セルビス
「セルビスがここにいるって言うこと騎士様になれたの?」
「そんなところだな」
そっとカーテンを開けたシュベルトを目で追うと、窓の外には三日月が浮かんでいる。
(タルト屋さん、もう閉まってるだろうな)
煩いけれど可愛い弟達の笑顔が頭をよぎる。
「そういえば魔法は使えるのか?」
「魔法?ああ、私の世界には魔法がないの」
この世界には魔法がある。
先程シュベルトが使っていた水晶も、通信手段として使われる魔法具だ。
自分で言うのも難だけど、セレスティアは魔法士としては天才だった。
勉強は全く出来なくて世間知らずな田舎者だったけど、魔力だけなら世界的に有名なお師匠様と同じくらいあった。
「魔法がない?ではどうやって戦う?」
「私のいた国では戦う機会はなかったかな。魔物なんていなかったし。でも国同士の争いた多少あったかな。それに対しては攻撃っていうより防衛する為の武器や組織かあるくらいだと思う」
「じゃあお前どんな武器を持ってるんだ」
「一般市民は武器なんて持ってないよ。そうだな…女の武器なら」
「無理だな」
シュベルトの即答に少し悲しくなったけど、制服に芋ジャージを履くというセンスの欠片もない格好をしていては女を武器とするのは困難なのは確かだ。
溜め息をつくとシュベルトを見詰めていた時、控えめにドアを叩く音に驚いて心臓の音が速くなる。
「入れ」
「失礼します。こんな夜中に一体…」
シュベルト以外の人間がいるとは全く考えていなかったであろうセルビスは、私と目を合わせたまま固まった。
淡く青い髪と同色の瞳は、驚きで見開いている。
「セレスティア」
セルビスが呆然とした様子で、私の前世の名前を呟いた。
その後微妙な静けさが広がる中、最初に動いたのセルビスだった。
「…こんな夜中に呼び出したかと思えば。レオナ様に見つかったら大変な事になるぞ」
「いや、セルビス」
「どうやって連れ込んだんだ?廊下には見張りがついていたはずだが」
「違うんだ…。落ちてきたんだ」
「落ちてきた?」
「ああ。話によるとこいつはセレスティアの生まれ変わりらしい」
「…は?」
セルビスの反応は当たり前で、そして直ぐさま強い視線を向けてきた。
「それを信じたと?」
「素直に信用した訳じゃない」
反応に遅れたくらい静かに私の前に立ったセルビスは、私の腕を掴んで立たせようとしてきた。
強く引かれたわけではなかったけれど、先程シュベルトに捻られた肩に痛みが走る。
「防衛はしたんだな」
「当たり前だ。いきなり目の前に出てきたんだからな」
痛みに顔をしかめてしまったけれど、二人の会話に口を挟むことは出来ない。
セルビスは学園では優等生で生徒会長も務めていて、教師や生徒から信頼は厚かった。
平民や貴族関係なく接していたセルビスから、セレスティア何故か嫌われていた。
厳しい視線を向けてくるセルビスを、セレスティアは少し苦手としていた。
「お前がセレスティアの生まれ変わりであると言う証拠は?」
「…シュベルトと翠魔山で」
「その話に関しては確かに俺とセレスティアしか知らない話だ」
「セレスティアが他人に話しているかもしれない。そしてセレスティアは五年前、確実に亡くなっている」
セルビスの鋭い視線に無意識に背筋を伸ばすと、肩の痛みが増した。
「魔法は使えないのか?」
翠魔山での話はシュベルトから絶対に言うなと賄賂を貰った経緯があるので、私の口からは誰にも話したことはない。
でもそんなことを言ったところで、証拠は何一つない。
口を開かない私の代わりにシュベルトが前世では魔法がないことを説明してくれている。
私はその間目を閉じて魔力の源を探してみると、ゆっくりと身体が沈んでいく感覚を感じた。
これまで何度も試し失敗してきた魔力の循環が、上手くいきそうな気がした。
(もう少し…!)
あと少しで魔力の源へ届きそうな感覚を感じ精一杯手を伸ばした瞬間、私は意識を失った。