表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/78

27.世界と自由を望む(1)-夜斗side-

 エルトラ王宮の中庭にいた浄化者が、俺の姿を見つけて駆け寄る。


「ヤトゥーイ様……やはり、闇の姿は視えません」

「そうか……」

「1週間前――アキラさんの前に現れるまでは、遠くに気配を感じていたんですが……今はそれもありません。やはり、テスラにはいないのではないかと……」

「そうだな。でも……ソータさんが来るまでは、注意してくれ。大変だと思うが……。ソータさんがテスラにいる間は……少し休めるからな」


 事態が事態なので、浄化者にはソータさんの存在を説明した。

 闇に侵されない唯一の存在――浄化者にとっても励みになったようだ。


「ちゃんと交代しながら見張っていますから……大丈夫です」


 浄化者の少年がにっこりと笑った。


「ユウディエン先生から教えられたこと、活かすときですから」

「……そうか」

“ヤトゥーイさん……聞こえますか?”


 不意に、シルヴァーナ女王の声が聞こえてきた。


「あ……はい。何かありましたか?」

“シャロットがソータさんの姿を捉えました。……もうすぐテスラに着くようです”

「わかりました。迎えに行きます」

“ええ”


 通信が途切れる。

 俺は浄化者の少年にそのことを告げ、しばらく休憩するように言った。

 そして近くの神官に王宮を離れることを伝えると、サンに乗って空に飛び立った。

 ジャスラから来るとしたら……南。ダイダル岬の方だろう。


 そう言えば……ダイダル岬には女神テスラの半身が眠っている。

 ……今はどうなっているんだろうか?

 前の調査では何も感じ取れなかったが……事態は急変している。

 勾玉の中の女神ジャスラ――その意識を受けて、女神テスラにも変化が起きているかもしれない。


 ダイダル岬に向かうと、ちょうどソータさんが廻龍(かいりゅう)から降りたところが見えた。


「着いたぞ! シャロット、俺の姿が視えてるかー?」


 ソータさんが海の方に向かって大声を出している。

 ソータさんはシルヴァーナ女王の声が聞こえないので……どうにかシャロットに姿を見つけてもらおうと、アピールしているのだろう。

 ……あんまり関係ない気もするが。


「あ……」


 ミズナさんが俺に気づいて指差す。

 下降すると、俺に気づいたソータさんがぶんぶんと手を振った。


「待たせたな!」

「大丈夫か? 疲れてないか?」

「いや……水那も大丈夫だよな?」


 ソータさんの後ろにいたミズナさんがこくりと頷いた。


「とりあえず……サンに乗ってくれ」

「……」


 ソータさんは不意に黙りこくると、急に考え込み始めた。


「大丈夫、無茶に飛ばしたりしないから」

「いや……そうじゃなくて……」


 そう言うと、ソータさんは洞窟の奥の祠や砂浜、崖などをぐるりと見回した。

 不思議に思って、俺も辺りを見回してみた。

 何か変化があるかと思ったが……やはり、何も分からない。

 まだ、女神テスラが自ら動くときではないらしい。


 ソータさんはキエラ要塞がある方の崖を見上げると、ちょっと渋い顔をした。


「……ヨハネが荒らしたのかな。……闇の波動が少し押し寄せてきている」

「……それって……!」

「結界の力が弱くなってるんだ。……いや……ヨハネがキエラ要塞に侵入したことで、闇が活気づいたのかな……?」

「キエラ要塞の闇は減ったと浄化者は言っていたが……多分、ヨハネが自分の身体に取り込んだんだと思うが……」

「うーん……」


 ちょっと考え込んだあと、ソータさんは自分の胸に手を当てた。


「勾玉の浄化を終えたことで、俺の胸の中の欠片もかなり力を取り戻したんだ。……だからまず、宝鏡(ほかがみ)の力を引き出して結界を強くしよう。夜斗、北東の遺跡に連れて行ってくれ」

「わかった」


 ソータさんとミズナさんをサンに乗せると、俺は再び空に舞い上がった。

 ソータさんはキョロキョロと辺りを見回すと

「……ヨハネはいないな」

と言った。


「そうか……」

「で……キエラ要塞の闇は、確かに少し減っている。奴の目標は、すべての力の解放だと思うが……ヨハネの身体ではそれは達成できなかったようだな。……今は、どうやってこの結界を突破するか、策を練っているのかもしれない。あるいは、この闇をすべて受け入れられる身体を探しているのか……」

「――朝、日……」


 呟いて――ゾッとした。

 無限にフェルティガを溜めこむことができる、朝日。

 朝日、なら……。


「……そうだな。朝日を探している可能性は、あるな」


 ソータさんが溜息をつきながら言った。


「ユウにとり憑いたときに対峙しているからな。その存在は……知っているはず」

「ヤハトラなら、大丈夫なんだよな?」

「地下の神殿と――完全に復活した勾玉が守っている。……まず、近づけないだろう」

「そうなのか?」

「仮に近付いたとしても……この勾玉の欠片が教えてくれるはずだ。珠の宣詞を唱えて捕らえれば、終わり。……だから、ヤハトラに乗り込むことはないだろうな」

「……そっか」


 ホッと胸をなでおろす。

 ……そうこうしているうちに、北東の遺跡に着いた。


「……どこだっけ?」

「あそこだ」


 俺はその場所に近付くと、隠蔽(カバー)を解除した。宝鏡の左半分が姿を現す。


「……水那、手を貸せ。右手は宝鏡に……で、左手は神剣(みつるぎ)に」

「……」


 ミズナさんが言われたとおりに触れる。

 ソータさんは右手で神剣の柄を握ると……左手で宝鏡に触れた。――二人が目を閉じる。


「……!」


 ピィンと……何かが張り詰めたのが分かる。

 その瞬間――足元から何かが消え去っていくのを感じた。


「……こんなもんか」


 ソータさんが目を開ける。

 ミズナさんが少しフラリとしたのを見て、慌てて身体を抱え上げた。


「水那!」

「……」

「自分で意識して使ったの……初めてだもんな。大丈夫か?」

「うん……」

「でも、ほら……要塞を見てみろ。……闇が暴れてるだろ?」

「……ええ」

「拘束が強まったからだよ」

「え……じゃあ……足元から何か消え失せたのは?」


 俺が聞くと、ソータさんはちょっと驚いた顔をした。


「闇の波動の範囲が少し狭まったからだ。要塞に引きつけられている。……でも、よくわかったな」

障壁(シールド)してなかったから……」

「それでも難しいんだがな。……だからフェルティガエはあっさり乗っ取られるんだが」


 ソータさんはそう言うと、少し考え込んだ。


「そうか……だから闇は、夜斗には近付かなかったのかも知れないな……。力は上なのに……」

「……え……」


 俺はてっきり……その場にいたのがたまたまヨハネだったから、闇はヨハネにとり憑いたんだと思っていた。

 ひょっとして……最初からヨハネを狙っていたのか?


「――よし」


 ソータさんは頷くと、ミズナさんを抱えたままサンの方に歩いて行った。


「え……これからどうするんだ?」

「とりあえず神剣の闇を抜く。……これは今やってしまう。キエラ要塞に行ってくれ」

「え……でも……大丈夫か?」


 ミズナさんはちょっと疲れてるみたいだけど……。


「ちょっと腹が立ったんで……挨拶してくる。水那、少し無茶するが……いいか?」

「……」


 ミズナさんはこくりと頷いた。

 ソータさんが何か心に決めているようだったので……俺は黙ってサンをキエラ要塞に向かわせた。

 その間も、ソータさんはじっと要塞の闇を見つめ続けていた。


 サンがキエラ要塞の前に着く。

 相変わらず下には降りたがらないので、俺が二人いっぺんに抱えて地面に下ろした。……ちょっと死にそうになる。


「……すまないな、夜斗。……面倒をかけて」

「いや、それは……」


 そうは言っても重くない訳ではないので、息が上がる。

 ソータさんは障壁(シールド)の奥のキエラ要塞をじっと見つめた。


「何となく……ヨハネ――闇が暁にしたことがわかったんだ。闇は……心の隙をつくのがうまい。精神を揺さぶるのを得意としている」

「……」

「……という訳で、宣戦布告してくる。――行くぞ、水那」


 ソータさんは腰から神剣を抜くと、ミズナさんに手渡した。そして彼女を抱え上げると……すっと障壁(シールド)の奥に消えて行った。



 ――暁……どうしてる?

 ユウと朝日だけじゃない。皆が、お前のことも――心配しているぞ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「旅人」シリーズ

少女の前に王子様が現れる 想い紡ぐ旅人
少年の元に幼い少女が降ってくる あの夏の日に
使命のもと少年は異世界で旅に出る 漆黒の昔方
かつての旅の陰にあった真実 少女の味方
其々の物語の主人公たちは今 異国六景
いよいよ世界が動き始める 還る、トコロ
其々の状況も想いも変化していく まくあいのこと。
ついに運命の日を迎える 天上の彼方

旅人シリーズ・設定資料集 旅人達のアレコレ~digression(よもやま話)~
旅人シリーズ・外伝集 旅人達の向こう側~side-story~
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ