第七章:焚き火の夜 ――“彼女は、何者なのか”
戦いの翌朝。
砦の空気はまだ張り詰めていたが、夜の恐怖は少しずつ遠ざかっていた。
砦の裏手、小さな焚き火の前に、王都組の3人――アレク、ユリウス、ミヒャエルが腰を下ろしていた。
「……で、アレク。昨日のアレ、マジで何だったの?」
ユリウスがパンをかじりながら、じっとアレクを見つめる。
「“角の魔獣”を、あの人と一緒に倒したってのは聞いたけどさ。
あの動き、普通じゃなかったろ。
あれ、マジで“隊長”なのか?」
アレクは黙って、焚き火の炎を見つめていた。
「……あの人は、確かに“普通”ではない。
だが、だからこそ、あの場を生き延びられた」
「うーん、俺も見てたけどさ…」
ミヒャエルが寝転がりながら、空を見上げる。
「剣の振り方が、なんていうか…“若い”んだけど“老成”してるんだよな。
あれ、経験の塊って感じだった。
でも、顔はどう見ても俺たちと同世代。
……いや、むしろちょっと可愛いくらいだし」
「お前、それ本人の前で言ってみろよ」
ユリウスが吹き出す。
「言うわけないだろ。
あの人、笑って流しそうで、実は全部覚えてそうだし」
アレクは静かに言った。
「……彼女は、何かを背負っている。
それは、私たちがまだ知らない“時間”だ。
剣の重さ、言葉の選び方、そして――
あの目の奥にある、深い静けさ」
「……“時間”か」
ユリウスが呟く。
「確かに、あの人の目って、
何百年も戦場を見てきたような感じがするよな。
……あれ、俺たちの知ってる“若さ”じゃない」
「でもさ」
ミヒャエルが起き上がり、パンをもぐもぐしながら言う。
「それでも、俺たちのこと、ちゃんと見てくれてるよな。
“守ってやる”とかじゃなくて、
“任せる”って目で見てくれてる。
……それが、なんか嬉しかった」
アレクは小さく頷いた。
「だからこそ、私たちも応えなければならない。
彼女が何者であれ――
今、ここで共に戦っている“隊長”であることに、変わりはない」
「……うん。
でも、いつか聞いてみたいな」
ユリウスが焚き火に薪をくべながら言った。
「“あなたは、いったい何者なんですか”って」
ミヒャエルが笑う。
「そのときは、茶でも淹れて聞こうぜ。
“老女の昔話”ってやつをさ」
「……案外、本当に“老女”だったりしてな」
3人は顔を見合わせ、ふっと笑った。
焚き火の火が、ぱちりと弾けた。




