第二十一章:辺境への帰還
夕陽が山の端に沈みかける頃、アレクとレイはようやく辺境の砦へたどり着いた。
砦の門の前では、ひとりの男が腕を組んで立っている。
レイの父――元騎士団長にして、頑固者の現、辺境伯だ。
「…無事、帰ったか。」
その声に、レイはぱっと顔を輝かせて駆け寄る。
「お父さんっ!」
彼は一瞬、目を見開いた。
あの冷静沈着を絵に描いたような娘が素直に自分に駆け寄ってくれた。
抱きついてきた娘を辺境伯は力強く抱きしめた。
そして、そのすぐ後ろに立つ、どこか頼もしげな青年――アレク。
「…ふん。」
レイが父に抱きつこうとした瞬間、彼はくるりと背を向けた。
「もう子どもじゃないんだろうが…心配したぞ。」
「えへへ、ごめんね。でも、ちゃんと帰ってきたよ。お父さん。」
アレクが一歩前に出て、頭を下げる。
「完全にレイを守りきれたとは言えません。…彼女の記憶が一部…、申し訳ございません。」
「ふん、正直だな。…で、何だ?まさか、ここに戻ってくるまでに、うちの娘によもや手を出したりはしなかっただろうな?」
アレク、固まる。
「い、いえっ、そ、そのようなことは…っ!」
「ふーん?じゃあ、なんでここまでの道のりを、ずっと隣にいたんだ?なんでレイがお前の腕にくっついていたんだ?ん?」
レイ、真っ赤。
「ち、ちがうの!お父さん…ちょっと…寒かっただけで…!」
なんでかわけのわからない言い訳をいうレイ。
父親は腕を組んだまま、じろりとアレクを睨む。
「お前みたいな若造に、うちのレイはやらんぞ。」
「お父さんっ!」
レイの頭がスパークした。
「ふふっ、冗談だ。…だが、簡単には認めんからな。」
そう言って、父はアレクの肩をぽんと叩いた。
その手は、かつての戦場を知る者の重みがあった。
「…娘を泣かせたら、辺境の山より深く埋めるからな。」
呟かれた言葉に、アレクの背中を冷や汗が伝った。
レイはそんな二人を見て、さらに顔を真っ赤にした。
なにこれ、なにこれ、なんこれ。
これは現実。
なにこのあまーい、何とも言えない空気。
レイの頭の中に、辺境に来るまでのアレクとのイチャイチャが走馬灯のように流れた。
うそだぁー。
あんなことやこんなことを私がしたっていうのかぁー。
うそだぁー。
この衝撃によってレイは自分の前々前世を思い出した。
それは、剣と魔法を極め、死ぬ最後まで戦い抜いた戦士の記憶。
「ただいま、父上。」
今の自分と戦士の自分が混ざり合い、老成した自分が主になったレイが父親に前のように挨拶した。
「…ああ。おかえり、レイ。」
先ほどとは打って変わった表情を浮かべた娘に唖然としながらも、この砦を出ていく前の娘に戻ったのに安堵した父親がそこにいた。
「おかえり、レイ。無事で安心した。」
二人は笑顔をかわすと、剣の稽古をと誘った父親と訓練場に向かった。
「あれ、レイ。これから俺とあれやこれやするんじゃ?」
置いてけぼりを食らったアレクは、慌ててレイを追いかけ、彼女にいちゃつこうとして、剣を向けられていた。
「やれやれ。俺に王都の後始末を丸投げするから、天罰が下ったんですよ。」
ユリウスもあきれ顔で彼らが向かった訓練場に歩き出した。
その後ろでは、ちゃっかりティナと恋仲になったミヒャエルがイチャイチャしながら、恋人つなぎをした二人で彼らの後についていった。
辺境は本日も晴天なり。
雲一つないが、時々、魔獣が出没します。




