扉の前へ
その猫は私の歩くペースに合わせてくれているのだろうか?
ゆっくり歩いてみたり小走りになったりと変化は著しいものの、
距離が離れれば振り向き止まってくれている。
自転車は邪魔だと思ったので、少しの間丘の上へ置かせてもらうことにした。
案の定、猫は庭や河原、屋根の上をスタスタと歩いていくので持ってこなくて正解だった。
なんだろう。猫の恩返しのような感覚だった。
この猫を追いかけた先には何があるのだろうか…?
そして細い路地を渡っていくと、コンクリートだった地面が徐々に石に、石が煉瓦にと変わっていった。
そして一歩一歩進む度にふわっとした感覚に襲われた。
自分は一体何処にいるのだろうか?
こんな不思議な場所が存在したなんて知りもしなかった。
私は猫を見失わないように下を向いて歩いた。
次第に猫が早くなって行くので、それにつられて私も走った。
「痛っ!!!」
猫に夢中になった時、突然前のものに頭をぶつけてしまった。
「あれ?」
猫は既に見えなくなっていた。
どうなっているのだろう。
ふと前を見るとアンティーク風のドアと、黒茶色のタイルの壁。
ドアには洒落た字でこう書いてあった。
『扉屋·夕』
と。
扉屋?家の扉を売っているのだろうか。
よくわからずに立ち往生していると、ドアががチャリと音を立てた。