仙郷編 仙人の言葉
20.仙郷編、世界は美しく、門戸は開かれる。
飛龍に降ろされ、シリウスは仙郷に立つ。
山々を霞が舐めその中に庵が建っている。
竜人の仙人が俺を迎えてくれた。
「ここには何も無いように見えるか? 世界は素晴らしい物で溢れていると言うのに」
草葉の揺れる音、霞の味、大気の重み、木の実の匂い、獣の影。
俺には分からなかった物だ。
でも、仙人は在ると言う。
「儂は蒼玄龍天蓮と申す。旅人よ、しばし休まれよ」
竜人仙人はシリウスを茶室に招く。
茶碗に湯を注ぐ。こいつは只人。
ほんの少し、心が揺れた。
だが、時代は変わる。
儂と此方を隔てる物無し。
抹茶を無心で混ぜる。心は澄みゆく。
茶器が渡る。
お点前、頂戴致します。
ほっと熱が広がった。
茶碗を回し、畳の縁の外にそっと据える。
「門戸は開かれる」
「儂が只人を導く。これも時代の流れか」
「俺は天に登りたいのです。ユズリハに会う為に」
「俺に教えを授けて下さい」
天蓮は一時、眼を閉じ、より深く俺を見据えた。
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21.仙郷編、生き方をどうこういう気はない。
「そなたに竜気を導く」
シリウスは竜人の仙人から拳を胸に当てられて、竜気を感じる手解を施される。
最初は何も感じられなかった。だが、シリウスは天蓮の言葉を胸に宿す。
(何も無いように見えるか? 世界は素晴らしい物で溢れていると言うのに)
シリウスの呼吸は仙人のそれと同調した。
龍脈は静かに大地を流れ、竜気は地表に昇っている。
一本の苗が水を汲み上げる様にシリウスは竜気を迎え入れる。
力が満ちる。しかし練り上げ方が分からない。
それでも、仙人の言葉の一端を垣間見た様な気がした。
「そなたに五訓を課そう」
(重荷を担いで足腰鍛えよ、竜の重み、背負う覚悟はあるか)
(荒ぶる滝に晒され、竜の魂、磨く覚悟はあるか)
(心身の弱きを起こし、竜の猛き、認めさせる覚悟はあるか)
(己が存在を問い、竜の誇り、決める覚悟はあるか)
(幾度の修練を越え、竜の一撃、己は成すか)
「そなたは修行を越えし時、前に進む意志を得るだろう」
シリウスは感謝を示して庵を出る。
イフリートと竜人仙人が語り合う。
「アイツ、身の程知らずだろ?」
「若い者の生き方をどうこういう気はない」
「無謀だろ」
「奴等に勝負を挑むのだ、この出会いは切掛であればそれで良い」