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第三章:煮えたぎる鍋と怒声

 夜。

 砦の食堂は、今日も騎士たちのざわめきと湯気に包まれていた。

 木の長机に並ぶ粗末な食器、煮込みスープの香り、焼きたての黒パン。

 質素だが、命をつなぐには十分な食事。


 レイはいつもの席に腰を下ろし、静かにスープを口に運んでいた。

 その隣には、ティナがちょこんと座っている。

 彼女は治癒班の手伝いを終えたばかりで、まだ制服の袖に血の跡が残っていた。


「……今日も、怪我人は多かったのか。」

「うん。でも、誰も死ななかった。隊長のおかげだよ。」


 レイは何も言わず、スプーンを置いた。


 そのとき、食堂の入り口が騒がしくなった。


「おい、どけよ。王都の貴族様のお通りだぞ〜?」


 ミヒャエルの軽口に、食堂の空気が一瞬で凍る。

 彼の後ろにはアレクとユリウス。

 3人は空いていた席に腰を下ろそうとしたが――


「そこ、俺たちの席だ。」


 ガルドが立ち上がった。

 昼間の訓練で火花を散らした男。

 その目は、昼よりもさらに鋭くなっていた。


「席? 名前でも書いてあんのか?」

 ミヒャエルが笑いながら返す。


「……てめぇ、調子に乗るなよ。」


 ガルドが机を叩いた瞬間、椅子が倒れ、食器が跳ねた。

 食堂のざわめきが止まり、全員の視線が集まる。


「お前らみたいな“お飾り”が、ここででかい顔すんな。

 命張ってねぇ奴に、何が分かる!」


「命張ってない? へぇ、じゃあ俺が今日、訓練で庇った奴は何だったんだろうな。」

 ミヒャエルの声が低くなる。

 その目から、いつもの軽さが消えていた。


「俺たちがどんな覚悟でここに来たか、知らねぇくせに――

 “王都”ってだけで、全部否定すんのかよ。」


「覚悟? 笑わせんな。

 お前らは、死ぬ覚悟がある奴の目をしてねぇんだよ!」


「じゃあ見せてやるよ、俺の“覚悟”をな!」


 ミヒャエルが立ち上がり、ガルドと向き合う。

 その瞬間、ティナが立ち上がった。


「やめなよ、バカ!」


 二人の間に割って入ったティナが、ミヒャエルの胸を両手で押す。


「何やってんのよ! あんた、また怪我する気!?

 昼間だって、無理してたじゃん!」


「……ティナ?」


「うるさい! あんたみたいなチャラ男が、なんでそんな顔すんのよ…!」


 ティナの声が震えていた。

 ミヒャエルは、しばらく黙って彼女を見つめ――ふっと笑った。


「……ごめん。俺、ちょっとカッとなってたわ。」


「ちょっとじゃないでしょ!」


「でも、ありがとな。止めてくれて。」


 そのやり取りを見ていたガルドが、鼻を鳴らした。


「……女に止められて引き下がるとか、やっぱり坊ちゃんだな。」


「違ぇよ。」

 ミヒャエルが真っ直ぐにガルドを見た。


「俺は、守りたいもんがあるだけだ。

 それが“死ぬ覚悟”より大事なときも、あるんだよ。」


 ガルドは何も言わず、しばらく睨み合ったあと、静かに席に戻った。


 食堂の空気が、少しずつ動き出す。

 誰かが咳払いし、誰かが笑い、やがてざわめきが戻ってきた。


 レイはスープを一口すすり、ぽつりと呟いた。


「……あの子、意外とやるわね。」


「どっちのこと?」

 ティナが聞き返す。


「両方よ。ああいうのが、砦を強くする。」


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