第九章:忍び寄る神殿の影
場所は王都の中心、**聖都セイト**。
白亜の尖塔が天を突き、鐘の音が静かに響く。
その奥、誰も立ち入ることのない“聖典の間”にて、
数人の神官たちが、重々しい空気の中に集っていた。
「……これが、辺境砦からの報告書か?」
「はい。魔獣のスタンピード、そして“黒の影”の出現。
その“黒の影”の討伐に成功したとのことです。」
「討伐したのは誰だ?」
「……“辺境砦臨時隊長、グレンツゲ・レイ”」
その名が読み上げられた瞬間、
部屋の空気が、ぴたりと止まった。
「……レイ、だと?」
「はい。しかも、“黒の影”が彼女を“つなぐもの”と呼んだとの記録があります。」
「……ありえん。
“つなぐもの”は、三百年前に消滅されたと記録にあるはずだ。
存在するわけが……?」
「可能性は否定できません。
しかも、現実に彼女は“黒の影”を討ち果たしました。
ただし、単独ではなく、王都から派遣された騎士アレク・ヴァルトラインと共闘したとのことですが。」
「ヴァルトライン家……また厄介な血筋が絡んできたな。」
神官たちは顔を見合わせ、沈黙する。
やがて、最奥の席に座る老神官が口を開いた。
「……“つなぐもの”が目覚めたのなら、
我らもまた、それを滅するための“鍵”を探さねばなるまい。」
「“鍵”……まさか、“あの子”を?」
「そうだ。
“聖女候補”の中でも、最も純粋な魔力を持つ少女――
**ティナ・エルフェリア**。
彼女を“神殿の光”として、再び表舞台に立たせることだ。」
「だが、彼女は今、辺境の砦に――」
「ならば、迎えに行かせろ。
“つなぐもの”と“ティナ”が再び出会えば、
この世界の均衡、いや神殿の権威が揺らぐ。」
老神官の目が、冷たく光った。
「――すべては、“神の意志”のもとに行動せよ。」
レイは、砦の執務室から外を見ているとふと背筋に冷たいものを感じていた。
「……なんでか、嫌な予感するな。
また、面倒な風が吹いてきそうなきがする。」
彼女は、自分の湯飲みに急須からお湯を注ぐと遠く王都の方角に見つめた。




