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Past Letter  作者: 東師越
第6章 The Past is in the Past
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第162話 A dream that buds in the sky 6

 「うんうん、ざっと見た感じ、カス」


 「直球すぎて腹立つ」


 自称アンノウンハンターのヴィルセルは体力や精神力もさることながら、戦闘能力がかなり高い。


 もちろん基本的には森や海に住む猛獣やモンスター級の生物だが、秘境に在る村を見つけて入ると百発百中で戦闘になる。


 そしてそういう地の戦士は型にはまらない変幻自在な攻撃を仕掛けてくることも少なくないので、あらゆるスタイルに対応出来る体術を身につける必要があった。


 故にヴィルセルは序列内聖戦士くらいの力を持つ事となった、しかしコーゴーやジェノサイドにも迫ろうとしたが1人では不可能だと早い段階で諦めている。


 「いや~カスカス、カっスカス」


 「うるせぇな!!」


 クラジューの最強になる、という夢を叶えてやろう、という新たな夢を持ったヴィルセルは、現段階でのクラジューの戦闘能力を確かめた。


 まずはソラの一族の能力である大気との共鳴だが、何も起こらなかった。


 次に素の力だが、スピードとスタミナは共に大人顔負けのモノであったが、それ以外は話にならない。


 最後に妖人族たる象徴の霊力だ、霊力の強さは〝霊値の妖術(アビリティ・スキャン)〟で数値化して確かめる事が出来る。


 成人の平均値は男女問わず3000~4000、ヴィルセルは鍛えたため7000、ちなみに5万を超えると闘値の億越えに匹敵する。


 また闘値のように霊力値を計る数値には限度が無いため、あまりに巨大な数値でも表してしまう。


 参考までに、〝霊王〟が全世界の人類をほぼ滅亡させた際の霊力値は、2000万近くと云われている。


 この逸話が真実か否かは不明ながら、〝霊王〟の神をも殺す力を持つとされる噂の起源でもあった。


 そしてクラジューの霊力値は400、クラジューくらいの年頃で1000を超えていないのは、もう不幸としか言いようが無い。


 「そういう星の下に生まれてきたって事だ、まあ妖術はほぼ諦めろ」


 「はっ、俺は腕力で最強になる」


 「とりあえず呪力は最低条件として欲しいな~」


 「話聞けよ、てか何だよじゅりょくって」


 ヴィルセルの結論としてクラジューは凡人、それ以上では無い。


 しかし大器晩成という事もあるだろうし、まあ長い目で見ていけばいいとポジティブに考える。


 しかし今のクラジューはあまりに戦闘能力に置いては魅力が無い、スリの名手として生きていった方がまだ有望株なんだろう。


 スリが経験と知恵で得た技術ならば、戦闘能力だって経験を詰めばきっと────




   ※ ※ ※ ※ ※




 そんな事を考えた時期もあったなーと、クラジューの小さな頃を思い出しながら組み手をするヴィルセル。


 毎日10回組み手をして、10回勝てば卒業というシンプルかつクラジューにとっては最も厳しい試練。


 もちろんヴィルセルは全力など出していない、そもそも出せないのだ、クラジューを殺してしまうだろうから。


 そんなこんなでもう10年近く経つが、クラジューは未だヴィルセルの実力を知らないまま1勝も出来ずにいた。


 経験自体はどこの馬の骨よりもあるだろう、動きだって無駄は削がれてきた、ただしかし単純に弱い。


 体力はもうヴィルセルと互角以上はある、だからこそ粘り強く、諦めない不屈の精神をこの10年間で得た。


 17、8歳ほどの時から顔付きがほぼ変わっていない事から、既に呪力は得たはずなのだが、本人は出す方法が分からないと言う。


 成長はしている、言い付け通り〝治癒の妖術(リバース・キュア)〟と〝無双の妖術(ザ・インビジブル)〟のたった2つだけの妖術習得への道のりを逸れることなく学習している。


 ただ、どこまでも平凡からは抜けられなかった。


 「はぁ……はぁ……」


 「ほい、今日の組み手終了」


 実は修業初日の終わりにこれからの期待を込めて今生で1番の宝物をクラジューに手渡していた。


 〝天槌ラファール〟──〝聖器(ポーマ)〟の1つであり、唯一2パターンの姿を持つモノ。


 矛の型、最高峰の攻撃力を持つ〝聖器(ポーマ)〟となり、刃の大きな剣となる。


 盾の型、最高峰の防御力を持つ〝聖器(ポーマ)〟となり、基本の槌の形だ。


 何より天槌ラファールはあらゆる種族の能力に対応出来、巨人族が持てば巨人化に合わせて巨大化し、魔人族が持てば魔力を持つ事が可能だ。


 しかしクラジューは能力が未だ開花せず、さらにラファールの方も目覚めていないため、双方の理由で価値や力を持て余している状態である。


 「くそっ……」


 「明日から家の改修だからしばらくお休みな」


 ラファールを持って闘ってはいるものの、かたや鉄のナイフ1本のヴィルセルに敵わない。


 それが悔しくて、苦しくて、活路を見出そうとあらゆる可能性に手を伸ばし、己の夢のために深く深く追い込んでいった。


 ラファールをもらった時はヴィルセルに対してそっけない返事をしただけだったが、込める思いはヴィルセルの想像を超えていく。


 傷など付かない〝聖器(ポーマ)〟を毎日磨き続け、ヴィルセル以外に話し相手がいないため夢を語りかけたりしていた。




 ──そしてこの時2人は気付いていなかったが、ラファールはクラジューの言葉をずっと聞いていた。


 武器である自身は、これほどまでに愛情を注いでくれるクラジューを同じく愛し、後に絶望の渦中にいたクラジューを光へと導いていく。




   ※ ※ ※ ※ ※




 「やっぱり才能ねぇから、これ以上は」


 「まだ10年しか経ってねぇじゃねぇか」


 珍しく食べる手が進まないクラジューはひどく落ち込み、鍋を煮詰める囲炉裏の灯りを頼りにラファールを磨く。


 「まだ10年って……」


 「お前はもう呪力使えんだから時間は誰よりもある、才能なんてのは努力で幾らでもカバー出来る、才能なんてその程度のモンだ」


 「……小便」


 その場から逃げ出すように家を出るクラジュー。


 以前の改修から10年経ち、また劣化したボロ家から出てから徒歩約5分程度、クラジューはこのところ毎夜毎夜訪れている。


 林を抜ける道なき道、雑草や枝を退けて月明かりのみの暗闇を進んでいく。


 そう、ヴィルセルが見つけた、マーデルの街だった場所(・・・・・)を一望出来る丘。


 今はただの荒れ地となったその場所を1人眺める事により、その日の反省や自分に足りなかったモノを考えている。


 あの場面での踏み込みが甘かった、あの時のヴィルセルのスキは突けたはず、あの時、あの場面、あの、あの、あの──


 「黄昏れてんな~小僧」


 水を差すように物音ひとつ立てず、背後からゴツい右手でガッと頭を掴むヴィルセル。


 気配を察知していたクラジューは特にリアクションを取ること無く、また払いのける事も無かった。


 「その呼び方やめろ」


 「だったらガキみてぇな事すんなって」


 遠慮なくクラジューの左横に座り込むヴィルセル。


 「……俺は……最強にはなれねぇのか?」


 「俺は未来予知とか出来ませーん」


 「……でも……これじゃ……」


 「〝霊王〟は、元から桁違いの力を持ってたんじゃねぇ」


 わざわざ立ち上がり、ズボンのポケットに手を突っ込んで月を見ながら言葉を続ける。


 「〝霊王〟は霊力値も低く、戦いに身を投じるような戦士でも無かった……ガービウ・セトロイもそうだ、ただの平凡な男だった……ベイル・ペプガールもそうだ──


 ──最強ってのは、才能の無いヤツもあるヤツも関係ない、それになりたいと言っても当然なれない……諦めなかったヤツがなるんだ」


 月の白い光が差し込む丘の上、涼やかなそよ風が吹き草木は揺らめく。


 見晴らしは良くとも景色が無い目の前を、笑顔で見下ろすヴィルセル。


 今でもこの味気ない景色を見ると思い出す──全てが崩壊したあの日のあの瞬間。


 その度に悔しさと怒りが募る、何故自分は助けられなかったのか、と。


 だからヴィルセルは1人でこの丘へ行くことをやめた、好きなのは丘ではなく、丘から見下ろした活気ある平和な街の様子なのだから。


 「なら諦めなかったら全員最強ってか」


 「残念なことにそんなに諦めない人はいませ~ん」


 「分かんねぇだろ」


 「でもお前は特別だ、ここまで闘志を絶えず燃やし続けてきたんだ、誇れよ」


 「安っぽい、目に見えるモンが欲しい」


 「焦るな小僧、夢は何したってどこにも行かねぇよ、在るべき場所にドシンと鎮座してるだけだ」


 再び右手でクラジューの頭を……今度は優しくポンと置き、優しく撫でる。


 思いの丈を吐き出せる、クラジューの心の拠り所としてもヴィルセルは常日頃からこうやって聞いては言ってを繰り返している。


 吐き出し尽くし、またヴィルセルの言葉に救われたクラジューは頭を撫でるゴツい手を払いのける。


 「……明日からも頼む」


 「ふっ……明日から家の改修だから休みだ」


 「……ムード返せ」


 「お前にゃまだ早ぇな、まずは俺から1勝してみろ」


 グータッチをするみたく、しかしまあまあ強めの拳を黙ってヴィルセルの脇腹に入れるクラジュー。


 クラジューの不屈の精神は、尽きることを知らない──

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