第14話 ハプニングと公爵家の長男を貶なす話・・え、ただのストレス発散というわけではないんですよ?これは教育です。
前回の投稿より大分、間がありましたが、今後は週に1話更新できるよう頑張ります。
明日は草原エリア攻略だと、私は意気込んでいた。本気であることに相違ないし、撤回するつもりもないのだが、今現在。奴隷を買い、折角なので会長室の自室に戻っていた私は羞恥と動揺で上手く言葉が出ない。よりにもよって、寝室に会長が入ってきたのだ。寝室は自分で言うのもなんだが、メルヘンというか乙女チックというか普段の雰囲気からして縁遠い物品ばかりが取り揃えられた空間となっている。事の発端といえば、当然私が帰宅したことで会長が部屋にやってきた。何やら話があるとかないとかで、ちょうど私は寝室で寛ぐもといぬいぐるみを愛でており、ギリギリまで気配に気付かなかった。会長が声をドア越しに伝えつつ、ドアノブを回した時には全てが遅かった。静止の声も効果をなさず、全開に開け放たれたドアと驚いた会長の表情が鮮明に脳内保存されている。咄嗟にベットへダイブし、布団を頭から被って、現実逃避しようと試みたが、私的に恥ずかしさ満点の私室に会長という闖入者を残したまま、現実からの逃避行を敢行するのは愚の骨頂であるし、何より私が精神的に耐えられない。恐る恐る布団に隙間を作り、会長を観察すると興味深げに室内を見渡してから、目敏く私と視線を交差させると面白がるような笑みを浮かべた。嫌な予感しかしない。
「以外に乙女チックな内装の部屋なんだね。超がつく高級な劫炎酒に酒職人が欲して止まぬレアアイテムを持ち、かと思えば、私室は本当に可愛い作りだ。とことん俺の予想を裏切ってくれるね、シェアラ」
「どうせ、私には似合わない趣味だとでもお思いなのでしょう?自分だけの空間を他人に見られるのはいい気持ちではありませんので、ご退室願います」
会長はこれまた驚いた顔をしたが、すぐに意地の悪い笑顔に転じる。口元は緩んで弧を描き、ゆったりとした自然な動作で近づき、私の眼前・・ベットのヘリに腰をかけた。伸ばされる腕、布団に出来た僅かな隙間に指を差し入れ、一気に引き剥がしてきた。一瞬の抵抗も許されずに防御壁であった布団は没収され、会長の指先が触れるか触れない位置で私の顔の輪郭を撫でる。くすぐったさを覚えた私が顔を引くと指は私の手首に移動して一息に引き寄せられる。吐息が掛かる距離。
「まさか。どれも職人が丹精込めた作品の数々だ。それにね、シェアラは普段の態度を省みて似合わないなんて自分で断じているけど、可愛い趣味だ。秘密にして収集してるのもいじらしいし、いいね」
わざとらしく耳元で囁かれて、心地いいなんて思ってしまう。似合ってないと言われなくて、ほっとした。同時に落ち着きを取り戻した。
「ところで。褒めて頂くのは素直に嬉しく、結構なことですが、少しばかり接近しすぎかと思いますので、会長。離れてください」
「俺は離れる必要性を感じないけどね。理由を聞いてもいい?」
「恋人でも、ましてや夫婦でもない未成年の男女が同じ部屋で、こうして身体を密着させて時間を共にする行為は褒められたものでもありませんし、推奨される行いではないでしょう?それに男は狼ですし、会長は生徒会の激務のあとのはずです。疲れ//自主規制//という言葉もあるので、遠慮したいのです。逆に離れる必要性を感じない理由をお聞かせ願いますか?」
「既に入浴を共にして酒盃を酌み交わした仲だからさ。それに相手が俺じゃ不服?」
「一理ありますが・・それはともかく私を相手にされなくても、お相手に困ることなどないと思いますが?」
「シェアラには冗談が通じないね。あと念のために言うけど、君の想像するような類の女性は声を掛ける前に寄ってくるし、胸糞悪い人が多い。だから女性をお付き合いした回数なんて対応力と臨機応変さに欠けた数年前に数回だけで以降はお付き合いの経験なんてないよ。正直な話、身に染みてて軽くトラウマだよ」
つい、幼気な美少年に群がる色気ムンムンのお姉様軍団を思い浮かべ、ご愁傷様ですと合掌する。ショタ好きのお姉様はいつの時代も存在するのだ。会長は相当な苦労人らしい。ある時は学園長の使いっ走り、幼い時はショタコンのお姉様の毒牙に掛けられる哀れな美少年、他にも色々あると思われる。やっぱり苦労人だ。同情しながらも進行形で密着中なのだが、フリーな片腕で突き放そうと試みる。詳細には片腕に闘気と魔力を一点集中しつつ、闘気による強化+筋力倍増+身体強化、さらに衝撃波・爆裂掌・念動力・一撃必倒・重量増大の重ね掛けオプションに強化された上で腕に万力を込めて、今日までの人生で一番えげつない威力の突きを無防備な胸板に突き立てた。
会長は入浴後らしく標準装備のYシャツは、はだけた状態で妙に色っぽい状態だったが、突きを放つ刹那に思う。あれ、これって殺っちゃうかも。しかし、予期した最悪の事態は発生せず、むしろ私の自信が木端と化した。何あれ、どういう防御力なんだ!?傷一つない。Yシャツも無傷だなんて素材なんなんだ?疑問ばかりが脳内を埋めて、少々錯乱する。まあ、それでも数秒で会長だからと結論付け落ち着く。
「いきなり酷いね。普通なら木っ端微塵になって部屋中に肉塊が飛散してるところだ。綺麗な部屋なんだし、自分で汚すような真似はしないほうがいいよ」
「怒らないんですか?」
「シェアラが案外恥ずかしがり屋だって貴重な一面を見れたから、今回はチャラだね。
それじゃお休み」
そう言うと名残惜しげな態度もなく、会長は普通に離れていった。僅かに残る会長の温もりが離れ、少し寂しいと思う私がいる。きっと私は誰かに甘えたいんだ。自分の運命を、逆らえない宿命を知り、自らの辿る軌跡へ思いを馳せ、悲劇のヒロインであるかのように役に酔っている。自らが可哀想でならない。だから、物語の始まりまでは・・と暗い未来を想像しては絶望する。絶望しないように今を生き、今くらいは頼れる先輩に甘える。そういうご褒美を自分に与える。最も悲劇のヒロインなんて役どころは姫様やミリエの管轄だ。私は・・人類の平穏のために犠牲となる、諸悪の根源として討滅され、人類は討滅の際に結束し、種族間の隔たりを解消する。そうして、世界に平和が訪れる。そんな王道ストーリーをブレずに送るのも私の役目だ。幸せになれるイレギュラーを切に願いて、今日はもう寝る。
Side会長
部屋を出て、すぐにキッチンへ向かい、身体の奥底から湧き上がる熱を吐き出す。ゴフッ、少し咽る。ビシャリと赤い液体が尋常でない量、口から湧き出てきた。ふっと 自嘲する。
「格好付け過ぎたかな?」
そこには血を噴きながら深刻なダメージを負った各臓器に治療を施し続ける会長の姿があった。 Outside
ドキドキ?イベントから一夜明けた今日この日、合宿の最終到達目的エリアである草原エリアに挑む。他の生徒たちは最前線が雪山エリアのボス直前で姫様とミリエは大いに活躍し、戦果を上げているらしい。ただボス直前には大量に罠が仕掛けられている。それも魔物を呼ぶ系統のもので、結局は殲滅に時間が掛かり、消耗するのでボスまでは辿り着けない現状だそうだ。今日も午前9時から攻略を開始するらしい。折角なので、ウォーミングアップとアイスボール討伐ついでにボス直前の掃討をいらぬお世話だと分かっておきながら確信犯であるが、してから草原エリアに挑戦しようと思う。何より雪山エリアで停滞していても時間の無駄であるし、私だけが草原エリアに到達しても合宿の意味がない。全体的な戦闘能力の向上を目指す過程で草原エリアが一番的した環境だと判断された故、草原エリアが最終到達目的エリアと相成ったわけなのだ。理由としては他のエリアにはいない敏捷性と攻撃力に特化した人狼がいて、また草に紛れて襲い来る毒百足がおり、魔物の気配や立てる音、周囲の状況に気を配る情報の収集能力及び五感の鋭敏化をはかれる。環境に左右されず、臨機応変な対応を戦闘職に付く人間は求められる。入学時から徹底して、その技能を磨くので、この国の学園卒業者の質は本当に良いと評判だと聞いたこともある。それに私だけしか到達できずに不作の年なんて不名誉な醜聞の広げるわけには行かない。この合宿は伝統なのだ。不作の烙印を押された年度の卒業生のうち騎士団に入団できたのはひと握りの生徒のみで除かれた生徒は大部分が冒険者や傭兵になった。実力があっても要職に就けない、そんな遣る瀬無い気分を味合うことになるのは可哀想だ。私はすでに冒険者として大成していると言っても過言ではないので、就職先など気にする必要性がないし、宿命に従うならば騎士団に所属するのは、あまりにリスキー過ぎる。まあ、私の事情はともかく姫様やミリエにも、その烙印が押されることは回避したい。姫様は仮にも帝王の娘で王女だ。王族が在籍するクラスひいては学年が下手な評価を得ると王族として色々と問題が出てくる。総じて貴族階級というものには相応しさが存在するのだ。王族として相応しくないと断ぜられた場合、最悪の結果として待ち受ける結末は王族からの追放及び権利や身分の剥奪、身分を平民まで下げられる。今の王族に不満を持つ貴族は少なからず残っているため、王族を叩く口実をむざむざ与えるわけにも行かない。姫様のメイドである間は姫様をあらゆる事柄から守る、それが使命だ。
私は以上の考えから攻略へ参加すると結論付けた。いや、やっぱり参加ではなく助言だけにしようかと迷っている。だから、先んず魔物をある程度狩る。そして、狩り初めて数分、攻略隊のお出ましだ。友好関係に淡白な私は知り合いが少なく、前列に並ぶ生徒の顔は見知ったものではない。しかし、合宿前とは顔付きが変わっている。一人前、そう形容するに値するだけの経験は積んだようだ。と、上から目線で語ってみる。実際のところ私も通ってきた道である。人生経験という点では私の方が先輩だ。聞けば、罠で集い来た魔物の大群相手に生徒たちは各個撃破しようとしたらしい。普通に考えて集団で、しかも攻撃魔法を習っている者たちが魔物の掃討作戦を決行する場合、個別撃破は上策とは言えない。唐突だが、学園の入学条件の1つに火属性の中級魔法ゼノファイアを発動できる、というものがある。実はこの条件、雪山エリアを正確にはボス直前の罠を攻略するための布石なのだ。ゼノファイアは直径1m級の火球を指定対象に向けて発射する魔法だ。威力はオーガのHPを6割削る程度だが、性質としてゼノファイア同士は引き合い融合する。本来、個々で魔力の質は異なり、魔法同士の融合は非常に困難な技術だが、ゼノファイアは融合させて使用することに主眼を置いて作り出された魔法なのだ。融合した場合、威力と飛距離が2倍となり、大きさはあくまで術者の裁量だが、面白いことに融合後は形も円形の範疇なら弄れる。当然、楕円形にもできるため、魔物に対しての当たり判定範囲も広くなる。また、ここで特筆する点としてボス直前の罠で集う魔物は何れも進行方向、つまりはフロアの方向から来るのだ。事前にゼノファイアを融合させた状態で待機させておき、十分に引き付けてから放てば掃討も簡単にできる。やはり助言だけでいいだろう。そもそも、本当のことをぶっちゃけると姫様の火属性上級魔法とミリエの風属性上級魔法を組み合わせた混成魔法なら罠で集まる魔物を薙ぎ払う程度の出力と威力がある。ちなみに身内贔屓ではない。言うなれば、相性の良さだ。火は吹き消される程の強風でなければ、風を己がより強く燃えるための糧とする。風は火を吹き消す程の強風でなければ、逆に火を増幅する。それに個々の魔力は保有者同士の相性によって反発もするし、同調もする。あの2人ほど中が良ければ、増幅するはずだ。魔力や魔法的な意味で言うと2人は最高のパートナーだ。その2人に雪山エリアはかなり易しい難度のはずであるが、攻略隊の雰囲気を観察すると2人が自由に探索できない理由がどことなく掴めた。元々、樹海エリアで手間取っていた生徒たちが雪山エリアに来れたのは徒党を組むことを覚えたからだろう。今までにない密度の濃い戦闘を経験した数時間で一定以上の戦果を挙げた者をリーダー及び幹部とし、ヒエラルキーを定めた。2人としては攻略隊という組織に属するつもりは毛頭ないだろうが、勝手に幹部にされて結果として縛られていると見える。徒党を組むのは悪くないと思う。しかし、組織まで作っちゃうのは駄目だ。そのうち、下っ端を顎で使うようになる。合宿はまだ2週間ほどある。この場でのヒエラルキーはそのまま学校でのヒエラルキーになる可能性が出てくる。新入生全員が所属しているわけではないが、9割はいると推測できた。大所帯だ。色々と検討すると助言はしない方がいいかもしれない。それに冷静な判断を下せば、新入生のうちの9割いるなら数によるゴリ押しでも十分行ける。行けるはずだ。ボス直前の罠を除けば、魔物の出現数は樹海エリアより圧倒的に少なく、火属性の魔法を使えば、本来比較的簡単に攻略可能なエリアなのだ。
その疑問の答えはスキル鑑定を使用した瞬間に判明した。休息不足でHP・MP共に十分な量回復していない。あと、私は自分を基準に考えすぎていた。割とMPの総量が多くないのだ。まあ、使い方次第でこのエリアは攻略できるが。普通は連日探索に出かけたりしないものだ。例に漏れず、彼らも連日探索など慣れぬことだろう。私も最初の頃は休みを挟んでいた。スタミナが増えてからは連日コースだったけれど。この状態じゃ出来ることが出来ないのも当然だ。
「姫様、ミリエ。出てきてください」
私が居るせいか行進の止まった攻略隊から姫様とミリエを呼び出す。2人は頭上に疑問符を浮かべた状態で集団の中から出てきた。
「2人をどうするつもりだ?」
5人ほどお呼びでない人間が出しゃばって来たが、とりあえず2人をこちら側に引き寄せ、答える。
「これ以上は2人の探索に支障を来すので、引取りに来ただけですが?」
「そんな勝手が許されると思っているのか?2人は幹部だぞ」
「それこそ勝手では?2人の意志に関係なく幹部にし、縛り付けたのはそちらでしょう?見た所、貴方がリーダーのようですが・・その程度の実力で良くこの2人の上に立とうと思いましたね。個の武力のみでヒエラルキーを決定するとは愚の骨頂、本当に救いようもないですね。それに集団のリーダーたる者、部下の健康状態も確認せずに不完全な体調で何度も行軍し、数によるゴリ押しで数度失敗しているのにも拘らず、作戦も立てない無計画さは特に愚かさが際立っていますよ。どうやら子供でも知っている休息の大切さを知らぬようですね。これはまさか私を笑い死にさせるための大規模なコントか何かですか?でなければ、貴方は本当の大馬鹿者ですね。公爵家の長男がこれほど頭の悪い方だと現当主も悩み多いでしょうね」
「き、貴様!!それ以上、俺を侮辱してみろ。殺すぞ!!」
「リーダーがこれでは部下となる皆さんはとても不幸ですね。こんな安い挑発に乗るようでは公爵家の当主など務まりませんよ?このエリアを攻略したければ、皆さんに十分な休息を取らせ、ちゃんと作戦を立てるべきです。正直言ってリーダーがダメダメな組織に2人を置いて時間を浪費させるわけにはいきません」
「貴様!!本当に殺すぞ!!」
「もし、2人が組織に留まり、結果として今回の合宿の目的を達成できずに汚名を着せられた場合、どうなるかお分かりですか?私は汚名を着せられ、皆さんの将来がどうなろうと知ったことではありませんが、姫様は別。姫様は王族、王族にとってこの合宿は生活・地位・人生の全てが左右されかねない重要なものです。それをたかが公爵家の長男の事情でどうこうされては適いません。故に合宿中は2人に近づくことがないよう皆さんにお願いしますね。そこの5人は近づけば首を落とすので、そのつもりでいてください」
「そんなことしてみろ!!貴様は死ぬぞ!!」
「別にその頃には貴方は死んでいるので、その後に私が死のうが何の問題にもなりません。
それに公爵家から報復があったとして・・(ここで雪山の中腹にヘルフレイムを放つ)・・私が殺される要素は存在しませんし、やりはしませんが王都ごと消滅させることも可能なので、あまり私を刺激しないほうが長生きできるかと」
「それと無様に怯えるリーダーを見限って、自ら探索を頑張ろうとする気概のある方は時間のあるときに私を訪ねてくれば、助言くらいはするので、遠慮はしないでください」
この日、シェアラは多数の同級生に一種のトラウマを植え付け、組織の戦力の中心であった2人を引き抜いて、去って行き、草原エリアの探索は翌日に変更された。




