った。

 ゾーネはクラジューが心配で全く見ていない。




   ※ ※ ※ ※ ※




 同じ頃、リアとランスは街の方からコロシアムを見ていた。


 「……今の雷は……一体……」


 「……あは……は……」


 「リア?…っ!!」


 ランスがリアの顔を伺うと、リアは不気味なくらい目を見開きニタリと笑みを浮かべ、よだれが垂れても口を開け、奇声に等しい笑い声を発していた。


 「……マズい、リア!!!落ち着け!!!」


 「ああぁぁぁああはははぁ~あは~」


 (今の雷の音がトリガーか!?今日はかなり精神が不安定だ……)




 「───コロス……」

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