生第11話 会長と裸のお付き合い。最初からポロリですが、何か?
第2話における主人公の出自設定を王族に変更しました。
温泉に身を沈め、心地よさを享受する。熱過ぎず冷た過ぎずの適温。
銀糸が湯の中に広がった。浄化の効果で汚れはないが、性別が女である以上は湯浴みを欠かしたくはない。一種の固定観念だが、浄化と入浴では心地よさがまず違うし、疲労を取り除く効果もある。また、身体の芯から温まり、結構も良くなるのだ。
私は個人的にも入浴は好きだ。私以外にも好きな女性は多いだろう。
特に温泉は気に入っている。様々な効能もあり、何よりも大半が露天風呂形式で風情のある景色が見渡せる。私はその景色を臨みながらお酒を飲むのがとても好きだ。
それと今、おじさん臭いとか考えた奴には制裁を下す故忘れないようにするといい。
青々とした緑が美しい山林の中で温泉に浸かりつつ、飲むお酒が果実酒じゃお話にもならないので、今回は秘蔵の1本を持ち出してきた。時価で数億ダラスした逸品だ。
アルコール度数は少量でも並みのドラゴンなら酔っ払うレベルで劫炎酒と呼ばれている。確か数百年物で随分と凄い酒らしい。私もまだ飲んだことがないのだ。腐ってる確率は100%ないと買ったときに保証された。SS+の神竜ノヴァーの眼球にSSのボス業深き魔熊の希少ドロップである業深き右腕、他に多種多様な高級酒を材料に仕上げられた最上級の酒なのだ。名の所以は喉が焼け付くような強烈な味だそうだ。色は無色透明。
亜空間から特注で取り寄せておいたとある民族の工芸品である猪口を出して、劫炎酒を注ぐ。一口で飲んでしまえるが、この酒を飲むには最適な酒盃だ。魔力物質化で台を作り、お摘みにスルメを用意する。スルメと言っても素材が大王イカという高級なスルメだ。とりあえず、一杯目をクイッと呷る。さらさらとした純な味わい、そこはかとない甘やかさの後に強烈な痺れを伴う辛苦(ここでは辛く苦いの意)と爽やかさが同居する矛盾を内包した筆舌に尽くしがたい旨味の奔流が駆け抜け、胃に到達する。激流とも取れる旨味が腹に納まり、熱を生み出す。一瞬で頬が上気した。一旦、息を吐いて落ち着く。まさに新体験というか癖になる類の味わいだ。下手をすると依存症に成りかねない。それに酔った。意識は正常に保っているが、身体の動きがぎこちない。少し、くらくらする。
その所為か背後から接近する気配を察知できなかった。
「いい酒飲んでるね、シェアラ。俺もご相伴に預からせてもらうよ」
違和感を感じさせぬ自然過ぎる動作でその人物は温泉に浸かったかと思えば、手には既に酒盃を持っている。いつの間にか劫炎酒の瓶を取られていた。しかも、ゆったりとした動きなのに私は反応できなかった。酒盃に並々注ぎ、一気に呷った。傷のないきめ細かな女性の嫉妬の的になるだろうなと見当違いなことを思いながら、数度躍動を繰り返した彼の喉元に視線を惹きつけられた。雫が伝う光景はゾクッとするほど美しく色っぽい。その一瞬、私は恥じらいを忘れていた。彼、生徒会長は男であり、私自身は花も恥じらう乙女には見えないが、成熟した女性である。無防備に身体を晒す行為は相手が紳士っぽい生徒会長でも憚られる。不自然さをなるべく殺して片手を胸元に巻きつける。
「会長、今は通常の授業中だと記憶しているのですが・・差異がありましたか?」
「いや、間違ってないよ。でもね、俺は卒業に必要な単位は取得済みだから基本的に自由なんだよ。それに生徒会長だし、幾つか教員を超える権限も保持してるからね。抜け出して、あちこちを放浪するのも珍しいことじゃないさ。しかし、今日は本当に来てよかった」
「・・何故です?」
「いつも無表情がデフォルトなシェアラが恥じらう姿を見れたからね。欲を出せば、可愛い悲鳴も聞きたいな・・さすがに高望みだよね、それはさ。でも、本当に堪らないね」
「・・嫌な予感しかしないので、本心から聞きたくないのですが」
「酔いが回って火照った頬に赤く色付いた褐色の肌、零れる胸。男の情欲を喚起する一首の凶器的な身体に反してその美貌は幼さを残し、酷く加虐心をそそられるよ」
会長は思いのほか変態だったようだ。もしかすると貞操の危機・・なのか?
「・・ああ、ごめん。如何せんアルコールがバカ高いからね、普段は抑制されてる日々の鬱憤が変態発言という形を持って溢れ出たんだよ。いや、からかいかな?どちらでもいいけどね。全く、俺にも面倒ながら立場ってのがあるのに仮にも生徒の代表たる生徒会長を顎で使いやがってさ・・・思い出すだけでイライラするよ、あの低脳教師どもが」
訂正。会長は思いのほか腹の中が黒いようだ。オーラが黒過ぎる。
「生徒会長という役職は随分と疲労が蓄積されるのですね。普段の、と言っても会って間もないのですが、爽やかなオーラを何重にも重ね着している会長がそこまで暗黒色に染まるとは、私も存外驚いています。ともあれ、暢気に昼間から酒をカッ喰らう余裕があるようなので、今日はお暇なのでしょう?さすがにこの劫炎酒ほどの一品は手元にないですが、高級品は幾つかあるので、よろしければ付き合いますよ?代金は貰いますが」
「有料なら酌もしてほしいよ。可愛い後輩が酌をしてくれるなら、俺も元気でるからね。
ついでに愚痴も聞いて欲しいな」
この行動には当然のこと打算も含まれている。鬱憤が溜まり過ぎた結果、合宿後に同じ屋根の下で寝食を共にする中で会長の宣言通り、私のを突き破られたら洒落にもならないし、適度に鬱憤は抜くべきだ。それに私自身も徹底的に酔って日々のストレスを忘れ去りたい。あと、会長の話は面白そうだし、会長と一緒にいて悪い気はしないのだ・・不思議と。正直な話をしてしまえば、1年前の件から男性恐怖症ならぬ男性嫌悪症を患っていて例がなく男性及び男子は嫌悪対象だったわけで、裸の付き合いをしようものなら相手の股間を骨盤ごと捩じ切っているはずだ。それはさて置き、プチ宴を開催するにあたり、お互いが保持しているお摘みを台の上に並べ、湿気防止の概念を空間魔法で台の上に付与する。お摘みも豪華な高級品だ。飛龍の干し肉、クレイジーエンドウや100g当たり数万ダラスのチーズに謎の生物の肝など等、全て売れば数百万ダラス相当になる品々だ。次に、どうせ飲むなら劫炎酒を最後まで飲みたい。故に私はとっておきの古代魔法具を使用する。名前は至極シンプルで湧き酒の壷。壷の中に入れた酒を延々と無限に生成し続ける夢のようなアイテムで酒を造る職人が喉から手が出るほどに欲しがる一品である。劫炎酒を注げばたちまち溢れんばかりに壺が一杯になる。尤も、零れはしない。
「では、最初の愚痴を。少し前、入学式直前当たりだったかな?入学式の挨拶の原稿やら各種準備に掛かる費用の算出、使用小道具の品目の整理とか、本当に忙しい時期だった。
生徒会長って役職は多忙だって周知の通りなんだけど、俺が就任した当時から生徒会長に指名で仕事が舞い込んでくることが多くなってな。再三文句は言ってるのに改善されず、その時は忙しすぎて首が回らない状況なのに古龍を狩って来いとのお達しがくだされた」
「学園側も鬼ですね。会長なら簡単に狩りそうですが」
「まあね。狩るのは苦労しないよ。限界まで細く固くした魔力の刃を鱗と鱗の隙間に全力で叩き込んで鱗を剥ぎ、超威力魔法をぶち込めば終わりだからね。大変だったのは狩った上で何百枚、何千枚単位で有る鱗の中から逆鱗を探し出す作業だったよ。しかも、発見後に加工して良い感じのネックレスに仕立てろってね。もう細工屋の管轄だよ。全神経を尖らせて加工を終えて、学園に戻れば、俺の執務室は書類で埋まってるし、正直やってられないよ。あとから聞いた話、加工したネックレスは学園長の愛人へのプレゼントだったらしくてさ、職権乱用だろってブチキレて色々とやってられなかったね」
生徒会長って、教員のパシリ的役職だったか?凄く会長が不憫なんだが・・しかも学園長、愛人とか奥さんキレるぞ?学園長とは直接的に面接はないが、果実酒収集の関係で奥さんとは面識があり、初見の限り愛人を許容する人ではなかった。見た目は可愛い系の人で旦那さんラブの健気な若奥様だ。学園長も結構若い。年の頃も近いので、一番仲の良い人だ。あの人、愛人いるとか知ったら絶対泣くし、下手すると命断つレベルの人だから非常に心配である。会長にその話をしたら、
「目覚めの悪いことにならないといいね・・・切実に」
精神的な疲労を濃くした表情で真剣に言った。確かに事が起きて、間接的にでも自分と関わりがあったら目覚めの悪い事この上ないだろう。会長は吹っ切るように壷から劫炎酒を汲み取って、呷り、それを数度繰り返した。ふぅ、と零れた吐息は酒の所為で紅潮した頬との相乗効果で無駄に色っぽい。客観的に見たら、あの勢いでこの酒を呷ったら意識とんでも不思議じゃないと突っ込むところなのだが、私も随分と酔いが回っていた所為か、突っ込むことはしなかった。会長の愚痴及びお摘みを酒の肴にして酒盃はひっきりなしに進んでいく。酒盃が進むうちに自分はざるだったのかと、ふと思う。普通なら酔い潰れているはずだ。尤も、会長にも当てはまる事柄ではあるが。ここまで来ると、胸を隠していた腕は解放され、お摘みをキープしている状態だ。
「そう言えば、シェアラ」
「・・なんです?」
「シェアラはさ、子供の頃はどんなだった?」
「私は5歳くらいに両親に捨てられて孤児院生活が始まり、統治者と地方ギルドのマスターが結託して不正をしていたので、金策のためにホーンラビットとボアの出る平原で無双してお金を稼いでいたのですが、途中で養子に迎えられて、従者に必須の技術を叩き込まれて、己を鍛える日々を送っていた非常に子供らしくない子供だったと記憶しています」
「中々大変だったんだね。偉いな、シェアラは」
「私、偉い?えへへっ(*´д`*)」
はっ!?しまった。押し隠していた、ある意味私の本質の部分が出てしまった。会長に頭を撫でられて、つい・・一生の不覚である。
「・・そう言う会長はどうだったのですか?」
恥ずかしくて、会長の顔を正視できず、少々強引な話題転換を切り出す。苦肉の策だ。会長は素直に応じてくれた。この時、会長が凄く善良な人に見えてしまった。錯覚だが。
「俺?俺はね、シェアラ以上に大変だったかもしれないよ。程度で言うと現在の生徒会長が1人で捌く必要のある執務を一年中、捌き続けるくらいかな?」
「中々、壮絶な子供時代ですね。実は苦労人ですか」
「まあね。シェアラは信用できるから、話すけどさ。俺って、とある国の王子なんだよね」
「今更ですね。入学式の挨拶時の立ち振る舞いと種族及び力量から計算して、ある程度は予測していたので、驚くことでもありません。特に髪と瞳があからさまですので」
「さすが、優秀なメイドさんだ。それで一応は第二王子で継承権は兄、姉の次なんだけど、
俺が産まれて、母さんは産後の状態が悪くてね。父さんの溺愛ぶりは正直引くレベルで心配し過ぎて政務も怠りがちになってさ、仕様がなく兄と姉が代行して政務担当してたんだ。でも、兄も姉も俺がちょうど5歳になった時に政務をほっぽり出して家出してね。予感もあったから、俺は頑張って早熟して記憶力の高い幼少期に粗方必要な情報を覚え、活用できるまで水準引き上げて、13歳超える頃まで、ずっと政務漬けだったよ。尤も、9歳くらいの時に両親ともに回復してたんだけど、今度は俺が仕事中毒を発症してね」
政務に関わる前に捨てられたので、私にその大変さは到底分からない。魔法で消去されたのか元の姓は覚えていないが、それなりに王宮での生活は記憶に残っている。今思うと、王宮の人間は私から明らかに距離を取って積極的には接して来なかった。お陰で下らない選民思想に侵されることもなかったのだが。それだけは幸いである。そもそも、自分も元は王族の端くれだったと会長の話がなければ、そのうち完璧に忘却していただろう。母国がどこなのかは大まかにだが、絞れている。ダークエルフが王族の国はそう多くない。ダークエルフが王族で民は多種多様な種族という一般的な観点から考えると、おかしな国もあるが、記憶が正しければ、王宮には基本的にダークエルフしかいなかった。尤も、最近は引き籠もりがちな種族も開放的になり、多種族国家が多くなっているが。
「面倒な事に間違えて婚姻を結ぶって書類にもサインしてさ、ダークエルフが治める大国の第一王女と婚約者になったんだよ。まあ、すぐに向こうが破棄して代わりに第二王女と婚約が結び付けられちゃったんだけどね。選民思想にどっぷり浸かった煩い女なんだよね、その第二王女。ダークエルフって点ならシェアラの方が断然良いな」
「そ、そうかな(*´д`*)」
・・・本日2度目の失態だ。何を照れてるんだ、私!!メイドさん口調どこ行った!?
今度から劫炎酒は1人の時にだけ飲もう。突発的な言葉には理性が反応せず、口に出てしまう。キャラのブレが激しいので、本当に駄目だ。この酒は危険である。
「尤も、いざとなれば強引に破棄手はずを整えてるんだ。相手も大国だけど、立場は俺の国の方が高いからさ・・・王族のくせに夢見がちって思われるかもしれない。でも、俺は自分が好きになって愛した女性と結婚したいんだよね」
そう言って、会長は微笑をした。初見で腹黒さを肌で感じて、腹黒としっかり認識していた故に会長のピュアな発言は色々とストライクだった。普通の女の子はここで落ちる。
私は普通ではないので、効果は今ひとつであるものの、このギャップは脅威的だ。その後も散々語らい、気付けば月が頭上に来ていた。そこで漸くお開きとなった。2人して意識を保っており、自分自身に呆れたりしたが、こうして文字通り裸の付き合いは終了した。




