第22話 花畑の少女
2ー2 ミズの少女
同じ日、キスイウ島、兵団支部をルナがほんの数人を乗せた船で港に停まり訪れ、ドグラ達支部の兵士達は港でルナ達を迎えた。
「何しに来たんですか?」
「歓迎の挨拶がそれか……」
「どうしますか?支部長室でコーヒーでも嗜みますか?あいにく酒しか無いですが」
「……やはりジェノサイドからの使者だと常識が無いのか」
「それどこ情報っすか?」
「どこでもいいだろ」
「はいはいコーゴーですね、最下位とはいえ特等ですからねー人間なのに……いや、人間も混じってるかな~?」
「……それより、今王女のいる場所は分かるか?」
「知らねぇよ、さっきからティニフィア島からの連絡来ないし」
「その他の支部は」
「いや~不審な船は無いって言ってるから、まだ有人島には入って無いってことでしょう、そもそも、そんなに無用心なアホ共なら、マラクどのが簡単に死ぬ訳無いものね~」
「……何故お前がマラクを知っている」
「諜報機関が優秀なのはコーゴーだけじゃないって事だよ」
「……終わった事だ……まだここからすぐだな、船を出す」
ルナは乗ってきた船に付いているボートに乗り、2人の連れを連れてアンビティオ号の気配へと向かっていった。ルナは胸ポケットの方を少し見た。
※ ※ ※ ※ ※
ルナはルブラーンを出発する直前、王から直接小さな小さな機械を手渡された。
「……何ですかこれ」
「奴の髪の毛に付けといて、変色カモフラージュ出来るし、付いてて違和感を全く感じなくもしている」
「……分かりました」
※ ※ ※ ※ ※
翌日、昼頃、アンビティオ号内では……。
「~♪」
ゾーネはベッドの上でクラジューを膝枕し、頭を優しく撫でながら子守唄のような歌を鼻歌で歌っていた。
「……あ……ゾーネ……って!膝枕!?……また……」
「おはよ~クラジューくん♪」
「お、おう!もう朝か!今日は曇ってんな~!雨は降らなさそうだが…」
クラジューはわざわざ変な空気を呼び起こしそうな言葉を吐きながら慌てて起き上がり、ゾーネと向かい合ってベッドに正座で座った。
「いっぱいねたね~♪」
「……ずっと……ついててくれたのか?」
「うん~♪でも~ちょっとあしがしびれちゃった♪」
ゾーネはそう言って、クラジューを挟むみたく両脇に足を伸ばしてくつろぎだした。
露出された、大人の色気が醸し出されたゾーネの太ももを見て、それを枕にしていたと考えるとそれだけでこのヘタレ童貞の心臓は鼓動を速めた。
「……ありがとな……」
「いえいえ~♪」
「俺は霊力が少ない上に、使える妖術がもれなく霊力を大量消費する……治癒の奴とか一、二を争うくらいだ」
「……クラジューくんって、ねがおかわい~ね~♪」
「かっ!?かわ……何言ってんだってうおっ!!」
クラジューの唐突な自分語りを早めに食い止めたゾーネの一言で、クラジューは後頭部から床にずっこけ落ちた。
「だいじょ~ぶ~?」
「ってぇな何でいつもこうなんだよ……」
「いっつもうちがさきにねちゃうから~はじめてみたの~♪」
「……何だよかわいいって……」
「ん~?……ふとももにかおをこすりつけたり~?」
「ぶふっ!!俺そんなことしたのか?……」
ゾーネの口から出た自分の行動を想像した、してしまったクラジューは驚愕のあまり吹き出した。
「あとは~♪」
「も、もういいから!これ以上俺を恥ずか死させんな!!」
「あかくなってるのもかわい~よ~♪」
「う、うるせぇ!!」
※ ※ ※ ※ ※
同じ頃、アリシアが回復し、部屋のベッドの上で目を覚ました。
「アリシア!!」
リドリーは今朝には自然治癒などで傷やダメージを全快して、アリシアのベッドのそばで、アリシアの手を握って見守っていた。
「……リドリーちゃん……あれ…私……お腹の穴は……」
「クラジューさんが治癒を施してくれました」
ラルフェウはアリシアの部屋に入ってそう言った。先ほどまでアリシアの体調や経過を見たり、部屋の掃除をしたり食事を持ってきたり(後半はただのパシり)して、リドリーと共に見守っていた。
「そっか……後でお礼しないと」
「いやするな、そもそもアリシアの大事な体に穴ぶち空けたのあのクソ野郎だから、五分だ」
「え、そうなの?」
「事実らしいですよ、目撃していたベイル様もそうおっしゃっていましたし」
「そう、だから謝らなくてもいい、もしそうしたら、あたしはあいつを殺してアリシアの〝ピー〟を〝ピー〟する」
「ごめん、なんかピーって音で聞こえなかった」
「どこから流れてきたんでしょうか?……ベイル様では無さそうですね」
※ ※ ※ ※ ※
そのベイルは今、ラルフェウとレオキスの揚げてきた大量の魚を、レオキスが調理した魚料理を甲板で、新鮮なまま食べていた。
「美味ぇ!!もれなく美味ぇ!!」
「あざっす!」
「俺もうしばらく肉とかいいわ~」
「そうっすか、まあ海だと魚の方が手に入りやすいっすしね」
「生魚がここまで美味ぇとは……あ?」
「どうしたんすか?」
「……無人島だよなあれ」
ベイルは、船の進行方向を前にすると左手側から見えてくる、見えている小さく比較的緩やかな傾斜の森が覆う島を指差した。
「……でも1人だけいるっすね、誰っすかね……」
「……ラルフェウ」
「はい」
「今どこから出てきたんすか?」
「いつもの〝瞬間移動〟ですけど?」
「ホントに全く見えなくて分からないっすね~……」
「あの島に停めろ」
「かしこまりました」
ラルフェウは少し方向転換し、その無人島に停まり、ベイルとラルフェウが島に上陸した。
「ここに何か用なんすか?」
「分かりません、ですので2人で確かめに行きます」
「了解っす……気を付けるっすよ」
「?……はい……」
ラルフェウには、レオキスの言った言葉の必要性が分からなかった。レオキスも自分と同じ気配を察知しているなら、気を付ける、なんて言葉は出てこないはずだと思ったからだ。
ただの挨拶とはいえ、ラルフェウからすれば気を付ける程のものでもない気配……レオキスは優しいが心配しすぎだ、と、この時点ではラルフェウはそう結論づけた。
「……本当に1人だけ、しかもかなり大きな気配ですね……」
「頂上だな、行くか」
「しかしベイル様、何故そこまで気になられるのですか?確かに大きな気配ですがクラジューさんと遜色ない程度ですよ?」
「……じゃあ何か結界張ってんな、俺は分かる……クラジューと同格なら、ここまで気配変に捻らせられっかよ」
ベイルの言葉もよく分からなかった。何ら変わらない、敵意も無ければ影響も及ぼさない、人の発する気配なのに、捻らせる、という表現は必要なく思えた。
もしかすると、ベイルとレオキスには見えていて、自分だけは見えていない何かが、気配の中にあるのだろうか、ラルフェウは瞬時にそう結論づけ、それは間違っていない。
ベイルはともかく、何故レオキスには見えたのか、それは今のラルフェウにとってはどうでもいいことだった。
※ ※ ※ ※ ※
ベイルとラルフェウは、無人島にも関わらず、人の手が加わったような、簡単に舗装された幅が、左右の腕を広げた人5人分程ある道を歩き、島の頂上へ歩いていった。
船を停めた場所から道を通れば一本道のため、10分程で頂上付近には辿り着いた。
「もう少しですね……うわっ!?」
するとラルフェウは見えない何かにぶつかり、数メートル吹っ飛ばされた。
「どした?」
「分かりません……何かに吹っ飛ばされました……これがベイル様の言う結界でしょうか……」
「俺は普通に行けるけど……」
「……僕ここで待っていますので、ベイル様は向かってください」
「ほいほーい」
ベイルは1人頂上に辿り着いた。その頂上には、外からは見えなかったはずの、色とりどりの花々が無数に咲き誇る花畑となっていた。
「……なんじゃここ……」
「春の朝日に、光る刹那の道のりを、君は笑って走り出すのに、僕は、踏み出すことさえ恐れ……」
するとその花畑の中心に、全裸の小さな少女が立っていた。
少女はアカペラで、ベイルの知らない歌を綺麗な歌声で口ずさんでいた。
表情は一切変えず、曇り暗い空を少し見上げ、今にも泣き出しそうな震えた声で、何を想ってかは分からないが、歌っていた。
「暗闇に、なけなしの夢を、語る日々が嫌いで……精一杯、手を伸ばす君を、笑って握れずに僕は……憂いを謳歌する……」
ベイルはその場から動かず、しばし少女の歌声を聞くことにした。
「小さな孤独を、陰りの中で育てていく、朝日が夕日に変わっても、僕はそれを知らぬまま歩く…それでもあなたが、頭に浮かんで離れない、心と心が繋がるなら、どうか僕の夢を飲み干して……」
「暗ぇ歌だなおい」
後方からのベイルの声にややビクッとさせた少女は、振り向き、ベイルの方を見下ろした。少女が立つのは島の頭頂部なので、自然と見下ろす形にはなってしまう。
結界とは干渉しないのか、風で花々は揺れ、少女の髪をなびかせていた。
首元ほどまでの短い透明感のある緑色の髪に海のように澄んだエメラルドグリーンの瞳、ベイルよりも小さな矮躯はさながら幼女の体型だ。
「……何だよ」
少し目からにじみ出している涙を右手で拭い、全裸でいることを恥じらう様子も無く、少女は無表情のままベイルをじーっと見た。
「なんか言えよ気持ち悪ぃ」
「……そう……アナタがベイル・ペプガールなのね……なら、結界と干渉しなかったことも頷ける」
「何で分かるんだよ」
「ワタシの呪力は〝読取〟、生き物の心を読み取ることが出来る」
「そんな簡単に呪力公表しちゃうんだ……てか勝手に読むなよおい」
「アナタは心の壁が無数にあったから、ぱっと見ではあまり情報は見えなかった」
「壁?」
「心を閉ざしている証拠、けど壁の奥は割と容易く見ることが出来る、そのための呪力なのだから…」
「知るかよ、で、読んだのか?」
「……読まない」
「読まねぇのかよ」
「他人の心を知ったところでワタシにどうこうは出来ない、ワタシは読み取るだけで操作は出来ない」
「便利なのか不便なのか……」
「発動した当初は、目に入る生き物の全ての心がワタシの中に流れ込んできて、毎日泣いてた……訳は……色々ありすぎて、混乱したからかな…」
「お前は何者なんだよ、俺がここに来た理由分かってんだろ」
「……ええ……」
少女がベイルの元にゆっくり歩き出すと、花々はそれに共鳴するように、少女の前に道を作った。
少女はベイルの前に立ち、息を吸って、ベイルの顔を見上げて言った。
「ワタシはビオラ・ムイ───第6代ヒュドールよ」
「ヒュドール?」




