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Past Letter  作者: 東師越
第2章 Always "Sadness" in their hearts
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第21話 スズランの誓い

 「……クラジューく」


 「何も言うな、とりあえず治す、こいつが死んだらなんかすげぇマズそう……」


 「できるの~?」


 「時間かかるけどな……妖術は苦手なんだよ」


 「そ~なの?」


 「ゾーネは部屋戻ってろ、あいつにやられるぞ」


 「う、うちもがんばれば……」


 「闘値の差が目に見えてる、たかが数字だが、されど数字だ」


 「……分かった……」


 ゾーネは何度かクラジューの方を振り返りながらも、室内に入って戻っていった。

 ゾーネ自身も戦う術は無いことは無い、巨人の力というのはそれを意識させるだけで大きな障害となり得る。


 だがゾーネの闘値は2000にも満たず、ケニーは最大で数千万にまで達すると思われる(ラルフェウと互角に闘っていたのが何よりの根拠)ため、クラジューは安全を考慮してゾーネを室内に移動させた。


 「……さてと」


 クラジューはアリシアの傷穴の前に両手を広げた。するとクラジューの両手に黄緑色の温かい光が現れ、アリシアの傷穴を覆った。


 「〝治癒の妖術(リバース・キュア)〟」




   ※ ※ ※ ※ ※




 その頃、ケニーは体力を驚異的な早さで回復させ、船に再び飛び乗った。


 「これだけ戦闘しても傷一つ付かないとは…いい船だな…何の素材なのやら……」


 ケニーはクラジューの背中を刺そうとするも、クラジューの槌がひとりでに動いて攻撃を受けた。


 「天槌ラファール、俺の分身みてぇなのだから」


 「やはり〝聖器(ポーマ)〟か……なら、そこの女の絶命が優先か」


 (……アリ……シア……)


 ケニーはリドリーの元に立った。




   ※ ※ ※ ※ ※




 (……死ぬ……この痛み……この寒気……この無情……)


 リドリーは走馬灯のようなものを見ていた。


 (私は、あなたを愛してる……けど、私はあなたと一緒にはいられない……)


 (……何で……)


 リドリーは顔立ちがアリシアとよく似た女と話していた。


 (……だけど大丈夫……いつか、私の後の誰かが……あなたを見つけてくれるから)


 (……どういうこと……)


 (私たちは繋がってる……私たちの中には、皆を集結させる力が宿ってるの……それに)


 (それに……)


 (本気で……愛し合う仲じゃない……私たちは)




 (───誰……この匂い、この気配、この姿……)




 (こいつ処女だぜ)


 (クライアントの望みは初々しさを残す非処女だ、二、三回に抑えとけよ)




 (───何……この震え……この不安……この孤独……)




 (本で何回も読んだ……こういうのが……友達なのかなって……)




 (───誰……この声……この光……この……手は……)




   ※ ※ ※ ※ ※




 アリシアは僅かに左目だけを小さく開け、呼吸をしていないリドリーの右頬を触れた。


 「……リド……リー……ちゃん……」


 アリシアはリドリーを求めた。死ぬほどの痛みと戦いながら、リドリーに救いを求めた。

 クラジューの即座の行動によるところが大きな理由だと思われるが、リドリーの心の声に呼応したのかもしれない。


 「……何で喋れんだよこいつ……てか、傷口開くだろ……」


 ケニーはリドリーの元に立ち、首を刎ねようとしているが、その直前、全くといっていい、リドリーの死に微塵も興味を示さないクラジューを不審に思い、ひとつ問うた。


 「……この女に情けは無いのか?」


 「ある訳ねぇだろ」


 「そうか……面白いな」


 同じ船に乗っているのだから、本来なら少しでも情はあるものだとケニーは考えていた。多少ドライな繋がりであっても……。


 それすらクラジューには無い。好き嫌いの感情も無い、ケニーからすれば正体不明の連中だからあり得ない事では無いが、固定観念にとらわれ、理解までに少々の時間がかかったようだ。




 「───アリシア……」




 その理解に到達するまでの、ほんの数秒が、リドリーに奇跡をもたらした。


 瞬時に上体を起こしてケニーの剣を斧で振り払い、アリシアと、治癒を施すクラジューの前に立った。傷やダメージ、体力も一切回復していないが、その立ち姿は力強かった。


 リドリーは目に生気を取り戻し、止めどなく涙を流していた。


 「……こっちもか」


 ケニーは何度も何度もリドリーを刺しにかかるも、片手斧がひとりでに動いて攻撃を受けていた。


 「……っ!!?……この力は……」


 「……エグゼル化……人間には馴染み無いか?」


 リドリーはより強いオーラを全身から放ち、立ち上がった。


 「……ふはは、あるとも──闘値が見える条件だ……俺から見りゃ、お前が知った風な口なのが不思議でたまらないなぁ……」


 「……アリシア……」


 「ちぃ……」


 ケニーはリドリーにかかっていくも、リドリーは斧を右手に持って防いでいた。


 「これは〝聖器ポーマ〟の意思か?……それとも……お前の?……」




   ※ ※ ※ ※ ※




 「───」


 「来たか小娘」


 「っ……」


 リドリーの心の中から突然老いた男の声が聞こえた。


 「……誰だ」


 「吾輩は地斧デゼルト、小娘の武器だ」


 「あっそ、何の用?」


 「初の意思疎通だ、恐らくはこれが最後だがな……小娘、名は」


 「……リドリー・ミボル」


 「リドリー、吾輩はお主の元に下ってから見ておる……よいか、神により創られし吾輩と生きる身として……有意義に使え」


 「あっそうですか……それだけ?」


 「これ以上必要など無い、リドリー……吾輩はお前を選んだ……ならば!!我が猛るこの魂と刃を!!お前のために!!お前が愛する者を守るために振れ!!」


 「……何であたしなんだ」


 「何?」


 「他にもいるだろ、素質なんてよ……」


 「……くっ……はははははは!!!」


 老いた男は突然腹を抱えて笑い出し、リドリーはそれを見て、少しの怒りをチラつかせた。


 「……良いかリドリー、吾輩は武器だが意思はある、故、好みや趣向も存在する」


 「あたしが好みとか言いたいのか?」


 「もちろん気に入りはした、だが素質無くして好みは追いつかない、双方を叶わせてくれる者など、何千年待てども来るモノでは無い」


 「あたしに素質なんて無いだろ……あたしは……何も出来ない……好きな人を……守りたいだけなのに……リーロム……アリシア……あたしに何がある!!強くも無い!!価値なんて無いんだよ!!!」


 リドリーの心からの叫びを、男は黙って聞いていた。


 「はぁ……はぁ……」


 「……言いたいことはそれだけか?」


 「……ああ……」


 「……そうか……なら、吾輩も言おう……力が無い?当然だ!お前はその欲する力を得るために、これまで何をしてきた!?……否……してなどいない……そこだけを言わせてもらえば、怠惰この上ない」


 「ああそうだよ……言われなくても……そんなこと……」


 「言われなくても気付けど、言われないと改めて意識することはなかったはずだ」


 「っ……」


 「リドリー、この吾輩がお前を選んだのだから、素質は太鼓判を押そう……だがお前は、今のままでもある程度器用に出来てしまうせいか、成長しようとしておらん」


 リドリーは何か言いたげに両拳を強く握るも、何とか耐え、男の言葉を聞いていた。


 「挙げ句の果てに、今のリドリーでは到底辿り着けない先にいる者がいる……自分がいなくても、愛する者がその者に縋るのならば、自分など必要ないと、そう思うておるな……甘い!!!!」


 「……何が」


 「それは優しさではない、甘えだ……お前は愛する者が幸せになってほしいではなく、愛する者を己の手で守り、幸せにしたいと願っている!!ならば!!己の欲を!!正義!!我が刃に印せ!!!……欲深く!!それでいて賢明に!!欲しいものは欲しいだけモノにしろ!!!」


 「!!……」


 リドリーは、生まれて初めて知った。自分はまだ、欲しいものを何も手に入れていない事を……。


 生まれて初めて気付いた。自分は欲深くなれない、貧相で、かわいそうな者だという事を……。


 生まれて初めて確信を得た。自分には、力があるという事を……。


 それでもまだ迷いはある、振り払うためには、誰かの強く、励みとなる言葉では足りない。


 自らの確信を以て、自らの目に、自らの行いを刻み込み、自らの肉体に知らしめる必要があった。


 「吾輩がリドリーを見込んだのは、素質ともうひとつ……貪欲さだ」


 「……ならあんたは、あたしのために死ぬんだな、あたしのために……」


 「愛の力とは時に、あらゆる力を越える、それを吾輩は、お前を見て知っていったのだ……耐え抜けリドリー……愛する者のために、己の欲のために……



 ───自らをも愛するために、戦え」




   ※ ※ ※ ※ ※




 ケニーは船を降り、壁が隆起した際に出来た大きめの瓦礫を何個も拾い、リドリーに向かってドリル回転で円錐形にして投げ放っていた。


 「……あたしも人の事言えないけど、ボツ呪力だな」


 「……くそっ!!」


 リドリーは全ての投石を斧で破壊し、その石ころは上空に浮いて上がっていった。


 「……なんだ……なっ!!!!?」


 ケニーが上空を見上げると、そこには島の半分はある体積の瓦礫の集合球体があった。


 「悪いけど、あたしももう死にそうだから、さっさと終わらせる」


 「ぐぅ……」


 ケニーは動こうと足を動かすも、体力とダメージが折り合わず膝から崩れた。


 「とりあえずお前は100万回死ね」


 リドリーはケニーの体を斬り刻み、蹴り飛ばして島の反対側に吹き飛ばした。


 「〝隕地天球ギガ・エクスキューズ〟」


 リドリーは巨大な球体をケニーに向かって放った。球体はケニーの体を押し潰し、衝撃で地面と海が激しく揺れ、島の半分がえぐれた。




   ※ ※ ※ ※ ※




 「おーすげー」


 ベイルは空中でその様子を見ていた。衝撃波や巻き上がった砂塵などで目が開けられなかったが、ベイルは気配で容易に状況を理解した。




   ※ ※ ※ ※ ※




 「クラジューくん!」


 クラジューは全身汗だくになり、息を切らしながら治癒を続けていた。2人に向かってきた衝撃波や砂塵などは全てリドリーが斧を駆使して通さなかった。


 そんな中で、ゾーネはその衝撃で、クラジューを心配して甲板に出てきた。


 「ゾーネ……危ねぇって……」


 「もうだいじょ~ぶだよ!」


 「……そうか……」


 するとクラジューはアリシアの傷を完全に治癒させた。


 「あぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」


 「クラジューくんのほうこそだいじょ~ぶ~?」


 「……悪ぃ……ちょっと……寝る……」


 クラジューは過呼吸になり、甲板にそのまま気絶して寝込んだ。


 「……おつかれさま♪」


 ゾーネはクラジューのやり遂げた後の、勲章のように輝く寝顔を見て、優しく微笑みそうつぶやいた。


 「アニキー魚めちゃくちゃ獲れたっすよ……あれ……なんすか……この状況……」


 今までずっと海を潜っていたレオキスは、冷凍し固まった超大量の魚を船の甲板に揚げて船に乗った。


 「魚ああああ!!!!」


 ベイルは上空から恐ろしいスピードで甲板に突っ込んだ。


 「……あれ……終わっちゃいましたか?……」


 ラルフェウも幾らか魚を揚げて船に乗った。


 「きゅうににぎやかになったね~♪」


 「ZZZ……」


 「……いいこいいこ、おやすみ」


 ゾーネは眠っているクラジューの頭を膝に乗せ、頭を撫でながら、騒がしい船で鼻歌なんかを歌ったりしていた。

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