第十九章:前世の記憶
「お前が”つなぐもの”か?」
声がレイの頭の中に響いた。
「私が”つなぐもの”かどうかはわからないが、さすがにこの魔法陣はやばすぎだ。壊していいだろうか。」
”つなぐもの”と声が相変わらず、レイの中に響いているが、魔法陣の渦はいまや怨念とかし、どんどん増していく。
いまや、神殿の天蓋を突き破って、夜空を黒く染めていた。
ティナはその中心に囚われ、怨念の闇が彼女を飲み込もうとしていた。
「なにこれ、やめてぇ…!私は…ちが…っ!」
ティナの状態に、レイが舌打ちしながら一歩、また一歩と魔法陣の中心に足を踏み出した。
彼女の瞳には、恐れも迷いもなかった。
このままこの魔法陣を放置すれば、王都どころか辺境まで影響が出ることが分かったので、放置すことができない。
忌々しい神殿め。
なんてものを作ったんだ。
くそっ、このままでは、すべてがこの怨念の中に取り込まれてしまう。
”つなぐもの”よ。
我に捧げよ。
さすれば、この状況もどうにかなるぞ。
「捧げよって言われても、何がほしい。私の命か?」
「命?そんなものはいらん。記憶がほしい。」
「記憶?」
「そうだ。記憶だ。」
まあ、いいか。
命でないなら、あの父親との約束も、命を懸けて私を生んでくれた母親にも怒られんだろう。
「いいだろう。私の中にある記憶だけ、お前にあげよう。――記憶だけだぞ。」
レイが念を押した瞬間、胸元が淡く光り始めた。
それは前世の記憶。
縁側でお茶を飲んでいる記憶だ。
なぜ、そんなものがほしいのかわからないが。
神殿に封じられた“最初の聖女”は苦しみの中にとらわれていた。
このままでは怨念が王都どころか世界に蔓延してしまう。
苦しみの中にとらわれていた”最初の聖女”はその中でほんわりとした、ゆったりとした記憶がほしかった。
かつて、栄誉といわれ、王都を守るために身をささげたが、その後もここには彼女が守ろうとしたものではなく、権力と欲望を持つ者だけが大勢いた。
王の言葉に裏切られた権力と欲望をもつものたちが彼女の周りに集まっては、助けを求めてきた。
王都の善良なる人々のためにと、彼女はそれらの怨念を封印しつつげたが、もう限界だった。
ほんわりした記憶をもらって、もうこの世から去りたかった。
魂の記憶。
「やっと、私はここから解放される。レイよ…ここに来てくれて助かった。」
光が爆ぜる。
神殿が震え、怨念が悲鳴を上げる。
ティナを包んでいた闇が、静かに消えていく。
アレクが異変を感じて、ミヒャエルが扉をけ破ると聖女の間に駆け混んで来た。
「レイ!大丈夫か!?」
アレクが床に倒れているレイを抱き起した。
レイはゆっくりと目を開けた。
その瞳には、なにも映っていなかった。
ただ、空を見上げて、ぽつりとつぶやいた。
「…きれいな空。ここは、どこ…?」
ティナもミヒャエルに抱き起されて目を覚ました。
「こんなことになって、後始末はだれがするんでしょうか。」
二人から遅れて、”聖女の間”に入ってきたユリウスは肩をすくめた。




