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三千里ほど先  作者: 白玉之一太刀
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二里目 魅せるは技の完成形

 突如、声を背後から声をかけられ、それだけでもかなり困惑したのだが、更に道場に来てほしい?

 全く理解が出来ない。


 「貴方を一目見たときピンときたんです。素質があると。」

 困惑する俺を無視して彼はそう続ける。

 「道場って武術とかなんすか?」

 今、最も疑問視していることを問う。

 「はい。空手です。どうかお考えください。」


 彼は笑顔で俺の手を握る。

 だが、肝心なことを聞いていない。

 俺にとっては最重要な事を。


 「でも、お高いんで......」

 「今なら僕の推薦ということでタダにします!」

 「よし!是非お願いします!」

 俺は態度を直し、彼にお辞儀をする。

 

 「あっ、お名前を教えてませんでしたね。僕は二年の佐藤忠信(さとうただのぶ)です。」

 「一年の鎌崎成実です。宜しくお願いします。」


 お互い自己紹介をし、何故そんなに強いのかを聞かれ自分の境遇をありのまま話す。

 「なるほど、そんな辛い過去があったからこそ強くなれたんですね。」

 「強いかどうかと言われると分かりませんがそこをバネにして努力したからこそ、昔よりは強くなれましたね。」


 忠信先輩は俺の話を頷きながら聞いてくれるので、つい話しすぎてしまう。


 「そういえば、その道場は何処にあるんですか?」

 「あっ、言い忘れていました。新坂(しんざか)商店街の側にあるのですが、建物が大きいので分かりやすいと思います。」

 「分かりました。放課後行ってみます。」


 と、そこでチャイムが鳴る。

 「じゃあ、後は道場で。」

 そう言うと、忠信先輩はお辞儀をし去っていった。

 俺は勿論、後輩なわけだが、その後輩にすら敬語で喋ってくれるなんて優しいな~と思いながら教室に向かう。


 その後、授業を終え道場に向かうのではなく一旦、家に帰る。

 「お帰り。学校どうだった?」

 「特になにもない、普通かな。」

 母に帰りを告げる。


 父は俺が生まれた頃、何処か旅に出ると言い一向に帰ってこない。

 それに続き、兄まで当時兄が中学の頃、家を飛び出したっきり、帰ってはいない。


 つまり家には母と俺しかいないのだが、母には感謝している。俺が病に倒れた時も、ずっと俺を支えてくれた。

 何より、過度なトレーニングにも耐えうる丈夫な体に産んでくれてとてもありがたいと思っている。

 「ちょっと出掛けてくる」

 「分かったわ。気を付けるのよ。」

 母にそう言って道場へ向かう。


 新坂商店街は比較的繁盛している商店街で平日でも、かなり人がいる。

 少し歩くと、新坂商店街の入り口の近くに大きな塀に囲まれた、屋敷を見つける。

 屋敷の門には大きく上心(じょうしん)道場と書かれた木の板がある。


 「お待ちしておりました。」

 気が付くと忠信先輩が後ろにいる。

 「いたんですね。本当、気付かなかったです。」

 俺は笑いながら呟く。

 「そうですか。なら私は成実君に二度背後をとってることになりますね。でも卑怯な事が嫌いなので大した意味はないですけどね。」

 先輩も笑いながら如何にも武士道精神と言える様なことを呟く。


 「どうぞ、こちらです。」

 その後先輩は道場の門を開け、道場まで俺を連れていく。


 道場の、扉を開けると、そこには二十人程度の人が稽古をしている。

 「じゃあまずは、そこの更衣室でこの空手着に着替えてください。」

 先輩は更衣室を指差し俺に空手着を手渡す。

 「分かりました。」

 俺は早速、更衣室で空手着に着替える。

 「着替え終わりました?」

 「はい。終わりました。」


 そう答え更衣室を出ると、先輩とその隣に皺の多いお爺さんが立っていた。


 「この方は僕らの師匠の登道寺秋吉(とうどうじあきよし)師匠です。」

 「おお、君が新入り君か」

 「はい、鎌崎成実といいます。宜しくお願いします。」

 「鎌崎......なるほど。」

 俺が自己紹介をすると、師匠は不思議そうな顔をして、そう呟いた。


 「はい、そうですが......何か?......」

 「いやいや、独り言じゃよ。ところでこんな爺といっぺん手合わせしてくれんかな?」

 師匠は皺のある口角を吊り上げ笑みをこぼす。

 「分かりました......」

 少し怖かったが、言われた通り手合わせをするため、間合いを取る。

 

 「老いぼれ相手といって手を抜かんでいいぞ。」

 師匠は独特な構えをとりそう言った。

 それは右手右足を前に出し、両手は体の前にある何かを掴む様に僅かな空間を作っている。


 「試合開始ッ!」

 師匠と俺の間にいた人がそう叫ぶ。

 が、師匠は一向に攻めてこない。

 

 「だったらこっちからッ!」

 俺は駆け出し一気に間合いを詰め、師匠の腹部目掛けて蹴りを入れる。

 バシッ!

 「......ッ!?」

 蹴りを入れたその瞬間軽く蹴りを受け流され、無防備だった腕を師匠が掴むとホイっと軽く投げられ、腕を締め上げられる。


 「勝負ありッ!」

 

 そう号令があると、ビクともしなかった腕がスッと楽になる。

 「鎌崎と、言ったかな小僧」

 師匠は冷淡にそう呟く。

 「筋力(パワー)持久力(スタミナ)大いに鍛えて結構。だが、鍛えるだけじゃあ格闘技、これにおいては論外も論外。」

 そう言うと、再び朗らかな笑みを浮かべその場で足を組んで座る。


 「格闘技には相手の力を利用するものも、あるのじゃぞ。」


 師匠の後ろには“合気道”と書かれた掛け軸があった。

成実の訪れた道場の師匠は合気道の熟練者!?

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