第12話:帝国の休日、宝石よりも甘い誘惑
鏡の中に映る自分を、私は信じられない思いで見つめていた。
今日の装いは、淡い藤色のシルクを幾重にも重ねた、春の陽だまりのようなドレス。胸元には、ギルバート様が「君の瞳の色に似ている」と選んでくださった、大粒の星型ダイヤモンドが輝いている。
「……あの、ルネ。本当に、こんなに贅沢な格好で外出してもよろしいのでしょうか?」
筆頭侍女のルネは、私の髪を丁寧に編み込みながら、少しだけ口角を上げた。
「エルシア様。陛下は『帝国のすべての美しさを彼女に纏わせろ』と仰いました。これでもまだ、陛下の満足には遠く及びませんわ」
ルネに促されて部屋を出ると、そこには軍服を脱ぎ、私服――といっても、金糸の刺繍が施された濃紺の豪奢な上着を纏ったギルバート様が立っていた。
いつも以上に色気が増したその姿に、私の心臓が小さく跳ねる。
「……待たせたな、エルシア。ああ、今日の君は……」
彼は言葉を失ったように私を見つめると、長い指先で私の頬をなぞった。
「誰にも見せたくない。このまま布に包んで、私の腕の中に隠しておきたくなるほどに愛らしい」
「っ……あ、ありがとうございます……」
顔が火照るのを感じながら、私は彼の差し出した手に自分の手を重ねた。
彼に導かれて向かったのは、帝都を見下ろすことができる空中庭園。
そこには、昨日の私の「祈り」によって息を吹き返した、数万輪の「白銀の薔薇」が咲き誇っていた。
帝国では絶滅したと言われていた、伝説の花。
それが、私の足跡を辿るようにして、庭園いっぱいに広がっている。
「見てごらん。君がこの国に来てから、帝国は輝きを取り戻しつつある」
ギルバート様は、庭園の東屋に用意されたテーブルに私を座らせた。
そこには、帝国最高の菓子職人が、私のためにだけ作ったという色とりどりのスイーツが並んでいる。
「……綺麗。宝石みたいですわ」
「宝石よりも価値がある。君の笑顔を引き出せるなら、この菓子職人に爵位を授けてもいい」
ギルバート様はそう言うと、小さなスプーンですくい上げた、とろけるようなクリームのタルトを私の口元へ運んだ。
「あ……あーん……」
恥ずかしさで爆発しそうになりながらも、私は小さく口を開けた。
口いっぱいに広がる、濃厚な蜂蜜と果実の甘み。
「美味しい……。こんなに美味しいもの、私……」
不意に、王国の頃を思い出した。
イザベラが残した固くなったパンや、冷え切ったスープを一人で啜っていた日々。
私の頬を、一筋の涙が伝う。
「……エルシア? なぜ泣く」
ギルバート様の表情が、一瞬にして険しくなった。
彼は立ち上がり、私の隣に座ると、私の体を壊れ物を扱うように強く抱き寄せた。
「あの国のことを思い出したのか? 奴らが君に与えなかったものを数えて、悲しくなったのか?」
「いえ……。ただ、こんなに幸せでいいのかと……」
「いいはずがないだろう」
ギルバート様は、私の涙を唇で優しく拭った。
その接吻は、驚くほど熱く、切実だった。
「これしきのことで泣いていては、この先、君の身が持たないぞ。私は、君がこれまで受けてきた『悲しみ』の数よりも、『幸福』の数の方が多くなるまで、君を離さないつもりなのだからな」
彼は私の指を一本ずつ、愛おしそうに絡めていく。
「エルシア。君はもう、泥の中に沈む月ではない。……私の、帝国の、太陽なのだ」
甘い、あまりにも甘い誘惑。
私は、彼の深い紅の瞳の中に、自分という存在が甘くとろけていくのを感じていた。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
ギルバート様の「あーん」……!
冷酷皇帝が、世界で最も甘い甘味を、最愛の少女に食べさせる……。このギャップこそが、溺愛ものの真髄ですわね。皆様の胸の鼓動、こちらまで聞こえてきそうですわ。
エルシア様が過去の辛さを思い出して流す涙を、接吻で拭う陛下。
もう、彼女の瞳から悲しみの雫がこぼれることは、彼が許さないでしょう。
少しでも「陛下、もっと甘やかして!」「エルシア様が幸せそうで泣ける!」と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価(★★★★★) をお願いします。
貴方の応援が、次回の更新でエルシア様に贈られる、さらなる「とびきりの贈り物」に変わりますの。
これからもどうぞよろしくお願いします!
それでは、次回の更新もお楽しみに。




