卒業
今年卒業の方もそうでない方もは、自分の学園生活を思い出しなら読んでもらえると嬉しいです。
朝早くの校舎の中で佇んだ。
いつもなら学生たちの声で騒がしい教室も今の時間は静かで寂しいように感じる。
トツトツトツ
自分の歩く音だけが妙に響く廊下。
カバンを持って、教室へとまっすぐ進む。
ガラガラガラ
扉を開けても誰もいない教室。
最後尾にあったはずの自分の席を思い出しながら歩く。
キキキッー
自分の席の椅子を引いて、座る。
いつもしていたみたいに。
ふ~、というため息を一つ。
背もたれにダラァっともたれかかりそのまま天井を見上げながら様々なことを思い出す。
クラスの連中とバカ騒ぎをした文化祭。
体育祭では応援で盛り上がった。
修学旅行では気の合う友人と夜まで語り明かし、
夏休みには宿題を放り出して、部活だ、遊びだ、っと駆け回った。
どれも忘れられない在学中の思い出。
苦しく、辛いことがなかったとは言わない。
けれど、大切な何かを手に入れることが出来た。
バッタン、ドン。
その音と共に後頭部に鈍い痛み。
それによって思い出の回想は中断させられる。
どうも反り返りすぎて、椅子ごと後ろに倒れたみたい。
机もそれと一緒に反対側に倒れている。
イテテっと言いつつ、椅子を元のように戻す。
机も同じように戻そうと思ったが、ふとそこで気になるところを見つけた。
机の裏になにか文字が書いてあるようなのだ。
興味を持って、机を裏返してみる。
そして、目を凝らしてかすれて見えにくい文字をよくよく読んでみた。
ふーん、思わずニヤけてしまう。
誰かは知らないが、これは以前この席に座っていた先輩からのメッセージなのだろう。
ふと思い立ち、ガサゴソと持って来たカバンを漁って筆箱から太いマジックペンを取り出す。
そうして、再び裏返した机と向かい合った。
キュッキュッキュ。
新たに文字を書いていく。
自分のいた痕跡を残すように
書きあがり、そのまま立ち上がる。
やり遂げて満足だ。
その調子のまま、机を元のように並べなおす。
ざわざわという話声が聞こえ始めた。
時計をみると結構時間が経っている。
そろそろ人が来てもいい時間だ。
元のように戻した椅子に何事もなかったかのように腰かける。
さっき書いた言葉は今を祝うものではない。
なのに今の自分にピッタリだと思う。
多分、自分で一歩ずつ進んで行くことが、なによりも大切だと知っているから
『僕たちは進み続ける
前へ 前へ
止まることなどない
少しずつでも 一歩ずつでも
進み続けるんだ』
後輩が、私と同じように残した文を読むことがあるかもしれない。
もし読まれたならば、机の裏に書かれた文字の集合体は教えてくれるだろう。
今日からまた一歩ずつ進みだすことを。
明日へ、明後日へ、未来へと。
桜は咲き始めたばかり。
今日、私たちは卒業する。
これは去年、文集に書いた短編をもとに再構成したものになります。
私自身が去年卒業した学校をイメージして書いてみましたが、いかがだったでしょうか。
少しでもこの作品の余韻に浸れたようならば嬉しいです。
この作品は、「高村光太郎」さんの「道程」という詩歌をイメージして書いてみたものです。
気になられた方はそちらもどうぞ読んでみて下さい。