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三千里ほど先  作者: 白玉之一太刀
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一里目 努力は強者に牙を剥く

初投稿で至らぬ点が多いとは思いますが暖かい目で見てくださいますと幸いです。


 俺、鎌崎成実(かまさきなるみ)は幼少期、生まれ持った病に一人苦しんでいた。

 差し込む夕陽すら俺の体を蝕んでいるように思えた。


 その上、身体も小さく細く、如何(いか)にも貧弱という言葉が当てはまっていた。


 こんな身体なら勿論、いじめられていた。

 背の高い者、力の強い者、そいつらが中心であったことは言うまでもない。


「世界は不条理だ。」


 そんな言葉が苦しいときによく脳裏を過った。

 俺の人生ならそう思ってしまうのは、ある意味必然そのものだったのかもしれない。


 そんな俺は一人、病室のベットの上で決意する。

 こんな身体に生まれても、こんな境遇でも、必ず手に入れる。

 才能を持ったもの、強者として産まれ、生きるもの。


 その全てを、努力で倒す。

 

 涙で腫れた目は血眼だっただろう。

 それ程に強く、強く決意した。


 数年後、病は完治したが、そこからはただ努力の日々だった。

 ウエイトトレーニングは勿論、朝から晩まで休むことなくサンドバッグを殴り続けた。

 冬には何十キロも走り続けた。


 最初の内は、何度も身体が悲鳴をあげ四肢が動かなくなることもあったが、身体が諦めても心は諦めなかった。


 心の奥底、そこに突き刺さった決意という槍。


 例え四肢が機能しなくとも、身体の限界を迎えてもその意思が曲がることはなかった。


 両腕が動かないならバーベルを叫びながら持ち上げた。

 四肢が機能しないなら体重を乗せてサンドバッグを蹴った、殴った。

 身体が限界を迎え倒れそうなら、倒れながら手を地べたに付け腕立て伏せを行った。


 氷点下を越える山道を走るのは地獄そのもので指の先から、手の平、腕、そして爪先から、足の平、足そのものと順に感覚がなくなりやがて走っているのかどうかすら分からなくなる。


だが、周りが凍ろうが身体が凍ろうが心に灯った意思の炎が凍ることはなかった。


 一度決めた固い意思。

 その歯車が回り続ける限り幾多のトレーニングを越えることができた。

 弱い自分を呪い強さを求める。

 何よりもシンプルで単純だ。


 そんな生活を続けながら過ごしていると、高校に入る頃には周りのチンピラでは相手にすらならない程に強くなった。

 高校にはもっと強い相手がいるのだろうか。

 玩具を貰う前の子供の様にただただワクワクしていた。


 美しく桜に彩られた道はラクガキの校舎によって抹消さる。

 そう、今日から通う倉霧高校は県内でも最下位の学力、治安の悪さを誇る、今では数少ないヤンキー校である。


 校門に入り数メートルのところに、先輩とおぼしき人物が数十人いるのが分かる。

 その理由を理解するのは以外と早かった。

 喝上げという金を無理矢理取り上げる恐喝行為を行うためである。

 そして今もなお、新入生が先輩に千円札を渡している。


 先ほども述べた通りここはヤンキー校

 無論、そんな学校なら新入生の喝上げなんてもはや、当たり前を通り越して、学校の一大イベントとでも言えるものである。


 そうこうしている内に俺の番が回ってくる。

 だが、生憎(あいにく)朝、学校に来る前にコンビニで好物のチョコパンを買ってしまい持ち金が十円しかない。

 

「金出せや。分かるよな新入生君。」

 先輩は微笑みながらそう呟く。

「すんません。今持ち金がないっす。」

「なぁ......下らん嘘はええんやて。ここで生きたけりゃさっさと出すもん出した方がええで?」


 先輩は俺の発言が気に食わなかったのか少し怒ったような表情になり、吐き捨てるように言った


 「すんません、本当に一文もないっす。」

 俺は先輩の前で土下座し許しを請おうとする。

 「馬鹿かテメェは!そんなもんで許されると思っとんのかクソアマ!」

 土下座という行為自体が不満だったのか先輩は声を荒げる。

 「じゃあ許さなくていいです。ところで先輩、クラウチングスタートって知ってます?」

 「は?何を言って......」


 先輩が発言する前に俺は土下座の状態から陸上競技のクラウチングスタートの姿勢に一瞬でなりそのまま、スタートダッシュの力を逃がさず真上に蹴り上げる。


 蹴り上げた足は先輩の顎を正確に捉え、先輩は一歩二歩よろめき、倒れる。

 それもそのはず、顎の骨は完全に砕けその上に脳震盪(のうしんとう)のおまけ付きだ。


 俺はこの技をクラウチングアタックと名付けている。

 元は陸上競技の短距離のスタートで選手が行う上体を屈めてスタートするクラウチングスタートからきており、その爆発的な加速力を蹴りに応用した技である。

 

 先輩は倒れ、周りの奴らも怒って乱戦になると思いきや誰も手出しはしてこず、それどころか今、先輩と俺の間で起こった出来事を理解できてないようだ。

 皆、唖然としており、誰一人として動こうとしたり喋ろうとしたりする者はいない。

 

 それなら(むし)ろ幸運。

 逃げるチャンスを得ることができた。


 俺は群衆を抜け、泥棒になった気分で校舎裏まで走って逃げる。

「ちょっとお話いいですか?」

 校舎裏に差し掛かった頃、いきなり声をかけられ後ろを振り返る。

 そこには、息を荒げる丸坊主の男がいた。

 その男は丸顔でとても優しそうな顔つきである。


「なんすか?」

「単刀直入に言います。」

 そう言うと彼は息を整えてこう言う。

「僕の道場へ来てくださいませんか?」

感想や指摘など随時お待ちしております。

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