第四章:迫る群れ、揺れる砦
夜半。
砦の鐘が、けたたましく鳴り響いた。
その音は、訓練生も騎士も、眠りを忘れて駆け出すほどの緊急性を帯びていた。
「魔獣の群れが、南の森から出現! 数は不明、しかし…規模が…いままでみたことがないくらいの数です!」
見張り台からの報告に、砦中がざわめく。
レイはすでに鎧を身にまとい、砦の中央広場に立っていた。
そのとき、馬の蹄音が響く。
泥にまみれた伝令兵が、息を切らしながら駆け込んできた。
「辺境伯閣下より伝令!
“南方の第二防衛線が突破された。魔獣の主群が北上中。
砦は持ちこたえよ。援軍は三日後に到着する”――以上!」
「三日後…!?」
誰かが叫ぶ。
「そんなに持つわけないだろ! こっちは訓練生と予備兵ばっかだぞ!」
「静かにしろ。喚いてもなにも変わらん。」
レイの声が、全員の動揺を断ち切った。
「砦は落とさせない。ここが崩れれば、背後の村が危ない。
私たちが、止めぞ」
その言葉に、訓練生たちは息を呑んだ。
だが、すぐに別の声が飛ぶ。
「おい、王都の貴族様たちはどうするんだ?
まさか逃げるんじゃねぇだろうな?」
ガルドの視線が、アレクたちに突き刺さる。
「逃げるつもりなら、今のうちに言えよ。
足手まといは、いらねぇからな。」
アレクは一歩前に出て、静かに剣の柄に手をかけた。
「我が剣は、王国のためにある。
この砦が落ちれば、王都も無事では済まぬ。
ならば、ここで戦うのが当然だ。」
「へぇ、やっと本気出す気になったか。」
ミヒャエルがにやりと笑う。
「じゃあ俺も、隊長の横で暴れさせてもらうよ。」
「……勝手に決めないでほしいなぁ。」
レイが呆れたように言うが、その声に棘はなかった。
「私の指示に従うというなら、歓迎しよう。
だがこれは“訓練”じゃない。生きるか死ぬかの戦いだと肝に銘じろ。」
そのとき、ティナが駆け寄ってきた。
「隊長、負傷者のための治癒班は、私がまとめます。
でも…お願いです、誰も死なせないでください。」
レイはティナを見つめ、物騒な笑みを浮かべた。
「誰も死なせるなか。なかなか難しい注文だな。だが剣に最善を尽くすと誓おう。では行くぞ。」
「おう」
集まった訓練生と予備軍たちがレイの声にこたえてこぶしを上げた。
砦の空に、再び警鐘が鳴り響く。
遠く、森の向こうから、地鳴りのような咆哮が聞こえた。
魔獣の群れが、迫ってきた。




