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Past Letter  作者: 東師越
第6.5章 REVIVER
202/711

ESCAPE 〝賢者ベントス〟ルミエル

 「脱走? 経緯は」


 ガービウが数千年をかけてついに5000年ぶりに一堂に集結させた神の分身体──賢者ベントス。


 しかしこれから賢者ベントスを用いた、あらゆる世界を震撼させる計画を決行しようとした矢先に、その知らせが届いた。


 「ルミエルが……どうやって逃げ出したんだ?」


 コールド──真の名をヴィーヴェンティールとする、賢者ベントスの統率者にして最強の位置につける者は、ルミエル脱走の詳細を問うた。


 「はい……キングの命令で、ルミエルにこの世の情報提供を欠かすな、を執行していたのですが──」




 いつでも出動出来るように、いちいち大まかな状況説明を省こうとルミエルにはこの世のあらゆる情報が常時伝えられていた。


 そもそもルミエルはベイル一行のレオキス・フィリウの実の母親であり、2人誰も知らない場所で静かに暮らしていた。


 だがガービウはその居場所を突き止め、レオキスを護るためにルミエルはガービウに連行された。


 唯一木っ端微塵にならずに生きながらえていた賢者ベントスとして、ガービウは手放すことを絶対に良しとせずにアジトの奥に監禁させる。


 レオキスに絶対手を出さないという条件下で、ルミエルはガービウの性欲のはけ口として、奴隷の生活を強いられていた。


 あまりにも苦しい生活が10年、100年と続き、それでもレオキスが無事ならばこのままでいいと絶望はしなかった。


 だが8年前、アリシア・クルエルが人間界にクーデターを起こし成功させた2年後、ついに殺すべき標的を定め、その中にはレオキス・フィリウも含まれていた。


 それを知ったルミエルは激怒、ここでようやくガービウには約束を守るつもりなどハナから無く、機会を伺って泳がせていたに過ぎないのだと知り、初めて絶望した。


 それからルミエルはレオキスを護るために、開発されて上手く回らない頭を精一杯駆使し、何年もかけて思考を巡らせ協力してくれるかもしれない誰かを捜した。


 そしてルミエルは、ある2人の存在を思い出す。





 「要するに、ガービウがレオキス・フィリウを殺すと宣言してからずっと脱走の機会を伺っていたんだな」


 「当人がそのような事を呟いていたため、ほぼ間違いないかと……」


 「あっそう」


 怒り狂う様子も混乱する様子も無く、ガービウは頬杖をついて足を組み、リラックスした状態でソファに座りながら微笑む。


 「気にしていないのか」


 「いやいや、だが早急に取り戻さなくても9体揃ってるし、それから」


 「ふざけるな!! 本来賢者ベントスとは10人で1つの存在!! 9人だったから、あの裏切り者のおかげで俺達はベイル・ペプガールに木っ端微塵に──っ!?」


 今度ばかりは言葉を遮られたくなかったガービウは、体勢は崩さずにギロリとコールドを睨み付ける。


 凄まじい気迫とプレッシャーを一身に受け、瞬間で体が強張ったコールドは、ねじ切られ、押し潰され、爆散する自らのイメージがポッと出来てしまった。


 「落ち着けコールド、代用に……いやそれ以上戦闘に長けた奴がいる……コーゴーにな」


 「コーゴーに?」


 「そうだ──ビジル、だっけか? ……そいつをジェノサイドに引き入れる」


 不敵な笑みが求める先は、この世の頂ただひとつ。


 この世の終焉、それを示す再始の鐘は既に鳴らされた。


 かつて世界を滅ぼし、己のための時代を数千年に渡って築き上げた〝魔神〟が、ついに動き始める──




   ※ ※ ※ ※ ※




 ルミエルはジェノサイドアジトの全容を知っている。


 どの位置にどんな部屋が、どこに幾つの物が、そんなありとあらゆるジェノサイドアジト内部の情報が頭の中に入っていた。


 それを可能とした理由はルミエルの呪力──〝亜人(デミ)〟によるものだ。


 能力は、自信の体の一部をあらゆる物質に変化させる事が出来る、というモノである。


 血でも汗でも唾でも、とにかく何らかの体液を監視に来る者に付着させられればそれを肉眼では見えない目に変化させ、自身の脳とリンクさせて視界として扱うことも可能だ。


 それをありとあらゆる者達に監禁中続け、ついにジェノサイドアジトの見取り図を脳内にインプットする事が出来たのだそれも平面的にではなく立体的に。


 さらにどの位置にどのような物がどんな風に設置されているのか、それを廊下に落ちているタバコの吸い殻1つまでもを記憶している。


 もちろんいずれは誰かが掃除をするかもしれないが、ルミエルはどんなに些細な事でもチャンスになるかもしれないと、出来る限りを超越した量の情報を記憶しているのだ。


 それも薬の副作用で脳の働きが常に万全とは言えない状態で、さらに脱出した際に助けてくれそうな誰かを記憶から引き出しながら。


 他にもあらゆる作業と同時進行させて、今この瞬間のために常に脳をフル回転させていたのだ。




   ※ ※ ※ ※ ※




 「……あった……」


 どこかの世界にあるどこかの湖のほとり。


 そこにある小さなログハウスの前に、全身ボロボロのルミエルは辿り着いた。


 何日走っただろう、何週間走っただろう、眠ることも食べることも無くただここに向けて止まること無く走り続けた。


 そこに住む者だけが、自身を助けてくれると確信……まではしていないが、可能性として考えられる者の中で1番高い者だという予測だ。


 「は……やく……レオキ…………」


 力尽き、ログハウスのドアをノックする直前にドアの前でバタッと倒れてしまう。


 物音を聞いてドアを開き、倒れた自身を見て慌てふためく金髪碧眼の少女の姿をぼやけた視界で見ながら、ルミエルは何週間ぶりかの睡眠に入った。






 「はっ」


 「あ、ごめんなさいルミエル、勝手に体を洗って着替えさせたけれど……」


 体を洗った事により、人間でいう所の20代後半くらいの美人の姿がより鮮明となったルミエル。


 眠っていたソファの上から起き上がり、こちらをやや心配そうに見ているルミエルを介抱した少女を見て、ルミエルは床に正座し土下座をした。


 「こ、この度は助けてくださりありがとうございます──アリス様」


 アリス──ニコラスがイミルの試練の際に出て来た、ニコラスの記憶の中の少女と同一人物である。


 「そ、そんな、私はただ……あ、頭を上げて? ね?」


 「そんな……私の汚らわしい体を洗わせてしまった挙げ句、着替えさせるという2度の手間を煩わせてしまった無礼をお詫び申し上げるまでは」


 「じゃ、じゃあもういいよ! うん! 謝ってくれてありがとう! だから顔を上げて?」


 ルミエルがこれほどまでに敬い尊ぶアリスとは一体何者なのか、それはまた別の話でいつかきっと暴かれるだろう。


 そんな敬愛なるアリスにそう言われたら従うしか無いと、ルミエルは頭を上げる。


 「ごめんね、今マルベスが留守で、難しい話は分からないの……」


 「問題ありません、待ちます」


 「ありがとう……あ、でも……これは言っておいた方がいいかな」


 情報に疎いアリスが、ルミエルにだけはどうしても伝えたいと、とりあえずルミエルをソファに座るように説得する。


 そしてアリスの口から、衝撃の事実が語られた──






 「〝巨界(ガイア)〟で、大きな戦争が昨日起こって──たった1時間で終わったの」






 ポカンとした、呆然とした、頭が真っ白になった。


 ルミエルは1ヶ月近くを走り続けており、既にもう事は始まり、終わっていたのだ。

次話よりリドリーの過去編です。

よろしくお願いいたします。

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