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Past Letter  作者: 東師越
第1章 〝死神〟と呼ばれる男
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第9話 刺客

「……初めて……え……何が……」


「大丈夫だよ、あたし虫歯持ってないから」


「……え……えぇ……」


 アリシアはずっと赤面していた。


 いきなりキスをされたのもそうだが、それ以上にキスとは唇と唇をくっつけるだけのふわっとした感じという認識を持っていたため、舌を入れられたことにかつてない衝撃を覚えた。


「名前、なんて言うの?」


「あ……アリシア・クルエル……です……」


「……そっか、やっぱりか……」


「え?」


 女は微笑みから喜びをにじみ出し、直立不動のアリシアの回りを1周し、じっくり舐めるように上から下までその体を見ていた。


「あたしはリドリー・ミボル、あたしはアリシアを愛してる」


「えっ!!!? ……初対面……ですよね……」


「あるかもしれないし、ないかもしれない」


「えぇ……」


 2人の世界観に付け入るスキが無いベイルとラルフェウは、少し遠目に彼女らを眺めていた。


「ベイル様、敵……では、無さそうですが……」


「まあ都合良いだろ……〝死神魂デケム・メア〟持ってるし」


「……もう3人目ですか……」


「逆に1000年かけてお前だけだったんだから、今までのツケが回ってきたんだよ」


「ベイル様、それ意味が違います」


「似たようなもんだろ、おいお前、俺に着いてこい」


「断る」


 ベイルは自然な感じでリドリーを勧誘したが、リドリーは途端にベイルを睨み付け拒否した。


「そりゃそうですよ……」


「あたしはアリシアが行くところに着いていく、ただそれだけ」


「……うん、それでいいわ」


 リドリーはアリシアの後ろから抱きつき、アリシアの髪の匂いを嗅ぐなど、見せつけるような愛情表現を繰り返した。


「あの、リドリーさん……」


「やめてよ他人行儀なのは、愛し合う仲なんだから」


「え……えっと……じゃあ……リドリーちゃん」


「──」


 リドリーは驚愕の目をアリシアに向けた。


 アリシアは何故だかネーミングセンスが斜め上を行くが、細かい理由はおそらく無い。


「……ダメだったかな……」


「いや……いい……最高……今までそんな呼ばれ方したことなかったから」


 リドリーはアリシアを少し強く抱きしめる。


 顔を赤らめて心臓をバクバクと鼓動を速めるなど、アリシアの不意打ちにたまらずキュンキュンしている様子を見せていた。


「……そう……リドリーちゃんは、何で私が好きなの?」


「アリシアだから」


「え……?」


「別に、特別な血だからじゃない──目が合った瞬間に、好きだって確信した……それだけ」


「……そんな……初対面の人のことを、そんな簡単に好きになれるなんて……」


「……頭おかしいって思ってる?」


「……少し」


「理由は少しある……けどアリシアが好きだって事は本気だから、あたしの身も心も力も、全部アリシアのモノ」


 リドリーは話しながらアリシアの顔の前に立ち、右手でアリシアの左頬に優しく触れた。


(わ……すごく綺麗な目……)


 リドリーは誘惑するかの如くアリシアにスキンシップを図るが、アリシアは全く意に介さず、興味本位で潤むリドリーの目に見とれていた。


「どうでもいいけど外行こうぜ~」


「黙れチビ」


「辛辣~」




   ※ ※ ※ ※ ※




 その後、リドリーを含めた4人は建造物から外に出た。


 結局何のために在る建築物なのかは不明のままに終わった。


 自分から離れる様子の無いリドリーを見て、アリシアは戸惑いを隠せなかったが、かといってベイル達が何かしらの対策をしてくれるとは微塵も思っていなかった。


「もうアリシアの世話丸投げ出来んなおい」


「しかし、コーゴー辺りが攻めてこられたら彼女一人ではとても……」




「──コーゴーが、何だって?」




 4人の前に現れた男は全身がボロボロで、気絶しているレオキスの服の襟を引っ張りながら歩いて近付き、ベイルの前にレオキスを投げ捨てた。


「案の定ですよベイル様……どうされますか?」


「俺がやるよ」


 男──マラクは4人を見回し、危険を察知して剣を抜いた。


(王女さんにくっついてる女が闘値9700、チビの男は5000、その隣の男は……8000万!!? バカな……たかが人間界にここまでの奴が…)


「下がってくださいベイル様、僕が相手します」


「お、やる気か?」


「やる気というよりは、今のベイル様には少々荷が重いと思った次第です」


 ラルフェウはベイルの1歩前に立ち、マラクと対峙し始めた。


「……あっそう、んじゃ観戦しとくわー」


 ベイルはあっさりと引き、レオキスの服の襟を引っ張りながら湖の水面を普通に歩き、水面に波紋を描きながら湖の中心で腰を下ろした。


 レオキスはギリギリ呼吸が可能なくらいに湖に沈めて、水の中で直立の姿勢で浮かせていた。


「お2人もあちらへ」


「は? 無理に決まってんだろ」


「そうですか……っ!!」


 ラルフェウが一瞬後ろを向いて注意を逸らしたために、マラクは勢いよく間合いを詰めてラルフェウに向かって剣を振り下ろした。


 ラルフェウは瞬時にかわすものの、僅かに反応が遅れて、右手の人差し指と中指の第一関節部分が斬り落とされていた。


「キューちゃん!!」


 マラクは瞬時に下がり、元の位置に立って剣を構えていた。


「──」


 ラルフェウは少し驚いた表情を浮かべ、斬られて血が絶え間なく流れ出る指の断面を見た。


「何をそんなに驚いてんだ、今の一撃で殺るつもりだったんだが」


(……なるほど……闘値9200万、今まで見てきた中ではかなり低いから忘れてたけど……彼は僕より上なのか)


「その闘値、服装と似合って無いですね」


「え? ああ、俺人間界の兵団じゃねぇし、この服装だと色々便利なわけよ」


「……コーゴーの聖戦士ですか」


「さあ、どうだか」


「……まあいいです、おそらくコーゴーが狙っているのはアリシアさんではなく、ベイル様でしょうから……」


 するとラルフェウは斬り落とされた指の部分を数秒で再生し、何もなかったかのように元通りに戻した。


「なっ!?」


「思う存分闘れますね」


 ラルフェウはその場にいなかった。


 マラクは確かに「思う存分」という所までは前にいるラルフェウの口から聞いていた。


 だが「闘れますね」の部分は何故か、自身の背後から聞こえてきた。


 振り返らなくても分かる。そこには先程まで目の前にいたはずのラルフェウが立っている。


 まばたきはしなかった、なのに消えた……理解する前に、左腕をもろにラルフェウの左脚の蹴りを入れられた。


「ぐっ……」


 マラクは衝撃を緩和するために、わざと吹っ飛ばされた。


 湖の水面とのギリギリの空中を吹っ飛び、ベイルとレオキスの左横を通り過ぎて湖を渡りきり、木に背中を激突させた。


「惜しい、骨まで影響を及ぼせなかった……」


「ちっ……今ので軽くって感覚なのかよ」


「ねぇ、キューちゃん今指が……どういうこと?」


「あたしにも分かんないよ……けど、あれは治癒じゃなかった」


 アリシアもリドリーもあの一瞬の間に起こった出来事を理解出来ず、さらにラルフェウの速度に目が追い着かず、気が付くとマラクが木に激突していた、という風だった。


「おいラルフェウ森は壊すなよー、珍味無くなっちまうだろ」


「分かっています」


 マラクは左腕を曲げ伸ばしして動く事を確認し、足形がつく程右足を踏み込んで一直線にラルフェウに向かい、両手に持った剣で喉元に突きを狙った。


 ラルフェウは間一髪で上空へ跳んでかわし、空中で1回転してからマラクの頭にかかとを落としにかかった。


 マラクはこれを容易に読み、左に素早くサイドステップをしてかわしながら、地面に降りてきたラルフェウの頭に向かって大きく速く剣を振り下ろした。


「クソが」


「あの、大したことないですよ?」


 ラルフェウはしゃがみながら、剣の刃先を右手の親指と人差し指でつまんで防いでいた。


「きっ! っ!?」


 マラクはまたも目を疑った。


 ラルフェウに指でつままれたままの剣先を奴の手元からどれだけ離そうとしても離れなかった、それなのに気付けばラルフェウの右手の平が自身の顔面を掴んでいたからだ。


 ラルフェウは何の動く前触れも無くマラクの右隣に立ち、マラクの顔面を右手で掴んだまま地面に叩き付けた。


「うぐっ……」


 マラクは剣を上空に投げ上げ、掴んで離さないラルフェウの右腕を両手で掴み、両足で挟んで両足に大きく力を入れてラルフェウをうつぶせに倒した。


「おおおおっ!!!」


 それからラルフェウの右腕を逆方向に曲げてへし折り、顔面から手を離してラルフェウの胸ぐらを左腕で掴んで顔面を右拳で殴り、右膝で蹴り、みぞおちを右足のつま先で突くように蹴りを入れた。


「がはっ……」


「はあああっ!!!」


 マラクはラルフェウが怯んだ所で胸ぐらを離し、横に半回転して左肘で顔面を殴り飛ばし、ラルフェウは木に激突して座り込んだ。


「死ねぇ!!!」


 マラクはラルフェウの元に走りながら、右手を上に向け、落下してくる剣を握ろうとするも──




「……な……んだと……」


 背後からマラクの腹を貫通させて突き刺した剣は、紛れもなくマラクの持っていた剣だった。


 そしてその剣を持っているのは、つい1秒前まで目の前でくたびれていたラルフェウのへし折ったはずの右手だった。


「バカ……な……」


「僕の呪力は〝瞬間移動ワープ〟──見える範囲内の空間や行ったことのある場所は、距離の制限はありますが、どこでも瞬間的に移動することが出来ます……例えば……あなたの背後、だとか」


 マラクは血を吐き、ラルフェウが剣を抜くと前に3歩踏み出す。


 相当息を切らし、立っているのがやっとだった。


「終わりです」


「あ……はは……え? ああ……勝手に終わらしてんじゃねぇよ」


 マラクがそう言い、ラルフェウの顔を振り向いて睨み付けると、ラルフェウの背後から突如先の鋭利な木が地面から相当速いスピードで現れ──


「うがっ!!? ぐぁ……」


 ラルフェウの背中を突き刺し貫通し、ラルフェウの腹部に大きな穴を開けた。


「キューちゃん!!!!」


「舐めてんじゃねぇぞ、魔人族」

ラルフェウ・ロマノフ

性別 男 種族 魔人族 年齢 2000年以上は生きている。

呪力 〝瞬間移動ワープ〟 見える範囲内の空間と行ったことのある場所は、距離の制限はあるが瞬間的に移動することが可能。

身長 187センチ 体重94キロ 誕生日 10月7日


ベイルを崇める青年のナリの魔人。体内に〝死神魂デケム・メア〟を宿している。

少し天然な部分もあるが、一応常識はある。

かなりいいガタイだが、着痩せするタイプ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 設定が面白く、ここまで読み進めました。 キャラクターの関係性&会話がいいですね! 存在感があり、文章もきれいです。 これからも、よろしく!
2019/11/27 11:03 退会済み
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