旧友との再会
「…本当にセレスティアなのか?」
「本当よ。今の名前は蒼井柚葉」
「いやいや、ちょっと待て。意味が分からない」
寝室から隣の部屋へと移動させられた私は、未だに疑心暗鬼の目で見てくるシュベルトにどうすれば信じて貰えるか考えていた。
私には前世の記憶がある。
この世界でセレスティアとして生きていた私は、若くして命を落として第二の人生を歩んでいた。
前世とは違い普通の人生を歩んでいたはずなのに、何故かこの世界に落ちてきてしまった。
そんな話シュベルトは簡単には信じてくれないみたいだ。
「確かに容姿はそっくりだが…」
セレスティアは金髪に金色の瞳をしていた。
さすがに今の目の色は金色ではないけれど、色素の薄い茶色い髪と瞳だ。
「翠魔山の話やスペシャルケーキことは、セレスティアしか知ないはずだが、しかし…」
眉間に皺を寄せ睨んでくるシュベルトに内心冷や汗をかきながら、愛想笑いを浮かべる。
「そういえばシュベルトって今何歳?」
「…二十二だ」
「二十二歳?じゃあ私が死んでから五年しか経ってないのね。私は今十七歳だよ」
この世界と私の居た世界とは時間の流れが違うのかもしれない。
「カイルは?アルミンは?皆元気?」
「聞いてばかりだな。今自分が置かれている状況が分かってるのか?」
「死にたくないからこうやって必死になってるんじゃない」
ここで信じて貰えなければ牢獄行きだ。
しかも王子様の寝室へ入り込んでいて、刺客だと疑われていることから死刑だってあるかもしれない。
第二の人生もまた短命なんて絶対に嫌だ。
こんなところで泣いてしまったら話にならない。
目頭が熱くなるのを堪えてシュベルトを見れば、困っているような怒っているような難しい顔をしていた。
「そうだ、カイルの好きな人知ってる?絶対誰にも内緒って言われてたんだけど、花屋のローラなの。あの女好きのカイルが一目惚れしたのよ」
「知っている。三年前にこっそり振られている」
ローラの為に今まで付き合ってきた女の子とは全て縁を切っていたけれど、ローラからは好みじゃないとばっさり言われていたのを聞いてしまった事がある。
「ああ、やっぱり」
「花屋のローラはアルミンみたいな誠実な男が好きらしい」
「え、でもアルミンってシュベルトの事が好きだったんじゃ…」
「だから違うと言っていただろうが!確かにアルミンは俺にべったりだが、あれは単に過保護なだけだ!俺もアルミンも男色家じゃない!お前一人が勘違いしてるだけだ…!」
なんて事だ。
女の子のように可愛かったアルミンと凛としたシュベルトの様子は、学園の生徒達から目の保養だと有名だったのに。
「はあ。なんだかセレスティアと話しているみたいだ」
「だってそうなんだもの。そういえば、どうしてセレスティアは死んだの?」
私は前世で死んだ原因を知らない。
いつものように勉強をしてシュベルト達と談笑して、食事の後は寮へと戻った。
それからの記憶がない。
「…セレスティアの死因ははっきりしていない」
「そっか。ベッドに入った記憶はあるの。病死だったのかな。風邪なんて引いたことなかったんだけど」
お師匠様に学園へと放り込まれる前まで田舎の山の中で暮らしていた私は、風邪を引いたことなんてない健康優良児だった。
怪我を治してもらった覚えてはあるけど、病気の治療をしてもらったことは一度もない。
「そうだ!お師匠様がいれば何か分かるかもしれない」
「テニッシュは五年前から行方不明だ」
「行方不明?」
「ああ、セレスティアの葬式以来姿を見ていない」
どうしよう。
お師匠様だったら私がセレスティアであることを証明出来たかもしれないのに。
「とりあえずお前がセレスティアであったとしてもなかったとしても、ここに置いておく訳にはいかない」
「…うん」
「セルビスを呼ぶ」
そう言って立ち上がると机の上にある水晶玉に手をかざした。