第八章:幕間_記憶の縁側
砦の片隅、小さな物見台。
夜風が静かに吹き抜け、星が瞬いていた。
レイは一人、腰を下ろして空を見上げていた。
その手には、湯気の立つ茶碗。
中身は、砦の厨房でこっそり作らせた“ほうじ茶風の煎じ薬”。
「……ふぅ。やっぱり、これが落ち着く。」
湯気の香ばしさに包まれながら、
レイの意識は、ふと遠い記憶へと沈んでいった。
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縁側に座り、湯呑みを手にした老女――それが、かつての“私”だった。
庭には小さな梅の木。
風が吹くたび、花びらがふわりと舞い落ちる。
テレビの音は遠く、隣家の子どもたちの笑い声が心地よく響いていた。
「……今日も、いい天気ねぇ」
誰に言うでもなく、ぽつりと呟く。
返事はない。
夫も子もいない、独り者の静かな午後。
でも、それが寂しいとは思わなかった。
一人で生きて、一人で老いて、
それでも、毎日を丁寧に過ごしていた。
朝は新聞を読んで、昼は散歩して、
夜はラジオを聴きながら、本を読んでいた。
「……あの頃は、自分が魔獣と戦うことになるなんて考えたこともなかった。」
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レイは目を閉じたまま、そっと茶を口に含む。
「……あの世界では、誰にも頼らずに生きて、
この世界では、誰かに頼られながら戦ってる。
どっちが幸せかなんて、わからないけど――
どっちも、私の人生だ。」
ふと、風が吹き、髪が揺れる。
そのとき、背後から足音が近づいた。
「……こんなところにいたんですね、隊長」
振り返ると、そこにはティナが立っていた。
「お茶、ですか?」
「ええ。ちょっと懐かしい味が恋しくなってね。
……飲むか?」
ティナは驚いたように目を丸くし、そして微笑んだ。
「いただきます」
ふたりは並んで座り、夜空を見上げた。




