第6話 ~抜かれた刀~
休みが明け、俺はいつものように学園に向かって歩いていた、その隣を紗月が一緒に歩いていたが新鮮な感じだ、記憶が戻って彼女と幼なじみだけでもあれだったが、彼女と恋人同士になったというのは周りからしたら羨ましいんだろうな
「…零央君、いつ出てくるんでしょうね」
紗月は自分がいつ音無零央に襲われるか考えているようだ、正直いつ襲われるかは分からない、今日なのか明日なのか、今なのか夜なのか、相手からしたらチャンスはいくらでもある
「出来れば早めがいいんだけどな」
いくら息があるからといっても、これ以上は最初の被害者の生徒が危険な状態になるだろう、一ヶ月も植物状態だと本格的にマズイ
「……私のせいで、関係ない人が」
「過ぎたことは気にしても仕方ないだろ……これを解決することに集中しよう」
休みの日に気分転換をしたこともあって気持ち的にはだいぶマシにはなった、とはいえ先輩の事を考えると決心が揺らいでしまう、なるべく先輩の事は考えないようにして事件解決の事を考えるようにした
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「おっ、英樹と水無さんおはよう」
学園に着くとちょうど秋斗もやってきた、隣にいる紗月に挨拶をするとニヤリと笑って耳元で
「なんだなんだ、記憶が戻ったとたんラブラブしてるのか?」
と言ってきた、周りの男子生徒も何人かチラッとこっちを見たりしてくる、女子生徒もコソコソと話しているのが見える、俺と紗月が並んで歩いて登校というだけで珍しい事なのだろうか
「ラブラブはしてないだろ……別に家が目の前だから、必然的に一緒に登校するわけだし」
「はいはい、可愛い女の子と席が隣なだけでなく、幼なじみで特別な約束をしてさらには家が目の前なんて素晴らしいシチュエーションになってる人は羨ましい限りですな」
ニヤニヤしながらわざとらしく肩を叩きながら言ってきた、まだ周りの奴らに聞こえないように言っていただけマシなのだろう
「なんだよその言い方……」
「冗談だよ冗談、ようやく英樹の浮いた話が出来たと思うと親友として嬉しい限りだよ」
そう言っては、小林先生に用があるからと秋斗は先に行ってしまった、一体何だったのだろう
「ね…ねぇ、なんか周り人増えてない?」
いつの間にか周りに人が増えていた、女子生徒達は興味津々で俺と紗月の関係をいろいろ言っていたり、男子生徒達からは殺気混じりの視線を向けられたりと、ヤバそうなのでさっさと教室に向かうことにした
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教室に入るとようやく周りの視線から逃れられた、来て早々精神的に疲れる事になるとは思わなかった
「あはは…なんかごめんね……」
「気にするな……紗月のせいじゃないし」
人集りの原因は紗月より俺にある気がすると思いながら、とりあえず自分達の席についた、まさか紗月と登校がこんな事になるとは
「朝から大変だったね、2人共」
窓から一部始終を見ていた美菜が声をかけてきた、というか最近早く来ている美菜の方が珍しいと思う
「まぁ、それだけ紗月が人気なんだろうな」
「そんなことないよ?」
「人気っていうより、やっぱりここに来たばっかりだからまだ浮いてる存在じゃないの?」
確かに美菜の言ってることが正しい、来たばかりの紗月と俺が一緒に歩いていたらそりゃ興味が湧くのは当たり前なことか
「そういえば秋斗は?」
美菜が秋斗が居ないことに不思議そうにしてどこに行ったのか聞いてきた
「秋斗ならコバっちの所に行ったよ、いつもの情報収集とかいうやつ」
「あぁ……なるほど、半信半疑の情報をよく聞きに行くわね…」
半信半疑というかほとんど当てにならない情報ばかりだが、秋斗にとってはこれは毎日の日課みたいなことになっているのだろう
「とりあえず、あんまり目立つようなことしたらダメよ紗月、周りの男になにされるか分からないんだから」
美菜はガードが甘そうな紗月にしっかりと注意をしていた、なんか世話焼きお姉さんみたいだ
しばらくして、ホームルームの鐘が鳴り始めた
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ホームルームが終わると、再び全校集会があるらしく、みんな体育館に向かっていたが、俺はトイレにいた、さすがにあの校長の長話を我慢できる気がしない
『気をつけろ、近くに奇妙な気配を感じる』
手を洗っているといきなり声が聞こえ、びっくりして鏡を見るとそこにはあの女性が立っていた
「出て来て大丈夫なのかよ……というより、奇妙な気配って?」
『周りには見えないから大丈夫だ、もしかしたらヤツが来るかもしれないな』
「……音無零央か?」
『多分な、紗月を見つけたことで大胆に行動してきたということだろうな、まぁ、恋心で待ちきれなかったという所だろう』
冷静に分析してる場合ではないと思うが、もし本当に音無零央がここに来たら大騒ぎだ、さらに目の前で紗月を襲えばさらに騒ぎが大きくなる、そもそも現実に人が空を飛んでいるところを見るだけでも皆パニックになるだろう
『……決して油断するな、そして余計なことは考えるなよ、戦闘中に甘えを出したら死ぬのはお前だ、そしてお前が死ねば……』
「分かってる、お前も死んで消えるんだろ?」
『……分かってるならいい、とにかく戦いに優しさは不要だ、例えどんなことがあってもだ』
そう言うと、彼女は消えた、俺の中に宿っているだけある、きっと俺は先輩の事で音無零央を倒すことに躊躇いが出てくるだろう、だから、念を押してきたんだ、結果の前に俺が死んだら意味がないのだから
そしてトイレから出ると同時に体育館から大きな音が聞こえてきた
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ホームルームが終わって、皆で体育館に向かっている時英樹君はトイレに抜けていた、そういえばこないだの全校集会も長かった
「一体今日は何の話をするつもりなのかしらね」
移動中、美菜ちゃんがどうして全校集会があるのか不思議そうにしていた、周りの皆もこないだあったばかりなのにという感じだ
「まぁ行ってみれば分かるさ…いつも通りの校長の長話だろうがな」
秋斗君の言葉に美菜ちゃんはうんざりした表情で「勘弁してほしいわね」と呟いていた、確かにあそこまで長いのはちょっと遠慮したい
体育館に着くと他の生徒達もぞろぞろとやってきた、やはり皆不思議そうな表情だ、しかも先生達も聞いていなかったことなのか困惑した様子だった
「そういえば、秋斗は何か聞いてないの?」
「それが何にも、コバっちも聞いてないらしい、もしかしたら校長の独断ってヤツかもな」
「うへぇ……なおさら嫌な集会ね」
美菜ちゃんはさらにうんざりしていた、しかし、なんだろう、すごく嫌な予感がしてしまう
ほとんどの生徒が体育館に集まると校長先生が教壇へと立った、そういえばまだ英樹君が来てないような気がする、もしかしてサボりなのかな?そうだとしたら彼女としてびしっと言わないといけない
「皆さんおはようございます」
校長先生の挨拶に皆困惑した様子で返答した
「あれ?あんな感じでしたっけ?」
私は校長先生の雰囲気がこないだと違う感じがした、パッと見たらよく分からないけどちょっと違和感があるというか、上手く説明は出来ない
「うーん?いつも通りじゃない?」
美菜ちゃんと秋斗君は校長先生の話にあんまり興味なさそうにしていた
「さて、うちの生徒が何者かに襲われている事件ですが……」
校長先生は喋りながらニヤリと笑っていた、私を見て、私だけを真っ直ぐに見つめて、その瞳は赤く妖しい色をしていた
「今日、またヒトリ襲われます」
その言葉と体育館の天井に穴が空く音のタイミングが同時だった、そこから現れた彼を認識するのはそんなに時間が必要なかった
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「なんだよこれ……」
急いで体育館の前まで来たが鍵がかかっているのか扉が開かなかった、いつもはかかっていないはずなのに、中の様子はよく分からない、だがあの音でパニックになってないはずがない、それどころか本来なら皆避難してもおかしくない
「入れないならどうすることも出来ないぞ」
焦りもありうまく思考が回らない、どうすれば中に入れるのか、扉に体当たりすれば開くか試すがビクともしなかった
「落ち着け…よく考えろ」
いったん深呼吸をして冷静さを取り戻す、こういう時は急がば回れだ、音の発生源はこの体育館だ、だが側面は無傷だ、そして鍵がかかった扉、もし飛べるとしたら
「…上か」
ヤツは上から侵入した事になる、しかし、体育館の天井に行くルートはなく、行けたとしても相当な高さがある、怪我じゃ済まないレベルだ
「やっぱりこの扉をどうにかしないといけないか」
中に入るには目の前の扉を開けるしかなかった、しかし鍵は先生達が持ってるはずだから中にあるはず、マスターキーも校長が持っている
『おい…』
「なんだよ、こんな時に」
いろいろ考えていると宿っている神様の声が聞こえた、緊急時に一体何だ
『何のために武器があるんだ?』
「あっ…」
確か、今音無零央が中にいるならコイツが使える、ちょっと考えれば解決することだった
「…具現化」
目の前に手を伸ばすと一刀が現れた、そして刀身を抜き出し扉を一閃するとあっという間に扉は斬れてしまった、この刀どんな切れ味しているんだ
『神が使っていた刀だからな人間が作った物など紙切れ同然ということだ、まぁ、お前が斬ろうとした物だけ斬れるようになっているがな』
どんなチートアイテムだよ、とツッコミそうになったが今はそれどころではなかった、中に入ると異様な光景だった
紗月が真ん中に立っていてその目の前には音無零央が居た、そして他の生徒は何故か動かない、いや動けないのかもしれない、さらに教壇には倒れた校長、いや校長はいいや
「紗月!!」
急いで紗月に駆け寄る、音無零央は紗月に夢中で俺には気付いていないようだった
「ふふっ紗月ちゃん、やっと見つけたよ、約束を果たそう」
「いや……やめて……」
「どうして嫌がるの?僕だよ?紗月ちゃんの大好きな…」
「助けて……助けて英樹君!!」
紗月の叫びが体育館に響いた、俺は気付いていない音無零央に向かって跳び蹴りを喰らわせた
「ガッ!?」
直撃した零央はそのまま教壇まで吹っ飛んだ
「英樹君……」
「ごめん、遅くなった」
涙目で見てくる紗月を守るように立ち零央が吹っ飛んだ方を見た
「邪魔をするな!!」
「お前が音無零央か……クローンにしては似てなさ過ぎだな」
見た目も金髪で格好良さではあっちが上だろうな、てかクローンでもここまで似ないことありますかね?先輩と紗月は瓜二つぐらいなのに
「黙れ、紗月ちゃんをこっちに寄越せ」
「嫌だね、そもそも幼なじみで好きな女の子に無理矢理何かするとか男のすることじゃないよな?」
その言葉に零央はこちらを睨んで歯を食いしばっていた
「紗月ちゃんは僕のものだ!!」
「残念だけど、紗月は誰のものでもない、人を物扱いするなよ?」
目の前の男がクローンだと思うと反吐が出そうだ、何を間違えばこんなクズみたいな性格になるのだろう
「僕と紗月ちゃんの邪魔をするならお前を殺す!!」
そう言うとヤツは俺に飛びかかってきた、俺は紗月を抱き上げるとその場から飛び退いた
「ちっ…」
ヤツの爪が空を切ると舌打ちをしていた、その爪は鋭くあんな物に引っかかれでもしたら相当痛そうだった
そして、紗月を壁際におろすと零央に近付いた
「悪いけど、被害者達の魂は返してもらうぞ」
「黙れ…黙れ……黙れぇぇぇ!!」
「手加減するつもりはないからな……!」
紗月を守るため、被害者の魂を取り戻すため、俺は目の前の自分に斬りかかった