墓地に響く恐怖の音
夜の墓地は、本当に不気味で、幽霊が出て来そうな感じがする時があります。この物語の主人公は、好きな女の子にいいところを見せる為、一緒に夜の墓地に行きましたが、そこで、自分にしか聞こえない音を聞いてしまったという、恐怖の経験をしてしまい、本来の目的を果たすどころではなくなってしまいました。何故、そんな音が聞こえてしまったのか、その音には、どんな事実が隠されていたのか、これから、幕を開けます。
時刻は午後九時。辺りは真っ暗。そんな時、僕は墓地の前にいた。横には、大好きな女の子が一緒にいる。その女の子は、怖がりで、少し震えている。
「ねぇ、やっぱり怖いよ。幽霊が出たらどうするのよ。帰ろうよ」
「大丈夫!僕は全然怖くないよ!万が一、幽霊が出て来たら、絶対に守ってあげるよ!」
「お~!凄いね~!頼りになるね~!」
「エへへ。そう言ってもらえると、照れるなぁ」
―よっしゃ!まずはポイントを稼げたぞ!この墓地を歩き回って、僕が頼りになるところを見せた後、告白するぞ~!―
二人で墓地に入り、並んでゆっくりと歩く。辺りは真っ暗で、墓石が不気味な雰囲気を醸し出していて、女の子が怖がりながら、僕の腕にしがみついてきた。
「大丈夫?怖い?」
「うん。そりゃ、怖いよ。もう帰りたいよ~!」
「大丈夫だよ!僕は全然怖くない。幽霊が出て来たら、絶対に守ってあげるから、安心してよ!」
「うん。分かった。本当に頼りにしてるからね」
「うん!任せてよ!」
―お~!どんどんポイントを稼いでる感じだな~!これは、告白が上手くいきそうだな~!あ~!付き合えたら、あそこに行って、あんな事して、うぉ~、すっごく楽しみだな~!―
更に二人で歩き進むと、目の前に、妙に不気味な墓石が現れた。
―あれ?何故か、この墓石、他の墓石とは違う雰囲気を感じるな~。なんでだろう。まぁ、気にしなくていいか。とっとと歩いて行って、告白するぞ~!―
歩を進めようとした、その時、僕の耳に、大きな音が聞こえた。
“ポッチャ~ン!”
その瞬間、僕の背筋が凍り、足が止まり、ガクガクと膝が震えた。
「ど、どうしたの?なんで止まっちゃったの?足が震えてるよ」
「え!聞こえなかったの?ポッチャ~ンって、大きな音が聞こえたでしょ?」
「はぁ?何言ってんの?そんな音、聞こえないよ」
「え!そんなバカな!聞こえたよ!墓地に響いてたよ!」
「聞こえなかったって!ただでさえ怖いのに、変な事を言わないでよ!」
―え!この子には、ポッチャ~ンって音が聞こえなかったのか!なんで僕には聞こえたんだろう。え~!こんな事あるのか~!めちゃくちゃ怖いよ~!―
僕が固まっていると、女の子が焦りながら、僕の腕を引っ張ってきた。
「も~!こんな所で止まらないでよ~!早く行こうよ~!帰りたいよ~!」
僕がはっとなり、女の子の方を向いて言う。
「そ、そうだね。ごめん。音の事は気になるけど、行かなきゃね。行こう」
「うん。正気に戻ってくれて良かった~」
再び歩き出そうとした、その時、その墓石の前に、突然、女性が現れた。その女性は、薄く光っている。
「うわ~っ!で、出た~!」
「はぁ?何言ってんの?何が出たって言うの?何も無いよ!」
「え!あの墓の前に、女の人がいるよ!なんで見えないんだよ!」
―あの女性も、僕には見えるのに、この子には見えないんだな。なんでだろう。こんな恐ろしい事があるのか。あ~、さっきからかっこ悪いところばっかり見せてしまってる!こんな墓地に来なきゃ良かった~!―
「ちょっと~!恐ろしい事を言わないでよ!何も見えないよ!も~!さっきからいい加減にしてよ!あんたが無理矢理、私をこんな墓地に連れて来たんだよ!幽霊が出たら、絶対に守るって言ってたくせに、さっきから、ビビりまくって、全然頼りにならないよ!」
「ご、ごめん。さっきから、僕、全然頼りにならないね。あの女の人の事、気になるけど、ここにいても仕方ないし、行こう」
「そうだよ!こんな怖い所、さっさと立ち去るよ!」
墓石と女の人に背を向けようとした、その時、女の人が僕に話し掛けてきた。
「あなた、私の姿が見えるのね。という事は、ポッチャ~ンって音が聞こえたんだね。こんな事、初めてだよ。ちょっと私の話を聞いてくれるかな?」
―え!この女の人、僕に話し掛けてきた!たぶん幽霊だよな。幽霊が、一体、僕に何の用があるんだ?もうこれ以上、ここにいてはいけない!一応、返事して、とっとと逃げよう―
「あなたと話す事はありません。失礼します」
僕が女の子の手を握り、身体をクルッと反対方向に向け、早足で歩き出した。
「あ!待って!私の話を聞いてよ~!」
その女の人の声が聞こえたが、反応せず、女の子と一緒に墓地を出た。
「ご、ごめん!絶対に守るって言ったのに、かっこ悪いところばっかり見せてしまって、恥ずかしい限りだよ」
「ほんと、さっきから、音が聞こえたとか、女の人がいたとか、怖い事ばっかり言って、ぜんっぜん頼りにならなかったね。単に私を怖がらせたかっただけなの?」
「そ、そんな事ないよ!夜の墓地を歩いて、僕が頼りになるところを見せたかったんだよ。それにしても、なんで僕には音が聞こえて女の人が見えたのに、お前には聞こえなくて見えなかったんだろうな~。めちゃくちゃ不思議だよ~」
「もうその話はしないで!気分悪いよ!さぁ、とっとと帰るよ!」
「あ!待って~!」
女の子が怒りながら歩き出し、僕が後を追い掛ける。あっという間に、それぞれの家に向かう為の二方向に分かれている道の交差点に辿り着いた。
「じゃあね」
「うん。じゃあね。今日は、本当にごめんね」
「もういいよ。バイバイ!」
女の子が早足で、自分の家に向かって歩いて行った。僕は反対方向の道を歩き、家に到着し、すぐにベッドにうつ伏せに倒れ込んだ。
―あ~!あいつにいっぱいかっこ悪いところを見せてしまった~!最悪だ~!あんな墓地に行かなきゃ良かった~!それにしても、なんで僕にはポッチャ~ンって音が聞こえて、女の人の幽霊が見えたのに、あいつには何も聞こえなくて見えなかったんだろうな~!めちゃくちゃ不思議だ~!気になって、今夜は眠れそうにないぞ~!どうしたらいいんだ~!よ~し!こうなったら、めちゃくちゃ気になるし、明日、同じ位の時間に、もう一度あの墓地に行って、あの墓の前に行ってやる~!あの女の人の幽霊が出て来たら、何か僕に話したい事があった感じだし、話を聞いてみるか~―
ベッドから起き上がり、お風呂に入り、歯磨きトイレを済ませ、再びベッドに寝転がると、眠れそうにないと思っていたのに、すぐに眠りについた。
翌朝、目が覚め、首を長くして、夜まで待ち、いろいろな事をしながら時間を潰していると、いつの間にか、夜になっていて、テキパキと出掛ける準備を整え、家を出発し、あの墓地に入り、あの墓の前に着いた。
―また来たぞ!さぁ、ポッチャ~ンって音が聞こえるか?あの女の人の幽霊が出て来るか?どうだ~?―
少しの間、耳を澄ましていると、ポッチャ~ンという大きな音が聞こえた。
―来た!ポッチャ~ンという音が聞こえた!あの女の人の幽霊が出て来るぞ!さぁ、どんな話をしてくるんだ~?―
ドキドキしながら待っていると、目の前に現れた!あの女の人の幽霊!
「やっぱり来てくれたんだね。来てくれると思ってたよ、あの女の子、今日はいないんだね。あなた一人だけか~。お話し易くていいね。でも、なんで来てくれたの?私の事、怖くないの?」
「僕に話がある感じだったので、気になって、来ちゃいました。あなたが綺麗な女性というのも、来た理由にあります。ちょっとしか見てなかったけど、綺麗だったので、頭の中に残ってました。少しは怖いという思いがありますけど、やっぱり、幽霊とはいえ、綺麗な女性の話は聞かなきゃいけないなと思いまして」
「まぁ!綺麗な女性だなんて、あなた、幽霊に対して、口が上手いのね。でも、人間に対しては、口下手なんだろうね。昨日、一緒に来てた女の子の事、好きなんでしょ?なんで告白できないの?」
「そ、それは、好きですけど、昨日、かっこいいところを見せようとしたけど、逆に、かっこ悪いところをいっぱい見せてしまって、告白できなくなったんですよ」
「あら、それは、悪い事をしちゃったね。ごめんなさいね」
「もういいですよ。で、話って何ですか?」
「あ!そうだね。昨日、ポッチャ~ンっていう音が聞こえたと思うけど、あの音は、私が、彼氏から貰った指輪を、海に投げ捨てた時の音なの。聞いてよ!あの人ね~、私以外にも、彼女がいたんだよ!私、見ちゃったの。あの人が、他の女とキスしてるところを!」
「え!本当に他の女性とキスしてるところを見たんですか?勘違いっていう事は無いんですか?」
「間違いないよ!大学のサークルの合宿で、夜、皆で外に出て、自然豊かな場所を散歩してた時、ふと、あの人の姿が見えなくなって、探しに行ったら、奥の方にある大きな木の下で、隠れるように、サークルの他の女とキスしてたんだよ!私に見られたのに気付いて、あの人、大慌てで、こっちに来ようとしたけど、私が全速力で逃げて、下が海の崖の上に行って、バカヤロ~!って叫んで、あの人から貰った指輪を、左手の薬指から外して、思いっ切り海に向かって投げてやったの。あなたが聞いたポッチャ~ンっていう音は、指輪が海に落ちた時の音なんだよ」
「そ、そうだったんですか。それは、ひどい男ですね。でも、なんであなたが死んで、幽霊になっちゃったんですか?指輪を投げ捨てただけだと、死なないですよね」
「それなんだけど、実は、指輪を投げ捨てた後、勢い余って、バランスを崩して、崖の下の海に、私が落ちちゃったの。下に大きな岩があって、運悪く頭を岩に打ち付けてしまって、そのまま海に落ちて沈んで、死んじゃったの」
「え!そ、それは、運が悪かったんですね。ご愁傷さまです。でも、なんで僕に、指輪が海に落ちた時の音を聞かせたんですか?なんでこんな話を僕にしたんですか?」
「それは、あなたが聞く運命にあったとしか、言いようが無いわ。私も、あなたが指輪が海に落ちた時の音を聞いて、私の姿を見たのを知った時は、びっくりしたわ。まさか、こんな人が現れるなんて、思ってもみなかったよ。でも、嬉しかったよ。これで、私、成仏できると思う。明日の夜、私、成仏して、天国に行くよ。あ~、やっと天国に行けるんだな~。いい所なのかな~」
「え!それでいいんですか?恨みを晴らしたいとは思わないんですか?」
「そりゃ~、まだあの男に腹を立てているけど、あなたに話を聞いてもらって、スッキリしたし、もういいよ。ありがとうね。じゃあね。もう私に会う事は無いと思うよ」
「え!ちょ、ちょっと待って下さいよ!」
僕がそう言った直後、女の人の幽霊が消えていった。
―僕が話を聞いたお陰で、あの女の人が成仏できるんだな。でも、これでいいのかな。あの女の人、恨みを持ったまま、成仏してしまうなんて、可哀想な感じがするな。気になるし、こうなったら、徹底的に調べてみよう!もしかしたら、何か新しい事が分かるかもしれないぞ!―
次の日に気が済むまで調べる事を決め、家に帰って、早めに眠りについた。
翌日、目を覚まし、朝御飯を食べ、テキパキと外出の準備を整え、家を出発。あの墓地に行き、あの墓の前に立つ。
―明るい時間帯だし、もしかしたら、何か新しい発見が出て来るかもしれない!まずは、少し様子を見てみようー
少しの間、耳を澄まし、目を凝らしたが、ポッチャ~ンという音も聞こえず、あの女の人の幽霊も見えない。
―う~ん。やっぱり、明るい時間帯だと、ポッチャ~ンという音が聞こえないし、あの女の人の幽霊も見えないもんなのかな~。まぁ、折角来たんだし、暫くの間、ここにいて、様子を見てみるか~―
暫くの間、立って様子を見るが、一向に聞こえる感じがしなく、見える感じもしない。徐々に足が疲れてきた。
―まぁ、いつまでもここにいても仕方が無いし、一旦家に帰って、夜にまた来るか―
僕がそろそろ帰る事に決め、少し歩いた、その時、一人の男性が、その墓に向かって歩いているのが見えた。
―ん?あの男の人、あの墓に、何の用なのかな~。もしかして、あの女の人と何か関係がある人なのかな~―
離れた所で、暫く様子を見ていると、その男性がその墓の前に行き、花を手向け、少しの間、手を合わせた後、ちょっとだけ下を見て、歩き去って行った。
―あの男の人、少しだけ下を向いてたな。下の地面に、何かあるのかな。よし!地面をじっくり見てみよう!―
再び墓の前に行き、下の地面を見ると、掘られた形跡がある。
―この地面、掘られた形跡があるぞ!ここを掘れば、何かが出て来るかもしれない!でも、墓暴きみたいで、こんな事していいのかな。まさかとは思うけど、人骨が出て来ないだろうな~。う~、迷うなぁ。どうしよう。え~い!ここまで来たんだ!掘っちゃえ~!どうか、人骨が出て来ませんように―
意を決して、掘られた形跡がある地面を掘り始める。手で掘っているので、徐々に手が痛くなってきて、手の皮が剥け始める。どんどん掘り進めるが、何も出て来ない。
―う~!何も出て来ないな~!このまま掘っても、何も出て来ないかな~。手が痛くなってきて、血が出て来そうだし、この辺で止めとくか~―
掘るのを止めようとした、その時、キラリと光っている物が見えた。
―ん?何かが光ったぞ!何だろう。掘って取り出してみるか~!―
光っている物の周りを掘り進め、取り出すと、指輪である事が分かった。
―ゆ、指輪が埋められてたんだ!この指輪、もしかして、あの女の人が、海に投げ捨てた指輪なのかな~。という事は、さっきの男の人、たぶん、あの女の人の彼氏だろ~!こうしちゃいられない!あの男の人を追わないといけないぞ!―
僕が大慌てで、あの男の人を追い掛けると、遠くの方にいるのが見えた。
「ちょっと待って下さ~い!話があるんです~!」
僕が大声でそう叫ぶと、その男の人の足が止まり、僕の方に振り返ってくれた。僕が走って追い付き、掘り出した指輪を見せ、口を開く。
「この指輪、あなたがあのお墓の前の地面に掘った物ですよね?この指輪、あなたが恋人にプレゼントした物ですよね?」
「そ、そうだけど、なんで君が、その指輪を持ってるの?」
「勝手に掘り出しちゃって、申し訳ございません。でも、掘り出さずにはいられなかったんです。実は、あなたの彼女が、あのお墓の前で、一昨日と昨日の夜、幽霊になって僕の前に現れたんです。その直前、ポッチャ~ンという音が聞こえたんです。その音、あなたの彼女から聞いたんですけど、あなたの彼女が、その指輪を海に向かって投げ捨てて、海に落ちた時の音だったんです。あなた、他の女性とキスしたそうですね。あなたの彼女、それでショックを受けて、下が海の崖の上に行って、指輪を海に投げ捨てた後、バランスを崩して、崖の下に落ちて、大きな岩に頭を打ち付けて、海に落ちて沈んで、死んじゃったって、あなたの彼女が言ってました。あなたの軽はずみな行動が、悲劇を招いてしまったんですよ!」
「そ、そうだったのか!俺、てっきり、あの時の事のせいで、崖の上から海に身を投げて、自殺したのかと思ってたよ。あの時、サークルの女性に、鼻毛が出てるって言われて、手で引っ込めようとしたけど、どうしても出て来て、木の陰に移動して、鼻毛を手で抜いてもらってたんだよ。その時の仕草が、角度が悪くて、あいつには、俺がその女性とキスしてるように見えたんだな。見られたのに気付いて、追い掛けようと思ったけど、あいつが勢い良く走って行くのを見て、今はそっとしておいて、後で誤解を解こうと考えたんだけど、やっぱり、あの時、追い掛けて誤解を解けば良かったと、今はめちゃくちゃ後悔してるよ。あいつの遺体が発見されてから、指輪が無いのを聞いて、海に潜って必死に探して、何とか見つける事ができて、あいつのお墓の前の地面を掘って埋めたんだよ」
「そうだったんですね。でも、まだ誤解を解くチャンスはあります!今夜、僕と一緒に、あなたの彼女のお墓の前に行って下さい!あの人、今夜、成仏するって言ってました。今夜がラストチャンスです!あなたの彼女、必ず現れますよ!その時に、ちゃんと誤解を解いて下さい!誤解を解いた上で、あの人を成仏させてあげて下さい!お願いします!」
「うん!勿論だよ!君、あいつの為に、頑張ってくれたんだな。いろいろありがとう!もしかして、君、あいつの事、好きなのか?」
「え!そんなんじゃないですよ!まぁ、確かに、綺麗な女性ですけど、僕には好きな女の子がいます。あの音を聞いて、あの人の幽霊を見ちゃったので、気になって、放っておく事ができなくなったんです。あの人に、少しでもいい思いをしながら、成仏して欲しいんです」
「そうか。分かった。じゃあ、また夜に、あいつのお墓の前で会おう!」
「はい!ありがとうございます!」
待ち合わせ時間を午後九時に決め、指輪を男の人に渡し、一旦、この場を離れた。
午後九時になった。僕はあの女の人のお墓の前にいる。あの男の人は、まだ来ていない。
―おいおい!もう午後九時になってるぞ!あの男の人、まさか、怖気づいたのかな。もしそうなら、許せないな~!―
更に時間が経つと、ポッチャ~ンという大きな音が聞こえ、あの女の人の幽霊が姿を見せた。
「ウフ、見送りに来てくれたんだね。ありがとう。嬉しいよ。私、あなたともっと早く出会ってたら良かったな」
「喜んでくれて良かったですけど、まだ成仏しないで下さい!実は、あなたの彼氏が、ここに来る事になってるんです。もうすぐ来るはずです。あなたの彼氏から、大切な話があるんですよ」
「そうなんだ。でも、もう行かなきゃいけないの。あの人が来たら、言っといて。もう怒ってないから安心してって」
「お願いです!待って下さい!僕の口から言うより、あの人の口から言って欲しいんです!お願いします!」
「分かったわ。でも、待つ事ができるのは、長くて三十分位だよ」
「はい!分かりました!ありがとうございます!」
暫くの間、僕とその女の人の幽霊が、楽しくおしゃべりする。
―僕、今、幽霊と楽しくしゃべってるんだな。何か、不思議な感じだな~―
そして、三十分が経ってしまった。あの男の人は、まだ来ていない。
「本当に行かなきゃ。いろいろありがとうね。君の事、忘れないよ」
「・・・来なかったですね。仕方ないですね。後で、あの人に言っておきます」
「うん。ありがとう。じゃあね。元気でね。あ、そうそう」
女の人の幽霊が、何かを言おうとした、その時、後ろから男性の声が聞こえた。
「待ってくれ~!話をさせてくれ~!」
声の主は、あの男の人だった。
「遅いですよ!何してたんですか!もうあなたの彼女、成仏するところだったんですよ!」
「ごめん!実は、指輪をうっかり流し台に落としてしまって、取り出すのに、かなり時間がかかってしまって、何とか取り出す事ができて、急いで来たんだけど、こんな時間になっちゃったんだ」
「そうだったんですね。もういいですよ。さぁ、あなたの彼女の誤解を解いて下さい」
その男の人が、女の人の幽霊と対峙し、口を開いた。
「聞いてくれ!お前が見た、あの時の光景、サークルの女性に、僕の鼻毛を手で抜いてもらってたんだよ!角度が悪くて、お前には、俺がその女性とキスしてるように見えたんだよ!この指輪、俺が海に潜って必死に探して、見つけ出したんだ!頼む!お願いだ!信じてくれ!」
その男の人の言葉を聞き、女の人の幽霊が、涙を流しながら口を開いた。
「来てくれたんだね。ありがとう。そっか。そういう事だったんだね。私の早とちりだったのか~。昔から、私、おっちょこちょいだったもんな~。崖から落ちたのも、私の不注意だし、私って、ダメだな~」
「そんな事ないよ!お前のそういうところも、大好きなんだよ!」
「ありがとう。嬉しいよ。私も大好きだよ。でも、私はもう、人間としてはこの世にいないの。もう成仏しなきゃいけない。あなたもいずれは死ぬんだし、天国で待ってるよ」
「うん。分かった。だいぶ先になると思うけど、天国に行けるよう、この世でしっかりと正しく生きていくよ」
そして、その女の人の幽霊が、僕の方を向いて言ってきた。
「いろいろ頑張ってくれて、本当にありがとう!もっと早く出会えてたら、私、あなたの事、好きになって、あなたに告白してたと思う。あなたの事、絶対に忘れないよ!」
「そう言ってくれて、僕も嬉しいです。誤解が解けて、喜んでもらえて良かったです。僕も、生きてる時のあなたに出会えてたら、好きになってたかもしれません」
「ウフフ、かもしれません、か。そうだね。あなたには、好きな女の子がいるんだもんね。ちゃんと告白するんだよ!かっこ悪いところを見せちゃったって言ってたけど、大丈夫!自信を持ってね!」
「そ、そうですか。あなたにそう言われると、何だか、自信が出て来ました。分かりました!あいつに告白します!背中を押してくれて、ありがとうございます!」
「うん!頑張ってね!じゃあ、もう行くね。あなたの事も、天国で待ってるね」
「はい!分かりました!死んだら、必ず天国に行って、あなたを探し出します!」
僕の言葉を聞き、女の人の幽霊が、涙を流しながらニッコリ笑って、成仏し、姿が消えてしまった。僕も男の人も、目から涙が零れ落ちていた。
翌日、スマホを手に取り、好きな女の子に電話をかけると、すぐに出てくれた。
「もしもし。こんな朝早くからどうしたの?何か用なの?」
「大事な話があるんだ!今すぐ会いたい!あのお墓の前に来てくれないかな?」
「え~!なんであのお墓の前なの?大事な話なら、もっといい場所があるでしょ~!」
「どうしても、あのお墓の前じゃなきゃダメなんだ!お願いだよ!」
「仕方ないなぁ。分かったわ」
待ち合わせ時間を決め、あのお墓の前に行くと、既にその女の子が来ていた。
「呼び出しておいて、遅いよ~!まぁ、待ち合わせ時間には間に合ってるけどね」
「ごめん!早く来てくれたんだね~!会えて嬉しいよ!」
「謝らなくていいよ。で、大事な話って何?」
少し間を置いて、僕が真剣な表情で言う。
「僕、お前の事が好きだ!前にかっこ悪いところを見せちゃったけど、これから、どんどんいい男になるよ。お願いだ!僕と付き合ってくれ!」
僕の告白を聞き、その女の子がニッコリ笑って、言葉を返して来た。
「ありがとう。嬉しいよ。いいよ。あんたと付き合ってあげる!」
「お~!やった~!めちゃくちゃ嬉しい~!ありがと~!あんなにかっこ悪いところを見せちゃったのに、なんでOKしてくれたの?」
「ウフフ、あんたのかっこ悪いところをいっぱい見て、私が守ってやりたい~って思っちゃったんだよ。かっこいいところを見てたら、もしかしたら、付き合う気にならなかったかもしれないな~」
「え~!そうなのか~!じゃあ、僕、かっこ悪いままの方がいいのかな~」
「何言ってんのよ!私がこれからビシビシ鍛えてやるから、早く私に見合う、かっこいい男になりなさい!」
「うん!分かった!ありがと~!頑張るよ!」
二人で笑い合い、僕達の交際が始まった。その様子を、天国から、あの女の人が、微笑みながら見つめていた。
墓地に響いた恐怖の音は、実際は恐怖の音ではありませんでした。あの音から、女の人の幽霊は、彼氏に対する誤解が解かれ、二人の男性に見送られながら、天国へと旅立って行きました。
人は、いつか死んでしまいます。少しでも晴れやかな気分で、天国に行きたいものですね。天国とは、どういう場所なのでしょう。生きている私達には分かりませんが、きっと、素晴らしい場所なのでしょうね。
短い物語でしたが、最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。




