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第二章 ~親友第一お嬢様の奮闘~

「お帰りなさいませ、お嬢様。いらっしゃいませ、一実様」

 家に到着すると、沙耶が出迎えてくれた。

 その事に私は疑問を持った。沙耶は昼食とお茶会の準備をしているはずだ。私達が少し遅くなった事を考慮しても準備は終わらず、職務を放棄するほど沙耶は使えないメイドではない。

 となれば、何かあったのだろうか。でなければ、私には勿体無いくらい出来るメイドである沙耶がここにいるはずが無い。

 私達を出迎えた沙耶は、

「おや、お嬢様、リボンが曲がっていますね」

 そう言って私に歩み寄って来て、タイを直した。それが終わると沙耶は一枚のメモを見せて来た。そこにはこう書かれていた。

『防人仁美が急遽来訪され、止む無くお待ちになって頂いています』

 それだけで私は沙耶がここにいる理由に行き着いた。

 それが分かった矢先だった。

「――知美、ちょっとトイレ借りて良い?」

 一実が唐突にそんな事を言った。そう言った一実は一見平然としているが、それは恐らく演技だろう。こういう事は今までに何度もあった。最初は分からなかったが、今では一瞬にして緊張感をまとったその雰囲気を読み取れる。

 私が答えようとした時、沙耶が口を開いた。

「鶴来、一実様を二階のお手洗いに案内を。それからお召し物を着替えもお願いします。制服が万一にも汚れてしまっては事ですから」

「一人で行けますよ? 後『様』は止めてください」

「いえそうではなく、一階のお手洗いは今朝から調子が悪くなりまして、今は使用出来ない状態となっており、二階のお手洗いをお使いになって頂かなくてはならないからです。それと申し上げ難いのですが、一実様のファッションセンスは微妙です。それ故に鶴来と一緒に行って頂ければ時間の消費を抑えられます。ご不満かもしれませんが、どうか理解ください」

「あたしの要望は清々しく無視ですか……」

「ふふ、一実様の消沈する顔は母性をくすぐられるから好きなのです」

「あー、分かる。物凄く分かるよお姉ちゃん。一実さんってバトルヒロインの皮を被った小動物系キャラだもんね。または妹キャラ。何にせよ可愛いは正義」

 それには私も激しく同意だ。

「鶴来、お嬢様と一実様の前ですよ」

「と、そうでした。ではでは、一実さん! 早く行きましょう!」

 言うや、鶴来は抗議の声を無視し、一実の背中を押して家の中へと入っていく。

「お嬢様、鞄を」

 それを尻目に沙耶はそんな事を言い、両手を差し出して来る。私は鞄を渡し、

「沙耶、今日の昼食は?」

「来訪があったので用意しておりません」

「食べ損ねるのは明白だものね……。応対中にお腹鳴らないと良いけど」

「その時はその時です。ところで、今日は少し遅かったですね?」

「生徒会に呼び出しを食らい、ちょっと佐東先生と話し込んじゃってね」

「そうでございましたか」

 さて、そろそろ平気だろう。一実や鶴来の声はもう聞こえないから。

「場所は?」

「一階の客間でございます」

「良き配慮をありがとう」

 あたしは屋敷の中に入り、客間へと向かいながら礼を言い、話を進める。

「来訪したのは、やはり一実の引き取りについて?」

「はい。相変わらず。後、勝手ながら旦那様にもお伝えしました」

「気にしなくて良いわ。当然の判断だもの。――それはそれとして、今更と言えば今更よね? この事は何も今に始まった事じゃないというのに。色々考えられるけど、どれにしても理由が弱い気がするわ」

「単純に相応の実力が身についたからでは? 向こうの目的は、前当主である防人一斉様を殺された事が恨みを晴らす事です」

 沙耶の進言で、私は自分が失念していた事に気が付いた。

「……なるほど。それは盲点だったわ。教えてくれてありがと」

「どういたしまして。――しかしながら、防人家にも困った物ですね。こちらの気も知らないで、とはまさにこの事です。まあ仕方ありませんけど」

「全くね。合意したんだから大人しく従えって話」

 沙耶の愚痴に、私は苦笑交じりに賛同した。

 一実と防人家の間には、修復不可能な確執がある。

 それを決定的にしたのは、今から四年前の事。

 その日、一実の祖父であり、先代の当主だった防人一斉が、何者かによってバラバラに斬殺された。バラバラに斬殺されているところから、犯行は怨恨から来る物と仮定され、捜査が始まり、その線上に浮上したのは一実だったのだ。

 浮上したのは、現場から検出された毛髪や血痕が一実の物と合致したからだ。

 さらに、一実にはアリバイが無かった。事件が発生したのは、一実の両親が亡くなった日の深夜であり、『一人にして欲しい』という頼みを聞いて、一人暮らししている自分の家に帰らせている。駄目押しというわけではないが、その願いを聞いて、その日は監視カメラを起動させていなかった。

 動機は有り、証拠も十分で、一実犯人説は動かない。

 だからこそ、天道家は動いた。初動捜査の時点で関わっていたが、動かない事が発覚するや、本腰を入れ、使える権力を総動員して調べ上げた。

 そして、公に出来ない事実が発覚した。

 故に、天道家は事件を闇に葬る方向で警察関係者と防人家を説得した。警察の方へは『公に出来ない事実』を話し、防人家には常人離れしている事を公にする事になるぞ、という方向から攻め、事件は未解決事件の一つとなった。

 しかし、防人家はその実納得していなかった。そればかりか、仇を取るべく、暗殺という非合法な手段を実行している。そのせいで、ただでさえ安息が少ない一実の日常は、より激しさを増し、一実はその対応に追われる事になっている。

 本当に困った物だ。全てが冤罪であるだけに何もかもが腹立たしい。

「――お嬢様」

 無言の道中、不意に沙耶が口を開いた。

 思考を中断し、周囲を確認してみれば、何時の間にか客室の前だった。

「教えてくれてありがと」

「それもありますが、その様なお顔での接客はなりません」

 そう言いつつ、沙耶は何処からか取り出した手鏡で、私の顔を映した。

 そこに映っていた私は、確かに接客に相応しくない不機嫌そうな顔をしていた。

 私は目を伏せ、深呼吸し、思考と気持ちの切り替えを即座に行った。

 それから沙耶にお礼を言った。

「沙耶、重ね重ねありがと」

「どういたしまして。――では、私は飲み物を用意して参ります」

「粗茶で良いわよ」

 私が小声で言うと、沙耶は朗らかに笑い、厨房へと向かった。

 沙耶を見送り、私はもう一度深呼吸して、客室の扉を開ける。

 私が客室に入ると、中で待っていた防人仁美は立ち上がり、

「突然の訪問という無礼な振る舞いをして申し訳無く思います」

 謝罪を述べてから深々と頭を垂れた。

 そう思うならば来ないで欲しい。

 防人仁美――一実のお父様の妹だ。絵に描いた様な大和撫子。艶やかな黒髪に優しい黒の双眸。痩身を包み隠すのは藍色の着物だ。祝日でも無いのに着物を着ているのは普通なら変なのだが、この女性が着ると普段から着用しているからか、容姿の成せる技か。まるで違和感が無い。

「お待たせして済みません。学業の最中だったもので」

「お気になさらないでください。非はこちらにあります」

「お気遣いありがとうございます。どうぞ座ってください」

「では、お言葉に甘えて」

 私達が座った時、控えめなノックが二回した。沙耶が来たのだろう。

「入って良いわ」

「失礼します」

 そう言って沙耶は扉を静かに開け、用意したお茶を持ってくる。この香りは緑茶か。何も相手の趣味に合わせなくて良いだろうに。沙耶は急須から二つある湯飲みに緑茶を注ぎ、

「どうぞ。熱いのでお気をつけください」

「ありがとうございます」

 まずは防人仁美の前に置き、

「お嬢様、舌を火傷しない様注意してください」

「忠告ありがとう」

 ついで私の前に置いた。私は一口啜ってから話を始める。

「来訪目的は一実の事ですね?」

「如何にも。そちらの回答は?」

「貴女が来ようとこちらの答えは変わりません」

「そうまでして人殺しを庇いますか」

 嘲笑交じりの声が、私に苛立ちを募らせる。

 私は努めて平静を装い、話を進める。

「当然です。一実はそんな事しません」

「そんな事? 葬式の場で一実が父上にした事をお忘れで?」

 確信を突かれ、私は閉口せざるを得なかった。

 一実の両親が執り行われた場所で、一実は防人一斉が吐いた心無い一言を聞いて、防人一斉を殺そうとした。お父様が取り押さえたから未遂で終わったものの、お父様が止めていなかったら、防人一斉はあの場で殺されていた。お父様が動き、兵法家な防人一斉が回避行動を行った事がそれを物語っている。

「――と、そうでした。その事に関しても聞きたい事があったのです」

「と申しますと?」

「そちらがあの一件を隠匿する理由です。一実に平穏な暮らしを送らせるため、と解釈していましたが、よくよく考えれば隠匿する理由には少し弱い。何かあるのでしょう? 隠匿しなければいけなかった何かが」

 ここは流石とか、凄いですね、と褒めるべき場所だろう。

 しかし、この人は驚かなくて当然だ。

 何故なら、この人は一実が犯人じゃない事を知っているはずだから。

「――一実もそうですが、貴女も嘘をつくのが下手ですね」

「……人の事を言えた義理ではありませんが、礼儀知らずですね」

 静かに言って、防人仁美はお茶を一口啜った。

 それから、やはり静かな口調で口を開く。

「で――私がどんな嘘を?」

「貴女が真犯人を知っている、という事です」

「何を今更。あの事件の犯人は一実でしょう?」

 自分から口を割るつもりはどうやら無いらしい。

 仕方ない。それなら、こっちはカードを切るだけだ。

「その理由をこれからお話します」

 私はお茶で喉を湿らせ、それから話し始めた。

「結論から言います。あれだけ明確な証拠がありながら、一実が犯人ではない、と私達が言い、関係各位を黙らせた本当の理由は、防人一斉氏を殺したのは、一実ではなく、一実のクローンだからです。これならば、あらゆる遺伝情報の合致という点をクリアする事が可能です」

「随分突飛な事を言い出しましたね」

 その反応に、私は苦笑交じりに返答した。

「悪霊や怨霊、妖怪よりはずっと現実味がある話だと思います。それともそういう物を古来より相手にして来た家系の一つである人達には、こういった科学的な方面に関する方が非現実的ですか?」

 私の言葉に、防人仁美は露骨に不機嫌な顔になった。

 邪な存在の退治――それは防人家が古来より受け継いで来た務めだ。その中でも防人家は原点とされている。その証拠が『防人』という名だ。名は体を現す――防人家は昔から時には公に、時には極秘裏に人間を守護して来たのである。

 ため息一つして、防人仁美は不機嫌さを隠さずに口を開いた。

「バカにしないでください。世間一般程度には知り得ています。私が言っているのは現在の科学力でそれが可能なのか、という事です」

「然るべき資金と人材と場所が揃えられれば可能です」

「それでクローン説が浮上したわけですか」

 静かに言い、防人仁美は粗茶を啜った。

「――ですが、それでも完全に否定出来たわけではありませんよ?」

「出来ます。証拠は出揃っていますから」

 私は咳払い一つして、証明を始める

「まず現場に争った形跡がある事。現場には一斉氏が愛用する刀傷がありましたから、一斉氏が抵抗した、と言う事を物語っています」

「一実ならもっと上手くやる、と言うつもりですか?」

「はい。葬儀の場において一実の凶行を見たのなら、詳細は不要でしょう?」

 それに、と私は一度区切る。

「現場から検出された毛髪――これが一実の潔白を如実に物語っています」

「何故です?」

「白かったからです。全部が全部。そして何者かによって作り出された一実のクローンは、知る者の間では『白き少女達』と呼ばれ、そう呼ばれているのは全く同じ外見特徴――全身白ずくめ、という奇抜な格好をしているからです」

「……なるほど」

 淡白に言い、防人仁美はお茶を飲んだ。それで湯飲みは空っぽになる。

「おかわりは?」

「お構いなく」

 沙耶が聞くと、防人仁美は丁重に断り、話を続けた。

「そちらの考えは分かりました。つまり、そちらは私が事件当時、一実のクローンに遭遇し、故に冷静でいられたのだろう――そう考えているのですね?」

 私は首肯した。

 すると、防人仁美は嘲笑交じりに言った。

「本当に無礼な方ですね? 私が黒幕だとでも言いたいのですか?」

「まさか。貴女ならもっと上手くやります。――冷静に狂っている貴女なら」

 その瞬間、防人仁美の雰囲気が変わる。背筋が凍る様な絶対零度の雰囲気へと。

「……私の事を調べたのですね?」

 のっぺりと、それでいて酷く平坦な声色だった。

 それは普通なら恐怖を催す物だったが、これよりも怖い物――防人一斉に対する一実の殺気を知っている身としては、この程度は可愛らしい物である。

「ええ。貴女も一実にとっては害悪ですから」

「つくづく無礼な人ですね。天道家の行く末が危ぶまれます」

「心配には感謝します。ですが、ご安心ください。上手く立ち回って見せます。頭が変わっただけで崩れたのでは、お父様に顔向け出来ませんから。それと安心して頂く事がもう一つ、貴女の返答がどうだろうと、こちらは攻勢に出るつもりはありません。なので、暗殺なり、襲撃なり好きにやってください」

「余裕ですね」

「当然です。私を誰だとお思いで?」

「寝首をかかれても知りませんよ?」

「返り討ちにして差し上げます。――それより、こちらはそちらの質問に答えましたので、そちらもこちらの質問に答えてはくれないでしょうか?」

 返答は無く、自然と沈黙が降りた。

 しばらく待ってみたが、口を開く素振りは無い。

 過去を調べ上げた事が勘に触ってしまったのだろう。思いっきりプライバシーの侵害であるし、過去とは基本的に知られたくないものだが、防人仁美の場合は特に他者には知られたくないだろう。

 さらに待ってみたが、それでも防人仁美に変化は無い。

 待つのに飽いた私は、扉を示し、退場を願う事にした。

「用件が以上ならばお帰り願えますか? こちらも暇では無いので」

「――その前に一つ伺ってもよろしいですか?」

 ようやく口を開いたかと思えば、私が求めている言葉ではなかった。

 こちらばかり下手に出ている事が癪だが、これを最後だと思い、私は先を促す。

「どうぞ」

「貴女達は一実をどうしてそこまで?」

 何かと思えばそんな事か。

「家族を助けるのに特別な理由が要りますか?」

「……そうですか」

 反応はそれだけだった。防人仁美は静かに立ち上がり、一礼した。

「急な訪問に対し、丁重な扱い痛み入ります」

 そうして扉に向かって歩き出していく。

「――私からも一つだけ良いかしら?」

 その背中を私は呼び止めた。言われっ放しで帰らせるのは何か癪に障る。

「何でしょう?」

 防人仁美は、足こそ止めたが振り返らずに言った。

 そんな彼女に私はこう言ってやった。

「――貴女は幸せな部類ですよ。少なくとも一実よりずっと」

「小娘が知った風な口を」

 間髪入れずに鬼気迫る返答が返って来た。

「貴女に私の何が分かると言うのです?」

「一実よりマシな人生を送っている事は分かります」

「主観全開な発言ですね」

「贔屓しているつもりはありません」

「とてもそうは思えません」

 素気無く言い、防人仁美は再び歩き出した。

 そのまま出て行くのかと思ったが、扉の前で歩行は止まり、口を開いた。

「と、もう一つだけありました。夜の外出は気をつける事です」

 私は内心のみで呆れた。

 安い挑発だ。よほど先ほどの言葉が気に入らなかったのだろう。

 それにしてもどういうつもりなのか。私がその程度の挑発で揺さぶられる様な弱い人間でない事くらい、防人仁美でも分かっているだろうに。

 まあ良い。さっさとお帰り願うため、ここは素直に受け取るとしよう。

「忠言感謝します」

「では、これにて」

 防人仁美はまた一礼し、静かな足取りで部屋から出て行く。

 防人仁美が消えて一分。

 私は警戒心を解き、思いっきり息を吐いた。

「お疲れ様です、お嬢様」

「沙耶、今何時?」

「二時半を回っております」

「嘘、本当?」

「本当です。しかし、ご安心を。鶴来が上手くやってくれた様です」

「でも、一実を待たせてしまったわね」

「ですが、おやつ時です。そう考えればタイミング的にはよろしいかと」

「正確にはそう思うしか無いけどね」

 答えながら背筋を伸ばした。外面用の演技はやはり節々が凝る。凝り固まった背筋を伸ばし、席を立ち、歩き出しながら沙耶に話題を振った。

「今日の一実はどんな服装かしらね?」

「何でもよろしいでしょう。一実様は何でも似合いますから」

「男装からドレス、果てはゴシックロリータまで何でも似合うものね」

「全くです。……それなのに一実様のファッションセンスは絶望的ですからね」

「仕方ないわよ。一実は服装に拘らない生活を送っていたし、一期さんや真実さんも服装には気を使わない人だったし、お父様とお母様も似合っていたから別に注意しなかったしね。素体は良いから何着ても映えるのに」

「本当勿体無いですよね。……と、噂をすれば影ですね」

「あ、知美。お客さんの対応お疲れ様。お嬢様も楽じゃないね」

 沙耶がそう言い、一実の労いが聞こえた。本当に鶴来は上手い事やった様だ。

「今日はゴスロリにしてみました。ちなみに私の気分です!」

 ついで鶴来の声が聞こえたが、一実に見惚れていて反応する事が出来なかった。黒を基調としたゴシックロリータ、頭には白のヘッドドレス。いつもポニーテールにしている黒髪は解かれ、ストレートのセミロングになっている。

「――沙耶、カメラ」

「どうぞ」

「まだ撮るの!?」

「「まだ?」」

 私達が首を傾げると、

「あ、私が撮りました。反則的な可愛さのあまりつい」

「ナイスよ、鶴来。もちろん色々なシチュエーションで撮ったわよね?」

「その返答はどうなの、知美!?」

「一実が可愛過ぎるのがいけないわ。可愛いのは、罪とはこの事ね」

「そうでございますね」

「以下同文です」

「満場一致!? い、異議を申し立てるよ!」

「却下。で、鶴来、どういうシチュエーション? 拘束プレイは?」

「あれって知美の趣味だったの!?」

「後、首輪は? 猫耳でも可ですよ」

「そっちは沙耶さんの趣味!?」

「ナイスよ鶴来! その働きに免じて減俸は無しにするわ!」

「ありがとうございます! 一実さん、やりましたよ!」

「あたし利用されていた!? 鶴来さん、酷いです! 下心ありきなんて!」

「良いじゃないですか。お嬢様は喜んでいますよ?」

「まあそれはそれで嬉しいけど……」

 そう言って、一実は照れ臭そうに頬をポリポリと掻いた。

「ああもう、だから可愛過ぎだって……」

「……知美?」

 一実の声でハッとする。何やっているんだ私!

 すると、沙耶がボソリと呟いた。

「お嬢様、本音が駄々漏れです」

「ち、違うわ! いや違わないけど!」

「あ、違わないんだ」

「ええ、一実は可愛いもの」

「同感です、お嬢様」

「お姉ちゃんに同じく。――でも、本当に可愛いですよね。何と言うかここまで似合っているとメイド服着ていても負けた気がしますし、こんなに可愛いからお嬢様も欲情しちゃって、ついうっかり本音が出るのも無理無いです」

「皆してもう……。褒めても何も出ませんよ?」

「平気よ。もうもらったわ。――後鶴来、やっぱ一ヶ月減俸」

「はうわっ!? な、何故です、お嬢様!?」

「主人に対して『欲情した』など言うメイドが何処にいますか」

「そこにいるわ」「ここにいますよ」

 沙耶の発言に対し、私と一実が鶴来を指差しながら答え、

「二人して酷いですよー」

 鶴来ががっくりとうなだれた。

 と、そこで誰かの腹の虫が鳴った。ちなみに私じゃない。

「あはは、今のあたし」

 一実が恥ずかしそうに、頬を掻きながら笑った。

 私が見惚れる傍ら、沙耶がポン、と手を叩いた。

「一実様の可愛さのあまり職務を忘れていました。鶴来、私はお嬢様のお召し物を変えてくるので貴女はお茶と軽食の用意をお願い」

「了解しましたー」

 意気揚々と言って、鶴来はそそくさと厨房の方へと向かって行った。身のこなしは軽く、ホップステップジャンプ、といった感じだ。鶴来のああいうところは好感が持てるものの、メイドとしては如何な物だろうか。まあもっとも沙耶も鶴来もああいう事のやり場は心得ているから何も問題は無いけど。

「一実様はどうなさいます?」

 鶴来が立ち去り、沙耶は一実に話を振った。

「うーん、そうですね……」

 一実の答えを待つ傍ら、私は索敵を行った。一実も多分同じ事を行っているだろう。一実が考えている時は真面目に考え事をしている時もあるが、大体はそういう振りして索敵を行っている事がほとんどだ。一実が相手をしなくてはいけない連中はそれほど多い。常に緊張感を保っていなければならないほどに。

 周囲に不穏な気配は無かった。少なくとも私の分かる範囲では。

 さて、私よりも広く明確に分かる一実はどうだろうか。

「――一人で待っているのも暇なので、知美が良いなら一緒に行きます」

「との事です。お嬢様、如何なさいますか?」

「愚問よ」

 私はそう言って自室へ歩き出した。遅れて二人がついて来る。

 他愛無い会話を楽しみながら、私達は私の部屋に到着した。

 沙耶が扉を開けるのを待って、私達は入室する。

 私の部屋は、世間一般と比べると衣服を仕舞う箪笥やらケースが多いけど、それ以外は同世代の人達の部屋にある様な物しかない。強いて無い物を挙げるなら、一実が自作した高性能デスクトップ型パソコンくらいだ。ちなみに、必要以上あるだろう衣服を仕舞う場所入っているのは、私の服ではなく、沙耶や鶴来と一緒に、バリエーション豊かに集めに集めた一実に着させるための衣装だ。資金力に任せてかなりの数を買い漁り、両親に注意を受けた事もあるが、趣味に資金を割くのは誰だってそうだろう。普通、普通。

「あ、知美、ちょっとパソコン使っても良い?」

 一実はそんな事を言いながら私のパソコンへと向かった。

「何処かにハッキングしなければ良いわよ」

 私は沙耶に着替えさせてもらいながら答えた。個人的には自分で着替えたいのだが『メイドから仕事を奪うな。それはメイドに対する侮辱行為だ』とお父様から言われて以来、着替えさせてもらっている。

「人聞き悪いなー。掲示板覗くだけでそんな事しないって」

「学校で授業を受ける必要があるかどうかを証明する――ただそれだけのためにNASAのサーバーに侵入し、バレずに帰って来たのは何処の誰?」

「そのくらいした方が良いかな、と思ってね」

「試験で侵入されるNASAの身になりなさい。あの後、お父様が関係者から相談を受けて色々面倒な事になったのよ?」

「知ってるよ。あの後、防護プログラム組まされたし」

「自業自得ね」

「お嬢様、何をお召しになります?」

 会話の合間を縫い、沙耶が聞いて来た。

「沙耶さん、あたしみたいなのでお願いします」

「沙耶、ジャケットとワンピースでお願い。色はどちらも黒ね」

 一実の提案を却下しつつ言えば、沙耶は愉快そうに微笑した。

「それでも色を合わせるのですね」

 言いつつ、沙耶は私が言ったワンピースとジャケットを取り出し、私に服を着せてくれる。私は沙耶が着替えさせ易い様に、体を動かしながら答えた。

「せめてそれくらいはしないとね」

「色だけ合わせられてもなー」

「色だけで我慢して」

「はいはい。――ところでさ、前々から疑問に思ってたんだけど、こういう服があるのに、あたし、知美がこういう服を着てるところ一度も見た事が無いんだけど、それは一体全体どういう事なの?」

「礼服や正装は見た事があるでしょ?」

「そっちじゃなくて。あたしが言ってるのは、今あたしが着させられてる様な色んな意味で趣味全開な服の方」

「ああ、そっち?」

「そ。今日だって大樹学園の制服から始まって、スク水(猫耳+眼鏡)、メイド、着物、園児服、看護士、男装、チャイナドレス、浴衣、白衣、女性警察官、喪服と色んな服を無理矢理着させられたんだけど、これまで一度も見た事が無いって事は、知美は着ないって事だよね? それなのにどうして持ってるの?」

「どうしてって、一実に着せるためだけど?」

「――はい?」

「お嬢様、お着替えが済みました」

 驚く一実を余所に、沙耶は事務的に言って、私の制服を片付け始めていた。

「いつもありがと」

 私はそう答えつつ、ジャケットの中に入っている髪を外へと出した。

 それから一実を見てみると、案の定、一実はポカンとした顔をしていた。

「どうかした? 友人の意外な一面を見て驚いた顔して」

「いや、まさにその通りだから驚いてるんだよ?」

「そう。それはさておき、終わったわ」

「サラッと流さないでよ!」

 と言いつつ、その横ではシャットダウンする音が聞こえてくる。私も私で結構サラッと流す方だが、一実は一実で大抵の事をサラッと済ませる。畑こそ違うが、手早く済ませる、という意味でなら似たり寄ったりだろう。

「急にどうしたの? 声を荒げると血圧上がるわよ?」

「上がっても心配する歳じゃないし、あたしとしては流せないからだよ!」

「そう。でもね、一実、これは仕方の無い事なのよ」

「何が仕方ないの?」

 一実がそう聞いた時、沙耶が何かに気付いた様な顔をして、携帯を取り出した。相手は鶴来で、電話をしてきた事に驚きつつも電話に出た。沙耶がそうした事により、私も一実も口を閉じ、電話が終わるのを待った。

「――了解しました。ええ、また後ほど」

「鶴来、どうしたって?」

「今日は天気が良いので屋上で行う事にしようと思い立ったので、屋上に準備を整えて置くので準備が出来次第来てください、という連絡でした」

「屋上、か……。中々良い案ね」

 言いつつ、私は歩き出した。流すならここを置いて他に無いだろう。

 背中に一実の『あっ』という声が聞こえたが、それから少し唸り、ため息。そして小走りの足音が聞こえる。

「……名誉挽回のために必死なだけじゃない?」

 私の横に並んで、一実は如何でも良さそうに言った。

「汚名返上とも言えるわね。まあこの程度じゃ無効にはならないけど」

「……先ほどから気になっていたのですが、お嬢様、またですか?」

 今度は沙耶が心配半分、呆れ半分といった風情で聞いて来た。

「ええ、またよ。内容は伏せるけど鶴来は一言多いのが玉に瑕なのよね」

「伏せるほどの内容だったっけ?」

「お嬢様の主観ですから。それにしてもまたですか……」

 はあ、と沙耶はため息をつく。姉として気苦労が絶えないのだろう。

「沙耶、鶴来のあれはどうにもならないの?」

「なりませんね。思えば、私が最初に当たった障害という名の壁がそれでした」

「あれって筋金入りなんですね」

「的確なのが厄介よね」

「気兼ね無い、という美点ではありますけどね」

「あー、長所って時に短所ですからね。あたしみたいに」

「自覚合ったのね?」「自覚が合ったのですね?」

 一実の呟きに私達は同時に突っ込んだ。一実は肩を竦める。

「そりゃありますよ」

「分かっているなら改善なさいよ」

「逆に聞くけど、知美はその心配性を直せと言われたら直せる?」

「私のこれは、貴女が少しでも自分を大切にしてくれたら直るわよ」

「あたしは十分自分を大切にしているよ? あたしなりにだけどね」

「そうだったの? 初耳だわ」

「そりゃそうだよ。言ったのこれが初めてだし」

「初耳なわけですね」

「そうね。傍目からはとてもそうは見えないけど。ところで、どうなの?」

「何――ああ、あたしが改善したらどうのって話?」

 私は首肯する。答えは分かっていたけど、聞いてみたくなった。

「……それじゃ努力してみようかな。心配かけてばっかりもあれだし」

「えっ?」

 予想していた答えと違ったので私は素で驚いてしまった。

 だって、あの一実が、他者を慮ってばかりの一実が、自分を省みたのだから。

「えって、知美ってば酷い反応するね。まあ自業自得だけどさ」

 一実はおかしそうに笑った。その笑顔に私はまた驚いた。

 だってその笑顔は、気丈さを隠す演技の笑顔ではなかったから。

 それが意味する物は――たった一つしかない。

「……聞いたのね?」

 この短期間で心境の変化が起こるとしたら、これを置いて他に無い。

「知的好奇心は身を滅ぼすって本当だったよ」

 返答は肯定だった。

 それで私は、防人仁美の安い挑発の真意を悟った。あれは私ではなく、何処かで私達の話を盗み聞きしていた一実に宛てた物だったのだろう。

 だとすれば、合点が行く。防人仁美の本心は、復讐対象である実父を強制的に奪われ、怒りを吐き出す場所が無くなってしまった事を恨んでの事だ。個人的には、下らない事だが、本人にとっては切実なのだろう。

 ともあれ、一実に聞かれてしまった。

 これは由々しき事態だ。

「――どうして聞いちゃったのよ」

 でも、私にとっては、一実が巻き込むまいとしてくれているのに、首を突っ込んでいた事が露呈してしまった、という事の方が重大だ。

「あたしにも色々と都合があるからかな」

 そう言った一実は、色んな感情が混ざった複雑な表情をしていた。

「どんな都合よ」

「ちゃんと話すから安心して。でもその前に――」

 一実はそこで言葉を切ると、小走りして階段を駆け上がって私達の前に立ち、

「――知美、あたしの我が侭に付き合ってくれてありがとね。それからもしもよろしければ、今後ともあたしの我が侭に付き合ってください」

 そう言って、教本に出来そうな綺麗なお辞儀をした。

 こんな時でも、一実は相手優先だった。

 防人一実という少女は、私が知る前からそういう人間だった。持たされ過ぎてしまった故の余裕から、他者への配慮が尋常ではなく、誰かが喜ぶなら、誰かが助かるなら、誰かが救われるなら、自分の傷つく事なんて少しも厭わない。

 その癖、周りには頼んでもいないのに首を突っ込むのに、自分の事となると全て自分で片付け、一人で納得し、自己完結してしまうのだ。普通なら周囲を頼るべき事でも、一実は心配するこちらを尻目にさっさと終わらせてしまう。

 主観的現象には自己完結、客観的現象には超絶節介。

 だから、私は勝手に首を突っ込み、勝手に荷物を一緒に背負うと決めた。

 しかし、一実はそんな事を望んでいない。

 いや、望まない、と言った方が正しいか。

 何でも卒ないが故の弊害。

 甘え方を知らなかったが故の弊害。

 それの改善は難しい。一度確立された人格に変化を与えるのは、心を打ち震えさせるほどの感銘か、抉り取られる様な衝撃でなければ不可能。

 だから、私は知られたくなかった。

 もしもそうなれば、一実にこういう事を言わせてしまう、と分かっていたから。

 でも、一度進んでしまった時計の針は元に戻ってくれない。

 それに、悔いる一方でこの事を喜んでいる自分がいる。

 さらに、私は色々と偉そうな事を一実に言ってきた。

 私は、自分に出来ない事を他人に強制させる傲慢な人間にはなりたくない。

 だから、努めていつも通りに振る舞う事にした。

「――頼まれなくてもそのつもりよ。これまでと何も変わらずにね」

「そう言ってくれると思ったよ、お節介」

 顔を上げた一実は悪戯っぽく笑いながら言った。

「そう言うと思ったわよ、お人好し」

「あ、酷い」

「自分を棚に上げてどの口が言うのよ」

「どっちもどっちですね」

 静観していた沙耶が、ため息交じりに言った。

 と、その時、よりにもよってこんなタイミングで、私のお腹は鳴った。

「……お嬢様の腹の虫は空気を読みませんね」

「いやー、逆に読んだんじゃないですかね?」

 赤面する私を余所に、沙耶は呆れながら、一実は楽しげにそんな事を言った。

「ふざけた事言って無いでさっさと行くわよ」

 どうにか繕って私は二人にそう言い、足早に屋上を目指した。

「お待ちくださいませ、お嬢様」

「待ってよ、知美―」

 二人の声を無視し、私は屋上に通じる扉を開け、視認した風景に唖然とした。

 そこには鶴来がいた。それは良い。問題なのは、四つある椅子の一つに座り、傍目から見てとても優雅そうにティーカップを口に運んでいたのだ。

「――鶴来、何故一人で始めているのかしら?」

「味見ですよ、お嬢様」

 臆面も無く言う鶴来。そしてクッキーを一つ摘む。

「がっつり飲んでいる様に見えるけど?」

「私にもそう見えますね。一実様はどうですか?」

「答えるまでもありません」

 私が当然だろう疑問を投じると、後ろから沙耶と一実の同意が聞こえた。あまりにもメイドらしからぬ行為だったので、目を疑ったが、どうやら目の錯覚でもなければ、白昼夢を見ているわけでも無かったみたいだ。

「これが私なりの味見なのです」

「で――本音は?」

 一実がそう聞くと、鶴来はティーカップを置き、立ち上がった。

「皆さん、来るのが遅過ぎます! 何処で油売っていたんですか!?」

 そして、叫んだ。二分ほど泣いている始末だ。私としてはあまり待たせたつもりは無かったのだが、鶴来の体感時間では結構な時間を待っていたのだろう。

「鶴来、メイドが主人の前で泣くとは何事ですか。恥を知りなさい」

 そんな鶴来へ、沙耶は容赦の無い叱咤を投じた。

「主人に油を売らせるメイドに言われたく無いよ!」

「遅れた事に関しては詫びますが、少しはこちらの言い分を聞きなさい。そちらから対談の場を設けておいて、話を聞かないとはどういう了見ですか?」

「じゃあ聞くけど、どうして遅れたのさ!?」

「鶴来、お嬢様と一実様の前です。私と口論している時でも言葉遣いに気を付けなさい。その程度の芸当くらい余裕でこなせるでしょう?」

「では聞きますが、どうして遅れたのですか!?」

 しっかり改善する辺り、鶴来も有能なメイドである。

「道中、のっぴきならない現象が発生したためです。良いですか? のっぴきならなかったのです。何せ、あの自己完結超絶節介な一実様が、自分の行動を省みて、これからは改めるからこれからも色々よろしく、とお嬢様に告白したのです。一応尋ねますが、そんな場面に鶴来はケチをつけますか?」

 真相を教えられた鶴来は、一転してぱっと明るくなった。一方、対照的に一実は暗くなり、『沙耶さん酷い』なんて言うが、それを聞くのは私だけで、本人を目の前に確信を突いた姉メイドと、わだかまりが晴れた妹メイドは、気にせず私達を放っておいて異様なテンションによる会話をし始める。

「それなら、お祝いとかした方が良いのだと私は思うのだけれど、そこのところどうかな? というか、そんなめでたい事があったのに、こんなありきたりなお茶会セットでそれを祝おうなんて、激しく一実さんに失礼がするよ!?」

「安心しなさい。今は前祝いとし、夜にでもきちんとした祝宴を用意する所存です。鶴来、今日の夜は忙しくなりますから、覚悟しておく様に」

「委細承知の合点承知! ああ、そんな事が起こるなら、もっと気の利いた物を色々用意したり、仕込んだりしたのに! 全く、そういうのはもっと早めにやって欲しかったです! お姉ちゃん、その辺どうにかならなかったのですか?」

「無理を言わないでください。そういう事が出来る旦那様は、今は私達のお側にはいないのです。よって、私達は私達の最善を尽くすとしましょう」

「それは当然です! むしろこういう時に主人の期待に応えるだけではなく、それ以上の物を用意して見せるのが、メイドとしての嗜みでは!?」

「全く以ってその通りです。それにしても鶴来、そういう風に出来るのなら、可能な限りそう振る舞おうと何故しないのですか? そんな事だから事ある事に減俸されてしまうのです。貴女が減らされているおかげで、一実様のお召し物を買うための資金が少なくなっているのですから、即刻改善する様に」

「こんなめでたい時にお姉ちゃんは無粋ですね! こういう日なのだから、お小言は抜きで、というか、そんな事を言える余裕があるなら、他の事に体力使った方が良いと思うのだけれど、その辺どうでしょう?」

「もっともな忠告です。――というわけで、お嬢様、一実様、お待たせして済みませんでした。段取りと確認と説教が済みましたので、この辺で後回し、後回しとなっていたお茶会を始めるとしましょう、と進言します」

 沙耶の進言で、歓談していた私と一実は、歓談を止める。

「あ、終わった?」「終わりました?」

「はい。改めて、お二方をないがしろにした事をお詫びします。それから一実様への従者らしからぬ暴言もお詫びします。色々と申し訳ありませんでした」

「だってさ、一実。どうする?」

 私が聞くと、一実は自嘲気味に笑った。

「特に何も。どうしようも無く、本当の事だからね」

 それから明るく微笑んで、テーブルを見た。

「そんな事より、お茶会を始めようよ。あたし、お腹減っちゃった」

 そう言って、テーブルへと向かって行く。私もその後に続いた。

 私達がテーブルに到着すると、沙耶が私の、鶴来が一実の椅子を引き、座り易い様に先んじて行動でしてくれた。一礼しつつ、私達は着席する。

 私達が座るや、沙耶はカップに紅茶を注ぎ、鶴来は菓子や軽食を配膳していく。花柄のテーブルクロスが敷かれた円形のテーブルは、バリエーション豊かな菓子と軽食で一杯になり、ダージリンの香りが鼻腔をくすぐった。

 全員にカップが行き届いてから、私は全員を見渡し、カップを持ち上げた。それに皆も続く。それを確認して、私は開始の音頭と取った。

「それじゃ、始めましょうか」

 かくて、遅くなったお茶会が始まった。

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