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Past Letter  作者: 東師越
第1章 〝死神〟と呼ばれる男
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第13話 無意識の感情

1ー4 ソラの原石と巨人の娘

 一行はニールの小屋を出た後森を脱け、アンビティオ号で再び草原を駆け抜けていた。

 間もなく森を脱けてから1日半が経とうとしている。


 セタカルド諸島へ向かうべく、海の方に大きな船体を動かし道なき道を突っ走っていった。


「レオキス~腹減った~」


 だらけるベイルは甲板のど真ん中でうつぶせになる。


「10分前の昼飯は何だったんすか?」


「さあ」


「食料無限にあるわけじゃないっすから遠慮頼むっすよアニキ」


「ベイル様は最悪何も食べなくても生きていけるじゃないですか」


「は~い残念でした~レオキスの飯が美味すぎてレオキスの飯無しじゃ生きていけない体になりました~」


「レオキスさん、ベイル様の料理に麻薬でも入れてるんですか?」


「どうやって手に入れるんすか……」


「なんかもうレオキスさんなら何でも出来る気がしてきました」


「褒めてるんすか? 貶してるんすか? そのヤバい奴を見る目で見ないでくださいっすよ」




   ※ ※ ※ ※ ※




 同じ頃、アリシアは浴室で1人孤独にぬるま湯の入った浴槽に浸かっていた。


 アリシアは何を考えるでもなく、ただただボーッとタイルの壁を眺めている。


 一行を恐れず信じてみるとは言ったが、不安が全て解消した訳では無い。


 信じるために自分自身が何をすべきなのか、アリシアは肩まで浸かって声に出さずに自問自答を繰り返した。


 そこにリドリーは普通に浴室の戸を開けて入り、シャワーを浴び始めた。


「アリシアは、あたしが怖いの?」


「……分からない、リドリーちゃんのことは好きだけど、私はリドリーちゃんのこと何も知らないし……」


「その気持ちは分かるよ」


 この時のリドリーは普通にしているが、内心は──(アリシアに好きって言われたアリシアに好きって言われたアリシアに好きって言われたアリシアに好)──と、頭の中でこの言葉が無限ループしている。


 外から聞こえているんじゃないかと思えるほど心臓の鼓動が激しく、今にも胸が張り裂けそうだった。


「……700年も、ずっとあそこにいたんだよね……」


「そうだよ」


「……数えてたの?」


「暇だったし」


「辛くなかった?」


「……ないと言えば嘘にはなる、けどあたしはずっとずっと信じてた、信じてたからアリシアが来てくれた、ありがとう」


「怖くないの? もし私がリドリーちゃんをすごく嫌いだったら」


 話しながらアリシアはリドリーの顔の方を見ると、リドリーはこの世の終わりを見たような表情を浮かべていた。


「いや例え! あくまでも例えだから!!」


「……あ、例え……よかった……」


「勢いで身を投げ出しそうでちょっと怖いな……」


 その怖いは、アリシアが一行に感じている怖いとはまた別ベクトルの感情である。


「そりゃ会った瞬間から好きなんて滅多にあるもんじゃないよ、そのためのキスだよ」


「っ……」


 アリシアはリドリーの言葉を聞いた瞬間頭の中にキスの感触がフラッシュバックして、顔を赤らめ口まで湯に浸かりぷくぷくと泡を吹かしだした。


「いや可愛すぎだから、あたしをキュン死にさせる気なの?」


「だ、だって、あんなの……」


「今だってあたしのために風呂入ってるんでしょ?」


「へ?」


「あ、そうか……アリシアはウブだからこれからアレコレ教えないとダメなのか……」


 リドリーはシャワーを止め、スポンジにボディーソープを染みこませて丁寧に体を洗い始めた。


「ねぇリドリーちゃん」


「ど~したの~アリシア~」


「リドリーちゃんって、胸大きいね」


「アリシアもすぐ育つから」


「どうかな……どれくらいなのサイズ?」


「さぁ、計った事は無いな……前にデカいとは言われたけど」


「前っていつ?」


「700年前」


「変わらないの?」


「呪力持ってるから変わんないよ」


「そうなんだ……」


「そうだよ~」


「……じゃあ、髪の長さも変わらないの?」


「そうだね、切っても伸びてこないよ」


 リドリーは隅々まで体を洗い、シャワーで洗い流した。


「ほら、来てアリシア」


「え?」


「背中流してあげる」


「……ありがと」


 アリシアは少し戸惑いながらも、リドリーの言うとおりに椅子に座り、リドリーはスポンジでアリシアの背中を洗い始めた。


「かゆい所は無い?」


「えっと、もうちょっと右」


「ここ?」


「ああ行き過ぎ……あ、そこそこ……」


「……アリシアはあたしを信じてくれてるんだね」


「え?」


「こんな簡単に背中向けるんだから」


「え、いやだってリドリーちゃんが……」


「そこを疑わないってのが、信じてるってことでしょ?」


「……そう、なのかな」


 話している内に打ち解けたおかげか、アリシアは無防備な背中をリドリーに預けていた。


 どんなに些細な事でも、アリシアにとってこの無意識は成長の一歩だろう。


「もう、考えすぎだってば!」


「ひゃっ!?」


 リドリーは後ろからおもむろにアリシアの胸を鷲掴む。


 邪な思いがある訳では無く、深く考えすぎているアリシアの意識を外側へと向けるためだ。


「ちょ、リドリーちゃん!?」


「信じる信じないなんてその時その時なんだよ、そこまで考えるものじゃない──本当に好きなら、いつの間にか信じてるんだから」


 アリシアはハッとした。


 信じていたものを怖いと思う自分のことが許せなかったのだが、リドリーの一言はアリシアの悩みを吹っ飛ばした。


 考えてみれば、ニールにそれらを話したのは無条件にニールを信じていた訳で、嫌いであればそんなことを話すことはおろか、近付こうとも思わなかったはずだ。


 無論、信じていないのだから。


 悩む以前にアリシアはちゃんとベイルやラルフェウ、レオキスやリドリーを、当然自分自身も、無意識に信じている事をようやく理解した。


「……ありがとう……なんか、こんなあっさり晴れると、深く考えすぎてたのがバカみたいに思えてきたよ」


「お年頃なんだから悩みなさい、人は誰も信じなかったあたしでも変われるんだから、信じるってのはめちゃくちゃ大事でも、疑うより簡単なんだよ」


「うん……リドリーちゃん……ありがとう」


 


 そしてリドリーが再び背中を洗い流そうとした瞬間、走っていた船は急激に停止した。


「えっ!!? 何!?」


「ちっ、なんだよ……」




   ※ ※ ※ ※ ※




 アリシアとリドリーは浴室から出て、着替えて甲板に出てきた。


「うおっ……と、おいラルフェウ急に止めんなよ」


 ベイルは急停止の反動で、1度転がってうつぶせから仰向けになった。


「僕は何も……不自然な止まり方ですね、まるで誰かに食い止められた感覚ですが」


 ラルフェウが船首の下を覗くと、1人の男が右腕で船を押さえていた。


「すみませーん! ご用件は何でしょうかー!?」


「そんな感じのノリで話しかけるんすね」


 ラルフェウの声を聞いた男は突如浮遊し、ゆっくり上昇して甲板の上に立った。


 右手には凄まじいエネルギーが感じ取られる片手槌を握られており、一行は戦闘態勢に入る。


「う、浮いた……」


「どちら様でしょうか」


 リドリーはアリシアの前に立ち、レオキスは男に槍を向け、ラルフェウも含めそれぞれ警戒の色を強めた。


 ベイルだけは「よっこらせ」と言いながら立ち上がり、あくびをかまして余裕を見せた。


「お前がベイル・ペプガールか」


 男は一行1人1人に視線を送り、ベイルの目を見てそう言い放った。


 特徴的な赤髪に金色の瞳、右目元の斬られたような傷跡や鍛え上げられた肉体から実戦経験は豊富だと思われる。


「何故その名前を」


「さすがに分かるか」


「お前だけどう見ても異質だからな、微量のくせにオーラの波状は強者のそれだ」


「……で、用は?」


「俺と〝闘戦テヴム〟しろ」


「いいけど」




   ※ ※ ※ ※ ※




 2人は船を降り、船から5キロ近く離れた草っ原で向かい合った。


 他の一行も船から降り、2人の近くに立つ。


「誰っすか?」


「分かりません……しかし浮遊していたということは妖人の血は入っています……ですが、ハンマーというのが解せない……妖人は肉弾戦は好まないはずですが……」


「……えっと……何が始まるの?……」


「あたしは知らない」


「〝闘戦テヴム〟──古くて今は全く聞かないですが、1対1での決闘を意味し、古来から揉め事を収めるために利用されました──


 ──そのためルールも単純で、自身の力の全てを駆使して戦い、敗者は勝者の意向を汲むというものです」


「そうなんだ……けど何でベイルと……」


「分かりません……力試し? でしょうか」


(だとしてもおかしい……ベイル様は闘値5000だけど、彼は闘値10万……これが見えているなら、闘いというより、一方的な暴力になる……単純に見えていないのだろうか……)


「お前名前は?」


「クラジュー・エフィーグ」


「はいよく言えましたー、どっからでもど」


 クラジューはベイルが言い切る前にベイルの背後に回り、右手に持つ槌を左から右に振り下ろし、ベイルの左側頭部にもろに入れた。


「ぐっ!! おいおい、話はちゃんと聞けよ」


 ベイルはかなり吹き飛び、地面もかなり削ったが、その中で体勢を立て直し、立ち上がった。


「知らねぇな」


 ベイルは振り向きざまにクラジューのみぞおちに右肘を入れにかかるも、クラジューは一瞬で上空にかわした。


「……やはり、ベイル様の攻撃はかわしますか……」


「一筋縄に行かねぇか」


 するとクラジューの持つ槌が突如電気を纏い、ベイルに向かって稲妻を発射した。ベイルはその稲妻をもろにくらった。


「っぐ……く……痛ぇな……てかこの威力……〝聖器ポーマ〟かそれ」


「たかがこけおどしだ」


「な、なんすか……雷なんて……」


「ボロクソ負けだなこりゃ、いや、死ぬか」


「……ベイル……」


(おかしい、今のは妖術ではなかった……つまりあれが能力、だとしたら彼は……)


 するとベイルの回りに1つの、光る蛍ほどの小さな球が浮かんでいた。


「〝雷球(サンダー・コア)〟」


 クラジューがそう言うと、目を凝らすと電気を帯びているその球が、ベイル目掛けて爆発するように電撃波を放った。


「ぐあああっ!!!」


 ベイルは為す術なく防げず、衝撃でさっきよりも吹き飛ぶ。


 体の痺れや僅かな攻撃の防御での体力の消耗が激しいこともあり、立てずにいた。


「はぁ……はぁ……」


「アニキ!!」


「……ベイル様」


「球1つで稲妻一発の威力だ……ベイル・ペプガールでも、堪えるんだな」


「……たかが一発だろ、余裕余ゆ」


 クラジューはベイルが言葉を言い切る直前に、槌をベイルの顔面に向かって思い切り振り抜く。


 ベイルはさらに吹き飛ばされ、数キロ先にある集落の1軒の家に激突し大破させた。


 ベイルは衝撃に耐えきれず、仰向けに倒れてついに気絶した。


「大したことねぇな」


「……もしかしてあなた──ソラの一族ですか?」

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