店主
「君かい?このドアで面白いノックをしてくれたのは。」
ドアは内側へ開いた。
声の主は扉の後ろにいるらしく姿は見えなかった。
「あっ…す、すみません。私、別に用があったって訳ではなくて…」
そう言えばぶつかった時に大きな鈍い音がした。
恥ずかしい…!!一生の不覚!!
しかし声の主は穏やかに言った。
「そう、初めのうちは皆そう言うのさ。
だけどね、何らかの用が無ければここには来れない。君もそうさ。さぁ、中へ。」
私は恐る恐るその扉の中へと入って行った。
「わぁ…」
中へ入った瞬間、その雰囲気に私は思わず声が出てしまった。
まず目に入ったのは大きな本棚とそれを利用して作られた階段だった。
そしてこの1階の部分にはお洒落なテーブルとソファーや、様々な家具が集められていた。
アンティーク特有のなんとも言えない雰囲気だけでできた空間で、
家具も小物も全てが暖かく感じた。
「どうだい?気に入ってもらえたかな?」
振り向くとあの声の主が立っていた。
歳は二十代、高身長で天パなのかぼさっとした髪にお洒落なシルクハットがよく似合っている。
丸いふちの眼鏡を掛けており、表情は優しげだ。
「ここは一体なんですか?」
「扉屋さ。いやぁ、何しろお客様がつくまでが大変でね。時々こうして使いを出すんだ。
使いっていうのは…そう、君が追いかけてきた猫のこと。」
棚の上にいる私の追ってきた猫を撫でながら彼は言った。
もしかして新手の客引きかなにかだろうか。
「あの、私のうち…玄関とか変える気とかないし扉って…確かに素敵だとは思いますけれど…」
私の家は裕福ではないし扉を変える余裕なんてない。
まぁ、変えれるのならあの質素な扉とはおさらばしたいけれど。
そして彼は振り向くと微笑んだ。
私はそんな事は言わずにと上手くのせようとしてくるのだろうと思っていたが、
彼の口から出たのは全く別の言葉だった。
「僕の扉を玄関に?君は不思議な事を言う子だね。
まぁ、知らないのだから無理はない。
少し来なさい。」
そう言うと彼は部屋の奥の階段を上り始めた。
私は後を追った。