見たかった光景
29.そなたはもう詰んでいる
国軍の魂を震わせる太鼓の音。
「降伏しなさい。そなたはもう、詰んでいる」
希望などまるで見えなかった。
それでも、シリウスは遮二無二、抗った。
ユズリハに届かせる為に。
国軍は覆せなかった。
「お前が見たかったのはこの光景か?」
「無惨に敗けて、力尽きて、夢敗れる。それがお前の道か?」
彼女が正義だ。それでも俺は諦め切れなかった。
「まだ君の隣で歩めていない……」
「ユズリハに会いたい……」
シリウスの最後の叫びであった。
イフリートは見た。
飛龍が一筋、空を駆けている。
セファリア・ウィンドレイア。その気高き姿。
シリウスは彼女に応援されている。力になりたいと思われている。
「こいつは馬鹿だ」
「でもよ、信じられているんだぜ」
「巫女より託された太陽の力。お前の旅路。神の承認」
「資格は揃っている」
「何より、お前の奮闘、見ていたのは俺だ」
「俺なんだ」
俺はかつて太陽に戒められた。
ヒトに火を与える行為は調和を乱すとして。
太陽は一部の人しか導かなかった。
俺は太陽に向かって叫んだ。
「導きが無いのであれば、俺が太陽になるッ」
「だからよ、なってやる。お前の太陽に」
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30.敬意を持って見送ろう
その身は灼熱の厄災にして、魂は神威の輝きを宿す。
禍津神の太陽神威。
イフリートは太陽そのものと化して、圧倒的熱量を顕現させた。
「道を通せ」
イフリートは神の言葉を国軍に告げる。
兵達の胸にはそれぞれの想いが去来する。
「神様、そんな、戦える訳がない……」
「太陽神、我等の崇拝した力が、何故あの者の下に……」
「認めざるを得ない、奴はもう、神に導かれた……」
畏怖、嘆き、唸り。兵達は三者三様に太陽の熱い輝きを見た。
「敵ながら奴は見事に成し遂げていった」
「皆、敬意を持って見送ろうではないか」
彼等は涙を呑んで敬礼を捧げた。
兵達はシリウスを止められなかった。しかし彼等の命脈は受け継がれる。
そしてシリウスに道が拓かれた。
シリウスは太陽と化したイフリートを胸に人間の姿で道を歩む。彼が神都に踏み込んだ時、目の前にはユズリハへの道、天への階段が現れる。巨龍は露と化して役目を終えていく。シリウスは人の姿に戻り階段を登る。一歩踏み込む度に天上の響きに近づいた。




