伝承編 別れを告げる
26.伝承編、奥義、斬鉄を修めて別れを告げる。
シリウスは奥義・斬鉄を身に付ける為、竜の谷の奥深くへと入る事を告げた。道中、小型恐竜に会う事もあったが、"引け"そう言うとシリウスを襲う事無く、道を開けた。
谷の奥に進むと、身を潜めるかの様な静けさが横たわっている。危険の前の静けさだった。大地を揺るがす足音、唸り声が響く。
鋼鉄の鱗、大型の体躯、怪力無双、張り詰める様な咆哮。
シリウスの修行して身に付けた物に匹敵する。紛う事なき恐るべき竜。
大型恐竜が獲物を見つけたと襲い来る。竜の鱗を纒わなければその脚は容易くシリウスを押し潰すだろう。巨龍化していなければその牙は容易くシリウスを噛み砕くだろう。
恐るべき竜の前に立ち、眼を瞑れば、セファリアが奥義・斬鉄を披露してくれた光景が眼裏に浮かぶ。
(竜気を練り上げ、深く一撃を刻む)
(間合いに潜る)
(重さ、硬さを丁寧に切り分ける)
(刃を振り抜く)
セファリアの凛とした立ち姿を思い出す。
心奥で声が響く。
(幾度の修練を越え、竜の一撃、己は成すか)
シリウスは眼を開く。
最初は素振り千回、型を学ぶ様に。次に素振り百回、実戦で用いる様に。そして素振り十回、気を練り上げて真の一撃を繰り出す様に。今、奥義を抜ける。その確信があった。
心は静かに。しかし一瞬気烈が走る。
(意識を読み、駆け寄りつつ、速度をずらし、間合いを掴む)
(地より龍脈を継ぎ、宙にて硬きを断つ。重さを知る剣撃)
(急所を穿ち。襲い掛かろうにも竜の身体は動かない)
何も通さぬ鱗を切り分け、倒れ伏す恐竜を見送る中、後ろから足音が静かに響き、声が聞こえる。
「奥義・斬鉄は成ったか」
「天蓮師範……」
蒼玄龍師範とセファリアが見物していた。
「修行してから一年か……」
竜人仙人は感慨深く、シリウスを眺める。
「見事であった。これでそなたは進めるだろう」
シリウスは深く、お辞儀をする。
「師範、お陰でここまで来られました。ありがとうございました」
蒼玄龍師範は頷いた。
「餞別だ。持って行け」
シリウスは両手で餞別を授かる。
「葉光石という。大切な者を忘れるな」
ユズリハに似合いそうな石だ。思わず笑みが溢れてしまう。彼女を思い出すと葉光石は輝いた。
「さようなら、また、いつか」
シリウスは神都に向かって、山を降りて行く。
「シリウス、天に届けよ……」
天蓮は空を眺める。
「ウィンドレイア、お前はそうするのだな……」




