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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

裏・消えた星、残る傷 ~負け知らず~

作者: 七刀 真月(ナナツガタナ マツキ)

オレは強豪と名高い戦士だ。


オレはひょんなことからマスターに雇われて戦いを始めた。

その時からというものオレは勝ちまくり、今や99勝をあげている。


勝つことはとても嬉しいことだ。

けれどマスターは最近、勝ったとしても喜びを見せず「はいはいザコザコ」と相手を馬鹿にするばかりでオレの勝利に関しては当然だと言って突き放すような態度をとっていた…


ある日、オレの所にまた新たな獲物、いや対戦相手の通知が届いた。

この戦いに勝てばオレの記念すべき100勝目だ。

だが相手は1勝もしていない奴らしい。

マスターは軽々と承認したみたいだがよりによって100戦目の相手がザコとはな…もっと強い奴と戦いたかったぜ…


「ケッ…シケてんなあ」

と鼻で笑ってオレは闘技場へと足を向けた。


相変わらずの殺風景なステージだと思いつつも俺は闘技場にいる相手を見つけた。

相手は少し腰が引けているような印象で装備もザコそのものだ。


「お願いします!」

100勝確定だなと相手を嘲るように見ていると相手は威勢よくお辞儀をしてきた。

どこか緊張した面持ちがあるようだが、俺には関係ない。


「ヘヘヘ…よろしく頼むぜ」

オレはまさに嘲る感じに相手のお辞儀に返した。


マスターはオレにいつもの正攻法を命じた。

多少くだらねえなと感じてもその命令には逆らえない運命にある。


「おらあっ!食らえーっ!!」

オレは構えていた武器をそのザコめがけて振り下ろしたが、それは相手のわずか右にそれてしまった。


更にザコはオレの真上から武器を振り下ろしてきた。


「うおおおおっ!」

「そんな攻撃……何!!?」

オレは完全に油断していた。

ザコの典型的な攻撃方法だと思っていたが、それを避けることはできなかった…

その上攻撃はオレの脳天に直撃した。


「ぐっ…」

その痛みは頭に残ったが、こんなザコごときに負けるわけにはいかないという信念が俺の闘争心をかきたてた。


「やるじゃねえか…だがまだまだだ!おらあっ!!!」

オレは得意の一撃をヤツの左腕にお見舞いした。


「うわああっ!!!」

ザコは痛がる表情を見せていたが、それと同時に何か粉のようなものを顔めがけて投げつけてきた。

「何!?」

慌てて避けるがその粉は顔面のやや下に直撃した。


それを吸い込んだ瞬間、体全体に痺れが生じた。

さらに脳天に食らったダメージが痺れと共に現れてまともに立てなくなってきた…


「くそう…」

オレは悟った…いや、悟ってしまった…

構えようとしても身体の痺れがそれを妨げている…

完璧にオレは『敗北』してしまったのだと…


「よし!とどめだ!」

相手は武器を全力で振り下ろした。

オレはもう動くこともできなかった…


『100戦目だったんだが…負けるのもそう悪くはないな…』

オレは相手の一撃をもろに食らって倒れ込んだ…


オレは負けた…はずだった…


相手の喜ぶ表情を一目見ようとしたが、ヤツは喜んでいない。

むしろ何かの恐怖に怯えているようにも見えた。

おいおい…オレを倒したんだぜ?1勝目が俺の1敗目なんだぜ?頼むから笑ってくれよ…

そう感じたが、俺にも何か変な気がする。

だんだん気が遠くなっていく…空間が変にねじれているように感じる…

そしてそのままオレは気を失ってしまった…


しばらくしてオレが目を覚ますとそこはオレの家だった。


何があったかはわからない。

オレが負けたということしか…


しかし戦績を見てみると負けたという記録はなかった。

いや、その戦い自体がなかったのだ。


夢かと思っていたが相手が食らわせた傷と微量の痺れが体に残っていた…


マスターの様子を見てみると、マスターは笑っていた。

だがこんなに邪悪な笑みを浮かべているマスターを、オレは見たことが無かった…


翌日、オレはそれを夢だったと自分で納得させて次の戦いを受けた。

相手は1500勝している大ベテランだった。

姿は老人で、何とも言えない威圧感があった。


これが貫録かと思いつつもオレは戦いに出た…


しかしこの老人には手も足も出なかった。

アイツとの戦い以前に先手も取れなかった。

いや、一発でやられて終了した。


この世界で一発でやられることはありえない事態だと聞いている。

しかしそれ以上の攻撃力をあの老人は放ってきているのだ…


俺は完敗してしまったのだ…


だが、またあのねじれが生じた。

普段じゃありえないほどの頭痛がオレに襲い掛かってきた…

一方の老人はと言うと、表情一つ変えない。

そして深くため息をはいて、「そうか、お主はそのたぐいの者か」と言ってゆがみと共に消えていった…


オレはまた家で目を覚ました。

戦績を見ても負けという記録は0のままだった。


夢でもないのにおかしい。

マスターはまた邪悪な笑みを浮かべていた…


その後、オレは他の戦士から戦いを拒絶されるようになってしまった。

その老人もまたその対応を食らったらしい。


かつて『強豪』と呼ばれていたオレはもういない。

いつの間にか、何があったのかもわからないまま、オレは『卑怯者』という烙印を押されてしまったのだ…


オレが負けるたびに空間がねじれ、その後でマスターが邪悪な笑みを浮かべる。そして戦績に負けはつかない…


オレは負けを知ってしまったはずなのに、負けていないと記録される…


本当の『負け』って、いったい何なんだろう…

オレにわかるときは…くるのだろうか?


…オレは強豪と名高かった負け知らずの戦士だった。

何が起こったか解った人もいるかもしれません。


「ひどい!」と感じる方も、所詮ゲームだろと感じる方もいらっしゃるかもしれません…

どう受け止めるかは、人によって違うのですからね…

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