第9話:聖女の覚醒、崩壊へ向かう愚かな王国
帝都ガレンベルクの夜は、黄金の光に包まれていた。
中央帝国の建国記念夜会。
広大な大広間には、大陸全土から高位貴族や属国の王族が集い、その豪華絢爛な装飾に息を呑んでいる。
その群衆の片隅に、焦燥と困惑の色を隠せない一団があった。
アステリア王国の使節団――。
先頭に立つのは、かつて私を捨てたジュリアン王子と、贅を尽くしたドレスに身を包みながらも、どこか顔色の悪い義妹のイザベラだ。
「……何なのだ、この寒気は。結界が解けたせいで、我が国の魔導師共は使い物にならん。ギルバート皇帝に、守護の魔石を融通してもらわねば……」
ジュリアンが苛立ちを露わに呟く。
彼らはまだ、自分たちが「何を失ったのか」を理解していない。ただ、自国の衰退を止めるために、最強の帝国へ縋りに来たに過ぎないのだ。
「大丈夫ですよ、殿下。私の『聖女』としての微笑みを見せれば、皇帝陛下もきっと……」
イザベラが扇子を広げ、作り笑いを浮かべる。
だが、その言葉が続くことはなかった。
ファンファーレが鳴り響き、大広間の巨大な扉が左右に開かれる。
喧騒が、潮が引くように静まり返った。
「――中央帝国皇帝、ギルバート・ヴォル・レオンハルト陛下。並びに、帝国が至宝、エルシア・フォン・アステリア様、御入城!」
その名が呼ばれた瞬間、ジュリアンとイザベラの顔から血の気が引くのが分かった。
「聞き間違いか?」という顔で顔を見合わせる彼らの視線の先。
高い階段の頂上に、その二人は立っていた。
漆黒の礼装に身を包み、冷徹な威厳を放つギルバート様。
そして、その逞しい腕に手を添え、夜空を切り取ったような紺青のドレスを纏った、一人の少女。
磨き抜かれた銀糸の髪は、シャンデリアの光を反射してプラチナのヴェールのように輝いている。
かつての流行遅れのボロ布を纏った姿ではない。
一刺しごとに魔力が込められた刺繍、デコルテで燃えるような輝きを放つ「星屑の涙」。
そして何より、その瞳。
銀河のような光を宿した銀の瞳が、静かに会場を見渡している。
「な……エル、シア……?」
ジュリアンの喉から、掠れた声が漏れた。
階段を下りてくる私に、会場中の貴族たちが一斉に跪き、道を作る。
それは、王国の第一王子である彼ですら、経験したことのないほどの絶対的な敬意。
ギルバート様は、私の腰を抱き寄せ、敢えてジュリアンたちの前で足を止めた。
彼の紅い瞳が、獲物を屠る獣のような冷酷さで、王子を射抜く。
「……アステリアの小童か。我が帝国の聖女を前にして、頭が高いのではないか?」
その重圧に、ジュリアンは膝をつきそうになりながら、必死に声を絞り出した。
「そ、そんな馬鹿な! その女は……エルシアは、我が国が追放した無能のはずだ! なぜ、帝国の、聖女などと……!」
「無能?」
ギルバート様が、愉快そうに口角を上げた。
彼は私の手を取り、その甲に深く、独占欲を誇示するように接吻を落とす。
「貴様らが泥の中に放り出したのは、この世界の理を書き換える『神の瞳』だ。……おかげで、私の呪われた帝国は救われた。お前たちが捨てた宝のおかげでな」
私は、震えるジュリアンと、嫉妬で顔を歪ませるイザベラを、静かに見つめた。
かつてあんなに怖かったはずの彼らが、今は、あまりにも小さく、色褪せて見える。
「お久しぶりですわ、ジュリアン殿下。……いえ、もう二度とお会いすることはないと思っておりましたけれど」
私の凛とした声が、静寂に包まれた会場に響き渡った。
それは、王国の終わりを告げる、最も美しく残酷な断罪の調べだった。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
ついに……ついに直接対決ですわ!
あの傲慢だった王子が、エルシアの輝きに当てられて絶望する姿……。
皆様、溜まっていた「お怒り」は少しは浄化されましたでしょうか?
「無能」と呼んだ少女が、自分たちが跪かなければならない「帝国の太陽」になっていた。
これ以上の快感はありませんわね。
少しでも「エルシア様の美しさに痺れた!」「王子の慌てっぷりが最高!」と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価(★★★★★) をお願いします。
貴方の星一つが、次回、エルシアを汚そうとする不逞の輩をギルバート様が徹底的に叩き潰すための、鋭い剣になりますの。
これからもどうぞよろしくお願いします!
それでは、第1章完結となる次回の更新をお楽しみに。




