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Past Letter  作者: 東師越
第1章 〝死神〟と呼ばれる男
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第15話 来訪者たち

 船はセタカルド諸島に向けて再び風を切り、ポツポツとある集落を横目に草原を駆け抜けている。


 クラジューが気を失っても槌を離さなかったため、ラルフェウは部屋まで運ぶのにひと苦労したようだ。


「おはようございます」


 右手側に立っているラルフェウはまだ少し警戒しながらも、目を覚ましたクラジューの様子を見ていた。


「……はぁ」


「ベイル様の力ならすぐに治癒出来たのですが、面白いからと少し安静にさせました」


「面白い?」


「どうぞ」


 ラルフェウはクラジューに手鏡と濡れたタオルを手渡した。


 鏡を覗くと、クラジューの顔には所狭しとセンス抜群の落書きが描かれており、もうほぼ黒塗りだ。


「……何なんだよこれ」


「水性ですのですぐ消えますよ」


 手渡された濡れたタオルですぐに顔を拭き、拭き残しが無いか入念に鏡を見る。


「あんな質の高い巨大な結界張りながら、簡単にやられた……あれだけ手加減されてこのザマだ」


「僕はあなたが、嫌いです」


「は?」


「あなたは、出会ったばかりのベイル様に認められた……僕は未だに認められていない」


 理由は至極単純で、敬愛するベイルの感情がクラジューには向いて自身には振り向かないという嫉妬である。


「……実感が欠片も湧かねぇな……てか、何で認められてんだ俺は」


「あなたは僕よりも潜在能力があるんでしょうね、ベイル様のお気に入りは僕だけでいい……」


「俺はお気に入りになるつもりはねぇ、俺は俺のために生きる……そもそも分かんねぇな、自分から犬になるお前が」


 口ぶりに僅かな怒りを覚えたが、抑えて思いを吐露する。


「僕にはもうベイル様しかいません……何もかも失って、もうベイル様しか……憧れだけしかいません」


「俺も何もかも失ってる……チラッとしか見てねぇけど、他の奴らのツラもそんな感じだな……ずいぶん暗い一味に入っちまったな」


「ですが退屈はしませんよ、今絶賛兵団に追われ中ですから」


 クラジューはクスッと笑ってそう言葉にした。


「……夢ってのは、漠然とした妄想だ……はっきりしたのを野望ってんだ、持つならそっちだな」


 ベイルの言葉が胸に刺さったのか、クラジューは自身の夢について考えていた。


 ラルフェウと面と向かったクラジューは、続けてこう胸を張って決意した。


「俺はまだまだ強くなる、永遠に挑戦し続ける……力を取り戻したあいつと、サシで互角以上にやり合う……そして勝つ」


「何故僕に?」


「保険だよ、お前は正直者っぽいからな」


「……はぁ……さっき嫌いだと言いましたよね」


「死ぬんじゃねぇぞ、お互いにな」


「いやそんなドヤ顔で言われても……勝手に顔を保険にされたこっちの都合はお構いなしですか」






 その後ラルフェウとクラジューは打ち解け、端からは話が弾んでいたように見えている。


 ラルフェウはいやいや付き合っているように見えるが、次第にノってきてラルフェウからも質問をしたりしていた。


「その両手足首と腰に巻いているモノ、ものすごく重い重りですが、何キロあるんですか?」


「計200キロだ」


「……それだけの枷を付けてあの速度……あなたは一体どれだけ鍛えてきたんですか」


「知るかよ、俺は誰よりも強ぇ奴になりたいだけだ、強ぇ奴は皆恵まれてる、血筋とか力とか、俺には天性のコネはねぇ、努力しか道がねぇ……」


「呪力は?」


「あるにはあるが使わねぇ、使っても強くなれねぇからな……今日あいつと闘って驚いた、まさか──



 ──俺以外に、呪力を複数使える奴がいるなんてな」




 「……え……」


 「普通は1つなんだよな? 気が付いたら2つあったんだけど……あいつは何個持ってんだよ……」






 ベイルの呪力はいつ見ても不可解だった。


 どれだけ聞いてもベイルは持ってる呪力は1つだと言い張るが、あれだけ多種多様で、複雑で、ひとつひとつが高い能力で、1つだけというのはあまりにも不可解だ。


 そもそも呪力は本来、複数持つなどあり得ない。呪力とは、本来生物が持つ潜在能力が具現化したモノを指す言葉だ。


 生物が持つ潜在能力は、呪力を2つ以上有するには等しく足りないからだ。


 潜在能力とは言うが潜在能力にも種類があり、呪力はその中の異質な何か、としか言いようが無い。


 呪力とはその全てが解明されてはいないのだから。


 あらゆる異能を得るが大きな副作用も招く、その1つが不老。


 呪力を得た時点から肉体の老化は止まり、老衰により死ぬことはなくなる。


 他にも膨大なエネルギーを有する呪力には、別の副作用が生じたりもするが──






(何にせよ、クラジューさんの言葉が本当ならば、知られればコーゴーやジェノサイドなどの巨大組織に狙われる程に大事になるかもしれない……あまり迷惑は持ち込んで欲しくないな──


 ──ベイル様はそれを見抜いた、ということなのでしょうか)


「そういえばクラジューさん」


「何だ?」




「──ベイル様がいる場所を何故判明出来たんですか?」




 今まで一行に入ったレオキスとリドリーはベイル達に向かった先に「偶然」いただけだったが、クラジューは確かにクラジューの方から向かってきた。


 アリシアもそうだったが、ベイルもラルフェウも不思議がる事はなかった。


 しかしクラジューの事は計算外だったようだ。


「……たまたま……たまたま「偶然」人間界にいて……そこの兵団に晩飯盗みに行ってたら、ベイル・ペプガールの名前を聞いた」


「それで?」


「腕試しのために来た、異名に神とか王の付くのは中でもヤバい奴、5人もいねぇってだけとは知ってたが、この機会を逃したら後悔すると思った」


 クラジューは淡々と答えた、隠す様子も無く、普通に。


「……そうですか」




   ※ ※ ※ ※ ※




 2人が甲板に向かうと、ベイルが皿の上に山盛りに盛られたナッツを貪りながら2人の元に来た。


「何ですかそれ?」


「ハニーローストピーナッツつって、すげぇ美味ぇよ」


「お、マジだ」


 クラジューはベイルの持っている皿からハニーローストピーナッツを取って食べる。


「てめぇ何盗んでんだよ!!」


「美味ぇ」


「甘いものお好きなんですか?」


「……まあ……嫌いではない」


「男のツンデレはキモいだけじゃあ!! 返せ俺のハニーローストピーナッツうう!!!」


 ベイルはクラジューの口の中に右手を突っ込もうとし、クラジューはそれを抵抗しながらもハニーローストピーナッツを食べ続ける。


「……っ! と……」


 瞬間、船はまたしても突然急停止した。


 クラジューが止めたようにではなく、ラルフェウが意図的に船を止めたのだ。


「なんだよまたかよ」


「すみません、しかし進めなくて……」


 船の進行方向には10メートルの崖があり、道が阻まれていた。


「……それだけじゃ無さそうだな」


 クラジューが浮遊して地面を見ると、数百人の兵士が船を囲うように待ち構えていた。


「お前ら着けられてたのか」


「みたいですね」


「どうしたのキューちゃん?」


 急停止により、他の3人も甲板に出てきた。


「アリシアさんを狙った人達です、僕らが退けます」


「面白いから行ってみるか~」


「おいハニーローストピーナッツ持ってくなよ!」




   ※ ※ ※ ※ ※




 ベイル、ラルフェウ、クラジューは船を降り、リドリーとレオキスはアリシアと共に船の中に戻っていく。


「は~いストップ」


 しかしアリシア達の後ろに1人の兵士が現れ、屋根から目の前に飛び降り、兵士は剣を抜いた。


「何だお前」


「王女奪還だ、当然だろう」


 その言葉で敵だと判別したリドリーは躊躇いも無く兵士に向かって右拳を打ち付けるも、兵士は右手で拳を掴んで前に投げ飛ばした。


「リドリーちゃん!!」


「オレも行くっす!」


 レオキスは体中から冷気を吹き出し、その冷気は形状化して氷槍アイシクルとなった。


「ほう、自然族、しかもいかにも特別な武器」


 レオキスは槍で攻撃しにかかるも、兵士は剣一振りで槍をレオキスの手から弾き飛ばした。


「っぐ……」


「はっ!!」


 そして兵士はレオキスの左肩から右脇腹にかかり、鮮やかに迷い無く剣を振り下ろして深く斬りつけた。


「うぁ……」


 レオキスは仰向けに倒れ、出血が激しくも即座に共鳴による自然治癒が始まる。


「レオキスさん……」


「あとは……うおっと」


 兵士がアリシアを連れ去ろうと近付くと、形相を変えたリドリーが右手に片手斧を持ち、それを振りながら兵士の正面に向かっていった。


「その武器……どこから出してきた?」


「うおおおああああ!!!!」




   ※ ※ ※ ※ ※





 同じ頃、数百人の兵士達と3人は向き合ったまま動かなかった。


「ベイル様、よろしいのですか? 加勢に向かわなくて」


「いんじゃね? どうせすぐどうにかなるから、それまでの過程が面白いんだろ……俺たちはわざとはめられてやったんだから、それなりの優しさを返さねぇとな」


 するとクラジューはベイルの話を遮るように、ゴロゴロと轟く雷雲を数百人の兵士の頭上に発生させ幾つもの稲妻を落とし、瞬時に兵達を玉砕した。


「弱っわ」


「まだ俺最後まで言ってねぇよ」


「知らねぇよ、美味っ」


「ハニーローストピーナッツ食うなよ次食ったら罰金だかんな」


「ベイル様、いつまで見届けますか?」


「ん~俺が良いって言うまで」


「分かりました」




   ※ ※ ※ ※ ※




 その頃、リドリーは兵士に幾度となく攻撃を加えるも、兵士は剣でいなし続けていた。


 実力差は明らかだったが、それでもリドリーはアリシアのために退くわけにはいかない。


「さすがは自然族、雑だが速く、力も強い……なのに人間界の支部長程度の人間〝だった〟俺でもよく見える……スキも見える」


 兵士はリドリーと同時に動き出したが、僅かに兵士の方が速く、一瞬のスキをついてリドリーの左足をあっさりと切断した。


「ぐぁ……」


「有意義な体だ、王の恩恵は素晴らしい」


 リドリーはうつぶせに倒れながらも目を光らせ、兵士を睨み付けていた。


「……くそ……」


「じゃあ任務完了」


 兵士は王女を左肩に抱え、船から飛び降りて崖の上に着地し、走り去っていった。


「いや! 離して!!!」


「静かにしろ、300億レールの賞金首なんだから早急にルブラーンに運ばなくては、チンピラに狙われても困る」




   ※ ※ ※ ※ ※




 ベイル達3人は、兵士の男がアリシアを抱えて去る姿を見てから船に乗り、レオキスとリドリーの姿を確認した。


「弱ぇなお前ら……アリシア守んには能力不足もいいとこだな」


「ベイル様、まだですか?」


「気配は失せたな、もういいぞー」


「では行ってきます」


 ラルフェウは崖の上に飛び降りて走り去っていった。

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