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Lost Clan  作者: 六々ミヲト
2/2

壱 二人の転校生










 いにしえの時代、には闇魔術と光魔術が存在した。二つの相反あいはんする力は、次第に枝分かれし、のちに沢山の魔術を生んだ。

 しかし、その力に選ばれることのなかった者達は、選ばれし者達を忌み嫌った。




 世は、二つに分けられた。



「力のある者」と「力のない者」に―――――――。






     1




      ◇   ◇   ◇




乖璃かいり!!」

 少年が叫んだ。

かおる!逃げて!!」

 少女が返す。

「いやだ!乖璃も一緒に!!」

 少年が手を伸ばした。

「だめ・・・・、だめえぇぇぇえぇぇっっっっっっっ!!!!」

 絶叫がほとばしる。

 脳天を突き抜ける程の、悲痛な叫び。

 頭を抱え、背をらる。

「――――――かはっ・・・・・・・!!」

 少女は、血を吐いた。




      ◇   ◇   ◇






「初めまして、かすみりょうと言います。これからどうぞ宜しく」

 新学期に入ってしばらく。そのクラスには、転校生が来た。

 話によれば、隣のクラスにも転校生が入ったらしい。全く同時期に、しかもこの半端な時期、二人の転校生など珍しい。

 霞亮と名乗った転校生。少女である。漆黒の髪は肩まで届き、同じ色の双眸そうぼうには、鋭い光が宿っていた。しかし、その瞳はどこか危なげであり、何者も寄せ付けぬ、そんな雰囲気をかもし出している。

「はい、皆さん。何か質問はありますか?」

 先生が笑顔で呼びかける。

「・・・・・・・・・」

 呼びかけに答える者は、いなかった。

 皆がその不思議な転校生に、目を奪われていた。男子はおろか、女子までもが、その不思議な美しい容貌ようぼうに見とれていた。

 可愛いのではない。美しいのだ。

「先生、ないようです。席はどこですか?」

 亮が問うた。

 教師は、その一瞬だけ現れた殺気と、押しつぶされそうな威圧感に、咄嗟とっさに言葉が出なかった。

「え・・・・・・。ああ、あそこよ」

 指差された方向を見る。列の最後尾。窓から二列目。

 亮は、真っ直ぐそこに向かった。

 空気が重くなる。誰も何も喋れなかった。

――――――キーンコーンカーンコーン

 ふとチャイムがなり、皆の緊張は一気にほどける。

 教室は瞬く間に騒がしくなり、入り口付近に生徒が集まって来た。

 転校生を見るためである。

 騒々しい空間で、亮は一人、目を閉じていた。

 周囲の音を全て聞く。全てがささやきとなって、彼女の耳に届いていた。



――――――亮・・・・・・

 不意に、聞こえた。

そら

 小さい、呟き。

――――――そっちは・・・・?

「大丈夫」

――――――良かった・・・・。

「昨日の男がうるさい。今晩ヤレってさ」

――――――そう・・・・・・。僕は構わないよ。

「なら・・・・・」

「ねえねえ」

「―――――!!」

 突然話しかけられて、亮は不覚にもほんの一刹那だけ、動揺を表に出してしまった。もっとも、誰一人として気付いた者はいないのだが。

「あ・・・・ああ、何か用か?」

 亮は予想だにしなかった突然の事態に、完全に冷静さを取り戻せないでいた。『彼』と話していたのが、聞こえたかもしれない。

「あるある。用ならとぉってもある!」

 話しかけてきたのは、クラスの女子。二人である。

 一人はうるさいぐらい大きな声で話しかけてくるが、もう一人は、彼女の後ろで腕を組みながらこちらを見ていた。

「アタシは、遊花ゆうか華奈かな。で、こっちは、志悦しえつ美麗みれい。アタシ達って、あなたの最初のお友達ィ?よろしくね!」

 亮は、頑張って笑顔で答えようとしたが、頑張っても苦笑い程度だった。

「あ、ああ・・・・・。宜しく・・・・・」

 と、ここで美麗が口を開いた。

「すまないね・・・・、転校生。こいつはこういう性格やつだから・・・・。せめて話しかけられたら、返してあげて」

 華奈と比較すると、正反対に近い。

 落ち着いていて、静かな喋り口調。それなりに整った顔立ちで、物腰も柔らかだ。

 華奈も、可愛いと言えば可愛いのだが、こういった手合いの人間は、亮は嫌いだった。

――――――キーンコーンカーンコーン

 またチャイムが鳴る。皆々が急いで席に戻っていき、少し辺りが静かになった。

 扉が開き、教師が入ってくる。

「皆さん、突然ですが授業変更です。今日転校して来た二人がもうすぐ帰らなければならないということなので、一校時目は学年集会になります」

 その連絡を聞いて、皆は少し驚いたような顔をしたが、立ち上がってぞろぞろと体育館の方へ向かって行った。

「ねぇねぇ、帰っちゃうの?」

 また、華奈と美麗が傍に来た。

「ああ、今日は少し忙しいんでな」

「そっか・・・。残念だけど、仕方ないね。じゃあせめて、体育館の場所まで案内するよ。ほら、華奈行くよ」

 物分りもいい。追求してこない。こんな感じの人間は、他よりかなりマシだな・・・。

 亮は考えていることは顔には出さず、淡々とした態度をとり続ける。

「ああ、助かるよ」




 その日、突然現れ突然帰った二人の転校生は、学年皆が注目する話題の的となった。




「同じクラスの方が良かったかな?」

「いや、それは学校側も迷惑だろう。いくら意識をいじったからといってな」

 少年が問い、少女が答える。

「だいぶ暗くなったな。仕事も終わらせたし・・・・・帰るか」

 少女が歩き出した。

「あっ、ちょっと亮!!」

 少年が、亮の腕を掴んだ。

「何、昊?」

「自分の身体からだ、見てみなよ」

 言われた亮が自分の身体を見下ろす。

「あ・・・・・・」

 衣服はあかく染まっていた。

「そのままじゃ、警察が来るよ」

 昊が、呆れたように嘆息たんそくいた。

「・・・・・・・ねぇ、昊・・・・」

 亮の顔つきが、突然真剣になった。

 と、

「!!」

 突風が彼等をおそう。

「なっ・・・・・!」

「亮!!」

 昊が手を伸ばした。が、

「くぁっ・・・・!!」

 二人が同時に背を仰け反らせた。

「―――――――――――」

「え」

 何か、聞こえた。

 亮が必死に辺りを見回す。

「な・・・・に・・・・・?」

 光る物が、見える気がする。

「昊・・・・・・・!」

 目線だけで辺りを見た。しかし、周囲には何もない。

「        」

 亮の目が、これ以上ない程見開かれた。






「亮!!」

 こちらに向かって走って来る、一つの影があった。そのバックに、ゆっくりと歩いて来る二つの影が重なる。

「ねえねえ、今日どっか行こーよー。暇でしょ?」

 華奈が、腕を掴んで引っ張るような仕草をする。

「場所によるな。お前のように暇ではないし」

 亮は相変わらずな言い方で返した。

「え〜」

 華奈は口をとがらせる。

「行こぉ〜よぉ〜」

「その辺でめとかないと、亮サマが怒り出すよ、華奈」

 ようやく到着した美麗が言った。

「だってえ〜・・・・。何か言ってよ、真花まはなぁ〜」

「・・・・・美麗に同じ」

 ボソッという呟きが、逆に華奈には効果的だった。ふくれっつらで華奈は黙る。

「お〜い、お前等ぁ!ちょっと!」

 呼び声が聞こえ、四人が振り向いた。

「なぁーによ、こんな時に?」

 美麗が目をすがめる。

「誰?」

 亮が走って来た二人の男子を見て、怪訝けげんそうな面持ちになる。

「え?ああ、そうか。俺は白鷺しらさぎ彩輝さいき。で、こっちは押韻おういんしずか。初対面だもんな、転校生!」

 彩輝は、明るく言った。

「ああ、そう。私は・・・・・」

「霞亮、だろ?」

 静が亮の言葉をさえぎって代わりに答えた。

「え・・・・・」

 一瞬呆気あっけにとられた亮だが、すぐに我を取り戻す。

「あ、ああ。よく覚えていてくれたな・・・」

 転校生が来てからもうすでに一ヵ月程は経過している。そんなに前の自己紹介を、他のクラスの男子生徒が覚えているのは以外だった。

「あっ、そうだった」

 突然、彩輝がぽんと手を鳴らした。

中介なかがい、お前んとこの担任が、明日少し早めに来いってさ。お前、何かしたのか?」

「さあ」

 真花はどうでもよさげに呟いた。

「亮」

「!」

 突然背後から降ってきた声に、全員が勢いよく振り向いた。

「昊・・・」

 亮も、驚いたように呟く。

 そのとき、静がかすかに眉を寄せたことに、亮は気配で気付いた。

「どうしたの、昊?」

 亮が近づいていくと、昊は子供のようにねた顔した。

「早く!!」

 強引に亮の腕を掴むとぐいぐいと引っ張っていく。

「ちょっ、昊っ!!」

 昊の静かながら圧倒される剣幕に負け、亮はそのままどこかに連れて行かれてしまった。

 







     


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