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2 腕っ節が強そうだけど

 ゴツン!

 花畑を少し進むと、また見えない壁があった。勢いよく鼻からぶつかってしまった。


「いたっ!」

 自分の声だとは信じられない、しわがれた声が響いた。

 悲しくて涙が出てくる。

 途中一度振り返ったが、もう戦の神はいなかったし、どうすればいいんだろう?誰に聞けばいいの?


「いや、誰にも頼らないで今までもやってきたよね」

 私は誰にも弱みを見せない。

 誰にも頼らない。

 いかに周りに迷惑をかけずに普通の生活を送れるかだけを考えていた、自分らしさなんて考えることもなかった毎日。


「夢でも現実でも、もう開き直っちゃおうかな。夢なら楽しめばいいし、現実でも楽しんだ方がいいしね!」


 ストーカー達くらいしか、私を探す人はいないしね。


 何か吹っ切れた気がした瞬間、突如眩しく光る壁が見えた。それは目の前でガラガラと崩れてきた!


「きゃああ!」

 しわがれた声で、私は久しぶりに悲鳴をあげた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇


 気を失っていたのかな?

 私は地面に倒れ込んでいた。土の匂いがする……口の中には入ってないみたいで良かった。


 起き上がると、周囲は暗闇だった。

 光る花畑はどこにも見えない。

 月明かりを頼りに目を凝らして自分の手を見るけど、やっぱり呪いの姿のままだった。


「夢じゃないみたい。荷物も無くなっちゃったし……ああっ、コロッケ食べそこねた!」


 急にお腹が空いてきて、コロッケの事を思い出しちゃった。美味しそうだったのになあ。


 空を見上げると、月は二つ出ていた。

 それぞれ、同じくらい欠けている。新月の日がどうとか言ってたっけ?満月だったかな?

 色々説明されていた気がするけど、人間混乱していると記憶がすごく曖昧になるのね。説明を受けた前後の繋がりすらももう朧げ。


 それとも、ここが異世界だから、呪いが強いから、人間としての記憶力が低下している……?


 怖い考えに、体がブルっと震えた。


「私は人間、私は人間」


 呟きながら、食べ物と飲み水を手に入れたくて移動を始めた。


 足元は土が見える地面、周囲には膝くらいまでの草むら。どうやらここは道になっているみたい。幅は、広くなってたり狭くなってたり、きちんと整備されている感じではないけど……。

 だいたい、日本の大きな道路の歩道くらいの幅はあるし、歩くのは困難ではなさそうだね。


 問題は、裸足だってことかなって。

 長袖のシャツワンピースと、レギンス、ストール、手袋、スニーカー。私が身につけていたはずのそれらは、全て無くなっていた。でも裸じゃなくって、布切れ一枚って感じのマントを身につけていたの。


 マントの中は裸だけどね……。


 まあ、ドレスを着たオバケみたいなカエル姿も見られたものじゃないだろうけど、マント一枚って心許ないよ〜。


 私は前を抑えながら、裸足の緑の足でペタペタと歩みを進めた。足は、今のところ痛くない。


「私は人間、私は人間」


 声に出していないと、さみしくて不安で、そして自分は本当は生まれつきカエルオバケだったんじゃないかって気がしてきて怖かった。


 夜空に浮かぶ月の位置が、少し変わってきたなあと思う頃には、私は街の近くまで進んでいた。森の中とかじゃなくてよかった。

 でも、この姿じゃ街には入れないよね……?それとも異世界は、カエル人間がたくさん住んでるとか?


 壁みたいなものに囲われている街は、大きな門があって、その前に兵隊さんらしき人たちが立っている。

 遠目では、カエル人間なのか普通の人間なのか、映画で見たようなライオン人間とかなのかさっぱり分からなかった。


「どうしよう」


 朧げな記憶では、人々に嫌われる姿になる呪いって感じのことを言われてた気がするし……。


「お腹空いてるし、のども渇いたけど……街は見えてるし、焦らず朝まで待った方がいいかな?確か昼間は人間の姿になれるんだよね」


 私は戦の神の話を思い出して、それ以上街に近づくのをやめた。


 少し引き返して、草むらの向こう側にある大木に向かった。


「私は人間、私は人間」


 大木の近くに、大きめの岩があった。


「木登りができる気がしないし、地面で寝るよりマシかな?」


 私は窪みにペタペタと足をかけながら岩に登って、虫がいないことを確認して丸くなった。


「寒くなくてよかった。日本は秋だったけど、こっちは草も木も青々してるみたいだしまだ夏なのかな?」


 二つの月を横目で見ながら、目を閉じた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇


 眩しい。

 朝日を感じて、私は目を覚ました。

 起き上がって、伸びをする。


「イタタタ」


 岩の上で丸くなって寝てたせいで、体が痛い!


「あれ?あ〜、あ〜、声が戻ってる!」


 声は聞き慣れた自分の声だった。私は人間だった!

 手も足も、見える範囲では人間の形になっている。少し、ゴツゴツして筋肉質な気がするけど、きっと体が丈夫になってるせいだよね?


「きゃあ!」

 気のせいじゃなく、体が大きくなってる!

 マントからムキムキの体がはみだしちゃってるよお〜!


 私はうずくまって、泣きたくなった。


 裸に、体を隠せない大きさの布を身につけたムキムキな女性……変態さんかな!?


「これじゃ街に入れないよおおお」


 お腹はぐうぐう鳴ってるし、どうしよう。


 どこかで服と食べ物を手に入れる?


 それに、お金もないよ。


 恥ずかしさと不安でグスグスと泣き始めた時、大木の影の草むらがガサガサっと揺れた。


「だ、誰……?あの、近寄らないで欲しいんです、今、訳あってあられもない姿でして」


 一生懸命話しかけたけど、答えは言葉じゃなかった。


「グルルルル!」


 草むらから出てきたのは、ヒョウに似た動物だった。鋭い牙をむき出しにして、こちらを睨むように威嚇しているみたい。


「怒ってるの?どうしよう、さすがに言葉は通じてないよね?」

 岩から降りることができないまま、私はオロオロしていた。


「グオオオオオオ!」


 動物が牙をむき出しにして、岩を駆け上がり飛びかかってきた!


「きゃあああ!」


 私は目をつぶってとっさに腕を振り払った。


 ゴス!ゴシャッ!


 嫌な手応えがあって、唸り声は消えた。


 恐る恐る目を開けると、自分の血みどろの腕と、私に殴られたあと足元の岩に打ち付けられて、地面に落ちて絶命しているらしい動物が視界に入った。


「ひいぃ!」


 なにこれ、なにこれ?

 私殺されかけたの?そして殺しちゃったの?

 腕を振り回すだけでこんなの、おかしいよね?


 あ、血が。血がたくさん。


 フラ、と貧血のようになって、私は座り込んだ。


 ここは危険なのかも、そう思ったけど、目の前が暗くなってそのまま気を失ってしまった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「息はあるようだな」


「おい、テオのマント寄越せ。ほぼ裸だよこのネーチャン」


「ミハエル、目を閉じて下さいよ!女性に対するマナーです!」


「はあ〜?じゃあテオが介抱してやれよ、目を閉じてできるんならよ!」


「二人とも騒ぐなよ、とりあえず馬車へ。うちへ連れて帰ろう」


「良いのですか、カミュー様」


「構わないよ。通りがかった縁だし、服くらい与えてやろうと思ってね」


 なんだか男の人の声がする……。


 私は朦朧としたまま、運ばれている気配を感じた。


 そこでまた意識はなくなった。




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