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Past Letter  作者: 東師越
第1章 〝死神〟と呼ばれる男
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第2話 再び

「お名前は言えますか?」


「……えっと……」


 長身で整った顔、黒い髪に瞳に服装と黒づくしの優男は少女の顔に顔を近付け、落ち着いた声音で問いかける。




(──お前は今日からアリシア・クルエルだ)




 少女は逃げ出す直前、素性を全く知らない男に言われた言葉を思い出して男に返答する。


 そういえばその男もこの優男と同じく、上から下まで黒づくしだった。


「……アリシア……クルエル、です……」


 素性は知らないが、この少女──アリシアにとっては大きな願いを叶えてくれた大恩人なのだ。


「……ベイル様……」


 男はアリシアの名前を聞いた瞬間、やっぱりそうだったかと思いやや落ち着いた表情を見せ、テーブルでひたすらよく分からない〝物体X〟的なものをガツガツと食らっていた少年姿の男の方を振り向き目を合わせた。


「ん? え? 聞いてなかった、何?」


「彼女です……名前は、アリシア・クルエルだと」


 何があっても止まらなさそうな食べる手が止まる。


 青年にも少年にも、アリシア・クルエルという名に何かしらの意味を見出していた。


「……じゃあ持ってるな──〝ホシノキズナ〟」


 黒い髪に赤の瞳、身長150センチ近くの矮躯だが痩躯ではない肉体を持ち、背中に刀を背負う少年はそう口ずさむ。


 もはや食べ物というのは食べ物に対する冒涜とも思える〝物体X〟を貪るように完食した少年は、一息つくと。


「……ほし……何ですか?」「つーかラルフェウ何だこの飯は……見た目ゴミで味はいいってどういうことだよ」


「申し訳ありません!!」


 言葉が被ったせいで少年はアリシアの言葉を素で聞き逃し、青年は少年に向かって素早くそれは見事な土下座をした。


「美味いから許す!」


「あ……えっと……あ、あの!!」


 アリシアは気付いてもらい会話をするために、大きな声を出して2人を呼びかけた。


「……この家は……あなたたちの家ですか?」


「……変な質問ですね」


 青年は少し呆れた様子でアリシアに言葉を返した。


「す、すみません……何から聞けばいいのか分からなくて……」


「まあ違うけどな」


 少年は割り込むように会話に入り即返答した。


「違うんですか……」


「ただの空き家だしな~」


 そして会話は途切れ、情報があまりに足りないアリシアは色々と聞き出したいと口を開く。


「……助けてくれて、ありがとうございます……」


「いえそんな……僕はラルフェウ・ロマノフといいます、そして彼は」


 するとアリシアを追っていた兵士が青年──ラルフェウの会話を遮るように、3人のいる小屋の扉をノックもせずにバン! と蹴り開けた。


「ノックしろよ」


「俺はルブラーンの兵だ、ここに金髪で目の青い少女が来なかったか?」


 ラルフェウが上手く兵士とアリシアとの位置の対角線に立ち、アリシアは兵士に見られる事無くすぐに布団の中に隠れた。



「いますよ、そのベッドの中に」



「えっ……」


 少年の言葉を聞いたアリシアが困惑を示したと同時に、兵士は布団を剥ぎ取り、アリシアの左腕を掴んで外へ引っ張り出した。


「協力感謝する、あとで報酬を支払うから一緒に来てくれ」


「あざーっす」


 兵士が敬礼をすると、少年も若干ふざけ気味に敬礼をした。


「よろしいのですか?」


「んだってぇ~兵士さん怖いんだもぉ~ん」


「は、はあ……」


 少年の意図が読めずに頭を抱えるラルフェウだったが、少年の行動には必ず理由があると信じているため、今現在でアリシアの手助けはしない。


「嫌っ、放して……放してください!! 私は戻らない!!」


 アリシアは兵士の手から腕を引っこ抜こうとしたり引き剥がそうと抵抗するも、兵士の右手の強力な握力の前には、その足掻きは無力だった。


「いいえ戻りましょう、王は今なら許してくれると仰っています」


「とんだ災難だな~アリシア」


 少年は頭の後ろで手を組み、ラルフェウと共にアリシアを引っ張り歩く兵士の後ろを歩いていく。


「……あなたたちなら……助けてくれると……思っていました……」


 言葉の後に俯いた顔を上げ、憎しみにも近い失望の眼差しを2人に向けるアリシア。


「馬鹿だな~世の中そんなに甘くねぇよ~」


 ついさっき助けてくれた彼らなら頼れるかもしれない、自分を守ってくれるかもしれない、そんな稚拙で淡い希望が打ち砕かれた瞬間だった。


「……そんな……」


 「ま、助けてくださ~いって言われたら多少考えたかもしれねぇけどな、無償でどうこうする馬鹿じゃないもんで」




 アリシアは知らなかった。


 世の中は皆が皆、手と手を取り合い共に生きる優しい世界だと……自分が求めなくても人は善意で動いてくれると、勘違いをしていた。


 少年は善意を求めるアリシアの思い込みを否定した。この世界はそう甘くないと気付かせるきっかけを与えた。


 おかげでアリシアは吹っ切れたかのように、無条件では差し伸べられない手を求めて口を開く。


 この世界が善意に満ちていなくとも、希望はあると信じて。




「……助けて」


「え?」


 助走のように口ずさんだ後に大きく息を吸い、耳に手を当てるベイルに言い逃れが出来ないくらい、腹の底から同じ言葉を発した。




「──助けて!!!! 助けて!!!!!」




 アリシアは涙ぐみながら2人に大声で訴えた。


 思いの丈をその言葉に込めて、2人の目を見て必死に訴えた。


 全てが上手くはいかない、思ったようにいかない事ばかり、それでも生きるために抗うと決意した。


 思いは、真っ直ぐに届く──


「しょーがねぇな~、ラルフェウ」


「はい」


 瞬間、ラルフェウは前触れもなく消えるようにその場を離れ、アリシアを抱きかかえて元の位置に立った。


「……え……」


「すみません、回りくどくて」


 兵士は今目の前で起こった状況が理解出来ず、額から冷や汗をかき、開いた口が閉じなかった。


「何だと……」


「楽勝楽勝~」


 一切崩さない少年の余裕な姿勢が癪に障ったのか、兵士の表情はあっさりと驚きから怒りへと移行した。


「……貴様ら、これは王への反逆罪だぞ……」


 そう言って兵士は剣を抜き少年の顔に向けた。


 熟練度を感じる見事な姿勢で殺意を少年に向けたが、手は下ろすもやはり余裕は見せ続ける。


「この場で叩っ切る!!!」


「どうぞ?」


 兵士は耳穴をほじくりあくびをする少年の右側の首元へ、迷い無く剣を振り下ろした。




 ──が、その瞬間剣は真っ二つに折れた。




「……な……っ!?」


 確かに剣は首に当たった、確実に殺すために頚動脈を狙った。


 つまり生身の少年の方が、鉄製の剣より硬さで勝ったという事実を認めざるを得ない。


「もういい?」


 怠そうな口調の少年は硬直した兵士のスキを突き、ダッ!! と踏み出して勢いをつけて右足をみぞおちにぶち込んだ。


「ぐあああッ!!??」


 少年の蹴りの威力は武装した兵士の肉体に響き、何本かの肋骨が折られながら吹っ飛ばされ、地面に背中や後頭部を強く打って気を失った。




「……すごい……」


 アリシアは少年のした行動を全く理解出来ていないが、やってみせた行動のすごさは十分に分かっていた。


「さすがベイル様です!!」


 背負っている刀は一切使わずに兵士を倒した少年──ベイルは、得意げに笑いながらアリシアの前に立つ。


「俺に感謝しなさいアリシア」




 嬉しかった。たまらなく嬉しかった。


 この世界はきっと自分が思うよりも優しくなんてない、希望と同時に絶望は必ず存在し、どうしようもなく苦しむ時だってあるかもしれない。


 でも今、世間知らずアリシアは触れてしまった。


 人の愚かさを上書きするほどの、人の優しさを。


 この瞬間、アリシアは生まれて初めて笑い、生まれて初めて嬉し涙を流した。




「……ありがとう……ベイル」




「急にタメ!? まあいいけど……」


「年下かと思って」


「上に決まってんだろ」


 ラルフェウに脇で挟むように担がれたアリシアは、ふと現状の恥ずかしさに突然苛まれ手足を軽くジタバタさせる。


「……あの……もう下ろしても大丈夫ですよ」


「ベイル様にタメなら、僕にもタメでお願いします! 間違ってもベイル様より上になるわけにはいきませんので!!」


 そう言いながらラルフェウはアリシアを下ろし、アリシアの両肩を両手の平で掴み、真剣な眼差しを向けた。


 可能な限りベイルより上に置かれるのを拒む姿は、ラルフェウの気持ちが本音であることをアリシアにも理解出来た。


「え……じゃあ……キューちゃん」


「何故ですか!?」


 アリシアは目をそらして少し恥じらうように顔を赤らめながら、どこから出てきたかも分からない衝撃のニックネームをラルフェウに付けた。


「……私の好きな本に出てくる救世主が、親しみを込めてそう呼ばれていたので……」


「だとよキューちゃん」


 ラルフェウは早速ベイルに鼻で笑われながら呼ばれた。


「……あまりにも呼ばれ慣れていないので……少し戸惑いが……」


「んじゃそろそろ出発するか」


「……はい」


 3人は空き家を出て、10メートル以上の落差はありそうな崖に向かう。


 その崖の下には、巨大な車輪が前後方合わせて12輪付いた巨大な帆船が佇んでいた。


「……何で……陸に船が……」


「よっと」


「乗りますよ」


「え、ちょっ!?」


 ベイルは飛び降りて船に乗り、ラルフェウは再びアリシアを抱きかかえて飛び降りて乗り込んだ。


「っ……身軽なんだね……2人とも……」


「そういうんじゃねぇけどな」


「この船は水陸両用で、魔力が燃料なので僕が乗れば自動で動きます」


「街行こうぜ街、腹減った~」


 既にベイルの腹から腹の虫が、断末魔くらいの大きさと長さで泣いていた。


「さっき食べてたんじゃ……」


「行きましょう!!」


 ラルフェウは一切拒む様子を見せず、船に体内の魔力を流し込みながら答えた。

 すると船は小刻みに振動し、前方へと進み出す。


 かくして3人を乗せた船は動き出し、壮大な冒険が始まった──







「てかアリシア、濡れてるし臭ぇから風呂入れ」


「え」


「ベイル様、さすがにデリカシーが無いかと……」

ベイル・ペプガール

性別 男 種族 ?? 年齢 ?? 呪力 ??

身長152センチ 体重56キロ 誕生日 知らないらしいので不明


 本作の主人公。性欲が無いに等しいため、基本的に二大欲求に忠実に日々を送っている。

 刀はとある理由があるため使わない、ていうか使えない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] とりあえずここまで読みました。 世界観が作り込まれていて、これは大作だなぁという感想です。 [気になる点] 二ページ35段落目?の文がちょっと意味がわかりませんでした。  どんな植物…
2021/09/28 22:42 退会済み
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[良い点] 世界の成り立ちが書かれていて良い!と思いました。 ベイルのあの感じ、いいです!! ブックマークしちゃいました。 [一言] 私の作品も読んでくださると嬉しいです。
[良い点] ベイル・・・・おま、かっけぇよ。。 強さを表現し、キャラクターの性格も丁寧に書かれ、終始かっけぇ!!と思いました。 [気になる点] 男は怒りに満ち満ちた表情を俯き浮かべている。 この文だけ…
2020/04/15 02:21 退会済み
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