第十章:目覚め ――“つなぐもの”
砦の医務室。
戦いのあと、ティナは休む間もなく負傷者の治療にあたっていた。
「……次。」
彼女の手から放たれる癒しの光は、以前よりもずっと強く、温かかった。
触れるだけで、深い傷はふさがり、折れた骨が元に戻る。
「すごいな、ティナ様……」
「まるで、本物の聖女みたいだ……」
治療を終えて兵たちの声が、ささやきとなって広がっていく。
だが、ティナ自身は、その力に戸惑っていた。
「……なんで、こんなことができるの?
私、こんな魔法、習ったことないのに……」
手のひらを見つめると、そこに淡い金色の紋様が浮かび上がっていた。
それは、神殿の聖典に描かれていた“聖印”と、なぜか酷似していた。
その夜。
ティナは不思議な夢を見た。
白い回廊。
高い天井、光の柱、静寂の中に響く祈りの声。
そして、鏡のような水面に映る“自分”――
だが、それは今の自分ではなかった。
もっと幼く、もっと無垢で、
けれどその瞳には、**神殿の奥にある“禁域”の記憶**が宿っていた。
「……あなたは、“鍵”なのよ。」
誰かの声が、耳元で囁いた。
「あなたが目覚めれば、扉は開く。
そして、“つなぐもの”もまた、目を覚ます。」
「“つなぐもの”……って、なに?」
「――“つなぐもの”」
その名を聞いた瞬間、
ティナの胸に、熱い何かが流れ込んだ。
「――うわっ!」
ティナは汗びっしょりで目を覚ました。
手のひらには、まだ金色の紋様がうっすらと残っていた。
「ティナ、大丈夫!?」
ティナの叫び声に思わずミヒャエルが駆け込んでくる。
ティナは戸惑いながらも、首を振った。
「……うん、大丈夫。
でも……私、何かすごいなつかしいような変な感じのする夢をみていたの。」
「何を?」
「……神殿の奥。
誰も入っちゃいけない場所に自分がいたの。
でも、私――神殿なんていったことがないはずなのに。」
ミヒャエルは目を見開いた。
「それって……」
「わからない。
でも、私の中に“鍵”があるって。
それが、“つなぐもの”と関係してるって。
“つなぐもの”っていったい何んなの?」
ティナはそっと胸に手を当てた。
「……私、それを知らなければいけない気がするの。」
ティナのつぶやきにミヒャエルは困ったような表情で両手を上げた。
「俺にはお手上げだ。」




