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Past Letter  作者: 東師越
第4章 My friend is My enemy
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第112話 クレイジー×クレイジー

 翌朝、10年前まではただの草原だったルブラー周辺は活発あ貿易により交通の便が良くなったため、ところどころに街や店、宿泊施設が少なからず増えている。


 そんな壮大な大地のど真ん中の、まだサン・ラピヌ・シ・ソノからほど遠い地でラルフェウは船を止めた。


 「キューちゃん、どうしたの?」


 「……いえ、車輪の動きや魔力の燃費が以前より悪いですね……手入れはしなかったのですか?」


 「……あ……ああ……ごめんなさい」


 この10年間1度も船は動かしていない訳では無い、アリシアが人間界の街々を訪問する際に利用していたため、清掃や点検は怠ることはなかった。


 しかし魔力の回路、要するにこの船のエンジンの点検は誰も出来なかった。


 その仕組みを誰も理解出来ない、動力源が魔力100%という唯一無二の仕組みのエンジンを誰も理解出来ないのだ。


 ただ船上に魔力を体に循環させる者が「いる」だけで動く船を造った者が誰なのか、一行でそれを知るのはハロドックのみとなっている。


 だがラルフェウは魔力の流れを操り、エンジンの性質などを勘で理解し、ハロドックすらも迂闊に手が出せない精密なエンジンを解体し清掃、点検を行っていた。


 「……いえ」


 とはいえ10年間も放置していればさすがにガタが来る、僅かな違和感も見逃さなかったラルフェウはこれから待ち受けるやや面倒な作業を行うと思うと憂鬱になる。


 ラルフェウはため息をつき、先頭から50メートル離れた船の最後方の機械室に入っていった。


 「……若干怒ってたね……」


 「いんじゃない別に手入れとか」


 アリシアはラルフェウが点検を怠った事を怒ったためのため息だと思い込んでいる。


 「けどキューちゃんは気になるんだよ……あとリドリーちゃん」


 「ん~?」


 「私の頭の上にその脂肪の塊を乗せるのは、新手のいじめか何かかな?」


 「んも~アリシアもあるから大丈夫~」


 リドリーは後ろから自分の胸をアリシアの頭に乗せながら、アリシアの胸を揉みまくった。


 「ちょっとやめてよ、恥ずかしいから……んっ……」


 「あ~なんかムラムラしきた」


 「しないでよ……あっ……」




   ※ ※ ※ ※ ※




 アリシアとリドリーがイチャついてる様子を、ハロドックはダイニングの窓からガン見していた。


 「良き、百合良き……ああ良きかな良きかな」


 「咲いてるんすか?」


 この世に女同士のカップルを百合という文化はどの世界にも存在しない。


 にも関わらずハロドックは的確にその意味を理解して駆使している。


 百合とはつまり花なのだから、レオキスがそう問うのは必然だった。


 「馬鹿野郎、俺はやることやって賢者になっても花を愛でようとは思わねぇぞ」


 「聞いてないっすよ……」


 「まさか朝っぱらからこんな眼福を得られるとは、このまま服脱ぎあえよおい」


 「ハロドックサン、ズボン脱ごうとしないでくださいっす」


 そちらの方も目覚めた様子のハロドックは抑え込むためにズボンを脱ごうとするが、ずっと見ていたい光景のために手は止める。


 「すげぇなリドリー、俺顔負けの揉み方だぞ、テクニシャンの焦らし方だな……アリシアが振り向けばキスする……いや耳だ!耳をふーふーして舐め始めた!舐め始めたぞおい!」


 「うるさいっす」


 「お前!!!性に興味ねぇのか!!!」


 さすがに小言にキレたハロドックは振り向いて朝食を調理中のレオキスを睨む。


 「もしかしてハロドックサンが気持ち悪く見えるのは性欲が少ないからっすかね」


 「アリシア顔は良いから、いやなんか10年前より大人の顔付きになったから艶めかしさが増えて、あ、でも初々しいし童顔だから僅かな幼さがいいスパイスを……


 ……おおアリシアが足をモジモジし始め……ん?なんか喋って……あ、リドリーちゃんこっち向いたあー目合った、アリシアから離れて~目がマジで~こっちに近づいて~……あれ、消えた」


 「死のうか」


 リドリーは瞬時にハロドックの背後から左手で首を掴んだ。


 「……レオキス……助けて……」


 「自業自得っす」


 レオキスは終始ハロドックに目を向ける事無く、下を向いて野菜や肉を切って料理の準備を進めていた。


 ハロドックはその後リドリーによってボロクソにされるも、終始笑顔だったそう。




   ※ ※ ※ ※ ※




 「……あれ……ここは」


 数時間後の昼過ぎ、船の一室のベッドの上でバニルは目を覚ました。


 ちなみに船はまだ止まったまま。


 「……えっと……トイレ……えっ!!?」


 バニルと同室の床にはベイルが全裸でバスタオルを腹にかけて眠っていた。


 「ご、ごめんなさい!!!」


 バニルを思わず目をそらし目を瞑って部屋を出た。


 「……お風呂を出たまま寝たんでしょうか……でも、起きたら色々感謝の言葉言わないと……」


 バニルはトイレを探すため船を回り始めた、この船の凄さに感嘆する暇も無く。


 その途中では不自然な程誰とも会わなかった。


 「大きい船……何で車輪がついて陸走るようにしたんだろ……ここかな」


 バニルがドアを開けると、風呂上りで全裸のまま髪を拭くクラジューの姿があった。


 「あ?」


 「ごごごご、ごめんなさい!!!!」


 バニルは目をそらし、勢いよくドアを閉めた。


 「はぁ……はぁ……どうしよう……ベイルさんとか……ちょっと見ちゃった……」


 バニルは顔を赤らめながら、トイレのドアを開けると、何故か全裸で便器に座りながら微睡むキリウスの姿があった。


 「がぁー……ごぁー……」


 「いいいやああああああ!!!!」


 バニルは再び目をそらし、思い切りドアを閉めた。


 「な……何故裸で……しかも……お……大きい……」


 バニルは両手を顔の頬に当てながら、廊下を歩いていた。


 「……他にトイレあるかな……」


 バニルは船を歩き回り、何故か機械室に入っていった。


 そこには調整の最終段階に入り、全裸になって魔力の流れを細かく確認するラルフェウの姿があった。


 「……あ、バニルさん、もう大丈夫なんですか?」


 「しししし失礼しましたああああああ!!!!」


 バニルは以下略、部屋を出て訳なく走っていった。


 (何?え今日何?厄日?ただ用を足したいだけで同じアクシデントに起きてからここまで四回起きるってどういうこと!?何かよく分かんないけど…何で走ってるの私!!?)




   ※ ※ ※ ※ ※




 「あへぇ……快……感……」


 ハロドックは食堂で数時間ずっとボロクソにされて悶絶していた。


 「マジでキモいんで出てってくださいっす」


 「いやあのな、目つきクソ悪いし攻撃的だし声のトーンが1オクターブ下がるし罵声しか言わねぇけど、それでもあの超絶スタイルで美人な子に攻撃され罵られてる事実がそこにあるんなら、俺は受け入れる、いやむしろそれがいい」


 「許容範囲とか無いんすか?……」


 「ああ男同士は無しな、華がねぇ」


 「蔑視っすよそれ」


 「いや否定はしてねぇよ、俺はエロを愛しエロに愛された生来の変態、性のあり方を否定は断固しねぇ、だが俺はそっち側じゃねぇってだけだ……男の娘ならワンチャンある」


 血迷っているとしか思えないハロドックにレオキスはもう驚きもしない。


 「ガチ説得されて少し見る目変えようと思ったらオチ予想通りだったから普通に軽蔑するっす」


 「しかし、しばかれるのは定期的にして欲しいが、服がいちいちボロボロになるのは嫌だな~」


 「もう全裸でいいんじゃないんすか?」


 「馬鹿野郎、服は脱がし脱がして貰うために着るんだよ、そういう一つ一つの遠回りが程良い緊張感を保つんだよ、分かれ童貞」


 「はあ……」


 「だが、露出の快感は嫌いじゃねぇ、という訳であえて脱いだまま部屋に戻る」


 「いちいち言うなよ……」


 「もはや「~っす」が無くなんのかよ……」


 ハロドックはその場で全裸になり、部屋に戻ろうとダイニングのドアを開けると同じくドアを開けたバニルと激突した。


 「うっ、あ、すみませ……」


 「おお起きたかバニルちゃん、ところで14の体でそのけしからんおっぱいを持つ感想を是非とも」


 「あああああああああああ……ああああああ……」


 バニルはハロドックの全裸も見てしまい、目が回り赤面した顔から湯気を出して失神した。


 「無理してたのか?……おいおい俺に襲われたいのかよ……ほほう……」




   ※ ※ ※ ※ ※




 数時間後、バニルはアリシアの部屋のベッドで目を覚ましアリシアがついていた。


 ちなみに船は動き出している。


 「あ、大丈夫?」


 「……あの……ここは……」


 「私の部屋、まだ安静にしてた方が…」


 「はい……あ」


 バニルは朦朧とする意識の中で、倒れる前の今日の出来事がフラッシュバックし、布団をめくって中を見た。


 「……変わってる……あの……非常に聞きにくいんですけど……」


 「ああ……えっと……倒れた後介抱して、濡れたところは拭いて、着替えさせたの……ハロドックさんが」


 「───」


 バニルは数秒俯いて黙り込んだ後、右拳で自分の右頬を一発殴った。


 「えっ!?ちょっと!……」


 「……は……恥ずかしい限りです……私もまだ色々、環境や状況に混乱し、運に恵まれなかったこともありますが……まさか……人前で粗相をして、なおかつ下の世話になるだなんて……不覚です……」


 ジェノサイドの最高幹部であり8メートルの巨漢を持つ男を沈めるほどに強力は技と肉体を持っているバニル。


 いくら状況が目まぐるしく変わり、存在は知りながら見たことの無いものを同時にいくつも見たならば初心(うぶ)なバニルでも精神的に耐えられなかった。


 あまりにもタイミング悪く膀胱の限界が来た事は自らの心の弛みだと、想像するだけで死にたくなるほどの恥を認めて気を入れ直す。


 「……あ……そう考えるんだ……」


 「どういうことですか?……あと……この下着ピッタリなんですが、誰のを拝借しているんですか?」


 「……ハロドックさん、自分の服で出ちゃったの拭いて、どこからか盗み出した下着を着せて、着てたのは持ってっちゃって……」


 「え」


 「ごめん!私の部屋にいきなり運び込まれた時はもう……事後で……」


 「……あの……アリシアさん……」


 「……何……かな……」


 「ベイルさんは見るからにお風呂上がりでしたし、脱衣所で出くわした方の件は、完全に私のせいでまだ理解の範疇ですけど……


 ……後の3人は何なんですか……全裸で寝て、全裸で深呼吸して、全裸で出てきて……この船には変態しかいないんですか?」


 「……うん」


 「へ、へぇ……」


 騒ぎ立てる事無く冷静にディスるバニルの見解にアリシアは迷わなかったが、タメを作って肯定する。


 バニルは、自身がこの環境に慣れる日は来ないなと思ってしまった。

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