第20話 踊り狂い
同じ頃。
ラルフェウ達が戦う船とは真反対の島の砂浜がある場所の空中に、ベイル、クラジュー、ゾーネはいた。
「すご~いたか~い♪」
クラジューはゾーネを抱き抱えて空中を浮遊し、その隣をベイルは空中を歩いていた。
クラジューが飛べると知った時から、ゾーネがかねてより望んでいた空中散歩を、戦場と化している島で緊張感無く行っている。
「何で歩けんだよ……」
「出来るかな~と思ったら出来た」
地面の上を歩くベイル自身が誰より1番驚いていた。足音も何故か立っていて、1人だけ異空間にいるようだった。
「マジかよ……」
「ありがと~クラジューくん♪」
クラジューは満面の笑みのゾーネと同時に、はち切れんばかりの谷間を見て目を背けた。
クラジューはいわゆるお姫様抱っこでゾーネを抱き抱えているが、恥ずかしさで未だ空中散歩を始めてからゾーネと目を合わせられていない。
「……なぁゾーネ」
「な~に~?」
「……その、だな……その服なんだけど……いつから着てるんだ?」
「ん~っと~……よんさいのときからかな~♪」
「……サイズ合ってんのか?」
「ん~ちょっとちいさいかな~むねとかおしりとかとくに~♪」
「むっ、ね……そうか……あのさ」
「な~に~?」
「街ある島着いたら……なんか別の服買っ……金ねぇから盗むけど……やるよ」
「え……プレゼント?」
あまりの嬉しさに、ゾーネは盗むという言葉を完全に無視する。
「まあな」
「……いまのふくきらい?」
「嫌いじゃねぇよ!! むしろ良い!! けど……そのおかげでゾーネの顔が見れねぇ、から……」
「……ありがと」
「俺いるんだけど~ヘタレ童貞ロリコン」
「ロリコンじゃねぇ!! ゾーネどう見てもロリコンじゃねぇだろ!! 身長いくつだ?」
「えっと~……ひゃくろくじゅ~だっておしえてくれた~♪」
「誰がだよ……とにかく、160はロリコンじゃねぇだろ」
「いやヘタレ童貞は否定しないんかい……そういう問題じゃねぇだろ、その鷲掴みは何だよ」
「は?……あ」
いつの間にかクラジューの右手はゾーネの右胸を鷲掴んでいる。支える上では必要な手の位置ではあったが、いくらなんでも位置がズレすぎだ。
「んっ……クラジュー……くん?」
「──」
突然クラジューは、意識と共に地上へと落下する。
「きゃ~~~!!」
鷲掴みだけなら、かろうじて意識を保てたかもしれない。
しかし思わずこぼれたゾーネの艶めかしい声と、その色気のトーンを保ったままで名前を呼ばれたならば、このヘタレ童貞の安息はこの空中では既に失われていた。
「うわぁ……」
その姿をしっかり目に焼き付けたベイルは、手の施しようのないヤベー奴を見る目、呆れ顔で落下していく2人をただ見るだけだった。
クラジューとゾーネが海に落ちかけた瞬間、島の反対側から一直線にラルフェウが吹き飛んでくる。
ラルフェウとクラジューは見事に激突し、3人は海に落ちた。
「……何だ今の」
数秒後、3人は浮き上がってきた。
「ぷはっ……はぁ、はぁ……あ、ベイル様」
「何してんだ」
ベイルはクラジューみたく浮遊しているかのように、一直線にゆっくり降りて海面ギリギリで静止した。
「申し訳ありません……しかし、向こうは隊は壊滅、指揮官らしき者は立てないはずです……」
「何でお前が苦戦してんだよ」
「アリシアさんやリドリーさんに危害が加わらない程度に抑えたら、互角になってしまいました……」
「あっそう、で、その2人は?」
「死んではいません……が、回復にはかなり時間がかかるかと……」
「あっそう……とりあえず戻ってみるか~」
「クラジューくん! 起きてクラジューくん!」
ゾーネはクラジューの両肩を掴んで揺らしていると、クラジューは水を吐いて目を開けた。
「……ゾーネ……あ、さっきのは違」
「よかった~~~!!」
ゾーネはクラジューを強く抱きしめ、クラジューはナチュラルにゾーネの谷間に顔が埋められる。
「んん!! んんん!!!」
「クラジュー、お前行ってきて」
「……ぷはっ……何で俺が行かなきゃなんねぇんだよ、つーかどこにだよ」
「船んトコの様子見てきてぇ~、お願ぁ~い」
「気持ち悪ぃ」
「おねがぁ~い♪」
「……まあ行くか」
ゾーネは意味を理解せず便乗して言っただけだが、それでもクラジューに断る理由などなかった。
するとクラジューはゾーネを抱き抱え、浮遊して船に向かっていった。
「……僕も向かいます」
「お前は魚獲ってろ、邪魔」
ベイルは空中を歩いてゆったり船に向かっていく。
「はや~い♪」
「そんなに速くは……うおっ!!」
クラジューは濡れて透けているゾーネの服を見て思わず目をそらした。
巨人族の服は着けていなくても大丈夫な素材なので、ゾーネはノーブラである。
「だいじょ~ぶ~?」
「……ああ……何とか……」
ナチュラルに事が進んでいるが、どう考えてもおかしいだろう、何故わざわざ危険な元へクラジューはゾーネと共に行くのか。
答えは単純、ゾーネはクラジューと共にいる事が最も安全だと踏み、クラジューはゾーネと離れる訳にはいかないと、要するに油断しているということだ。
ベイルやラルフェウなんかはこの2人に対しては根本が無関心なので、ごく自然なままだが。
2人はその後すぐに船に辿り着き、船に降り立った。
※ ※ ※ ※ ※
「……何だこいつ……」
船の外には百数人のほぼ無傷の遺体が多くひしめき、船の甲板には重体で僅かに息のあるケニーがうつぶせに倒れていた。
「変な奴だな……人間と龍人とが混じってるが、混血でもねぇ」
「ど~ゆ~こと~?」
「さあな」
するとケニーは両手を甲板につけ、四つん這いの体勢となってから膝を付き、息を切らしながら立ち上がった。
「……なんだ……貴様ら」
その瞬間クラジューはケニーの顔面を躊躇無く右拳で殴り飛ばし、船から吹き飛ばした。
「これでいいか」
「かっこい~♪」
「ただ殴っただけなんだが……」
直後、アリシアが部屋から甲板に出てきた。
一部始終を見ておらず、ラルフェウとケニーの戦闘で一向に船酔いが治まらなかったが、船が動かなくなり酔いも治まったため、おそるおそる外に出たようだ。
「……リドリー……ちゃん」
アリシアは血だらけで気絶しうつぶせに倒れているリドリーの元に寄り添い、膝を落とした。
「死んでねぇ、さっさとそいつ連れて部屋戻ってろ」
「……どうしてそんな心配を……」
アリシアはゾーネ以外の誰かを心配しているような口ぶりのクラジューを、不思議に思った。
「邪魔だからだよ」
「……もう終わったんじゃ」
船は静かなままだが、クラジューは依然として戦闘態勢を整えていない。
「終わってねぇよ、むしろこっからだろ」
「……え……」
その瞬間、ゾーネの頭上から血まみれのケニーがゾーネの頭を斬りにかかったが、クラジューはゾーネを抱きしめて庇い瞬時にかわした。
「ぐっ……ゾーネ大丈夫か?」
「うん……でもクラジューくんが……」
避ける際に、クラジューは右腕に少々のケニーの剣を受け、切り傷から血がにじんでいた。
「ならいい」
「女を庇いながらとは……いささか舐められたものだな」
「お前が遅ぇだけだろ」
クラジューは全身に電気を帯び、その電気はクラジューの右手に収束され、クラジューの槌に形状化した。
「ほう……その姿の現し方……あるいは〝聖器〟か?……」
「〝雷球〟」
クラジューは無数の光り浮く小さな球を繰り出した。ケニーは後退し船を降り、島に出るも、クラジューの攻撃はすぐに追いついた。
「追尾だと……」
クラジューの攻撃はケニーを覆い、ケニーの全身に無数の雷が落ちた程の衝撃が走った。
「……かわされたか」
「多少くらったがな」
ケニーはクラジューの繰り出す球の軌道を読み、体や剣に触れずにかわしていった。
少しはくらったが船から少し離れ、草木が生い茂る地に身を潜めた。
そこでケニーは、付近に落ちている、何の変哲も無い少し大きな岩をクラジューに向かって投げた。
瞬間、その岩はドリル回転し、円錐形となって突起した部分がクラジューに向かっていった。
「呪力か」
クラジューは槌でその岩を弾いた。
するとその岩はリドリーを連れて部屋に戻る途中のアリシアの背中を貫いた。
「……あ……ぁ……」
アリシアの胴体にぽっかりと穴が開き、アリシアは多量に血を吐き、穴から多量に出血してしてうつぶせに倒れた。
(──アリ……シア……)




