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skill world  作者: 松佐
第壱章 魔法学園
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第7話 強化合宿的なイベントと生徒会長の急所を蹴り潰すという決意をした今日この頃

生徒会長のつくった夕食を非常においしく頂いた後、お風呂が混浴という衝撃過ぎる事実が発覚し一騒動あったが、事態の鎮静は思いの外簡単に終わり、入浴時間を取り決めることで解決した。・・・生徒会長の裸体は、その刺激的だったとだけ感想を漏らしておく。入浴を終え、部屋に戻る。そして、設置した棚の戸を引き、棚から瓶を1本取り出す。机には既に氷入りのグラスを用意済みである。言わずもがな瓶の中身は液体であり、尚且つ果実酒だ。私のささやかな趣味の1つは美酒の収集及び飲酒である。実に女の子らしくない趣味だと思うけれど、美味しい物は正義だという自論に基き私は行動しているのであって、他人に文句を言われたとしても止めるつもりはない。それに私が今飲んでいる果実酒は1本1,000,000ダラスは下らない高級品であるからして、非常に美味しい。12の頃、少量試してみて惚れこんだ味だ。

元となる果実の芳醇な香りにくどくない天上の甘みが口一杯に広がる感覚は中毒性満載で水の様に飲めるのも止められない原因の1つでもある。アルコール度数は高くないし、割と貴族の奥方等には御用達の品なのだ。この果実酒がきっかけで知り合った貴族の奥様もそれなりに多い。お暇を頂戴した時は遊びに入ったりしているほどだ。もうすでに門番さんには顔パスで通して貰えるレベルなので、相当回数は重ねたと思う。毎回みんなで集まり、自らが収集した品の品評会をするのである。本当に楽しい。

それに私は一時期不眠症気味でお酒の力を借りて睡眠を取っていた。もう暮らしの友的立ち位置をこの果実酒は確立している。グラス2杯ほど飲み、果実酒を棚に戻した。そのまま、寝室に入る。いつも、自分が眠っていた部屋だから凄く安心できた。ふかふかのベットにダイブして、お気に入りのぬいぐるみを抱いて眠る。


翌朝、窓から差し込む朝日に気持ち良く目を覚ました私はまず最初に顔を洗って、着ているTシャツとショーツに浄化を掛け、亜空間にしまう。そして、メイド服と今日の分の下着を取り出して身につけ、ダイニングキッチンへ。すでに生徒会長は起きて、朝食をつくっている。私の分も用意してくれるらしい。

昨日と同じ黒縁眼鏡を掛けてる。しかし、眼鏡越しに覗く瞳はどこかぼやけていて、端的に言うと眠そうだ。完璧最強っぽい生徒会長様は朝に弱いと判明した。美形なことに違いないが、寝ぼけ眼の生徒会長は不覚にも非常に悔しいことにだが少し可愛く見えた。朝食はパン、スープ、ベーコンとスクランブルエッグと定番メニューだったが、食材の1つ1つに丁寧な処理がされていて、生徒会長の拘りを感じた。あとでこっそり食材を確認したが、いわゆる高級品の類いだった。例えば、普通の卵1個の相場は5~9ダラスだ。尤も、この国は食べ物に関して物価がおかしいので、何とも言えないが、さっき食べた卵は1つ500ダラス物だ。さすがだと思う。現在時刻は午前5時30分、生徒会長も大概早起きだ。私の場合はこれから姫様を起こしに行かなくてはならないので、毎日早朝に起きている。そして、生徒会長は早朝から勤務する必要がある役職では無かったと記憶していた。疑問に思っていたが、


「朝弱いから、早く起きないと授業までに眠気が取れないんだよ」


と読心術で読んできたのかお答えを頂いた。やはり眠そうな表情だったが。

朝食のお礼に頭が非常にすっきりする効能持ちの茶葉を使用した紅茶を入れてあげた。

姫様に毎朝入れている紅茶と同じものだ。姫様も生徒会長同様朝が弱く寝ぼけてらっしゃるので、「ぶっこ抜きますよ」の脅し文句と組み合わせて意識を完全に覚醒させている次第だ。私自身は本当にぶっこ抜いてみたいのだが、さすがに出血しそうなので実行には移さない。支度を整え、昨日と逆の手順で女子寮の屋上に移り渡り、1階の姫様とミリエの眠る部屋に向かった。寮部屋は2人で住むのに申し分ない広さだが、会長室を見た後だと狭く感じてしまう。部屋に備えつけのベットは2段ベットで上下を1人ずつで使う。それが普通だ。しかし、どうだ。姫様とミリエはギュッと手のひらを繋ぎ合って、1つのベットで寝ているではないか。可愛い生き物がベットで一緒に寝ている絵は最高、最上の威力をもって私を射抜いた。可愛過ぎる。でも、メイドの職務を忘れる私ではない。まず、2人の柔軟性に富んだ頬をグニュ~と引っ張る。少し寝苦しそうに呻く2人の小ぶりな鼻を摘む。呻きが少し大きくなるが、依然として意識の覚醒は成されない。結局、最後は


「ぶっこ抜きますよ♪」


の一言で事を済ます。ガバッと起き上がり上のベットの底に頭を打ち付ける2人を穏やかな笑みで眺めつつ、手だけは高速の着せ替えを行使中で忙しなく動く。それさえも一瞬だが、着せ替え終了後の2人に紅茶を入れて、飲んでいる最中にベットのシーツなどを折り畳んで寮母さんに届けておく。ベットメイキングは生徒が各自で行うのは習わしだそうだ。貴族の生徒は嫌がったり、文句を言ったりするが、寮母さんはその程度で揺らがない。基本的にこの国の貴族は学園の卒業者がほとんどで寮母さんはとある家が専任している。当然、そういう文句を言う生徒の親も寮母さんに世話になっている。中にはこってり絞られる生徒もおり、貴族でも、学園の寮母さんには立てつけないのだ。そう考えると寮母さんは中々のやり手だ。シーツなどを届け、2人に身支度を整えさせ、今度は食堂へ向かう。会長室と違い、寮部屋にキッチンなどはないため、必然的に学園の食堂で朝食を摂ることになるが、この学園の全校生徒は約750人。一部例外を除き、朝は食堂で食べるのが普通である。詰まる所、早くいかないと混み込みで朝食にあり付けない可能性が高くなるのだ。幸いにも午前6時現在は食堂にいる生徒も疎らで混雑はしていない。私が席を取り、2人には朝食を選びに行かせた。朝はバイキング形式のようで多種多様な料理がずらりと並んでいる。昼は外で食べる生徒が主だ。見回す限りでは新入生の姿はない。大方、惰眠を貪っている最中なのだろう。なんと言うか、学園生活においての初授業の光景が目に浮かぶ様である。ところで。視界の端に映る私自身の頭髪が銀色のままなのだが、どうしよう。つまり、完璧に染色を忘れていた体になるわけだ。まあ、成り行きに任せよう。魔力でつくったゴムで結い、ポニーテールにした。お皿に朝食を盛って、戻って来た2人が小さなお口でパクパクと食べるのを微笑ましく眺めながらも不埒な視線を2人に注ぐ生徒には上級生相手でも釘を刺すように殺気を浴びせ掛ける。あの悲劇的な一件以来、殺気を闘気同様に操れるようになりまして、今では非常に使い勝手がよくなっている。闘剣よりも殺気でつくる剣の方が殺傷能力高めで、魔物を狩るときは結構多用している。割と早く食べ終わった2人を連れて、昇降口に向かう。昇降口にはクラス分け表が張り出されている。クラス分けは選んだ学科ごとにはなっておらず、ランダムだ。なんでも、他の学科の生徒と交流を持つ事で新たな道が見えるかも、という根拠のない理由だそうだ。まあ、クラス単位で受ける授業もあるので混ざっている方がいいだろう。例えば、戦闘の実戦などの授業があったとすると学科ごとで固まっていると剣術科のクラスは非常に不利になる。何故なら、想像してほしい。私や生徒会長レベルの生徒は例外的で新入生は斬撃を飛ばす様なスキルを持つ者はいても多くはないはずだ。ここで相手が弓科や魔法専攻の者たちだったと仮定する。すると、剣術科が攻撃手段として接近する必要があるのに対し弓科や魔法専攻者は遠距離から攻撃を放てるのだ。無理があり過ぎるのである。


で、クラス分けの結果だが3人とも同じクラスだった。

ここで学園の授業と卒業方法について説明する。授業は座学と実技・実習と非常にシンプルで座学は一般教養を身に付ける内容の授業が大半で魔法専攻は呪文等を学ぶ。実技・実習はそのままで長期休暇までに2度テストがある。実技・実習は実戦形式で成果を示すもので座学は普通に筆記テストだ。

卒業方法は規定単位を取得すること。単位は真面目に授業を受けていれば、ある程度貰えるが、必要単位には及ばない。ならば、どうするか。答えは簡単で冒険者みたく学園に寄せられる依頼をこなせばいい。

雑用から討伐まで様々だが、単位は稼げてお小遣いも増えると一石二鳥だ。確実に卒業したい者は通常授業はテストだけ受けて、ずっとそっちをやればいい。実際、参加が必須な授業はテストや特別な授業(合宿とか臨海学校とか)のみである。私は断然、そっち派なのだが姫様が護衛不要になるくらい信頼できる友人ができるまで、姫様のやることを一緒にやるだけだ。あと、依頼にランク毎に取得単位は当然違う。

確か必要単位は2000、1年間の授業で貰える単位は最大で500程度。3年間じゃ500単位足りなくなるため、依頼は絶対にこなす必要がある。余談であるが、最低ランクの依頼だと単位は0.1らしかった。まだ、午前6時30分を回った所だ。教室は閑散としている。座る席は自由らしいので、私は迷わず後ろの窓際を占領した。


「シェアラは絶対居眠りするつもりなの」


「まさか、私が居眠りなど、万が一にもあり得ませんね」


「信用できない顔になってるよ、シェアラ」


「姫様まで酷いですよ。はぁ、ぶっこ抜いて調教するしかないでしょうか」


「ひぃっ、ミリエちゃん助けて!シェアラが脅してくるよ」


「ごめんなの。シェアラには勝てないの」


非常に、2人の私に対する認識がどのようなものなのか疑問に思うがスルーする。

2時間後、授業の開始時間になり、空腹に呻きながら登校する生徒が大量に入室してきた。想像通りの結果とだけ言っておく。登校初日にして雰囲気が最悪な教室に担任の教師が入ってくる。間違いなければ、【流星の射手】その人である。年齢は三十路を過ぎた当たりで引退するには早いと悔まれたものだが、本人は周りの意見など気にした風もなく、あっさり引退して学園の教師をやっている。三十路すぎと言っても、外見は20代で通用する美女であるが。男子は空腹を忘れ復活した。現金なものだと思う。


「おはようございます。皆さんの担任を任されました、クレハと言います。よろしくお願いしますね」


一礼する、その所作はさすがというか美麗の一言に尽きる。しかしだ。


「昨日の歓迎行事の結果は悲惨と言うより無様としか形容できぬものでした。よって、皆さんを含む新入生は今日より5月1日まで星駆ける天宮で合宿になりました」


吐く言は辛辣であった。各自、早急に準備をして9時までに正門に集合するよう指令が下され、仕方なく私も動く。私は逃げ切ったのだから、合宿に行く必要性は感じないけれど、姫様の護衛故にサボりはできない。一気に会長室まで空間を繋ぎ、合宿の日数分の果実酒を亜空間に入れ、お気に入りのぬいぐるみを1つ持っていく。姫様とミリエは最初から正門にいたので、迎えに行く必要はなかった。そもそも持っていくものなど、そんなにあるはずもない。30分も時間はいらなかった。星駆ける天宮には自力でいくそうだ。面倒な・・学園からだと優に100kmはある。しかも、時間制限ありで6時間以内に到着せよとのお達しだ。正直、空間を繋ぐだけ行ける場所だが申し訳ないので、普通に行くことにする。昨日と同じく姫様とミリエを小脇に抱え、ダッシュ。速度はちょうど時速100だ。ここで目的地の星駆ける天宮について。

星駆ける天宮はダンジョンと迷宮が一体化した、そんな場所である。最初のエリアは樹海で奥地にいるボスを倒せば、その次は雪山エリアに行ける。次が砂漠エリア、その次は火山エリア。その後、草原、洞窟、アンデットと続き、最後に天宮エリアがある。迷宮とは通常地下に潜って行くものだが、天宮だけは特異で外観は塔で上空に昇って行く形になる。そして、その最上階地上200階が星駆ける天宮と言う名の由来であり、ボスの部屋には天井がなく、広大無辺な星空が延々と広がり、流れ星が煌めく絶景スポットなのだ。まあ、この情報は過去の伝承で実際に頂上まで辿り着いた人間は今の所、存在していない。生徒会長は案外、登り切ってそうだが、今回の合宿は最低でも草原エリアまで進出することが目標となっている。ダンジョンにしては珍しく、1つのエリアには3種から5種ほどの魔物しか出現しないらしい。

樹海エリアではクレイジーボアとオーガ、それに蜥蜴男(リザードマンの下位種)の3体。

雪山エリアはアイスマン(雪男)とスライムフローズン、アイスボールの3体。

砂漠エリアは骸骨駱駝、砂掛け婆、サンドワームの3体。

火山エリアは火山弾男とマグマスライム、炎の悪魔にファイアスネークの4体。

草原エリアはギガ・ビートルとギガ・アント、毒百足、人狼の4体。

目標到達エリアまでの魔物情報はこれくらい。注意すべきはアイスボールとサンドワームと火山弾男、毒百足、人狼の5体。アイスボールと火山弾男の危険な点は共通しており、突如として飛来して来るのだ。昨日、私に撃墜された在校生の気持ちを体験できる。

サンドワームはAランク相当の魔物で前述の魔物の中で随一の強さを誇る。

遭遇率は低いので、運が悪くなければ問題ない。最後に毒百足だが、こいつ自体の戦闘力は雑魚だ。しかし、草原エリアは足下が草に覆われよく見えない。毒百足は草をほとんど揺らさずに足下を移動しているため、気配に気付かず、ガブリとやられることが多い。

毒は遅延性で数分間、痺れて動けない程度だがダンジョン内でそれは命取りになる。

人狼は膂力と敏捷性がすさまじい。サンドワームを除き、5個のエリアで一番強く遭遇率も高い。人狼を如何に攻略するかが生き残る鍵になる。洞窟エリアを目指すならだが。

とりあえず、現在トップで疾走中。ただ走るだけなのは暇だ。


「シェアラ、お願いがあるんだけど」


「お願いとは何でしょうか?出来得る範囲なら叶えて差し上げますが」


「ええと、合宿中は護衛をしないでほしいの」


「・・・・・理由をお聞かせくださいますか?」


「シェアラは学園最強と戦えるほど強くて、一緒にいると実戦経験が積めないと思ったから。だって、シェアラは私の護衛でしょ?魔物が出たら全部、1人で倒しそうだもん」


「それが当然なのではないですか?護衛たるもの外敵から主人をお守りするのが使命と存じているのですが・・間違っていますか?」


「間違ってないと思うけど・・・これは主人の命令です」


「説得を諦めたの!?」


姫様はミリエの突っ込みにもどこ吹く風と言った体で意志は確固たるもの、熟考した結果はミリエと一緒で男子とパーティーを組まず、寝るときは合流するという条件で認めた。

思春期の男子は狼だ。いつ襲撃されるか分からない。それが2人のような美少女なら殊更そうだ。それに星駆ける天宮は王都より北西の位置にあり、道中通る街道はあんまり治安が良くなかったりする。盗賊やらも出現回数が最も多い街道で今回の合宿の話を聞きつければ、完璧に就寝時間を見計らって襲撃を掛けてくるはずだ。こっちのが男子生徒よりもよっぽど脅威的である。それらも、いえ、それらの不確定要素は全て排除しておく。自身の魔力を広域散布することで対象の位置を確定する初歩的な探査で大体の辺りをつける。本当は探査する必要は投擲必中のお陰で無かったけれど、私は形から入るタイプだ。

でも、折角位置を特定したのだ。賞金はしっかり頂こう。盗賊を包むように亜空間をつくり、反応のあった盗賊全てを捕獲する。申し訳程度に亜空間内で雷属性の低級魔法を発動して意識を刈り取った。大丈夫、感電死はしてないはずだ。確証はないが。盗賊狩り・・・盗賊の年齢層的に親父狩りかもしれないが、駆逐作業は終了。こんな芸当、私にしかなんて自負はないが、空間魔法は本当に得意だという点は自負してる。実際、あの生徒会長が強過ぎる所為で色々と自信が無くなってたりするわけでして、この合宿で取り戻したいと思う。生徒会長の急所を蹴り上げられるくらいには強くなりたい。

いっその事、潰せたら素直に喜べそうだ。


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