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Past Letter  作者: 東師越
第10章 A Declaration of "NEW AGE"
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第307話 破れぬ殻

「最高神?」


「バカでけぇ野望だ、笑ってくれ、笑われた方が野望はデカくなり目指し甲斐が出てくる」


「……お前は何を言っている、神はこの世に(・・・・・・)四柱しか(・・・・)存在しない(・・・・・)だろう」


「…………そうか、お前はまだそのレベルにいないのか」


 瞬間、ガービウはホーウェンに失望の眼差しを向けて小さくため息をつく。


 最高神。


 この世には一般的に四柱の神の存在が知れ渡り、どの宗教でもその四柱がこの世の起源とされている。


 それ以上の存在はこの世に在らず、まして最高神など誰も聞いたことすら無い単語なのだ。


「なら〝神証(パスト・レター)〟も知らないな」


「さっきから何が言いたい」


「おいおいおいおい、このままだと俺はただの妄言野郎みてぇじゃねぇか、あの強さがあるんだから人知れずこっち側に来てると思ってたのにとんだ空振りだ、がっかりだよ」


 ガービウがそう言っている最中にルシーの親指がピクリと動き、それを見逃さなかったガービウはルシーの背後の地面を隆起させてルシーの背中を突き刺して貫く。


「っ……貴様!!」


「期待外れもいいトコだ、殺す気も失せた」


 痺れを切らしたホーウェンは、さっきと同様に心臓を突き刺そうと剣を突き出す。


 全く同じ速度、全く同じ姿勢、全く同じ威力での攻撃だったのだが、ガービウは全く動じずに素手で剣の刃を掴んで止める。


「どうせならお前の本気を叩きのめしてぇなぁ」


「望みとあらば」


 ホーウェンは目の前の怪物と間を取り、誰もが視認出来るほどに色濃いエネルギーを全身から放ち、周囲の空気を大きく震わせる。


 弱肉強食の社会に身を置く者は必須とされる最初の身体強化〝エグゼル化〟だが、敵の実力の数値化された闘値が見える以外だと強者を前にすればこれはほぼ使用しない。


 しかし混血となれば、これが〝零域(ゾーン)〟にも勝る強大なパワーアップを図る事が出来る。


 名を〝ディアボロ化〟、自然族ミズの一族と龍人族との混血のホーウェンはこれを解放したが、それだけでは終わらない。


 かつてあの〝狂犬〟ハロドック・グラエルに奥の手を使わせるほど追い詰めた、ハロドックの実子のルナにその方法を教えたのはホーウェンである。


 本家本元のホーウェンは〝零域(ゾーン)〟以上の生命エネルギーを引き出す〝無域(エル・ゾーン)〟を、〝ディアボロ化〟と同時に使用する。


 消耗は計り知れないが、同じく力の底も計り知れない賭けに出たホーウェンは、〝王醒(レックス)〟状態のアインをも超える力を引き出してみせた。


「行くぞ」


 さっきまでとは比べ物にならない速度で、比べ物にならない威力の剣閃が〝魔神〟の首目掛けて瞬く。


 8割の力で再度刃をつまもうと指を構えたガービウだが、刹那に受け止めきれないと察して直角に腰を反って回避した。


「中途半端なのが1番ムカつくな」


 反った反動を駆使してホーウェンに頭突きを食らわせ、柔軟に体を動かして足を蹴り転かそうとするもホーウェンは微塵も動かない。


 ガービウの言葉の意図が分からないホーウェンは一旦その事を脳の隅に置き、真下のガービウを突こうとするが全て紙一重で回避される。


 起き上がるのと並行して雷を纏った右脚で顎を狙うも、瞬時に出現させた水の結界で蹴りを防ぎ雷も無効化した。


 次にガービウは瞬間移動を駆使してホーウェンに迫るが、ホーウェンは皆無に等しいほんの僅かな気配を読んでガービウの攻撃を回避し防ぐ。


「お前は殻を破り切れていない」


 反撃に出ようと試みるも、予測を遥かに上回るスピードでガービウが手を出すためにモーションに移れない。


 そこでようやくガービウの動きを予測して自身が動いているのではなく、自身が予測出来るであろう動きにガービウが調整しているのだと知る。


 舐められ遊ばれている事に怒りを感じるが、冷静さを失えばそれこそガービウの思うツボのため呼吸を1度整えた。


「何故お前は〝人狼〟である事を捨てたんだ」


 その一言に、意志が揺れる。


 ホーウェンの地雷を踏みしめるガービウは対峙して以降1度も笑みを見せず、ホーウェンの何かを求めて触れられざる禁忌に土足で上がろうとしていた。


「それだけ〝英雄〟の死は悲劇的だったか、ならばコーゴーはお前が逃げるための手段でしか無いのか?」


「違う!!!!」


 ホーウェンの剣とガービウの拳が交じり、衝撃波が花畑の空間の隅々まで響き渡る。


 怒りをぶつけるように刃で強く叩くホーウェンに対し辟易とするガービウは、目前の戦士がそうなる理由知っている様子だった。


「全ては知らねぇよ、風の噂とハロドックの滑った口が俺の持つ情報だ、大した情報量でなくても俺には分かる」


「黙れ……その口でマナクリナを穢すな!!」


「穢すのはてめぇだヘナチョコ、てめぇで破れねぇなら俺が勝手にぶち壊してやるよそのくだらねぇプライドをよォ!!!」




   ※ ※ ※ ※ ※




「あれ」


「シ、シキシマ様! ゼルク様!」


 神樹林中で激しい戦闘が繰り広げられている中、部屋でオレンジジュースを飲みながら一服していたミルとサンザは、本部内を下っていた道中でシキシマとゼルクとバッタリ出会った。


「おう、見なかったけど何してたんだ?」


「そ、それは、その……」


「オレンジジュース飲んでた」


「正直に言うなよ!」


「まあ……褒められたモンじゃねぇけど、強敵退けたんだからチャラでいい」


「ほっ……それより、ガービウ・セトロイはどこに」


 4人は話しながら階段を駆け上り、ガービウとホーウェンが戦闘中の部屋の真下の部屋に辿り着いた。


 ミルとサンザが下る際にも通ったが、ここからは誰の気配も感じなかったためスルーした場所だ。


 先に階段がある扉を開けようにも微動だにせず、鍵穴なども無いことから神樹の力によるモノと思われる。


「はぁ、はぁ……ダメです、ビクともしません……」


「定員オーバーだな、4人までしか入れねぇ」


「そうなんですか、でも大丈夫でしょうか……セロナ様もロギウス様も、アイン様まで、そんな化け物に……俺達は勝てますか?」


「無理」


 水を差したのは、服の中に忍ばせていたオレンジジュースを飲むミルだった。


「な、お前、何て事言うんだよ!!」


「無理だから無理って言った」


「何を根拠に!!」


「運命力」


「またそれかよ……この前運命は絶対じゃないって言ってただろ!?」


「それでも、この場に現れただけでコーゴー本部全員分の運命を飲み込める運命力に、誰も覆せることは出来ない」


 視線がどこに向いているかよく分からないミルの言葉は何故か信憑性が高く聞こえ、サンザはそれ以上返す言葉を見つけられない。


「このままだと99.99パーセント、コーゴー本部は全滅する」


「てことは、0.001パーセント抗える手はあるんだな」


 シキシマは簡単に言うが、容易なことでは無い事を理解していない訳では無い。


「多分鍵を握るのはシキシマ……うん、シキシマだけが唯一ガービウ・セトロイの運命力に対抗出来る」


「そりゃいい、皆には……特にホーウェンには悪いが、俺は私情で奴と闘わねぇといけねぇんだ」


「……それは、どういう」


「そん時はサポート頼めるか、お前ら」


 サンザの言葉を遮るように皆に問うシキシマに、ゼルクとミルは何も言わずに黙って頷く。


 同時に、この戦いに終止符が打たれる瞬間がすぐそこまで迫っていることを、静かに知らせていた。

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